第壱話
初めての投稿、小説になります。
誤字脱字などありましたら、すみません。
「獲ったどぉぉぉぉぉっ!!」
叫びながら、魚の刺さった銛を振り上げた。
ここは、大和国の“伊賀領”。
その領の中にある森の川。
この森は、普通の人は近寄らない別名“死の森”。
獣は狂暴。
罠はそこら中に張り巡らされている。
普通の人は生きて帰ることができない。ということからつけられた名だ。
そんな森に住む私達は、この国では最強とも謳われる一族。
伊賀忍者である。
「魚のムニエル。魚の蒲焼き。海鮮丼。フライに、刺身。塩釜焼もいい。」
今晩の献立について口ずさむ、私事・伊賀崎 八雲。
侵入者用の罠を、軽々とかわし家へと向かう。
「あっ!八雲見つけたぁっ!!」
家々の間から叫び、駆け寄ってきたのは、幼馴染の藤林 仁。
「うるさいですよ。もう少し、忍者としての自覚を持ちなさい。」
誰も聞いていない事をいいことに、叫んでいた自分が言うのもなんですが。
なんて事を思いながら、息を整ようとしている彼を待つ。
「それで、そんなに慌てて、どうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃないよっ!!」
勢いよく私の両肩を掴む。
「今日は、“特別指導の日”だよっ!!」
と、激しく身体を揺さぶられる。
“特別指導の日”とは―――――・・・
5歳から15歳までの子供達を集め、
里長である、服部 半蔵が、直々に忍術を教える日の事である。
そういえば父上が、そんな話をしていた気がする。が、正直忘れていた。
「あー・・・まぁ、大丈夫ですよ。私一人ぐらいいなくとも、バレない。バレ・・・・」
この時の発言を、間違えたと後悔した。
何故なら、背後から鬼神のような禍々しい気が伝わり、さらに、目の前にいる仁の顔が、一瞬で青冷めたからである。
ふむっ。さて、ここからの最良の選択は。
腕の裾に隠し持っていた煙玉を、地面に流れるように落とした。
自分で作った、通常よりも材量を増した特性の灰色煙玉。
導火線も短めにしていた為、すぐに大量の煙が上がる。
その煙に紛れ、私は近くの家に姿を隠し、息を潜めた。
が、相手は最強とも謳われた忍者。
「ヤ~ク~モォ~」
背後から、力強く肩を掴まれる。
「・・・・そんなに怒っては、イケメンが台無しですよ。」
頭に拳を貰った。
「くっ。次こそは・・・」
「次こそは・・・じゃなく、普通に授業を受けろ!」
里中に響いたであろう怒鳴り声。
俵担ぎされた私には、大ダメージ。
「それから・・・そんな恰好で、うろつくなと何度言えばわかるんだ!!お前は!!」
と、里長は続ける。
彼の言うそんな恰好とは、上半身裸。女でもないのに、騒ぐ必要があるのだろうか。
毎度そう思いながら、合同浴場に連れていかれた。
手品か!とツッコみたいほど手際よく服を脱がし、お湯の張られたお風呂へ、私を放り込んだ里長。
「仁。この馬鹿の服を頼む。」
「はいぃ!!」
慌てて、走り去る足音。
「あ゛ー、いい湯。」
冷えきった顔が温もり出した為、体勢を変える。
「お前は・・・どこかのジジィか。」
大きな溜息を漏らした里長が、上着を脱ぎ始めた。
「ちょっ・・・何、脱いでるんですか!!私を、犯すつもりですか!!エロどっ」
言いきる前に、拳が飛んできて、湯船に沈む。
「痛いですよ!馬鹿になったら、どうするんですか!?」
湯船から勢いよく立ち上がる。と、同時に、彼にお湯を掛ける。
「―――・・・・っ。」
顔面にお湯が直撃。
熱さのせいか、いきなりだった為か、顔をしかめた里長。
そんな彼を見ながら、
うん。水も滴るいい男状態ですね。クソッ。これだからイケメンは。
