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第15章「嘆きと大地の歌」 2-23 風向きが変わった

 ルートヴァンもさすがにそこから攻撃を変える技術は無く、そのまま斧剣に槍をぶち当てた。


 爆発音のような音と共に空気と衝撃波が炸裂し、カルムシュとルートヴァンが同時に弾けて距離をとった。


 衝撃で杖がぶっ飛びそうになり、ルートヴァンはあわてて構え直したが、カルムシュはへの字にひしゃげた斧剣が手から離れて、どこか遠くへ飛んで行ってしまった。


 「ウオッ……!」


 と、カルムシュやギャラリーが思ったときには、機を逃さず、ルートヴァンが再度吶喊!


 間合いに入るや、座るように姿勢を低くして滑りこみ、下段から槍を突き上げて、カルムシュの顎の下に魔力の塊を打ちつけた。


 カルムシュが豪快に浮き上がって、そのまま放物線を描いて舞台の外まで飛んでひっくり返って気絶した。


 太鼓が打ち鳴らされ、ルートヴァンが杖を掲げた。


 すると、仲間が負けたにもかかわらず、ギャラリーからルートヴァンを讃える歓声が沸き、


 「すげえぞお!」

 「さすが、魔王の配下だああ!!」

 「とんでもねえ強さだあ!」

 「火も雷も使わねえでよお!」

 「たいしたもんだああ!!」


 あまりにワイワイと騒ぐものだからルートヴァンも苦笑し、舞台を下りるときにもう一度杖を掲げて歓声に応えた。


 「すげえじゃねえか、ルーテルさんよう!」


 笑顔でフューヴァがルートヴァンを出迎える。その笑顔に、ルートヴァンが柄にもなく素直に喜びの笑顔を返して、


 「フフフ、まあ、あれくらいはしてみせるさ」

 「ちゃんとみんなを盛り上げて、風向きが変わったぜ」


 フューヴァが笑顔ながらも鋭い眼でめいめい舞台の周囲の斜面に座るギャラリーのトロールたちを見渡し、確信に満ちた声で云った。


 「さあて、最後はホーランコルだな?」


 ルートヴァンの声に、みなホーランコルを見やった。が、ホーランコルはルートヴァンの声にも気づかず、硬直して舞台を見つめていた。


 「ホーランコル……ホーランコル!」

 「あ、ハ、ハハッ!」


 あわててふりむいたホーランコルを見やり、ルートヴァンが驚く。ホーランコルは緊張とプレッシャーで青ざめ、小動物のように小さく震えていた。一度は気負いが消えたものの、ルートヴァンの勝ちっぷりの凄まじさに、またすぐ委縮してしまった。


 「たわけが! 魔王の聖騎士が、なんだ、そのザマは!!」

 容赦なくルートヴァンが怒鳴りつけ、ホーランコルが直立不動となる。

 「ハッ、もも、申し訳も……!」


 とはいえ、ルートヴァンのあの戦いを見せつけられ、最後に大将戦で勝負が決まるとあっては、まともな人間なら緊張もしよう。


 「ホーランコルの旦那、ストラの旦那はとんでもねえ論外として、オネラン、ピオラの旦那も云うに及ばねえでやんすが、ルーテルの旦那も、比べちゃあいけねえでやんすよ? ホーランコルの旦那は、ホーランコルの旦那でやんす。皆さんを信じて、しっかりおやりなせえ」


 老人めいて後ろで手を組んだ猫背のプランタンタンがホーランコルを見あげて、そう云った。


 「そうだぜ、ホーランコル! すげえ魔法の装備をいっぱいもらってるんだし、こっそりルーテルさんが魔法をたっぷりとかけるんだろ? それを使いこなせねえホーランコルじゃねえはずだぜ!」


 フューヴァがそう云って、ホーランコルの肩をバンバンと叩く。

 「プランタンタンさん……フューヴァさん……」

 ホーランコルは不思議と急激に緊張が和らぐのを感じて、口元をゆるめた。


 気がつくと、ピオラとオネランノタルも、ホーランコルを同格の仲間として認め、信頼している笑顔と視線を送っている。


 「みなさん……!!」

 ホーランコル、猛然と勇気がわいてきた。


 またその時には、既にルートヴァンが思考行使でホーランコルに5重の攻撃力・防御力付与魔術をかけている。もともと魔法の道具でもろもろ倍率ドンさらに倍なので、それが限界だった。これ以上は、ホーランコルの精神と身体が持たない。また準高速化魔術の魔法のブーツを既に装備しているので、高速化術は使用しない。(ちなみに準高速化では、いまさっきのルートヴァンのように、意識ごと高速化対応するほどの速度ではない。)


 「おい、ホーランコル」

 オネランノタル、ふわりと浮かんでホーランコルと視線を合わせる。

 「ハッ」


 ホーランコルが、直立不動となった。その不気味な翠の眼と黒の眼の四ツ目、黄色時に黒い線模様の顔、乾燥した海草めいたゴワゴワの髪、額の深紅の小さなシンバルベリルを直視し、もう恐怖や動揺は微塵もなく、むしろ頼もしく感じている。

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