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飛んで火にいる夏の虫

 アンジェリーナに接触した日からわずか三日後、暗部から動きがあったと連絡が入る。

警戒心もなければ堪え性もないことに驚くばかりだが、これで解決へのめどが立つ。

「行動が早すぎやしないかい?もしかしたらわざと、偽の情報をこちらに握らせたとか」

「団長の言う事は最もだよ。でもね、あんぽんたんずは思ったら即行動だから」

「そうそう。団長、五歳児を相手にしていると思うといいですよ」

「そんなに低いレベル?」

「そうだね、いや、うちのニコロよりも低レベルかもしれないな」


「そういえばアンジーは?」

ジャンヌが聞く。

「ライも居ないな」

団長が言う。あんな存在感のある男が不在である事に今更気付くなんて。

「ドルフ、今俺をバカにしたな」

「いいえ、バカにはしておりません。残念だと思っただけです」

「それがバカにしてるんだろ」


「団長がバカなのは今に始まった事じゃないわよ。で、アンジーは?」

「城にいると危ないからね。ライに屋敷まで送らせたよ」

「よくアンジーが大人しく帰ったわね」

「あんぽんたんの自分への執着に、ちょっと恐れを感じていてね。あと、ドルフが心配し過ぎて暴挙に出ようとしてね」


「何しようとしたのよ?」

「いや、別に。ただ俺の屋敷で俺がつきっきりで見張るのがいいと思って……」

「あんたが狼になってどうすんのよ」

「実際には何もしていない。そうするのがいいんじゃないかと提案しただけだ」

「ジルが怒って宰相殿を呼んできて、二人でドルフを抹殺しようとしてねえ。久々、宰相殿の鬼の顔見たよ。怖かったなあ」


「鬼状態の宰相をどうやって止めたんです?」

「ジルはライが止めたけど、宰相殿は暗部が二人がかりでも止まらなくてねえ。執務室が壊れる覚悟をしていたら、アンジーが可愛くお父様って呼んだんだ。そうしたらあら不思議、今までの暴走が嘘のように止まったよ」

「なにそれ、面白い。見たかったわあ」


「ただいま戻りました」

ライが戻ってきた。

「アンジーは?」

「クソ王子が拘束されたという知らせが入るまでは大人しくしているって約束させてきました。暗部を二人、待機させてます。ただ、如何せん暗部としてはまだ経験の浅い連中なのが少し気にかかるんですが」


「そうか、仕方がないとはいえ不安ではあるな」

フィエロ殿下が言う。

「どうしてそんな頼りない連中に任せるんだ!」

ライにつかみかかる。

「よせ、ドルフ。この件より前に、隣国の調査に暗部の半数が出払っていたんだ。残りの大半も王城に潜伏して、調査と護衛に走ってる。アンジーは強いから大丈夫だと宰相殿が決めたんだ」


「ならば、俺が!」

「君は騎士団の副団長だろ。そうじゃなくてもこの人数で対応しなくてはいけないんだよ。大丈夫、関係者は皆、この王城にいるんだ。事が起こるのはここだ」

もどかしい気持ちだけで、何も出来ない自分を持て余し拳を握りこんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さあ、そろそろ国王様のお部屋に充満したころね。カッシオ、行きましょうか」

「はい、母上」

「ちゃんと書類は持った?」

「勿論ですよ。ここに」

婚約受諾書の入った筒を持って父上の執務室へと向かう。これでアンジェリーナは俺のものだ。嫌がる彼女を無理矢理、それともこの薬で従順に?どちらも悪くない。

そんな事を考えていたら、あっという間に目的の場所へ到着した。


いつもよりも早く着いた事にここで気付いていれば、と少し後に後悔する事になる。

「さ、まずは換気しましょ。吸い込んではダメよ」

二人で換気を済ませる。

「国王様、起きてください、お仕事ですよ」

母上が父上の肩を揺さぶる。

「ん、済まない寝ていたようだ」

少し気だるそうに父上が起きる。


「お前たち、何故ここに?お前は離宮から出てはいけないとー」

「国王様、黙って」

母上が言うと、大人しくなる。

「ふふ、いい子ね。さ、この書類にサインをしてね」

「書類?」

「そうよ。とっても大事な書類」

「ならば、一度しっかり読まなければー」

「んもう、黙ってサインすればいいの」

「……わかった」


父上の前に書類を置く。父上はペンを持ち、紙の上にインクを乗せようとした時だった。


「はい、そこまで」

やけに明るい声で中断を促す兄上が、父上の椅子の後ろの控室から出てきた。

「何故兄上が!?」

「何故って、君たちを捕まえるためだよ」

さも当然という言い方をする。


「フィエロ様、別に私たち何もしてないですよ」

「何もしてないとか、面白い事を言いますね。あなたがここにいること自体、アウトですよ」

「それは~国王様に会いたくなっちゃったから」

「はいはい、そうですか。それでもなんでもアウトです。ね、父上」


「お、もう芝居は終いか?どうだ?フィエロ。上手かっただろう」

「確かに。少し侮っていましたよ。大した役者っぷりでしたよ」

「は?父上、薬効いてないのか?」

「残念ながら全くな」

そう言いながら伸びをする。


「この麻薬はね、即効性に優れているんだよ。飲み物に混ぜる分にはいいが、こうやって香として焚くと、焚いた本人にも効いてしまう。だからこそ、ちゃんと解毒薬があるんだよ。どうやらそこまでは知らなかったようだね」


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