と、ちょっとだけイラついた。
「八雲。お前はどうして・・・。」
何かを言いかけた里長は、口をつむり、服を脱ぎ終える。
桶に湯をくみ上げると、頭から被る彼。
呆れているのか。それとも、諦めているのか。
そんな声色だった彼をよそに、目の前に広がる光景に、私の頭は好奇心で一杯だった。
何故なら、初めて目にする里長の裸は、腹筋が六つに割れているからである。
頭から被った湯が、割れた腹筋をなぞるように落ちていく。
「――――っ失礼します!」
湯を浴びる為、目を瞑っていた彼の腹筋に、勢いよく両手を伸ばす。
触れた瞬間、微かに里長の身体がはねた気がした。
しかし、今の私には、そんな事はどうでもよかった。
おぉ!固い!!固いですよぉ!!全体的に余分な肉も無く、胸筋も・・・やっべぇ・・・
興奮して、周りの音を拾っていなかった私。
どうやら触りすぎたようだ。
私の両腕を掴み、自分の身体から剥がす里長。
影が落ちている目が、笑っているはずなのに恐い。
「あのっ・・・えっと・・・・いい体してますね!さすが、里長様です!!」
そう言いつつ手を引くが、まったく動かない。
「八雲。」
「はい!!」いつもより低い声に、思わず体が強張る。
「お前のを触らせろ。」
彼の言葉に、思わず「嫌ですけど」と、即答してしまう。
一瞬、間が空き、里長が私の両腕から手を離す。
彼は大人だから、子供の嫌がることはしないだろう。と、安堵したのも束の間。
「触らせろ!」
そう言った、里長が勢いよく両手を伸ばしてきた。
「嫌ですよ!里長の身体は出来上がってるから、良いじゃないですか!?
私は、まだ子供ボディで、ぷにぷに何ですよ!」
彼の手を、両手で捕まえ身を守る。
さすがに、今の私では里長の力には勝てない為、押し倒されたような格好になってしまう。
「負けを認めろ八雲。お前では、俺には勝てん。」
「何をっ・・・悪役みたいなこと言ってるんですか。というか、子供相手に、大人げないですよ!」
「なんとでも言え。」
本当に悪役のように、悪びれた笑みを浮かべた里長。
私の腕が、限界に近づいていた時だった。その足音は聞こえてきた。
慌ただしい。と言うより、五月蠅い足音。次の瞬間、勢いよく扉が開く。
「ヤァクゥモォォォォォッ!!」
涙を流しながら、入ってきたのは父上。伊賀崎 道順である。
「大変っ、申し訳ござい・・・・・――――!!?」
目の前に広がる光景。
つまりは、自分の息子が里長に、押し倒されている現場に石化する彼。
「おっ、落ち着け、道順。」
これには、深いわけが・・・と、慌てる里長。
「そうだよ、道順。落ち着きなよ。」
父上の後ろで楽しそうに笑う男。藤林 長門守様。
仁の父親であり、伊賀の三大忍者の一人である。
「君の愛しい息子が、どこぞやの里長に、食べられそうになってるだけだよ。」
石化した父上の肩を軽く叩き、満面の笑みで告げた藤林様。
こいつ・・・煽りやがった。
完璧に面白がっている。
ゆっくりと動き出した父上の手には、苦無が握られている。
「道・・・順?」
「大丈夫ですよ、里長様。貴方を殺して、私も死にますので!!」
そう言って、父上が里長に勢いよく苦無を突きつける。
私から手を放し、その苦無を持つ手を両手で捕まえる里長。
「落ち着け道順!!」
自分に害が無くなった為、そんな光景を「愉悦」と見守っていると、藤林様が私の服の入った籠を差し出してきた。
「八雲。あまり、心配を掛けさせないようにね。」
さっきとは別人のような表情と声。
「・・・すみません。」
謝罪を口にすると、
「うん。いい子いい子。」
と、彼は、子供をあやすかのように、私の頭を撫ぜた。
子供扱いしすぎでは?
