祝祭のカヌレ[1:1]
祝祭のカヌレ
ローラ/♀ローラ・ベルベット。天才科学者。人類の平和のため日夜努力している。狂いはじめていることを自覚している。
ウィル/♂ウィル・フローレス。戦争孤児として生き、10代後半でローラに拾われた。彼女が正気でいるための最後のよすがであることを彼はまだ知らない。
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ローラ:ごきげんよう。ゆるやかな滅びを待つ皆様、お元気ですか。この放送は、あなた方に向けたものです。
ローラ:終わりない戦争の終わりを願うあなたへ、終わらぬ戦争と知りながら戦いを命じるあなたへ、軍靴を鳴らすあなたへ、無為に死ぬあなたへ。
ローラ:ローラベルベットより、あなた方人類へ。
ローラ:世界は間も無く滅びます。
ローラ:80億の尊い命、全て私が手折ります。
ローラ:恨みなさい、ですが残された時を、せめて悔いのないように。
<<数ヶ月前>>
<<ベルベット邸。ウィル、庭の手入れをしている>>
ローラ:ウィル、ウィルー!隠れても無駄だぞ〜!
ウィル:ん?博士?
ローラ:行けいっ新発明〜…!
<<ローラ、手にした蝶のようなものを宙に放す>>
ウィル:ふふ、またなにかしてるな。
ローラ:(蝶を目で追う)……あっ!ウィルー!そこにいた!
ウィル:はい、ここにいますよ。綺麗な蝶々ですね博士。
ローラ:あ、ちょっと。私のことはなんて呼ぶんだったかな?
ウィル:はは。そうでしたね、ローラ。
ローラ:ふふ、よろしい!
ウィル:それで、今度の発明はなんですか?
ローラ:そうそう!みてこれ!じゃじゃーん!
<<ウィルの近くにいる蝶々を見せる>>
ウィル:やっぱりこの蝶でしたか。この子は何をしてくれるんです?
ローラ:ウィル反応薄ーい。もっと驚いてー。
ウィル:僕にそういうの期待しないでください。
ローラ:ぶー。
ウィル:それで、早く教えてくださいローラ。気になってるんですから。
ローラ:ふっふっふ、そういうところは嫌いじゃないな。
ウィル:今度は軍事転用されないと良いんですがね。
ローラ:そういうとこはきらい!
ウィル:ふふっ、ごめんなさい。
ローラ:軍の奴らがおかしいんだよ。子供用の知育ロボットにミサイルを担がせるなんて誰も思わない。
ウィル:あれは僕を拾ってくれた時でしたか。今思えばかなり凹んでいましたね。
ローラ:それは、だって……でも今回は大丈夫!なんたって要救助者捜索用のちょうちょ型ロボットだぜ!おもちゃとしても見た目が可愛い!
ウィル:ふふ、今回も人助けですか。そのちょうちょが僕を探し当てたんですね。
ローラ:ふふふその通り!(早口で)周囲の地形を一瞬でインプット!顔写真や服装の特徴を記憶させたAIがあらゆる場所で──
ウィル:ちょ、ちょっとローラ、早い早い。僕にもわかるようにお願いします。
ローラ:んもう!それでも私の助手かい!
ウィル:僕はあなたに拾われただけの世話係です。助手になった覚えはありませんよ。
ローラ:君の部屋の本を全部学術書に入れ替えたのに……。
ウィル:パルデンスパレードが訳のわからない本になってたのはあなたのせいでしたか……。
ローラ:比較的簡単だよ!
ウィル:ドクの法則やアルサルカヌム方程式は専門分野の内容です。
ローラ:ぶー。最近熱い分野なのに。
ウィル:古い地層から出てきたなんとか鉱石が昔の式を用いると不思議な反応がどうとか、でしたか?
ローラ:ふふ、クラウル鉱石だよ。これは補習が必要かな?
