第3章「うらぎり」 3-3 ラグンメータ
「旦那、恩にきますぜ!」
「オレは、傭兵を辞めます! 旦那と戦いたくねえ!」
「戦いたくないし、戦って死にたくないぜ!」
「それもそうだ!」
八人はそう云って笑い、涙ながらにストラへ手を振り、伏し拝んで森に消えた。
ストラと共に釈放を確認したラグンメータが、密かに顎で指図したが、
「あの者たちに何かあった場合、私の信用及び価値が損なわれます。この陣を瞬時に壊滅させる攻撃を、即座に実行します。また、私の秘術が、あの者たちが無事にスラブライエンまで戻るのを探知しています」
「分かった、負けたよ」
ラグンメータが、追撃命令を撤回した。
「しかしストラよ、あいつら、お前が裏切って隊が壊滅したと報告するかもしれないぞ?」
「別にかまいません。私はもう、おそらくスラブライエンには戻りません」
「え、戻らねえんですかい?」
後ろに控えているプランタンタンがつぶやいた。
「バカ、戻ってどうするんだよ!」
フューヴァが、プランタンタンを小突く。
「だって、まだ契約の2,500トンプをもらってねえでやんす」
「アホ! いい加減にしろ! もう関係ねえ契約だぞ!」
「関係ねえことはねえでやんす!」
そのやり取りを聴いていたラグンメータが、声を出して笑った。
「オレは、そんなケチくさいことはしないぞ!」
四人を本陣テントへ呼び、
「さあ、前払いだ。オレの私費から出している。遠慮することは無いぞ」
絨毯の上に皆で座り、ドシャリ、と厚い絹地の袋で差し出されたのは、1粒200トンプのマンシューアル金粒貨幣が50粒だった。
「うっひょおお! 重てえでやんす!」
真っ先に手を伸ばしたプランタンタンが、感嘆と喜悦に色めいた。ゲヒェっシッシッシシシーー~~~! と笑いが止まらぬ。
ちなみに、トンプは帝国共通貨幣単位なので、どの国も基本的にトンプ貨幣が通じる。ただ、国ごとに発行する通貨が異なり、当然レートも異なるので両替が必要となる。実質は、トンプという単位が一緒なだけの、別の貨幣だ。
「こんな大金を、奇襲作戦に?」
「なあに、勝つ自信はあったから、臨時の報酬用にな」
ストラの問いに、ラグンメータが片眼をつむって見せた。
「おい、後でちゃんと分けろよ!」
また、フューヴァがプランタンタンを小突いた。
「わかってるでやんすよお……」
「すばしっこいお前と違って、こっちは一文無しになったんだからな」
「そんなの、あっしのせいでねえでやんす」
全くもって、その通りだ。フューヴァが、鼻面をこれでもかと顰める。
「それはそうと、オレたちは任務を果たして、明日、帰還する。戻ったら将軍に報告する。ストラ、あんたをカッセルデント将軍に引き合わせるぜ」
「戦利品ですか?」
「オレがカネ払って雇ってるんだ。戦利品も何もないよ。かの、フィッシャーデアーデで総合一位だ。いちおう、報告しないとな……。それに」
ラグンメータがそこで表情を変え、据わった視線を向けた。
「ギュムンデが壊滅したっていう情報があるんだが、何か知らないか?」
「知っています」
「えっ」
ストラはそこで、ピアーダ将軍に語ったことと、まったく同じ内容を話した。
「ギュムンデを裏から支配し、地方伯閣下の統治を外れていた三つの非合法組織が魔族を引きこみ、ギュムンデの地下迷宮に魔族の巣窟を構築しておりました。それぞれ非合法な魔法的薬物の製造実験、非合法取得金品の秘匿、当然非合法な戦闘兵器としての魔物の製造実験を行っておりました。私は、地方伯閣下の派遣した潜入工作員へ協力し、その実態を探っておりました。しかし、探索の途中、無理な魔法的実験の数々が破綻して魔術式暴走を起こし、膨大な力が開放され、都市が崩壊したと推察します」
「な……!?」
ラグンメータ、つい、声を荒げた。
「じゃあ、お前が犯人だったのか!?」
「犯人たあ心外でやんす、大隊長の旦那」
「ばか、話しかけるな……!」
フューヴァが焦って、プランタンタンの口を押えた。身分が違いすぎる。ストラの従者に過ぎない。この場にいるのも、本来は場違いにもほどがる。