少し不服に思いながら、藤林様に軽く頭を下げ、籠を持ち外へ出た。
素早く着替えを済ませ、足早に家へと向かう。
住宅密集地より、少し離れた森の中に、私の家はあった。
中級忍者である父上と、天才忍者と呼ばれる兄上のおかげで多少は大きめの家。
荒れた息を整えながら、ゆっくりと玄関を開ける。
その足で廊下を歩き、庭が見える部屋の入口に膝をつく。
「ただいま帰りました。」
私の声に、部屋の中で動く音が聞こえてきた。
「入りなさい。八雲。」
その声に、「失礼します。」私は軽く頭を下げ、扉を開けた。
布団に座る母上。伊賀崎 牡丹。
小さく咳をしながら、私に視線を向ける。
「八雲・・・・あまり、父を心配させないようにしなさい。」
病弱で、あまり外に出る事さえできない母上。
しかし、元くノ一という事もあり、その瞳は力強く私を委縮させた。
「コチラへ。」手を差し出され、私は彼女に近づく。
私の頬を撫でるように触れ、微笑みを浮かべる母上。
「八雲・・・・報告を。」
「はい。母上。」
報告をいたします。そう続けた私は、姿勢を正し、彼女が求めるモノを言葉で提示する。
「本日も安定の授業ボイコッ・・・ではなく、食料調達の据え、父上と里長のイチャつきを実現させました。
私の事で、父上が里長を押し倒しました。ちなみに、里長は全裸でございました。」
「全裸!それは、良い状況・・・・・・全裸?」
「はい。ゼ・ン・ラ☆で、ございました。」
私の言葉に、母上が少し考えるかのように、首を傾げた。
「八雲・・・・もしかしなくとも、貴方も全裸だったのでは?」
「はい。里長に服を剥ぎ取られ、お風呂に投げ込まれました。」
一瞬、彼女の目が見開いた気がした。が、すぐ、いつもの微笑みを浮かべる母上。
「あらあら・・・半蔵は、父より息子に興味があるようね。」
彼女の言葉で、体中の鳥肌が立つ。
「いやいやいやっ!止めてください、母上!!私は、見る専です!!」
私の言葉に、微笑みだけを返す母上。
「母うぇぇぇぇえっ!!」
ちょっと、泣きそうになった。
それからはいつも通り、夕飯の準備を始めた。
出来上がる頃には日は暮れ初め、肉体的にボロボロになった父上も、里長に連れられ帰ってきた。
「「では、いただきます。」」
父上を送り届けに来た里長も、母上により共に食事(強制)をすることとなり、四人で鍋を囲む。
暗い二人をよそに、私は母上と、他愛のない話をしながら食事を勧める。
「・・・・八雲。」
すると、父上がゆっくりと口を開く。
「里長と、藤林様とも話をしたんだが・・・お前には、任務に出てもらおうと思う。」
その言葉に、私は手にしていた椀を置く。
「私は、まだ十です。任務に着くのは、十五からの決まりではないのですか?」
「分かっている。だが・・・・」
父上が、里長に視線を向ける。
手にしていた椀の中身を、一気に飲み干した里長。
椀を置く動作を取った瞬間、私に向け苦無が放たれる。
「・・・・ソレが、答えだ。」
里長がそう言って、私に視線を向けた。
“ソレ”
放たれた苦無を平然と、何もなかったように掴んだ。
彼の言葉がさした現象の、ソレである。
「お前は、強すぎる。」
里長の言葉に、私は反論することも、否定することもせず、無言を返した。
父上は眉をしかめ顔を反らし、母上は静かに食事を進める。
実のところ、自身の強さには気づいていた。
忍術を教える大人相手に一太刀入れたり、子供同士なら十人は余裕で相手にできる。
そして何より、妖術が使えるのだ。
これは、仁と家族だけの秘密なのだが、最近は、仁とこっそり練習している。
強さを隠す為、馬鹿をやったりしているが、さすがに大人達は騙せないらしい。