ウィル:げ。あっほら博士、おもちゃ会社の方が来てますよ。ほらほら。
ローラ:む、逃げ方の上手い奴め。(遠くに向かって)はいはーい!今行くよー!……じゃあ行ってくるね、ウィル。
ウィル:はい、ローラ。
ローラ:あ、そうそう。今度の研究はね、平和のために行うんだぜ、楽しみにしててよ。
ウィル:平和のために……。ローラの夢がついに叶うのですね。
ローラ:まだ叶うと決まったわけじゃない。けど、帰ったらカヌレを焼いて。好きなんだ、君のが。
ウィル:ふふ、そのつもりです。
<<場面転換>>
ローラ(M):新たな研究は順調に進む。世のため、人のため、おもはゆいが、争いのない世界のために。この研究が実を結べば、人類は新たな平和を知る。不思議な確信が私にはあった。
ウィル:やあニック。警備の話なんだけど、最近あちこち物騒だろう?なんだかきな臭いんだ……少し人を増やした方がいい。時間あるかな?
ローラ(M):クラウル鉱石を用いた研究は、古い理論や式が面白いほど当てはまった。賢者ドクの残した書、エルフの覚え書き、賞金稼ぎを題材にした古典。そんなお伽話にも似た本が研究で最も役立った。
ウィル:サム、呼びつけて悪かった。最近博士の研究内容が外に漏れてるようなんだ。少し探ってみてくれないか?
ローラ(M):そうして研究は驚くほど早く実を結ぶ。まるで誰かに導かれるように、恐るべき成果へと姿を変えて。私は、平和を望んでいるはずなのに。
ウィル:エリー、お裾分けありがとう。君のおかげで良いカヌレが焼けそうだ。え?ああ、博士のためだよ。最近ずっと研究室にこもりっぱなしだろう?
ローラ(M):ああ………理解、できた。理解してしまった。そうか、簡単なことだった。平和的な平和がどんなものかも、愛も欲も争いも、なにもかもなにもかも……平和は、最も歪な形で結実することがきまった………。
ウィル:おや、この本は博士の……ノアの方舟?
ローラ(M):ウィル……私の手を握って……
<<場面転換>>
<<ベルベット邸、中庭。ガゼボの中>>
ローラ:この世界は少しおかしいんだ。
ウィル:おかしい……?
ローラ:うん、おかしい。たとえば君、おとぎ話を信じるかい?
ウィル:はは、賢者ドクが実在する、みたいなことですか?
ローラ:そう、そんな次元の話。どうだい?
ウィル:ローラ、僕はもう子供じゃないんですよ?そんなのファンタジーです。
ローラ:その通り。現代では魔法なんてもの、ただのまやかしでないといけないんだ。
ウィル:魔法?
ローラ:そう、魔法。私が研究していたこれはね、魔法そのものだったんだ。
ウィル:博士、とうとう頭が……?
ローラ:私は至って真面目だよ。正気かは怪しいけどね。
ローラ:科学を突き詰め、紐解き、構築した結果、古代の魔法に酷似してしまった。ふふ、古文書も捨てたものじゃないね?最先端の科学で最も役立ったソースは、考古学者から買ったアルサルカヌムの書だったよ。
ウィル:昔の、錬金術師の……?
ローラ:この世に神様がいるなら残酷だ。科学の礎にすぎなかった錬金術が、科学の終着点だなんて……。
ウィル:……?
ローラ:この魔法、本当に最悪なのはね、救いようがないほど破壊に向いているんだ。ただのドローンなんかにアルサルカヌム方程式を応用して陣を組めば、最悪地殻に影響が出る。
ウィル:もう、博士。僕にわからないことばかり言わないでください。お茶にしましょう?
ローラ:ふふ……君のそういうところ嫌いじゃないな。茶葉は?
ウィル:僕にそういうの期待しないでください。インスタントです。
ローラ:けち。
ウィル:なにを今更。
ローラ:そういうところも嫌いじゃないよ。
ウィル:先生は僕のこと大好きですもんね。
ローラ:……君はまだ人間のことが好きかい?
ウィル:ん、え?
ローラ:大事なことなんだ。教えてよ。
ウィル:(考える)……あなたに拾われるまでは、嫌いでした。でも今は、あなたのおかげで好きになれた。
ローラ:それを聞けてよかったよ。…それなら平和のために、なんでもするかい?
ウィル:それも大事なことですか?
