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第3章「うらぎり」 2-5 捕虜

 フューヴァが暴れたが、同じく縛られたまま倒される。唸り声を発し、暗闇に目の色を変えてフューヴァの下ばきをずり下ろし始めた。


 「おい! ラグンメータ様の前でも、そう云うんだな!」


 小隊長がそう云い、兵士たちの動きが止まる。舌打ちを隠さない。ゆっくりと起き上がり、


 「あんたが黙ってりゃ、それでいいんだけどなあ。隊長さんよお。さいしょにヤらせてやっからよお」


 「残念だったな。オレは小心者なんだ。軍規に逆らって痛い目を見たくないし、命も惜しい。敵と戦うこと以外で、死にたくないんだ」


 「…………!」


 鼻息も荒く兵士が小隊長に顔を近づけたが、小隊長も、一歩も引かなかった。


 「おい、こいつら、けっこうな金をもってやがるぜ!」


 押し倒したペートリューの体中をまさぐっていた兵が、腰の後ろにくくりつけていた金貨の入った袋を発見し、手触りで金と確認するや、荒々しく皮紐を刃物で切って奪い取った。


 そして、それを聞いた一人が同じようにフューヴァの全身を揉みつくし、肩下げ鞄に金貨の入った袋を発見する。


 「おい、クソ、返せ!! アタシたちの金だぞ!!」


 などと喚いて暴れるが、言葉が通じないし、縛られている縄を引っ張られて倒される。


 「隊長さんよお、まさか、カネまで禁止するんじゃねえだろうなあ」

 「まさか。金品の略奪は認められている。オレにも分けろよ」

 「そうこなくっちゃ。おい」


 松明の明かりの元、袋を開けた六人の兵士たち、

 「……おい、こりゃあ、フランベルツの金貨だぞ!」

 「すげえ大金をもってやがるぜ、この女ども……!」

 歓声を上げ、次々に乱暴に袋の中へ手を突っこんだ。


 「チクショウ!! やめやがれ!! この蛮族どもが!!」

 フューヴァが容赦なく叫ぶが、言葉が違うのでどうにもならぬ。

 「……ちょっと待て。多すぎないか? なんなんだ、こいつら?」


 隊長が分け前を受け取りつつも、闇の中で二人を見つめる目を細める。

 「伝令とか? 軍資金を運ぶ」


 先程、隊長に食ってかかった古参兵も、松明の光に金貨をかざして、満足げにつぶやいた。女を犯せなかった代わりとしては、上々だ。


 「伝令にしては、仕事が甘いな。あんな場所で、云い争いをしているなんて……」


 「じゃあ、傭兵の補充兵?」

 「こいつらが!? ばかばかしい……」

 「囮かもしれやせんぜ?」

 「!」

 その言葉に、隊長が顔色を変える。

 「……冗談ですぜ、こんな囮、なんのために……」


 「なんにせよ、すぐ戻ろう。ここで殺すより、どうしてこんなところでこんな大金を持っていたのか問いただすんだ」


 「まさか、隊長さんよお……この金も報告するんじゃねえだろうな」


 「大丈夫だと云ったろう。掠奪は認められている。早い者勝ちだ。ラグンメータ様は、我々の権利を横取りするような御方じゃない。さ、ひったてろ。行くぞ」


 渋々云うことを聴き、兵士たちが二人を立たせた。

 「おぎろ! ただねえが!! あるげあるげえ!!」

 またマンシューアル訛りで叫び、縄を引っ張る。

 「……いってえな!! カネ返せ!! クソが!!」


 フューヴァがわめき散らして食ってかかるが、流石に片手持ちの刀を抜かれ、喉元につきつけられる。


 「うっぜっぞ」


 その殺意に、フューヴァもピタリと黙る。ギュムンデで生きるコツと同じだ。威勢がいいののにも、加減がある。駆け引きというか、押し引きというか。


 そのまま縄を引かれ、我々でいう一時間ほども歩くと、松明が多数掲げられた、森の中の陣に到着した。


 「なんだ、そいつらは」


 「分からん。割と大金を持って、山の中で云い争っていたのを捕らえた。傭兵隊と関係あるかも知らんと思い、連行してきた」


 小隊長がそう答え、

 「ラグンメータ様は、もうおやすみか?」

 「あたりまえだろ」

 「しょうがない。明日、報告し、取り調べる」


 そのまま二人は、捕虜を捕らえている立ち木を組んで作られた檻にぶちこまれた。


 松明の光に浮かび、中には、同じように手を後ろに縛られた男たちが八人、いた。

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