陰では、不気味だの、恐いだの言われている。
「――――・・・・わかりました。仁と一緒であれば、忍につきます。」
駄目なら、兄上を召喚します。
里長に対し脅しではないが、これでもかと言わんばかりに、満面の笑みを向ける。
大きなわざとらしい溜息をつき「分かった。」と、呟いた。
「明日、仁と共に詳しく話す。逃げるなよ。」
そう、釘を刺すように言い放つと、家を出て行った。
「半蔵も、八雲には形無ね。」
母上が、呟くように言う。
「牡丹!?それはどういう意味だ?」
「ふふふっ。」
「ぼたぁぁぁんっ!!」
父上の叫び声が、響いた。
そして私は、何も聞かなかったことにした。
「あっ。お茶が美味しい。」
そして、翌日。
藤林様と父上に連れられ、仁と私は里長の屋敷に来ていた。
「ちょっとぉぉぉっ!どういうことなのコレ!?なんで僕まで!!?おかしくない??」
そう蹲り、床を殴るように、拳を振り下ろす。
「僕は平凡なのぉ!!キングオブフレーダムと一緒にしないでよぉぉぉ!!いやだぁぁぁ!!」
「それって、私の事ですか?キングオブフリーダム・・・いいですね!」
「・・・・・もぉう、やだぁぁぁっ。行きたくなぁぁぁい。僕、まだ、十歳なのにぃぃぃ。」
八雲のばかぁぁぁぁっ!!今だに泣き叫ぶ彼。
「馬鹿とは失礼な。馬鹿とは。」
私の言葉を掻き消すように、仁は唸り続ける。
それから数分。
「・・・で?」
と、鼻を啜りながら、座り直した仁。
「それで、ある程度の予想は付いてるんでしょう?」
まるで、別人かと思えるほど、冷静さを取り戻した彼。
乱れた服を整え、姿勢を正す。
私に向けられたその瞳から、圧を感じ、全身に鳥肌が立つ。
まったく、この子は・・・・面白いっ!
「まぁ、正直なところ、憶測にはなりますが・・・・」
まだ、十歳の私達ができる事など限られている。
強いとはいえ、世間知らず。
戦場に行けば、戦に巻き込まれる可能性がある。
情報収集に関しても同じことだ。忍者の属していない城を狙うという手もある。
が、そんな城は、対忍者用の仕掛けがしてある。
だが、それ以外となると、
「期間限定の雇われ忍者。というのが、一番可能性は高いかと・・・。」
戦国乱世のこの時代。何処の領地かは分からないが、比較的安全な所。
つまりは、今現状、あまり戦を行わなくていい領に行く確率が大きい。
「八雲がそう言うなら、間違いなくそうなんだろうけど・・・雇われかぁ・・・・」
一ヶ月くらいにしてほしい。仁がそう続けた。
一ヶ月。そんなに長い任務にはならないだろう。何故だか、そう感じていた。
「二人共。お待たせ。」
障子戸が開き、藤林様を先頭に、父上、百地 丹波様。そして、里長が入ってきた。
私達は頭を下げ、顔を上げる許可が出るのを待つ。
彼等の気配が、それぞれの場所に腰を下ろすと、百地様が両手を叩き合わせた。
「それでは、伊賀崎八雲及び、藤林仁の特例任務会議を行います。
まずは、任務内容ですが・・・」
彼の言葉に父上が立ち上がり、私達の前に、懐から取り出した巻物を広げた。
描かれていたのは大和地図。各領の名前も書かれている。
「貴方達が行くのは、美濃領です。現領主・斎藤 道三に、仕えていただきます。」
出てきた名に、内心驚きつつも、頭をフル回転させる。
“マムシ”と呼ばれた男。織田信長の義父にあたり、明智光秀の親戚。
彼に仕える忍者については、聞いたことが無い。
後は、実の息子・斎藤 義龍に殺されるという事。
「――――・・・期間は五ヶ月。それ以上、長引くことはない。
が、使い物にならなければ、すぐに送り返してもらっても構わないと伝えている。」
