第16章「るてん」 1-11 いつものペートリュー
言語調整魔術は聴くのと話すのだけを調整し、読み書きは調整しなかったので、看板にあるバーレの文字はまったくわからなかった。そこらを歩いている人に尋ねながら、酒屋を探し当てた。
酒屋では見るからに重そうな巨大な陶器の甕に酒が入っていて、量り売りをしていた。
売っているのは独特の香りのする醸造酒と蒸留酒で、一般的に雑穀から作る醸造酒を黄酒といい、蒸留酒を白酒という。高級なのは、手間のかかる白酒のほうで、王家を含む貴族諸侯が常飲するのも白酒だ。
リャンタン市でよく飲まれているのは、州の太侯家を含む高級商人などの上流階級は白酒である「遼湯林塔」(という銘柄)、庶民はリャンタン名物でもある薄茶色い黄酒である「遼湯酒」だった。
また、同じ酒でも甕で寝かせる時間が長いほど味がまろやかになり、値段が高い。老酒(黄酒を寝かせたものをこういう)、白酒とも一般的に5年もの、10年もの、15年ものがあり、それ以上は特別な儀式や式典に使われる超高級酒だった。
従って20年ものや30年ものは、街の酒屋ではまず売っていない。
「うわっはあああ~~~これは、いろいろ美味しいですう~~~~~」
ペートリューがそう云いながら試飲で黄酒も白酒もガバガバガバガバ飲みすぎて、店主が眉をひそめ始めたので、フューヴァがケツをひっぱたき、
「いいからとっとと買えよ! おっと、このでけえ甕ごと買うんじゃねえぞ!」
「えっ、なんでですか!?」
「これかついで旅をするのかよ!?」
「ストラさんや、オネランノタルさんに持ってもらいますからいいです~~」
「宿まで誰が運ぶんだ、こいつ!」
「配達は……」
「してません」
店主のオヤジが即座にそう答えて首を振った。
「じゃあ、この小さい甕のほうを……」
小さいと云っても、我々の単位で10リットルは入る。甕の重さと合わせて、10数キロほどもあることになる。
「ハイハイ、こちらですね」
「10個ください」
「じゅう!?」
「やめろ、バカ!」
フューヴァが顔をしかめた。
「え、じゃあ、8つ……」
「お前が1人で持てよ」
「に、荷車を貸してほしいんですけど……」
「……返してもらえるのなら」
おやじが怪訝そうに云い、店の前に荷車が用意される。若い店員が中甕を8つ並べて、倒れないように縄でくくった。
しかし、荷車はペートリューが押そうが引こうがビクともしなかった。
「あきらめろや!」
フューヴァが呆れ果ててそう云ったが、ペートリュー、リースヴィルに泣きつく。
「リ"ーズヴィ"ル"ざ~~~~~ん"」
「はいはい……」
リースヴィルが苦笑し、思考行使した念力魔法で後ろから荷車を押した。
「おいリースヴィル、甘やかすんじゃねえ!」
「そう云われましても……」
何とか宿まで酒を運び、宿の人びとも目を丸くする中、ペートリューがこれは自分で全て宿の部屋に甕を運び入れた。
「荷車を返して来いよ!」
フューヴァに云われ、ペートリューが軽くなった荷車を引き、上機嫌で酒屋へ戻った。
「とんでもねえ、あほか」
まだ呆れるフューヴァを前に、プランタンタン、むしろ安心だと云わんばかりに、
「いつものペートリューさんでやんす」
「まあ、な……」
フューヴァが嘆息しつつ、邪魔くさいので中甕を部屋の隅に並べ直した。それがまたやけに重かったが、フューヴァはブチブチ云いながらも全て1人でやった。
その後、リースヴィルがどこかへ消え、暗くなる前に、ペートリューが戻ってきた。が、その手には大きな徳利が握られており、ペートリューはすでに酔っていた。まあまあ高級な白酒を買い求め、酒屋から宿までの間にすっかり飲みほしている。
「リヤーノより香りや味がいいですう~~~」
リヤーノは、帝都名物の蒸留酒だ。ちなみにペートリューはストラやオネランノタルの次元倉庫に、各地で買いこんだ酒をたっぷり溜めこんでいる。まだ、マンシューアルの超絶に臭い薬膳焼酎まである。
「ちょうどいいや、メシにしようぜ」