ローラ:うん。
ウィル:(考える)……しますね、きっと。争いなんてない方がいい。
ローラ:……それは、聞きたくなかったなぁ。
ウィル:急にどうしたんです?わあ、手がこんなに冷たい。
ローラ:考え事が、ちょっとね。
<<ウィル、ローラの手を握る>>
ウィル:こういう時は頼ってください。その考え事、きっととても辛いんでしょう?わかりますよ。
ローラ:ふふ、私が辛い時はいつも手を握ってくれたね。
ウィル:もうあなたの世話をして長いですから。困っているならいつでも駆けつけますよ。
ローラ:まるでナイトみたいだ。
ウィル:そう呼んでいただいて結構ですよ?
ローラ:ふふふ。君はあったかいね。
ウィル:ええ。でもお菓子は冷えてしまいます。さ、食べましょう。
ローラ:そうだね。今日はなにを作ってくれたんだい?
ウィル:カヌレです。カヌレ・ド・ボルドー。
ローラ:おや、私の好物だ。
ウィル:知ってます。だから作りました。
ローラ:今日は何か記念日だったかな?
ウィル:忘れてると思いましたよ、ドクターベルベット。
ローラ:おっとまった!君がラストネームで呼ぶときは必ず悪い知らせなんだ、聞きたくないよ!
ウィル:誕生日おめで──
ローラ:うわああ!通りでこの季節が嫌いなわけだ!胸がソワソワすると思ったらまたひとつ老いたの私!
ウィル:またひとつ魅力的になりましたよ。
ローラ:そういうところはきらい!
ウィル:素直に祝われてくださいローラ。僕を拾ったのが運の尽きです。
ローラ(M):こうしている間だけは、私は確かに幸せだった。もう少し、できる限り長く、間も無く終わる穏やかな幸せを。
ローラ(M):しかして願いは、容易く踏みにじられた。
<<場面転換>>
ウィル(M):それは唐突な報告だった。
ローラ:あれは、あの蝶々は……私の……そんな、なんで……ああ、あの陣は……!
ウィル(M):ヴァルツヘルゲンという国が、最新の航空兵器で戦争を始めた。それはクラウル鉱石を用いた攻撃で、
ローラ:どうして研究が漏れて……(外で鳴る銃声)ひっ!……なんで銃声が……ぇ……(ゲリラの掲げた文字を見る)ひと、ごろし……?
ウィル(M):それはよく見た蝶々の形をしていた。
ローラ:ああ、ああ……やっぱり…………。平和的な平和なんて……そんなもの……。(泣くのを堪える)う、うう……ウィルぅ……。
ウィル(M):そうして彼らは声高に語る。ドクターベルベットは、素晴らしい発明をしたと。
ローラ:たすけて……たすけてよ……私の手を取って……お願い、私に……。
ウィル(M):その声を聞いた難民は、怒りの矛先を僕達に向けた。
ローラ:人間を嫌いにさせないで……。
<<場面転換>>
<<ベルベット邸、研究棟。あたりは戦場になりかけている>>
<<ウィル、ローラを守りながら部屋に入る。ローラは消沈している>>
ウィル:(息切れ)……ひとまずここは安心です。研究棟の実験室が頑丈でよかった。
ローラ:ここは、特別に作ったんだ。使いたくはなかったな……。
ウィル:さて……ドクターベルベット。
ローラ:ラストネーム……聞きたくないな。
ウィル:苦しいでしょうが聞いてください。外にいる彼らはヴァルツヘルゲンの攻撃によって生まれた難民のようです。
ローラ:知ってるよ。窓から見えた。人殺しって。
ウィル:っ……。そんなことはない。あなたは人を助ける発明をしていました。あなたは悪くない。
ローラ:死んだよ、死んだんだ。私の発明で。人を助ける蝶々が、寄り添うための蝶々が……愛すべき人間を殺した。
ウィル:……それでも、あなたは悪くない。
ローラ:ふふ……優しく育ったね、ウィル。……ああ、カヌレが食べたい。
ウィル:ええ、ええ。食べましょう。この争いが終われば、いくらでも焼いてあげます。
ローラ:争いが………終われば……。
ウィル:ええ。僕も楽しみです。あなたが美味しそうにお菓子を食べるの、好きなんですよ。
ローラ:(小さく)きっと争いは終わらないよ。
ウィル:(気づかない)さて、ここからどうするか……ひとまず様子を見てきます、博士は──
ローラ:ねえもしも、もしもの話だよ……?
ウィル:?