いつの間にか、目の前にしゃがみこんでいる里長。
私が話も聞かず、考え事をしていたことに気づいたのだろう。
視線が合った瞬間、彼は満面の笑みを浮かべる。
部屋に、鈍い音が響くと同時に、頭に痛みが走った。
「今回の任務には、甲賀からも二人出る。
もしかすると別の里からも来るかもしれないが、くれぐれも目立つな。」
分かったな。と、言わんばかりに、私の肩を力強く握りしめた里長。
「善処します。」
不服に思いつつも、そう返す。
まるで、何かをしでかす前提の話になっている気がするのは、私の気のせいだろうか。
そう他の人達に目を向けると、仁と父上は目を逸らし、百地様と藤林様は笑っていた。
「任務開始は一ヶ月後。それまでは、僕達で君達を鍛える事になるね。」
「逃げるなよ、八雲。」
里長が呟くようにそう言うと、私の頭をくしゃくしゃに撫で、元の席へと戻る。
「あの・・・・任務内容って、これだけですか?情報取集とか、護衛とか、そういった話は無いんですか?」
恐る恐る手を挙げた仁が、そう尋ねると、
「詳しい話は、領主に会ってからとなりますので、私達も詳しくは知らないんです。」
百地様の答えに、仁が固まった。
それは、そうだろう。忍者の中に、別の領に準ずる者がいるかもしれないのだ。
そう易々と、情報を洩らせるわけがない。
ならば、この会議は必要だったのか。と、言う話になるが、答えは肯定。
この会議は、言わば私達に現実を突きつける為のモノだ。否、主に八雲にだろう。
好き勝手しすぎる私に、何もわからないまま任務に出て、無力を知れ。と、いう事なのだ。
しかし、彼等は知らない。私が、イケオジ様好きだという事を。
そして何よりとある漫画の影響で、斎藤道三と織田信長のイチャパラが大好物になったのだった。
「伊賀崎 八雲。拝命いたしました。」
にやけそうな顔を隠すように、深く頭を下げる。
「おっ同じく、藤林 仁。拝命いたします。」
隣で、仁が深く頭を下げた。
静まり返る部屋。
「にしても・・・・さすが、伊賀崎家というべきだね。
特例忍務を兄弟そろって、やることになるなんて。」
静寂を消したのは、藤林様。
「それは、実に興味深い話ですね!ぜひ、お聞かせいただきたいです!!」
私は、食いついた。
顔を上げ、父上に視線を向けるが、父上もまた視線を逸らす。
二十歳の兄上。伊賀崎 南雲。
フリーの忍者として、色々な所で仕事をしている。
里を一度出た為、特例がない限り帰る事は許されない。
だが、何故か手紙は送ることはできる。無論、兄上から返事も来る。
色々な情報を貰えるためか、里長も口を出すことが無い。
兄上に狙われた城は、城主から雇われの兵。城に関連している者達、全ての情報を奪われる。
子供の性別から、飼っているペットの名前に至る全てである。
「あのっ・・・南雲さんは、どうして特例忍務に行かされたんですか?
八雲みたいに、授業をサボったからですか?」
ゆっくりと手を上げ、そう尋ねた仁。
藤林様と百地様が、里長に視線を向ける。
その二人の視線を避けるように、そっぽを向く里長。
父上は、顔を両手で覆い隠し、肩を震わせている。
「南雲はね・・・・半蔵の屋敷に侵入して、盗んだんだよ。」
褌を・・・・。
その言葉に、私は口を押え、顔をそむける。
フ・ン・ド・シ
笑いを堪えるのに必死で、何も考えられない。
ただ、父上と里長の反応の理由だけは理解できた。
そんな私とうって変わって、呆気にとられている仁。
「しかも彼。その褌を、町に出て売ったんですよ。」
百地様の言葉に、
「ぶふっ!!」
限界を超え、吹き出した。
兄上!何してるんですか、兄上ぇぇぇぇっ!!
