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敵の尻尾

「あなたに何もなくて良かった」

「ああ、こうしてアンジェリーナに会えたんだ。あんなこと些細な事だ」


「はいはい。二人の世界はちょっと待って」

殿下にとめられてしまった。

「ハッカの匂いがしたって言ったね」

「そうです。だからあの薬はよくお茶や軽い酒に入れられていたと聞きました」


「……」

「何か気になる事でも?」

ジル兄様が聞くと

「婚約無効の件の少し前、母上が言っていたんだ。執務が立て込んで遅く戻った父上からハッカの匂いがしたって。父上はハッカの匂いはあまり得意ではないはずなんだよ。それがなんでかしら?って」


「執務が立て込んだ記憶はありませんが」

ジル兄様が言う。

「確かに。父上が遅く帰ったことなんて最近ないぞ」

「……見えてきたな」

「そうですね。となると、やはり側妃の隠しているものを是が非でも手に入れなければなりませんね」

ジル兄様の言葉に皆が賛同する。


「多分、もう間もなく使おうとするだろう。あのあんぽんたんの様子ではな。多分、婚約受諾書を手に入れた途端、アンジーを手に入れようって思っているはずだ。そこがチャンスだろう」


そして皆で額を付け合わせて話を進めるのであった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「母上、そろそろ受諾書にサインさせてください。早くアンジェリーナを俺のものにしたい」

「まあ、カッシオはアンジェリーナにぞっこんさんなのね。わかったわ。私も早く王城に戻って贅沢したいし。もう一度国王様に私の可愛いお人形になってもらいましょ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「俺は一足先に騎士団に戻ります。怪しまれるといけないので」

「そうだな。団長とジャンヌにも言っておいてくれ。こちらに来た時に私からも言うつもりだけれど、きっと早く知りたいだろうからね」

「わかりました」


扉の前まで見送る。

「アンジー、もう少しの辛抱だ。これが終わったらすぐにでも結婚しよう」

「はい、頑張りましょうね」

「ああ」

そう言って、素早く私に掠めるようなキスをして去って行く。


「アイツ、私の目の前で」

ジル兄様が怒るが、私はこれでしばらくまた頑張れると嬉しくなったのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 騎士団棟へと足早に向かう。

二週間ぶりのアンジェリーナはやはり美しかった。少しやつれていたが、それが儚さを醸し出していた。不安げな様子が俺の保護欲を駆り立てる。絶対に俺が守ってみせる。改めてそう思った。

そんな事を考えながら騎士団棟の門まで来ると、そこにはまたあの女がいた。


「ドルフ、一体どこへ行っていたの?私、ずっと待っていたのよ。門番にどんなに言っても中に入れてもらえないし」

「当たり前ではないですか。あなたには騎士団棟に接近禁止令が出ているんですから。いつまで待っていようと中へ入ることは出来ないし、私があなたの相手をすることもありません。失礼」


「せめてお茶するくらいいいじゃない」

「冗談じゃない。あなたとお茶なんて俺がするわけがないでしょう。全く信用していないんですから」

そう言ってさっさと門の中へ入る。後ろで何かを言っていたが、聞いてやる筋合いもないので無視を決め込む。


 団長の執務室へ行くと、ジャンヌと二人で待ち構えていた。

「で、どうだった?」

「アンジーは少しやつれていました。でも相変わらず美しかった」

「そう、良かったわね。じゃないわよ、おバカ。状況を聞きたかったに決まってるでしょうが」


「あ、そうか」

「あんたってホント、アンジーが絡むとポンコツになるわね」

「もうそれは言ってやるな、本人でもどうにもならないんだから。で、どうだったんだ」

エミリアーノを呼んで、扉の前に見張りで立ってもらい、アンジーとカッシオ殿下の所から全てを話す。


「胸糞悪いわね」

「ああ、あの王子のアホさは死なないと治らないな」

「ホントよ。切り刻んでやりたいわ」

そんな話をしていると、扉がコンと一度だけノックされた。エミリアーノから誰かが来たことを告げる合図だった。

しばらく話を中断する。


すると、今度はコンコンとノック音が鳴って、エミリアーノが入ってくる。

「ルドルフォ副団長に差し入れだそうですよ」

そう言って紅茶の缶を渡された。

「誰からだ?」

「第二部隊のピオという男です。ご存じですか?なんでも疲れていそうだったので是非渡して欲しいって事でしたよ」


紅茶の缶を開ける。一見するとなんでもないように見えるが、柑橘系の香りに交じってほのかにハッカの匂いがする。

「エミリアーノ、そいつすぐに捕まえられるか?」

「はい、訓練場へ行くって言っていましたから追いつけますよ」

「ならば、ここに連れてきてくれないか?聞きたいことがある」


エミリアーノが颯爽と走って追いかけて行った。

「なんだ?どうした?その紅茶に何か仕込まれてたか?」

「その通りですよ。これ、わかります?」

ジャンヌが香りをかぐ。

「これって柑橘系よね。でもハッカの香りもするわね?ミントティか何かなの?」

「これは……」


「団長の思っているもので間違いないです」

「なんなの?」

ジャンヌが身を乗り出してくる。

「麻薬だ」


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