番外編 ただのマリカ 3
招かれた部屋を尋ねると、従者が二人と殿下が居て二人きりでは無い事に安堵した事を覚えている。
そして、ブレスレットの様な物をプレゼントされて着けるように言われたのでなんの疑いも無く着けると、彼はニコニコとした顔から一変、真顔になった。
美しい人の真顔はとても恐ろしかった。
「先程渡した物は魔法を無効化し、魔力の流れを一時的に止める物だ。正直に話せ、お前は何者だ。」
その言葉に私は酷く驚いた。心の中でも会話が出来るようになっていたラビを呼ぶと寝ている時と同じく応答が無い。暫く寝てもいなかった筈だ。
それがもし無効化の影響だとすれば、ラビが起きるかもという心配も無い。
私の脳裏には、今本当に自由なのでは無いか?という事でいっぱいになった。
いつからだろう、この窮屈な生活から逃れたいと思う様になったのは。
ラビは余り私の話を聞いてくれなかった。男性から愛される事を当たり前だと思っているので、嫌だと言っても『何故?』の一点張り。『好きな人だったら嬉しいものよ、早く見つけなさい』と逆に叱咤されたりもした。
いつまでラビは私の中に居るの、とは怖くて聞けなかった。絶望したくなかったのだ。
全身が震え上がり、まともに答えられるかは分からなかったがラビの事を正直に話した。
彼は最初の一声こそ厳しかったものの、私の話をきちんと聞いてくれた。
ラビが自ら離れれば解決するかもしれない事、もしそれが出来なけば徐々に魔法石にそれをある程度移し無害化させる研究をするという解決策を出してくれた。
ラビは私にとっての王子様を探していて、それが見つかる迄は離れない。それは確実だ。
でも、私に恋愛感情が生まれないので先が分からないから出来れば無害化させる研究の方をお願いした。
研究は順調で、無効化のブレスレットのお陰で今迄付き纏っていた男性達はピタッと来なくなった。
と、思っていたのだが婚約破棄までしていたり、私に貢物をする為に破産したり、約束されていた役職を自分の兄弟に奪われた彼等は全てを私のせいにして逆上してきた。
何か変な薬を盛られただの、私が誘って来ただの散々言われた。あながち間違っていないのかもしれないが、悔しくて堪らなかった。
殿下に相談した事で何とか表面上は収まったが、彼等から逃げる日々は続いたのだ。
そして、いつの間にか結託していた彼等に遂に捕まってしまった時、私はルルーシュア様と出会った。
彼女は凛々しく、美しかった。
氷の結晶がキラキラと彼女の周りに舞い、吸い込まれる様な深い藍の瞳はただ前を向いている。
彼女は私を助けてくれたので、失礼の無いようにと礼を言うと肩を抱いてくれた。
その温もりは温かく、不思議と初対面なのにとても安心出来た。
この方が、あの殿下の婚約者で未来の王妃様なのだ。
なんて、素敵な方でお似合いなのだろう。そう、思った。
そうして、あの事件が起きた。
「今日にでも全部移せると思いますよ」と、研究員の方々は口々に良かったですねと言ってくれた。
浮かれていたんだと思う。
「(やっと解放されるんだわ、この生活から。ラビから。)」
『………せない、、、させない!!!!!』
今思えば、ずっと聞いていたんだろう。ラビは最後の力を振り絞り、魔法石から無理矢理自分の力を抜き取ると荒々しく私の中に入れた。
そして、私の意識をグイグイ押しやり檻のような所へと入れ込んだのだ。
その時、久しぶりに私はラビ自身を見た。
ラビは泣いていた。
自分を助けてくれた人間の願いを叶えようと頑張っていたのに貴女も裏切るんだ、と。
そして、涙を拭いながら待たせた、願いは叶えてやる。と言って表に出て行ってしまった。
私にとっては子どもの時のただの思い出でも、ラビにとって私は”生きる意味”だったんだと気付いた時には全てが遅くて、泣いてもしょうがないのに涙ばかりが溢れて止まらなかった。
暗闇の中で泣いてばかりいたら、急に誰かに名を呼ばれた。
それは、やはり安心出来る声で私に「負けるな」と言った。
そして、今……私がこうして生きているのもその声の主である彼女のお蔭だ。
暗い牢の中で何日か過ごしているうちに死を意識した。
死すらも、諦めてはいけないとこの方は言うのだ。
「来たか。丁度、一息入れたい時間だった。」
藍色の氷姫。誰がそう呼んだのだろう。
こんなにも温かい人に。
「はい、ルルーシュア様。」
そう言って今日も、私は貴女だけの為に微笑む。
マリカ番外編終わりました。
次こそはイチャイチャさせたいです。




