アル大地に立つ
ジョブシステムを発見した僕は、今後の理想的な展開を思い描いていた。
せっかく理想的な世界へ来れたのだ。邪魔されたくない。時間は有限なのだよ。気付いたらオッサンでしたっていう人生はもう嫌だ。
その他の職説明とかも見て、読み込んだ。
大体最後に悪口書かれてる。悪意を感じるわ。
そして更に驚いたことは、インベントリと呼ばれる物が存在していた。
勿論この世界では皆、荷物はちゃんと持ち歩いている。皆がインベントリを使えるなんて事はない。
ステータスが見れるならインベントリとか無いのかな〜と念じたら出ました。ええ、僕って念の使い手かと思ったね。
ゼウス様、チートは無いって言ってたけど、これだけで充分チートです。ありがとうございます。
その後はインベントリにアイテムを入れたり出したりして実験に夢中になってたら夕方になってた。
おおう。もうこんな時間か。人生で1、2を争うぐらい楽しい時間だった。
ちなみに楽しい思い出ってやっぱりゲームの思い出が多いな。ロクヨンのスマ○ラを友達の家で皆でやるの最高だったな。
なんだかんだスポーツに打ち込むのもすぐ飽きたし、ゲームのやり込みは何故か夢中になったなぁ。
マジでゲーマーというか、楽しい世界への憧れがそうさせたんだろうな。
最近のゲームよりは昔の古き良き時代のゲームが断然面白いと思っている。グラフィックに凝るのではなく、シンプルで楽しいのが1番良い。
ジョブシステムはその最たる例だろう。シンプルで奥が深い。これ考えた奴天才だよな。
さすがに腹が減って一階に降りて行こうとした時、会話が聞こえてきた。丁度父さんが帰ってきた頃だったみたいだ。
「なんだって!それは間違いないのか!俺たちの子だぞ?」
「アルは嘘をついてるようには見えなかったわ。というかそんな嘘をつくメリットがないもの。」
「なんてこった…+も無いだなんて…」
僕はそのままリビングに顔を出す。
『父さん、ごめんね。才能が無くて。』
「アル…何と言えばいいのか…ただ、お前が剣を振るう姿を誰よりも見ていた俺からすると、+も無いだなんて俺は信じられないんだ!贔屓目に見てなくとも、俺の子供の頃と遜色はないんだ。」
『でも無かったんだ。皆に笑われたり可哀想な目で見られたよ。』
やべ、さすが父さん良く見てるわ。
『父さんも子供の頃はまだ弱かっただろうし、遜色ないのは当然だと思う。』
「くっ!…受け入れる…しかないのか。」
『父さん。僕は帰ってきてから部屋でずっと考えてたんだ。(まぁ色々とステータスやらを確認してたんだが…)これからのこと。僕はお金を出してもらってまで王立学校には行かなくて良い。これからどうやって自分で生活していけるかを、どうやって稼いでいくかを模索したいです。その為には、独り立ち出来るまでは家に居させて欲しいです。』
「本気で言ってるのか。何の才能も無いような者が独りで生きていける程甘くは無いんだぞ。というよりもただの6歳が何をするつもりだ。」
『それを探すんだよ父さん。僕に出来る事。それを探したい。』
父さんの目をジッと見つめる。そのまま10秒程見つめ合う。
「なるほどな。お前なりに考えて出した答えか。決意に満ちた目をしている。頭の良いお前のことだ。やってみろ。」
昭和の頑固オヤジじゃなくてよかった!
ここで断固拒否されたら家を出て行ってやるプランだったから割とマジで助かった。
『ありがとう!父さん!』
「いや、ただ、無理だと思ったら父さんと母さんを頼ってくれ。お前は大事な息子なんだから。あと、ムリはするな。それは約束しろ。強さが無ければ酷い目に合うこともある。」
『分かった!』
よっしゃ、これで当分自宅警備員でも文句は言われない。
まぁ引き篭もる訳じゃないんだけどね。とりあえずは強くなるまでの間は、お言葉に甘えて脛をかじらせてもらおう。
強くなるぞ!