心の中で、突っ込みながら、笑うしかなかった。
「えっ?えぇっ??売ったの!?売れたの!!??」
我に戻った仁が、そう困惑しつつも突っ込む。
「まぁ、売れたといえば、売れたね。」
「えぇ。ちゃんと、お金は払ってますから・・・」
その言い回しと、二人が見つめる視線の先で分かった。
視線の先の人物は、顔を背けてはいるが、耳まで真っ赤にし震えている。
「んぐっ・・・・」
お前(本人)が買ったんかぁぁいっ!!もぉ、辞めて・・・・腹筋が、崩壊する・・・
転げまわりたい衝動を抑えながら、私は蹲り、全身を震わせるしかなかった。
「お二方。もぉ、辞めて頂いてもよろしいですか?」
顔を隠し、無言で話を聞いていた父上が、肩を震わせながら制止を求める。
「いやいや。南雲の武勇伝は、まだ、これからでしょ?」
「そうですよ。次は、特別任務先で起こった出来事について、話さなくては!」
「辞めてください!それだけはっ!!」
二人の言葉に、慌てる父上。
ぜひとも何があったのか、聞きたいところではあったが、復活した里長の殺気に部屋が沈まる。
咳ばらいをした里長が、
「最後に一つ。くれぐれも、くれぐれも、忍務だという事を忘れるな!いいな!!」
念を押す。
最強の三大忍者にここまで言わせる兄上。
本当に、何があったのか。本人に聞いてみようと、心に決めた。
その後は、訓練の時間を決めて会議は終了した。
帰宅した私は、いつも通りの生活に戻る。
家族で食事をとり、入浴を済ませ、自室にて就寝の準備をする。
と、別に、荷造りを始める。
ここで、一ヶ月過ごすぐらいなら、自分の目で、耳で、美濃国について調べたい。
そう考えた私は、明日、ここを出ることにした。
無論、仁にも、家族にも話していない。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかないからだ。
準備を進める上で、丸薬を切らしていることに気づき、台所へ向かう。
時間的、母上達は寝ているはず。
気配を殺し、闇に紛れるように、静寂を身に纏うように、目的を果たす為動く。
縁側に差し掛かり、何気なく空を見上げてしまった私は、足を止めた。
闇夜に浮かぶ、大小異なる星の輝き。
あちらでは観ることのできない現象に、その綺麗さに、不思議と涙がこぼれた。
「・・・八雲。何をしているのですか?」
その声に、勢いよく私は後ろの障子戸に目を向ける。
「入りなさい。」
いつもなら、とっくに眠っているはずの母上の声に、困惑しながらも、
「失礼します。」
そう、戸を開ける。
布団の間に、腰を下ろしている母上。そんな、彼女の側に腰を下ろす。
正直、この人には嘘が通用しない。共に生きてきて、実感したことだ。
だが、どうすればいいのだろう。
自分の勝手で出ていくのだ。それを、馬鹿正直に話して良いモノだろうか。
そう考えこむ私をよそに、
「行くのですね。」
と、母上が切り出してきた。
思わず、反応してしまった私を見て、確信を強める彼女。
「美濃国に向かうなら、近江か、伊勢のどちらかを通らなければいけません。
私の勧めは伊勢の方です。」
近江には、甲賀がありますから、面倒ごとになるやもしれませんし。
そう続けた母上。
「・・・・よろしいのですか?」
思わずこぼした言葉。彼女が、「何がです?」と、尋ね返してくる。
「私は、勝手に出ていこうとしているんですよ?里長達の訓練とか、無視していくんですよ?」
普通なら止めるとこでは?
と、続けたかったが、笑みを零した母上を見て、口を瞑るしかなかった。
「八雲。貴方は、自分が思っている以上に、優しく強いのですよ。
母は、それを知っていますし、旦那様も分かっています。
だからこそ、私は貴方を、送り出すのです。」
優しく温かな手が、私の頬に触れる。
「いきなさい。そして、世界を見てきなさい。」
その言葉に、「はいっ!行ってきます!!」私は、力一杯に頷いた。
服部家屋敷―――・・・
「仁はともかく、八雲には言ったんでしょ?強いが為に、行かされるって。」
藤林がそう言って、お茶を啜る。
「まぁな。アレの事だ。言わなくても、分かってはいただろうさ。」
「本当に、伊賀崎家の子供達は、能力に恵まれてますね。あの子を思い出しますよ。」
百地がそう言うと、服部が、壁に掛けられた刀に目を向ける。
まるで、研がれたばかりかと思わせる刃が、その鋭さを輝きで表す。
「村を頼むよ。半蔵。」
服部の脳裏によみがえる、金色に輝く髪の青年。
壁の刀を、自分に差し出す彼の姿と言葉。
目を瞑り、そんな少年の姿を掻き消す服部。
「では、今回の特例忍務について、機密会議を始める――――・・・・」
静寂に包まれる屋敷で、三人のみの機密会議が、始まった。