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元婚約者は酷い人

「もう完全にアウトですね」

ライ兄様が呆れたように言う。


「暗部からの報告ではクソ王子の周りにもテスタ夫人の周りにも、筆跡を真似できるような人物はいないそうです。そもそも鑑定に引っかからないほどの技術の持ち主は少なくともこの国にはいないそうです」

「だろうね、いたら絶対に噂が出回るはずだ」


「そして側妃なんですが、離れが影や護衛たちで固く守られています。特に寝室には五人の影全てと、護衛騎士四名ほどに守らせていて流石に暗部でも騒ぎなしに探るのは厳しいかと」

「そうか、確かに今感付かれるのはまずい。っていうか、寝室に何かヤバいものが隠されているのがバレバレなのはわざと?本当は全然違う場所に何かを隠しているとか?」


「いえ、寝室に何かあるようです」

「やっぱり血は争えないんですねえ」

「そんなあんぽんたんずに振り回されているなんて、自分が情けなくなってきたよ」

「では、殿下もあんぽんたんずにご加入されては?」

「ホント、ジルって冷たく言うその言い方がディアナそっくりだよねえ。でもなんでジルに言われるときの方が傷つくんだろう」

「それはそうでしょう。愛の欠片もありませんので」

「ああ、ライの胸貸してくれる?泣いてもいいかな」

「はいはい、いくらでもどうぞ」


イマイチ緊張感がないやりとりに笑ってしまう。

「ふふ、うふふふ、もうお義兄様たちったら」

「やっと笑顔になったな」

ルディがそう言って私の頬を優しく撫でた。


そっか、私は笑えていなかったんだ。カッシオ殿下の予想外な執着に恐れを感じていて硬い表情のままだったようだ。

「お義兄様たち……ありがとう、大好き」

「ああ、私たちも皆、お前を愛している。だからアンジー、怯えてはいけない。あんな小者のせいで怯えるなんて勿体ない。お前には私たちが付いているんだ。おまけにこの国最強の男まで従えているじゃないか。そして何よりアンジー、お前は強い」


私の前に膝をつき、ルディとは逆の頬を優しく撫でながらジル兄様が言ってくれた。

「そうだぞ、アンジー。お前は騎士団の十本の指に入る程の実力者だぞ。あんな下位十人に入るようなクソ王子なんて一発だろ」

「ふふ、そうね。私、団長の秘蔵っ子だものね」

「はは、それでこそ俺の妹だ」


「よし、可愛い義妹が元気になった所で話を進めよう」

「そうですね、では側妃の寝室に何かを隠しているのはもう間違いないでしょう。問題はいかに騒ぎにならずにそれを手に入れるか」

「どんなものかはわかっているのか?」

ライ兄様がぶつけた疑問に答えたのはルディだった。


「多分、薬だ」

「ドルフ、何か知っているのか?」

「ああ、7年前になるのか。テスタ夫人が俺との婚約を破棄してテスタ侯爵の元へ嫁いだ年の夜会で、騒ぎが起こったのを覚えているか?」


「ああ、あれか。覚えているよ。君がベッドに括りつけられて、危うく逆手籠めにされかかった時だよね」

「うわあ、何それ怖っ。どんなマダムに襲われそうになったんだ?」

「ライ、違う。マダムじゃないんだよ。テスタ夫人だったんだよ」

「は?だってあっちが破棄してジジイの元へ嫁いだんじゃないの?」


「金目的で嫁いだ。当時、屋敷が隣同士だった彼女の家は、伯爵でも下位の方で決して裕福とまでは言えない家だった。それでも伯爵は堅実に生きている方で、結婚するまではと援助の申し出も断っていたんだ。

彼女はそれを不服に思っていて、私に何かと要求をするようになった。でも、私は成人して間もないし、騎士団へ入団したばかりでそれどころではなかった。彼女の事を好きにもなれなかったし」

そう言って、私の腰を抱いていた力が少し強くなる。


「彼女は見た目だけは美しかった。でも蛇のように絡みつく視線がどうしても好きになれなかった。欲深さが表情に表れているようで正直嫌だった。ないがしろにしていたらテスタ侯爵に見初められて、ご両親の反対を押し切ってとっとと結婚したんだ。

これで俺は解放されたと思っていた。

なのに、あの女、俺を愛人にしようとした。何度もしつこく誘ってきたが、勿論俺は断り続けていた。あまりにしつこく迫ってくるのでとうとうブチ切れて、わざと人が大勢いる前で断ったんだ」

皆、黙って聞いている。


「それが功を奏したのか、次の夜会では俺に近寄って来なかった。だから油断してしまった。ボーイに渡されたシャンパンに薬が仕込まれていた。気分が悪くなって休もうと小部屋に入った。多分、数分は意識が飛んでいたんだと思う。

気が付いた時にはベッドの四肢に手足を固定されて、あの女が馬乗りになって服を脱がそうとしていた。もがこうにも力が入らない。しかも女が大人しくしてと言うと従おうとする。それで気を良くした女がキスをしようと猿轡を外した瞬間、俺は思いっきり叫んだ。

たまたま、父上と宰相殿がすぐそばの廊下で仕事の話をしていて、俺の声に気付いて助けてくれた」


「え?お父様?」

「ああ、父上曰く、見張りに立っていたボーイを裏拳一発で倒した宰相殿は、男から見てもカッコよかったそうだ」

そんな所でご縁が繋がっていたんだ。少し嬉しくなる。


「始めのうち、あの女は否定していた。そういうプレイを楽しんでいたってな。しかし、俺があまりにも力が入らないのと、顔色が悪いのと、夜会では出ていなかったはずのハッカの匂いがしたので、当時一時流行っていた麻薬が使われたという事がわかった。女はその日のうちに王都を追い出され領地へ引きこもらざるを得なかった。テスタ侯爵が何か言ってくると思っていたが、不思議と何も言っては来なかった。

今考えると、決して恵まれた土地ではなかった侯爵が突然、羽振りが良くなったのは、あの薬と何か関係があったんじゃないかと思う」


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