第16章「るてん」 1-12 まともな食事
フューヴァがロビーまで下りて、宿に食事を頼んだ。
「部屋まで運んでくれるか?」
「かまいませんよ」
「頼むぜ」
しばらくして、何人もの宿の者が大きな盆に乗せた山盛りの大皿料理を部屋まで運んできた。取り皿と共に大きなテーブルの上にどんどん並べられ、
「食べ終わったら御呼び下さい」
「ありがとよ、これ、とっとけや」
フューヴァが気前よく、10トンプ銀を人数分与え、宿の者が目を輝かせてペコペコと礼をして下がった。
並んだ料理は季節がら「ほぼ肉」で、濃いものから薄いものまでまっ茶色だった。燻製や塩漬け、干し肉、生肉の煮もの焼きもの、炒めもの、揚げものだ。香辛料がふんだんで、香りがかなり独特だった。
「毛長牛か?」
「いや、きっと野毛豚でやんす」
宿の者が下がり、ローブを脱いだプランタンタンが眼を細めてそう云った。
「野毛豚か……」
思えば、ギュムンデやリーストーンも毛長牛肉より野毛豚肉が多かった。
「あったけえうちに、食おうぜ」
懐かしそうに目を細め、フューヴァが席に着く。
が、そこで問題がおきた。
「……なんだこりゃ? これで食うのかよ?」
フューヴァが不思議そうに箸を見てつぶやいた。
「棒でやんす」
プランタンタンも前歯を見せ、半眼でそう云った。
「刺すんじゃねえ?」
「つかいづれえでやんす」
「まあ、な……」
「これはハシですう~~こうするんですう~~~」
ペートリューが器用に箸を使い、2人の取り皿に料理を適当に取り分けたので、2人がびっくりして、
「なんでおまえ、魔法も使えねえのにこんなものが使えるんだよ!?」
「ええー~と……そういえば、なんでだろ……??」
ペートリューが素で首をひねったので、フューヴァ、
「もういいぜ……」
嘆息と共に、片箸で刺しつつ蓮華でなんとか食べ始める。
「……あ、うめえ。こりゃうめえや」
しばらくぶりのまともな食事に、フューヴァが顔をほころばせた。帝都を出てからこの2か月近くは、竜肉やらゲーデル山羊やらの加工肉をひたすら齧っていた。
「この蒸しパンに、はさんで食べても美味しいですよ~~」
などと云いつつ、ペートリューは肉を少しかじっただけで、ひたすらイェン酒を飲み続けた。
「むしパンってなんでやんす?」
プランタンタンが裂け目の入った花巻を手に取り、匂いを嗅いだ。
「パンを焼かないで、蒸して作るんですよ~~」
「むしってなんでやんす?」
「食えりゃあ、なんでもいいじゃねえか」
フューヴァがそう云い、小皿の肉の煮込みを適当に花巻にはさみ、かぶりついた。
「うまいよ。驚いた。うまい。おまえもやってみろよ」
云われて、プランタンタンも真似てみる。食べづらそうにしていたが、
「めんどくせえでやんす」
そのまま手で持ってひと口かじり、
「……ほんとにうめえでやんす!」
そのまま、アッという間に花巻バーガーを食べつくした。
3人はしばらくぶりの団欒に、心から休息を楽しんだ。
そのころ、暗くなって提灯やランタンの明かりがぼんやりと並ぶ街の上空の、寒風吹きすさぶ中に、ストラが腕組みのまま浮遊していた。
そこに、オネランノタルとリースヴィルが合流する。
オネランノタルとリースヴィルにはストラの魔力が捕らえられないので、あらかじめ位置情報を共有していたものだ。
「御疲れ様」
ストラがぶっきらぼうにそう云い、リースヴィルが胸に手を当てて深く礼をした。
「いかがでした?」
ストラがオネランノタルを向いてそう云い、
「碌な情報がない。この街の連中は、あまり無何有と関係が無いと判断するね」




