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「…そんな細かい事まで報告を?」


単純にずっと疑問だった。彼は私の事を何故か凄く知っているし、久々に会ったというのに気安すぎる。

王妃になる予定の者なので、調べ上げられているのだろうが。


「あ、あぁ。そうか、君は余り覚えて居ないんだったね。

僕らは小さい頃何度か会っているんだよ。」


「ほぅ?残念ながら余り…。」


「ふふ。その感じだと、そうだろうね。」


そう言うと彼は少し寂しそうに笑う。

その表情を見ると何故か胸がズキリと痛んだ。


「…少し昔話をしようか。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


王家に生まれ、その計り知れない魔力量のせいで幼い身体には負担が多く、直ぐに体調を崩してベッドの上に居る事が多かった。

それなのに、頭の出来が良いものだから薄汚い大人に塗れ、知りたくない事まで頭に入って来た。それが余計に幼い身体には響いていた為、人に酔いやすく余り人前には出ずに幼少期を過ごしていた。


「そろそろ、お前の婚約者を決める。候補は見繕って有る、次のパーティーで決める事だ。」


ある日、父からそう言われた。

正直、婚約者とかまだ分からないが頷くしか無かった。僕の中では彼は父というより、ずっと王なのだ。

だが、今考えると父なりに心配していてくれたのか王家主催のパーティーにしては人が少なく、候補も五人程度だった事を覚えている。


お披露目も兼ねていた事もあり、主要人物への挨拶回りだけでも今までベッドで過ごしていた僕には相当キツい物で候補なんて見ている余裕も無かった。


挨拶が終わり、後は子ども達は子ども達だけでと言われ間一髪候補の子達のギラギラした目を掻い潜り、父が離れた所で庭へと抜け出した。

限界だった。今にも口から色々出てしまいそうで、呼吸も荒く、蹲るしか出来なかったのだ。



「大丈夫か?」


ひゅーひゅーと喉を鳴らしながら涙目で声のする方を見上げるとハンカチを持った小さな手があった。


「苦しそうだ、背中をさすってやろう。」


どうやら女の子の様なので候補の一人なのだろう。自分の失態を見られる訳にはいかず喋る事が出来ないので、首を振った。


「どうした?喋れ無い程苦しいのか?そうか、よし。」


すると、急な浮遊感と共に温かな温もりに包まれた。

小さな女の子に僕は抱きかかえられて居たのだ。

苦しくて思考が停止してしまい、浮遊感によってせり上がってしまった吐瀉物を彼女の胸へと出し、くたりと体重を預ける形になってしまう。


「……ご、……ごめ……」


咄嗟に謝ろうとしたが、口の中が気持ち悪く、力も抜け切っている為上手く話せなかった。

彼女はそんな仕打ちを受けているのにも関わらず、涼し気な目を細め何故かにこりと笑った。


「気にするな。急に持ち上げて悪かったな。直ぐに大人の所に連れてってやるから。」


彼女の笑顔は、とても美しかった。口調は荒々しいが、優しく力強い。

その温かな腕の中で僕は意識を失ってしまった。


目が覚めるといつものベッドの上で酷く安堵した事を覚えている。

そして、同時にその子に謝りたかった。

もう一度、会いたかった。


父と母に多分初めてお願い事をした。


「僕、あの子とお話がしたい…。」


そう言うと、会えるようになったのはそれから1年後だ。

僕の言葉を聞いた父と母は喜び、様子を見に行き、その子の才能を見抜くと決めてしまっていたのだ。


そう、婚約者として。


次に会ったのは婚約者としての顔合わせだった。

久々に会えて、ちゃんと見たその子は切れ長の目が美しい少女だった。


助けてくれた事と迷惑をかけてしまった事を何とか話そうとしたが、同年代ましてや女の子とどう接して良いか分からずモジモジとしていると「遊ぼう!」と、僕の手を掴んで彼女は外へと走り出した。

侯爵邸の庭だったのだが、中々外に出ない僕にとってそこはキラキラと輝いて見えた。


外で遊んだ経験の無い僕に彼女は木登りや虫取り、魚釣りやボール投げ等沢山の遊びを教えてくれた。

だけど一度失態を見せてしまっているからか、無茶な遊びはしなかった。そんな風に彼女が僕の体調も気遣ってくれる優しい子だと分かったのは少し後の事だ。


何度も何度も彼女の邸にお邪魔しては、沢山遊んだ。

去り際には寂しくて、会えたらいつも嬉しくて、それが特別な感情なんだと直ぐに分かった。

これから長い間一緒に居られると思っていた。


あの日迄は……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「君は僕にとって、最初の友達で婚約者なんだ。結構遊んだんだけどな。」


「…それは、申し訳ない。沢山遊んだ事は何となく覚えていたのだが、少しの間だっただろう?」


「うん、三ヶ月位かな?」


薄らぼんやりと覚えてはいたが、一緒に居た期間よりも遥かに離れている期間が長い気がする。

彼にとってはそれ程に大事な思い出だったのだろう。

小さい頃は本当にヤンチャで、王妃教育によって過度な矯正をしたからそちらの記憶の方が強い。

そして人を助けるのは日常茶飯事過ぎて最早覚えていない。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「そこから…、色々有って会えなくなってしまったから本当に君には悪かったと思っているよ。」


「…別に理由が有るならしょうがない事だ。」


しょんぼりと項垂れる彼をみると何だか色々許してしまう。まるで大型犬の様だ。

会えなかった時間に例えどんなに監視されていたのであろうと。


いや、それはやっぱり違うか。


「言える様になったら、直ぐに言うね。」


「分かった。」


にこりと笑う彼はこれ以上突っ込んでくれるな、と言っているような気がする。

とりあえず、考えない様にしようと今は心に誓った。

べつに見られて悪い事は……、無いと思うし。


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