ローラ:もしもこの世界を平和にできるとしたらさ……。君はなんでもするんだったっけ……。
ウィル:ローラ?なにを……
ローラ:もしもこの世界の人間全てを争いから解き放てる方法があるとして、そして人間は生きている限り争いはやめないんだとわかってしまったとして……それを実行するにはあと一歩の勇気だけだとしたら。ねえ、ウィル。きみはどうする。
ウィル:……。
ローラ:私には、私にはこの一歩がとても、重いんだ。
ローラ:私は待ってるんだよ。
ローラ:銃声が止むのを、誰かの悲鳴が止むのを、軍靴の音が止むのを。皆が手を取り合って笑いあうのを……待ってるんだ。
ローラ:科学者が神頼みだなんて笑えるだろう?でもそれだけが私に残された希望で、それだけが私の悪魔じみた思考を止めてくれる……。
ウィル:ローラ……?さっきから何を言って……
ローラ:魔法だよ。私は賢者ドクになったんだ。
ウィル:ローラ、今はふざけないでください。
ローラ:私は至って真面目だよ。正気かは怪しいけどね。私が新しい平和を望んで発明した魔法とやらは、世界を滅ぼすためのものだった。
ウィル:世界を……?まさか、今回の騒動に関係がありますか?
ローラ:察しが良くて助かるよ。
ウィル:信じがたいですが……あなたはこの状況で嘘をつく人じゃない。ヴァルツヘルゲンは、そんなものを使っていたのですか。
ローラ:いいや、私はこの研究を出来る限り秘匿するつもりだった。あれは、ヴァルツヘルゲンが意気揚々と盗んだアレは、学会に提出する失敗の方。
ウィル:失敗……?人が住めなくなるほどの破壊をもたらしたアレが、ですか?
ローラ:成功する方は、ここにある。
ウィル:ここに……?
ローラ:この部屋の外を、地球の全てを耕せる魔法が、ここにある。そして私は……私は、これを起動させようか迷ってるんだ。
ウィル:(息を呑む)
ローラ:なあ君、君はさ……平和のためになんでもする君は……決して報われないこの世界をそれでも愛してる君は……およそ80億の殺人予告を出した私を、止めてくれるよね……?
ウィル:(後ずさり)博士……。
ローラ:怖がらないでよ……名前で呼んでほしいな。
ウィル:やめてください、博士。
ローラ:名前で呼んでったら。君だけは博士って呼ばないで……いつもみたいに、笑顔を見せて。
ウィル:博士こそ!いつもの博愛はどうしたんです、そんなものを使うなんて、あなたらしくない。
ローラ:……君の焼くカヌレが好きなんだ。誕生日に焼いてくれたカヌレが、お祝いに焼いてくれたカヌレが。私にとって、君の焼いたカヌレは平和の象徴なんだよ。安心や、優しさ。キラキラしたもののぜんぶ。私の博愛なんてものは結局君のカヌレに及ばない。私が求めた平和は君のカヌレなんだ。
ローラ:ねえ、まだ私らしくない?
ウィル:(息を呑む)
ローラ:……教えて。もしもこの世界を平和にできるとしたら。君はなんでもする?君の意見を聞きたいんだ。
ウィル:……僕は、人間が、好きです。僕を捨てた父も母も、その原因の戦争も、恨みましたが、あなたが拾ってくれた。あなたが温もりをくれた。イーストレイクの外れで死ぬしかなかった僕に未来をくれた。
ローラ:……イースト、レイク。
ウィル:あなたのおかげで僕は生きてる。あなたが人類を愛していたから、僕も愛しました。平和のためなら、人類が、生きたまま平和になれるなら……あなたと同じくらい、それを望んでいます。
ローラ:……よかった。それでこそ君だ。
ウィル:……でも。
ローラ:……?
