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第3章「うらぎり」 3-2 手加減した

 ラグンメータが顎で指図し、特に大柄な兵士が三人、槍を持って前に出た。あわてて傭兵たちやフューヴァが下がる。ストラの足元でペートリューが震え上がって動けなくなったので、


 「おいバカ! 下がれよ! ストラさんの邪魔すんな!」


 ペートリューがなんとか動く前に、ストラが(本当は動かす必要も無いのだが、演出で)ちょいと右手の人差し指を動かすや、バチン! と重い音で電撃が弾け、


 「ギャ!!」

 三人が同時、かつ一撃で感電して倒れ伏した。

 あわてて仲間が助け起こしたが、三人ともまだ帯電しており、

 「ア…ッツ!」

 電気が弾けてその手を放す。

 「手加減したので、死んでおりません」


 無表情でぶっきらぼうに云い放つストラを見やって、マンシューアル兵どもの顔色が変わる。


 「ふふん……強力な魔法戦士というのは、本当だったか……」

 ラグンメータが席を立った。

 「では、勝手ながら魔法は禁止で、純粋に剣の腕前を見せてもらいたい」

 そう云って、壇を下りる。側近たちが慌てふためき、

 「いけません、御大将!!」

 「大隊長、御自嘲を!」


 「まあ、待て。……ストラよ、私が納得したならば、最低でも倍、高ければ四倍の報酬を出そう。ピアーダ軍を抜け、我が軍団に入れ!」


 「四倍ってことは、月に10,000トンプでやんす!!!!」


 聴き知った声がして、顔を向けると、藪の中の木の陰からプランタンタンが顔を出しており、しまったという顔で口を押えていた。


 「……どいつもこいつも」

 フューヴァが、苦笑する。

 「なんだ、あいつも従者か?」

 「はい」

 ラグンメータが、大きな刀を抜いた。


 「さあ、抜け」

 「私は、このままでけっこうです」

 「ふうん……?」


 ラグンメータ、チラリとまだストラの足元に転がっているペートリューへ目をやる。


 「おいこのバカ! いいから、とっととこっち来いよ!」


 フューヴァの声に、ペートリューが飛び起きてイモムシみたいにフューヴァの元へ転がった。


 ほぼ同時に、ラグンメータが片手持ちの大刀を左袈裟(ラグンメータから見ると右である)からストラへ叩きつける。


 瞬間、ストラはたい右歩うほシャに入れ、ラグンメータの正確な斬撃を斜めになりながら数センチでかわすや、前に出てその懐に入った。


 その時には身を沈め、大柄なラグンメータの視界から消えると、その長い足へ身を預けるように左膝の裏へ右手を添え、かつ右足もラグンメータの踵へひっかける。


 すなわち柔道の小内刈りと相撲の内無双を合わせたような技を繰り出したのだが、そこはストラの超絶パワーである。本来であれば同じような体格の相手を、体重をかけながら倒す技なのだが、手でハエでも払ったかのような動作でラグンメータが真後ろにひっくり返った。


 「…!!」

 地面にバウンドし、衝撃のあまり転がって動けなくなる。

 あわてて親衛部隊が駆け寄り、助けつつ、

 「貴様よくも大隊長を!!」

 次々に刀を抜きはらった。


 「バ……バカ者ども、止めろ! オレに恥をかかせるな!」

 「しかし……!」


 「しかしもクソもあるか! オレがストラの実力を試したんだ! そして、その実力はオレの想像をはるかに超えていた! 手加減して、これ・・だからな……!」


 「手加減ですって!?」


 もう、ぼんやりと明後日の方向の虚空を見つめている隙だらけのストラを見やって、親衛隊長にして副官のルシマーが髭面をゆがめた。


 「いまの攻撃で、オレを殺すことだって余裕だったろうよ……」

 冷や汗をぬぐいながら、ラグンメータが刀を納める。


 「いいだろう、ストラよ。月に10,000トンプでオレが個人的に雇おう! 従者は、お前が好きにしろ。ピアーダ軍傭兵団遊撃隊の生き残りは放免だ! 縄を切れ!」


 「やったぜ!」

 何より、八人の傭兵達が歓声をあげた。



 フューヴァとペートリューを含め、八人の生き残りの捕虜も縄を解かれ、米粉を練って蒸した団子のようなものと、豆を蒸してから発酵させて作った調味料を溶かした汁を与えられた。それらを貪り食い、八人はその日のうちに森に放免された。ストラの従者となってマンシューアルに行くものは、誰もいなかった。

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