番外編:打ち上げは盛り上がるに決まっている
打ち上げするぞというフィエロ殿下の言葉で、本当に打ち上げをすることになった。
フィエロ殿下にディアナ姉様、ジル兄様にライ兄様、ルイージ団長とジャンヌ姉様とエミリアー副隊長。そしてルディと私だ。
本当は国王様も来たがっていたのだけれど、お父様に溜まった仕事を片付けろと連れて行かれてしまった。
「皆さんは、仕事、大丈夫なんでしょうね」
ジル兄様が突っ込む。
「それは勿論」
ライ兄様が偉そうに言う。
「頑張ったのはエミリアーノ副隊長と私だけれどね」
「そうだよねえ」
「うちも勿論、大丈夫だぞ」
こちらもルイージ団長が胸を張って言った。
「それはそうよ、ねえ」
「ああ、ジャンヌと俺で捌き切った」
「うちはー」
「勿論、こちらも私が全て終わらせました」
フィエロ殿下の言葉に被せるどころか、食い気味でジル兄様が言った。
「はああ、どこも部下が優秀で何よりだね」
フィエロ殿下が溜息交じりに言う。
「なにはともあれ、無事に解決したことを祝って乾杯しましょう」
ディアナ姉様の言葉を合図に皆で乾杯する。
「ディア、私の一番の見せ場取った?」
「さあ、そんなつもりはありませんわ」
そんな会話をしているとコンコンと控えめにノック音がする。ジル兄様が対応すると
「サーラがアンジーに会いたいと泣いているようです」
「ええ?なんでアンジーが城にいるってわかったの?」
「さあ?」
「ふふ、アンジー感知器でも付いてるのかしらねえ」
ディアナ姉様が笑う。
「仕方ないなあ。じゃあ眠るまでの一時間だけだよ」
ジル兄様が侍女にその旨を告げる。
しばらくすると再びノック音がした。扉を開けるように護衛騎士に言うと
「アンジー!」
ニコロとサーラが飛び込んできた。
「あらあら、ニコロも来たのね」
いつものように二人を受け止める。
「あのね、サーラがね、アンジーがいるって言ったんだ。僕はわからなかったんだけどあんまりサーラがアンジーって泣くから聞いてもらったら、本当にいたんだ。凄いねえ」
「ふふ、本当ね」
「アンジー抱っこ」
「ふふ、はいはい」
ソファに座り、サーラを抱きかかえるようにする。隣にはニコロがぴったりと寄り添っていた。
「じゃあ、二人が楽しい夢を見れるようなお歌を歌いましょ」
「うん。僕アンジーのお歌好き」
子守唄を歌う。少しだけ身体を揺らしながら優しく歌っていると、二人の天使はあっという間に眠ってしまった。
「眠いのに我慢して来たのね」
ディアナ姉様が二人の頬を優しく撫でた。
「私が歌った時はこんなにすぐに眠らないのに」
フィエロ殿下が言う。
「そりゃあ、殿下の歌じゃねえ」
「ん?ライ。それはどういうことかな?」
「え?いや、それはですね。決して殿下の歌が下手だからなんて思ってないですよ」
「言っちゃってるじゃない」
ジャンヌ副団長が笑う。
「ライは自分で自分の首を絞めるのが好きだよな」
団長も言いながら楽しそうに飲んでいる。
もう起きないだろうという頃を見計らって、侍女と護衛騎士で二人を寝室へと連れて行ってもらった。
「アンジーの歌声はとても綺麗だね」
エミリアーノ副隊長が言ってくれた。
「本当ですか?ありがとうございます」
「そんなにきれいな声なのに、男装していた頃はどうやってあの低い声を出していたの?」
「それはですね、暗部の長から声を変える薬をもらったんです」
「なるほど、暗部か」
「ホント、アンジーは男の子でも可愛かったわあ」
ジャンヌ姉様の言葉にディアナ姉様も賛同する。
「ホントよね。初めて侍女たちと作り上げた時は、芸術品が出来上がったと思ったもの」
「わかる、わかるわあ。男装の麗人ってやつよね」
「そう!そうなの。やっぱりジャンヌ姉様ならわかってくれると思ってた」
「あそこは、軽く出来上がってるようだね」
エミリアーノ副隊長がおいでおいでしながら言う。
「ですね。私がいなくても会話が成立していますし」
「おい、エミリアーノ。俺の可愛い秘蔵っ子に馴れ馴れしすぎなんだよ、ちょっと来い」
「うわあ、団長も出来上がっている」
「フィエロ、ジルベルト、ライモンド。お前らもだ。ここへ直れ」
「うわあ、やだ」
「誰だ?団長に一気に飲ませたのは」
「これって説教コース?」
酔った団長は先生のようになって教え子たちに説教を始めた。
「アンジー」
呼ばれて振り返ると、ソファで座っているルディに手招きされた。どうにもフワフワした表情をしている。
「ルディ?」
ソファに近づくと、くいっと腕を引かれた。
バランスを崩した私はそのままルディの胸へ飛び込むように倒れてしまう。
「いたた」
鼻を打ってしまいさすっていると
「アンジェリーナ」
熱のこもった目で見られる。ドキドキと私の心臓が踊り出してしまい、逃げたい衝動に駆られる。
「やっと二人になれた」
「ルディ?二人にはなってないですよ。皆いるでしょ」
「大丈夫。団長にしこたま飲ませたから」
会話が噛み合わないが、団長を酔わせたのはルディらしい。ついでに自分も出来上がってしまったようだ。
「アンジェリーナ。あなたの歌声は天使のようだ。女神の姿に天使の声、あなたはきっと神が作った芸術品なんだな」
ボボンッ。私の顔が爆発した。何?何なの?この人。普段から甘い言葉を無意識で言う人だけれど、今夜のこれは甘いを通り越している。
「こんな素晴らしい人が俺の嫁になるなんて……幸せ過ぎて死んでしまいそうだ。アンジェリーナ、愛している。俺の全てをあなたにあげよう。だからあなたの全てを俺にくれ」
そう言いながら私をソファへ押し倒そうとする。待って、待って。ダメだから。こんな皆のいる前でダメだから。
そう思いながら目を瞑ってしまう。けれども、押し倒される事はなく、なんだか辺りが静かになったような気がした。そっと目を開けると、私の胸に寄り掛かってルディが幸せそうに眠っている。ふと周りを見ると、全員眠っていた。
「ふぉっふぉっふぉ。危なかったですなあ、アンジェリーナ様」
「長!?どうして?」
「旦那様からきっと皆様、羽目を外して大呑みするだろうと。ルドルフォ様が不埒な行動に出たら眠らせてしまえと言われておったのですよ」
「だからって皆眠らせてしまったの?」
「ほほ、面倒だったので」
「面倒って……もう、ふふふ」
「今夜は皆様、客室を用意しておりますのでそちらへ連れて行きます。我らが皆様を運びますゆえ、アンジェリーナ様もお部屋へお行きなされ」
「うん。わかったわ。ありがとう、長」
「ほほ、それにしても幸せそうに眠っておられますなあ」
ルディの顔を覗き込んで長が言う。
「ふふ、本当。可愛い」
初めて見たルディの寝顔に、私の心が温かくなった。私はルディの頭にそっとキスを落とすとルディを長に預けるのだった。