番外編 初夜明けて 2
私も身長は小さく無い方だが、彼の腕の中にはすっぽりと入ってしまう。
『おやおや』
「空気読んで、シンフー。」
精霊相手にレイはギロりと睨むと、私を更に強く抱き締める。
まだ少し身体は熱い。
『少し様子を見に来ただけなので、邪魔者はお暇しましょうかねぇ。また、その内。』
シンフーは、クスクスと笑いながらばさりと翼を広げ飛んで行ってしまった。
人をからかって遊んでいる辺り、なんとも精霊らしい精霊というか、なんというか。
「ルルーシュア…?黙っているけど、大丈夫?」
「あぁ、色々びっくりし過ぎて声が出なかっただけだ。」
シンフーの事も有るが、なんだかんだ卒業して式を終えるまで接触自体が少なかった。たまに会ってお茶をしたりはしたが、デートらしいデートもしていない。
式で誓いを立てる時、頬にキスはしたが心構えをしていったのに平常心を保つのが大変だった。
今、抱き締められている事も夫婦になって振り払うのもおかしいと思い、自分の身体をどうすれば良いのか分からず固まってしまっている状態だ。
手は何処に持っていくのが正解なんだ、分からん。
「ふふふ。僕達、本当にお互いを知る期間が少な過ぎたよね…。そのまま夫婦になってしまった。」
「そうだな。」
彼は、抱き締めながら頭をこてんと私の肩に顔を埋めるとグリグリと押し付けながら顔を左右に振り出した。
「ふはっ、やめろ、擽ったい」
「やっと、笑った。」
パッと顔を上げ、私の肩に手を置いてレイは私の顔を見る。
金色の瞳を優しく細め、微笑んでいる。
私の事が好きだ、とその表情が言っている様な気がしてぶわっと恥ずかしくなった。
「愛しているよ、ルルーシュア。」
「ん゛んっ、予想と違う。」
にっこりと余裕を持って言う彼は狡い。嘘を言っていない事も分かる。
まさか、愛してると言われるとは思わず、限界を達して私は顔を片手で覆ってしまう。
「ずっと、緊張していたでしょ?君は焦らなくても良い。けど、残念ながら僕はあまり待つ気は無いよ。夫婦だからね、ガンガン押して行こうと思う。」
優しく頭を撫でられたのでおずおずと手を退けると、彼はとても良い笑顔でニコニコとしていた。
見目麗し過ぎて、目が潰れるかと思った。
「…慣れて無いんだ。だが、善処しよう…。」
そう言って私はお返しとばかりに彼の胸板に体重を預け、ギュッと抱き締めた。
「えっ」
何故か驚きの声が聞こえると、その後シーンと沈黙が続いた。不思議に思った事と恥ずかしさで手を緩め、彼の方を見ようと顔を上げる。
すると、大きな手で目を塞がれた。
「ごめん、ちょっと今見ないで。だらしない顔をしているから…。」
「どうしてだ?夫婦なのだから良いだろう?」
私も恥ずかしいのだ。だが、一応ちゃんと覚悟をしてここに居る。私達はもう夫婦なのだ。
手を掴み、ゆっくり剥がすとそこには真っ赤な顔をして眉をググッと下に下げ、泣きそうなレイが居た。
「…レイ?」
「ははっ。ごめんね、現実感が無くて…抱き締めても?」
「大丈夫だ。」
再び彼の腕の中に収められると、私も彼の背に手を回す。
「ルルーシュアは…、僕の事をどう思っているの?」
彼は絞り出すように言葉を発した。それは、いつか聞かれるのではないかと思ってずっと考えていたものだ。
「正直、まだ良く分からない。といった感じだ。先程レイが言った様に、私達は圧倒的に一緒に居る時間が足りていないまま夫婦になった。
マリカの件が有る前は、愛の無い完全な政略結婚なのだと思っていたし、別にそれに関して何を思う訳でもなかった。王妃になり、国母として国民を愛せればそれで良いと思っていたんだ。
だが…、レイは私をこうして愛してくれている。それは、とても嬉しい誤算だ。
だから、私はその分愛を返せたらと思っている。」
「…君は優しいね。」
「いや、そんな事も無いんだがな。何となくだが、レイなら大丈夫な気がするんだ。」
私がそう言うと、彼はビクッ!と身体を震わせた。
そして、はぁ…と盛大な溜息をつくとふにゃりと脱力した。
「……あまり煽るような事を言わないで。理性が爆発しそうだ。」
「なっ!?」
気付くといつの間にかグルンと体勢が変わりベッドには私が沈んでいた。
「え!?た、体調は???」
「今、治った。」
ニヤリと妖艶に笑うレイは何故か活き活きとしている。
何かを間違った、完全に。
「昨日の分も取り返そうね♪」
体調が悪かったのは嘘では無かった筈なのだが、明日一日恨み言を言う羽目になるとは私はこの時まだ知らないのだった。
これにて番外編終了です。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
シリーズとなっていますので、また何処かでレイヴンとルルーシュアには会えると思います。
其方も併せてお楽しみ頂ければ幸いです。