ウィル:あなたは、今それを望んでいない。
ローラ:ウィル、ウィルやめて──
ウィル:僕を拾ってくれた理由、話してくれたことありませんでしたね……だから調べたんです。あの時イーストレイクは戦争で地獄のようでした。………その時一番活躍したのが、博士の開発した知育ロボットだったらしいですね。
ローラ:…………。
ウィル:あそこでもうあなたは人類を愛せなくなっていたんじゃないですか。散々軍事利用されて、あなたのせいじゃないのに全部背負って、とうとう人間に愛想を尽かしたんじゃないですか。
ローラ:やめてよ……。
ウィル:それを信じたくなくて、僕を助けた。もちろん罪悪感が強かったはずですが、少なくともあなたは疲れていた。
ローラ:ウィル、ぁ……(声にならない)。
ウィル:発明が軍事利用される度に、あなたは泣いていましたね。その度に僕はあなたの手を取った。そしてね……ベルベット。
ローラ:っ、やめて、やめて聞きたくない。
ウィル:その度に僕も人類に絶望していたんです。あなたを苦しめる人類に。
ローラ:あ、ああ……。
ウィル:あなたが泣いてしまう世界なんて、滅ぼしてしまいましょう。
<<長い間>>
ローラ:わたし、わたしさぁ……人の笑顔が好きだったんだよ。誰かを幸せにして、その誰かを守ってあげることが誇りだったんだ。気が狂いそうになる戦火の中で……ただそれだけが私のよすがだった……。
ウィル:……。
ローラ:止めてよ……私を、私を止めて……こんなこと間違ってるって、考え直せって、僕と一緒にやり直そうって……お願いだからそう言ってよ……君が、君だけがただ私の光なのに…………
ウィル:あなたです。僕ではない。あなたこそが光です。
ウィル:子供たちの、人類の、そして僕の光です。
ウィル:あなたが苦しいのなら救ってあげたい。あなたが助けを求めるなら喜んで手を取ります。あなたが人類を愛していたから僕も人類を愛しました。
ウィル:……そしてあなたは今、その愛が壊れたことを知った。
ローラ:君は人類の象徴なんだ……人間の、良い側面の象徴。君の焼いてくれるカヌレが好きなんだ……。
ローラ:ねえお願い……私を止めて…君が私と同じになったら……私が人類を殺さない理由がなくなっちゃう……
ウィル:僕はあなたの味方です。あなたに従い、あなたを追います。
ウィル:あなたが人類を見限るのなら…やはりそれも愛なのです。
ウィル:素晴らしいことじゃないですか。人類は、憎しみや恨み、悲しみではなく、愛によって滅ぶのです。それでこそ、この宇宙の片隅で数億年命を紡いだ価値がある。
<<間>>
ローラ:……あは、ははは……………そっかぁ…………………。
じゃあ、殺そう。人類を平和にしよう。私たち2人、方舟のノアになろう。
この地球の最初で最後の平和を、ウィル、一緒にいてくれるかい?
ウィル:仰せのままに。僕はあなたのナイトなのですから。
<<場面転換>>
<<現在>>
ローラ:ごきげんよう。ゆるやかな滅びを待つ皆様、お元気ですか。この放送は、あなた方に向けたものです。
ローラ:終わりない戦争の終わりを願うあなたへ、終わらぬ戦争と知りながら戦いを命じるあなたへ、軍靴を鳴らすあなたへ、無為に死ぬあなたへ。
ローラ:ローラベルベットより、あなた方人類へ。
ローラ:世界は間も無く滅びます。
ローラ:80億の尊い命、全て私が手折ります。
ローラ:恨みなさい、ですが残された時を、せめて悔いのないように。
<<場面転換>>
<<新しい平和>>
ウィル(M):そうして世界は、愛によって滅んだ。愛に満ちたローラが、愛すべきだった人類を。こうして彼女を泣かせる者は、誰一人いなくなった。
ローラ(M):そうして世界は、私のせいで滅んでしまった。あのヴァルツヘルゲンも軍も国も、私たちを襲った難民も、なにもかもなにもかも。ニックやサム、エリーや、愛していた人類も。
ウィル(M):争いは終わった。それなら僕は、僕の約束を果たさないと。安心、優しさ。キラキラしたものを彼女のために。
ローラ(M):争いのない世界に祝福を。世界を滅ぼした私は、それゆえにこの世界を認め、愛し、祝福しよう。
ウィル(M):この素晴らしい世界に祝福を。今日という祝祭に誉れを。方舟のノアに、食卓につく幸せを。
ローラ(M):そうして私たちニ人、まっさらな地球儀の上で、ゆっくりと瞬いてゆく。
ウィル(M):僕と彼女、瞬きほどの平和を祝って。美味しい美味しい、祝祭のカヌレを。
ローラ:(カヌレを食べる)……君の焼くカヌレは、いつだって美味しいね。