作戦会議です
翌日、私の騎士団潜入作戦をスムーズに決行するためにと、打ち合わせがフィエロ殿下の執務室で行われている。
この場にいるのは、騎士団を統括しているフィエロ殿下とディアナ姉様。騎士団の団長のルイージ様、騎士団第一部隊隊長のライモンド兄様、宰相補佐のジルベルト兄様と私だ。
そして、この場にはいないけれど、宰相であるお父様も勿論知っている。因みに陛下とクソ王子こと、第二王子のカッシオ殿下には内緒にしている。
陛下は国王としては素晴らしい人なのだけれど、こと二人の王子のこととなると甘々のダメダメになるので、カッシオ殿下にバレる可能性を危惧して内緒にすることにした。
まあ、騎士団はフィエロ殿下が取り仕切っているので、陛下にバレる心配はないのだけれど。
「しかし、君たち兄妹は相変わらず仲良しだねえ。三人でそんな遊びを考えるなんて。羨ましいよ」
「だから仲間に入れてあげているでしょう」
ジル兄様が冷静に言う。
「団長もすみませんが協力お願いします」
ライ兄様が頭を下げると
「ああ、いいぞ。最近平和ボケしていたからな。アンジェリーナ嬢が強いのは俺も知っているし、いきなり実力のある若いのが入ればいい刺激にもなるだろう。でも、こんな美人さんが本当に男装してバレないのか?」
「そこは私たちがカバー致します」
ディアナお姉様とお姉様付きの侍女が二人、それは楽しそうに意気込んでいる。
緩いウェーブのかかった美しい金髪に、エメラルドのような緑の瞳の美しいディアナ姉様。私とは歳が離れていたせいか、とても可愛がってもらった。今でも時々お茶をするほど仲良しだ。
「ディアナ姉様、お手柔らかにね」
「フフ、勿論よ。立派な男装の麗人にしてあげるわね」
「えっと、麗人はいらないからね。男装だけね」
「そうだったわね、男装ね。美しい中性的な感じがいいわね。無理に男性に寄せようとすると失敗しそうだから中性を目指しましょう」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、俺の親戚ってことで第一部隊に入れればいいか?」
「ですね、団長の親戚というのが一番しっくりくるでしょう」
フィエロ殿下が納得する。
「見た目、だいぶ違うけどな」
ライ兄様が思わず笑った。
スパーンといい音がしたと思ったら、頭の後ろを団長にはたかれていた。
「いいなあ、楽しそうだなあ。私も訓練に参加したいなあ」
「いい機会だから参加してもよろしいのではないかしら?アンジーにしごかれるといいわよ」
「ガルヴァーニ家にしごかれると地獄を見るからそれは遠慮したいなあ。私はどちらかといえば頭脳派だからね」
「そういえば昔、父上に散々しごかれていましたね」
「そうそう。ディアナを守れる強さを持てってね。宰相殿があんなに強かったなんて知らなかったよ」
「うちは皆強いですよ、母上以外は」
「うん、そうだね。結婚してから知ったよ、ディアナが私より強いって。それでも好きだったから頑張ったんだ」
「皆、父上にしごかれましたからね」
「なんで宰相殿はあんなに強いんだろうねえ」
「ガルヴァーニ家は元々武闘派でしたから。今でも暗部を抱えている身ですので、弱いとなめられるんですよ」
「そうだった。ガルヴァーニ家の暗部は、王家の影なんて足元にも及ばない程の実力者揃いだったね。本当にガルヴァーニ家だけは敵にしたくないと思うよ」
「入れる理由はどうしますか?」
ルイージ団長が再び話を戻す。
「そうだな。まだ学生だけれど、実力があるので一足先に入団させたでいいんじゃないかな」
「なるほど、了解しました」
「よし。じゃあそういう作戦でいこう。アンジーはくれぐれも女の子だとバレないようにね。私たちも協力するから。私もね、可愛い義妹には本当に好きになった相手と結ばれて欲しいと思っているから」
「はい。ありがとうございます、お義兄様」
「よし、話がまとまった所で休憩がてらお茶にしないか?ニコロとサーラがアンジーに会いたいって待っているらしいしね」
「私もおチビちゃんたちに会いたいわ」
「今、連れてきてもらうように言ったから。とりあえずお茶して待っていよう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「全く。フィエロ殿下の執務室に行ったきり帰って来ないとは」
フィエロ殿下の執務室へと続く廊下を足早に進む。
「ジャンも遠征でいないっていうのに……全ての仕事を押し付けたまま油を売っているなんて」
独り言を言っていると、面倒な者たちに会ってしまう。
「あら、ルドルフォ副団長。こんな所でお会いできるなんて」
サーラ王女の侍女たちだ。
「ルドルフォ副団長、前回のお茶会もお誘いしましたのに、いらっしゃっていただけなかったですわね。寂しかったですわ。どうしてですの?」
「そうですわ。私たち、ずっとお待ちしておりましたのよ」
「仕事が忙しいんだ」
「ああ、そういえばジャン副団長が遠征でご不在だとか……それはお忙しいですわね」
「あら、それは大変。遅くまでお仕事していらっしゃるのではないですか?それなら私、お夜食でもお持ちしますわ」
「まあ、抜け駆けはずるいですわ。それならば私は癒しに行って差し上げますわ」
そう言って、俺の腕に自分の腕を絡ませる。
「結構だ。騎士団棟はそんなに簡単に女性が入り込むべき所ではない」
「ふふ、相変わらずつれない方ですのね……そこがいいのですけれど」
「本当に。私、ルドルフォ副団長にならどんなに冷たい言葉を浴びせられても構いませんのよ」
絡めていた腕の力を強くして上目遣いで見てくる。
初心な男なら、押し付けられた弾力を感じてくらっとするのだろうが、好きでもない女にこんなことをされたところでなんとも感じない。
そういえば昔、婚約者だった女にも不感症とか言われたな、などとどうでもいい事を考えていると
「ねえ、ルドルフォ副団長。次のお茶会は必ずいらして」
懲りずにまた誘ってきた。
「私は忙しい。誰か他の者を誘った方がいい」
そう言ってもまあ、諦めるような女たちではないのだが。
彼女たちは伯爵家や男爵家の次女、三女といった貴族たちだ。
サーラ王女の侍女をするくらいだから、仕事はそれなりに出来るのだろう。しかし、婿探しを兼ねて、だ。
その標的にされているのはわかっているので、いつも彼女たちの誘いを躱し続けている。普通、これだけ避けられれば、脈なしと受け取るのが普通だろうに、彼女たちはわかっていないのか全くめげない。これ以上ここに留まるのも得策ではないので話を終わらせる。
「すまないが、団長を迎えに来たのでこれで失礼する」
そう言って、腕に絡まっていた手をそっとはがす。
「あん、次回のお茶会ではもっとゆっくり、ね」
ねっとりとした視線や仕草に鳥肌が立つ。
「時間があれば」
そう言って、とっととこの場を離れた。
「ふう、面倒くさい。これも団長のせいだ」
そう愚痴りながらフィエロ殿下の執務室の扉の前にいる護衛騎士に目通りを願う。
すぐに扉が開けられる。
「失礼します。ルイージ団長を迎えに参りました」
礼の状態で要件を伝え、頭を上げる……と、そこには女神がいた。