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「で、それでだ。彼、何て言ったと思う?私に『愛しい』って言ったのだぞ?まーーーーったく会っていない私に!」



私は、いつの間にやらフクロウさんと仲良くなってしまっていた。

正確には、とても懐っこいフクロウさんだったので、丁度近くに有る倒れた木の上に座り、フクロウさんを膝に乗せて私が一方的に話しているだけなのだが。


膝に乗せたフクロウさんはそりゃあもう可愛らしくて、その羽毛はふんわりツルツルとしている。

そして、お名前が分からないので私はとりあえず『フクロウさん』と呼ぶ事にしたのだ。


何となくだが、フクロウさんは精霊の類いでは無いかと思っている。こんなに人の言葉が分かる動物はそう居ない。それに、何故か爪も痛くない。

この国には精霊が沢山居るらしい。高位の精霊は気まぐれに人の前に姿を現す事が出来る力を持っているが、普段は一定の人にしか見えず、その声を聞く者はほんの僅かだという。

私も勿論、精霊に会うのは生まれて初めてだ。だから、とても嬉しい。飛び上がりたい程に嬉しい。小さい頃に夢に見た絵本の世界の様だ。


でも、もしもフクロウさんに「あなたは精霊ですか?」と聞くと私の前から消えてしまうのでは無いか、と何故かそう思ったので直感を信じて黙っている事にした。


「あ、大変だ。もう行かなくては…、また会える?」


私がそう聞くと、クルルルッと喉を鳴らし目を細めてフクロウさんは笑った様に見えたので私も微笑み返した。


すると、フクロウさんは空へと羽ばたいた。




*****


王城へと到着すると、何やら慌ただしい。



人集りが出来ているので覗いて見ると、一人の少女が泣いている。


そして、そこに何人かの男性が取り囲んで怒鳴り合っているように見えた。


「何をしている!?お止めなさい!」


幼気な少女に大の男達が寄って集って何をしているのか。

私は彼等の足首迄を氷漬けにして動きを止め、中に居る彼女の元へと走った。


彼女は真ん中で大きなヘーゼルの瞳からポロポロと大粒の涙を流し、声を発した私の方を見た。


「(なっ!?なんて可愛らしいっ!!)」


彼女が此方を向いた瞬間、まるで稲妻が私に落ちたかのような気がした。

くりくりとしたヘーゼルの瞳に、長いまつ毛、華奢な体躯。ふんわりと広がる栗色の髪はとても柔らかそうだ。


「め、メライーブス様…。」


「はっ、貴女は…ディボル家の…。」


「マリカと申します、この様な騒ぎにしてしまい申し訳御座いません…。」


学園に通う者の特徴は覚えていたので、ディボル家の者だと分かった。確か…、ディボル伯爵の隠し子で稀有な光の癒し魔法が使えるという今年の初めから学園に来た者だったか。

彼女は私を見てスクッと立ち上がると、まだ瞳を濡らしたままカーテシーをした。

彼女は貴族になってまだ間も無いというのに綺麗なカーテシーだ。


「貴女は良い。ねぇ、貴方達。これは、何の騒ぎです?」


私はマリカの肩を抱き締めると、ギッと彼女を囲んでいた男達を睨み付ける。幸いにも私より上の階級の者が居ない。

皆、学園で見た事の有る顔だった。


彼等は足を固められ、そちらに気を取られギャーギャーと騒いで居たのだ。

そしてそれをしたのが私だと知り、グッと罵倒を堪え俯きだす。


「…聞いているのだ、答えよ。」


私が『氷姫』といった通り名が有るのは、冷たい容姿に加え、それ以上にこういう場面が良くあるからである。

偽善と言われればそれ迄なのだが、手を伸ばして届くなら助けてしまう。

女性も男性も子どもも大人も分け隔てなく助けて来たつもりだが、男性を捕まえる事が多かったから。


彼等の中の一人が流石に沈黙に耐えられなくなったのか、堰を切ったように語り出した。


「こ、この女は俺達を騙していたんだ!」


「そうだ!俺達の純情を返せ!」


そうだ、そうだと次々に彼等は自分がされた事をベラベラと話し出した。

殆ど自分達が誘ったり、口説いたりといった内容なのだが気付いていないのか?

周りにいるギャラリーも、私も頭に疑問符が浮かんでいる。しかも、痴情のもつれにしては数が多い。

しかも、そこそこ顔が良くて出世するだろうなというそこそこ優秀な殿方ばかりだ。

そこそこ、という所がミソなのか。

この可愛らしい女の子が彼等全員を誑かしていたと言うのか?

彼女は只グッと奥歯を噛み締めながら彼等の罵倒に耐えて涙を流している。



「何の騒ぎだ」



そこに、良く通る声が響いた。


「れ…「レイヴン様…っ!」


マリカは私の声を遮りその声の主の元へと駆け寄った。

あわや抱き着くのでは?という所で、彼の周りに居た従者に止められる。


「…お前にその名を許した覚えは無いぞ。」


低い、低い声が響いた。


殺気すら感じる程の威圧がビリビリと辺りを埋め尽くす。

マリカはガタガタと震え、青ざめ、小さな声で「も、申し訳御座いません…」と言うのがやっとだった。

周りの男達は完全に顔面蒼白で、泡を吹いている者までいた。


美しい顔を持つ人間の怒気がこんなにも凄いとは。

私ですら、背筋が凍った様だ。


彼は、マリカに構わずスタスタと此方へ歩いて来る。


「ルルーシュア、今日は良く会えるね。大体察しは付いているんだけど、状況を説明してくれる?」


彼は私の頬に触れると、ふんわりと笑った。



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