翌日。善は急げということで朝から冒険者ギルドへ行くことにした。
そう、この世界には冒険者ギルドなるものが存在し、各街に点在しているのだ。
困っている人からの依頼が入ったり、ギルドとして魔物を討伐したり、魔石を買い取ってくれたりする。
ギルドに来た。
正直ガラの悪そうなオッサン達が多い気がする。見た目で判断するのはいけないとは思うが、というか結構見られてる。まぁこんなガキが来てたら目立つか。
ジロジロ見られてるけど気にせず受付まで行く。
クセっ毛なのか軽くパーマが掛かってるような感じの赤髪の可愛い受付嬢さんだ。
『こんにちは。』
「あら、可愛いお客さんね。」
『冒険者登録したいんですが。』
「ホントに?あ、私はミントと言います。貴方の名前は?」
『アル=ライトブリングです。』
そこで急に近くに居たオッサンが笑い始める。
「ハッ!ライトブリング家の無能が来たのかよ。お前みたいなんじゃすぐ死ぬからやめとけ。」
無能の噂がもう広まってるのか?まぁ父さんは結構有名人だからな。
まぁいいや。こういうのはスルーしとこ。話なんかしても良いことはないだろう。
『とりあえず登録お願いします。』
「貴方がライトブリング家の…冒険者は危険が付き纏います。お勧めはしませんが…」
「ミントちゃんも言ってるだろうが。俺のこと無視しやがって。ザコは大人しくしとけ。」
『規定では6歳から登録は可能なんですよね?貴方は受付嬢の仕事を黙ってしてもらえませんか?』
言ってしまった後ですぐにハッとする。
しまった。絡んで来たオッサンがウザ過ぎて受付嬢に八つ当たりしてしまった。僕は大人だからこんな事で一々イライラしたりしないと思ってたのに…すぐさま頭を下げる。
『あの!すみませんでした。ついミントさんに八つ当たりしてしまいました。』
「あらまぁちゃんとしてるのね。気に入っちゃった。なんだか6歳に見えないわ。デリスさんも小さい子に絡むのはやめて下さい。」
「ちっ。ミントちゃんに免じて引き下がってやる。」
なんだこいつは。その上から目線。イラッとする。
『デリスさんと言うんですね。僕が冒険者になろうと貴方には関係ない。それこそ僕がその辺りでくたばってたら勝手に笑えば良い。笑い話にして下さい。』
「生意気なガキだ。覚えとけよ。」
出た。三下のセリフだわ。
まぁ気を取り直して。やはり才能の世界なので才能アリの者は6歳からでも活躍することが可能ということで、登録出来るようになっている。
「ごめんねアル君。それじゃ手続きをするね。少々お待ちを。」
『はい。』
ミントさんは紙にスラスラと記入をしていく。それを奥の事務員っぽい人に渡した。
「今から冒険者カードを作ります。出来上がるまでちょっと時間が掛かるんだけど、ギルドの説明は聞いておきます?」
『はい。お願いします。』
「冒険者ギルドには主に魔物討伐の依頼が来ます。それを登録していただいた方に斡旋し、依頼の達成と引き換えにお金と名誉をお支払いする。といった組織になります。
中には、特に魔物討伐とは関係無い依頼もあったりはしますので、それはご自由に吟味して頂いて結構です。ですが基本的に魔物を倒す事を業わいとする職だと思って下さい。
魔物は急激に増える時期があったりします。いつなのかは定かではありませんが、定期的に増えたりするので街や通行人、行商人などに被害をもたらすので、数を減らしてもらったり、護衛に付いたりということになるでしょう。
そして魔物は不思議な事に、倒すと体が消えます。
残るのは基本的に魔石です。世界の謎の1つではありますが、大気中のマナによって生み出されていると言われています。
奇しくも魔物はいなくてはならない存在でもあります。生活の中で役立っている魔石はご存知ですよね?それを冒険者の方達の手で倒すことで手に入っているのです。なので冒険者と魔物は無くてはならない存在です。
アル君のお父様は現役時代は一騎当千の活躍をされておりました。冒険者にはランクがあり、ダンテ様のランクはAでした。
ランクはSからFまでの6段階にランク付けされます。最初はアル君はFからスタートですが、こなせる依頼や倒せる魔物から判断してランクが上がっていくことになります。
名誉というのはランクですね。基本的にBランクまでいけば有名となり、周囲からの評価も高いものとなりますので指名依頼なんかも来たりします。Bランク以上の方に許された特権もありますが、それはまた今後の成長に応じて説明しましょう。
あと、特に依頼を受けていなくても魔石は買い取りますし、討伐数を加味してランクを上げることもあります。
とまぁこんな感じで形式的な説明をさせてもらったけど、大体分かったかな?」
『ミントさん凄いね。めっちゃスラスラ喋るし。超出来る受付嬢って感じ。説明は理解したよ。」
「あら、ありがと。」
と言ってウインクを飛ばしてくる。
普通にカワイイ。ミントさん目当ての奴とか結構いるんだろうな。
『ちなみに6歳から冒険者をやる人間は珍しい?』
「珍しい方ではあるけど無いことは無いわ。才能があっても貧しい子はお金を稼ぎたくてやるというのがほとんどかな。
けど、やはり6歳の子供には難しいというのが実際の所ね。」
そりゃそうだろうな、と思う。6歳なんて圧倒的に無知過ぎる。知識、経験というのは的確な判断を行う上でとても大事なモノだ。
『まぁ僕の当面の目標としては自分で生活していくお金を稼ぎたいってところだから、慎重にいきます。』
「ええ、死なないようにして欲しいわね。私が受付した人が死ぬのは嫌だもの。
…あ、出来上がったみたいね。これ。これが冒険者カードよ。偽造とかできないように一応プロテクトがされてるの。身分証明書として使えるわ。」
銅色のカードを渡される。ついに僕の冒険が始まる。
『ミントさん。とりあえず最弱の魔物を教えて下さい。』
「間違いなくスライムね。街の近くにも沢山生息してるけど、まず街の近くなら強い魔物は居ないわ。ゴブリンなんかも出てくるけど、そんなに強くはない。ただ集団で襲い掛かられると危ないからそれだけは気を付けてね。あといきなり森とか山の方へは行かないこと、魔物の種類と強さが全然違うから。」
『ありがとう!早速スライム行ってみる!』
ミントさんにそう告げて僕は走り出した。