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第3章「うらぎり」 3-8 噂の探知魔法

 「私が運ぶ」


 云うが、ストラが片手でペートリューを小脇に抱え、そのまま断崖を下りる山岳羊みたいにヒョイヒョイと梯子を飛び降りて、まだフューヴァが三分の一も下りていないのに、アッという間に地面に立った。


 そのまま、ペートリューを抱えてテントに戻る。

 「ヤレヤレでやんす……」


 プランタンタンが後に続き、二人が戻ると、ちょうど世話係の兵士が食事を運んできていた。


 ペートリューをテント内に転がして、四人分の食事を受け取ったストラ、絨毯に並べる。マンシューアルは、地面や床に座って飲食をする習慣だ。


 そこに、やっとフューヴァも戻ってきた。

 「おっ、メシですか」

 「ウヘェ……」


 プランタンタンが、並べられた皿から立ち上る臭いに容赦なく顔をしかめた。薄焼き無発酵パンと、肉や野菜の香辛料煮込み……我々のカレーに近い……それに、ナッツ類だ。


 「こいつら、毎日こんなもん食ってるから、カラダからもこんなニオイがするんでやんす」


 鼻をつまんで、プランタンタンが涙目になる。


 じっさい、香辛料としばらく風呂に入っていない体臭が入り混じったマンシューアル人一般兵の臭いは、想像を絶するものがある。


 とはいえ、初めてストラが出会ったころの奴隷姿のプランタンタンも家畜の糞尿にまみれ、臭度で云えば大して変わらなかったが……臭いというのは、慣れや習慣によるところが大きい。


 「ドングリや虫もナマで食うと豪語してるくせによ、こんなのも食えないのか。けっこう、うまいぜ。ちょっと辛いけど」


 フューヴァが、木のスプーンで煮込みを口にしてそう云った。プランタンタンは薄焼きパンを口にし、


 「……これは、なかなかうまいでやんす。あと、この干した木の実も、独特の塩味がなんともいえねえうまさで」


 プランタンタンは無発酵パンと、ナッツ類だけをなんとか食べた。


 残してもしょうがなく、偽装行動で食事をしていたストラがプランタンタンとペートリューの分のカレー(のようなもの)も、たちまち平らげてしまった。うまいもまずいもなく黙々と食べる姿に、プランタンタンが感心する。


 「さっすが、ストラの旦那でやんす。顔色ひとつ変えねえで……」

 食べ終わってテントの外をなんとなく見やっていたフューヴァも、

 「戦場って、そういうもんなのかもな。兵士たちもそうだぜ」

 そう、感心するようにつぶやいた。


 ちなみに、この配給食にラグンメータの陣で傭兵たちに出された、米粉を蒸した団子や豆を発酵させた調味料の汁物はなかった。あれはラグンメータの領地である、マンシューアル南東部ラグオーン州の主食だった。帝国でも一、ニを争う版図を持つマンシューアル藩王国は、帝国内の小帝国とも云うべき土地で、数十の州や地方に別れている。地方によって、主食やスパイスの使い方も様々だった。


 「食える時に食えないと、死ぬからな。食い終わったら、食器を輜重兵しちょうへいに返してくれないか」


 フランベルツ語でそう云いながら現れたのは、フューヴァ達を捕らえた小隊長だった。フューヴァが、空いた木皿や木のドンブリを集める。


 「ストラ殿、大隊長がお呼びです」

 「わかった」

 ストラが小隊長に続いて、すぐ隣に建てられている仮の指揮官用宿舎に向かう。


 中で、ラグンメータとルシマーが出迎えた。

 「ストラ、相談がある」

 席に着いているラグンメータがそう云うや、

 「カッセルデント将軍に、私を勝手に雇ったことを叱責されましたか?」

 「どうして知っている!?」

 ラグンメータの隣に立っているルシマーが、眉をひそめて叫んだ。


 三次元探査は空気振動で音声も同時再現探知できるし、時空探査をかけると近距離過去の動静も把握できる。既に、ストラはカッセルデント将軍の不満の全てを把握していた。


 「フフ……噂の探知の魔法か」

 「なんですか、それは……!」

 「道中、おしゃべりなエルフの従者に聞いたのさ」

 ラグンメータが内心、冷や汗をかきつつ、身を乗り出した。

 「説明はいらないようだ。ではストラよ、将軍の本心はどこにあると思う?」

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