アル専用武器
チュンチュン、チュン。
今日も小鳥達の声で目を覚ます。
ふぁーあ。何かあんまり寝れた気がしないけど。まぁ身体の疲れはないか。
さて、今日は隣の家の幼馴染みと遊ぶ事になってたっけな。幼馴染みの女の子はミア。僕と同い年だ。まぁ普通に可愛い子だが、残念ながら僕はロリコンの気はない。
しかし記憶にあるのが、アルは小さい子供にありがちな、『僕がミアちゃんを悪い奴らから守ってあげる。』とか、ミアも「アル君のお嫁さんにして。」だなんて、将来を約束してしまうようなことを言ってしまってる。これが若さ故の過ちってやつだよね。
認めたくないものだな…なんて言葉を言いたくなる。
将来、ミアは良い女性に成長するだろうけど、結婚は簡単に決めれるものではないんだぞ、アルよ。経験者は語る。そもそも子供の頃の約束なんてすぐ忘れるだろうから良いんだけど。
昼ご飯を食べた後
「アルくーん。遊ぼー。」と、ミアが遊びに来たので、かくれんぼとか鬼ごっことかおままごとをして遊んだ。
なんだかんだで童心に返って遊ぶのは案外悪いものではなかった。ミアは結構ワガママな子だが、常識的な範囲だろうし、可愛いので構ってあげたくなる。これは元のアルが惚れてしまうのもしょうがないかな。
いかんいかん。魔性の女め。うちのアルはやらんぞ。てか僕だけど。
そんな風に朝は母さんの手伝いをし、妹のニーナの相手もして、昼からはミアと遊ぶ。そして父さんが帰ってくると少し剣の訓練をするというのが僕の1日のルーティンだ。
そんな日常を過ごす内に剣を受け取りに行く日がやってきた。
今日は父さんは仕事だから1人でドグさんのとこへ行くようになった。というか1人でも大丈夫だよ。と言い張った。
ちなみに代金は父さんが前払いしてくれてる。
子供ではないので、ドグさんちまでの道は覚えてるはず…そんなに、遠くないしね。正直あんまり知らない道は怖いと言えば怖いけど。
元田舎者だから東京駅で迷子になったのを思い出しました。広過ぎるんだよあの駅!
そうこう思案しながらも、まぁ普通に辿り着けた。
初めてのおつかいではないのだ。
武器屋の戸を開き、声を掛けた。
『こんにちはー!ドグさーん。剣を受け取りに来ましたー!』
少し待つとドグさんが出てきた。
「来たか!アル。少し待っておれ。」
また奥に戻り、白い布で包まれた剣を持って来てくれた。布を取りながら喋り始める。
「これじゃ。かなり良い物が出来たぞい。しかも予想外に2回目の試作でこれが出来たから、もう少し早く渡せたんじゃがな。」
『え、そうだったんだね。早く来たら良かったなぁ。』
と言いながら剣を手に取る。サーベルのような片刃の剣で、シンプルな造りながら見る者を魅了する美しさがある。刃渡りは70センチ程だろうか。柄には魔紋磁石が埋め込まれており。青く輝いている。その周りにはドグ製であることを証明する森の模様の意匠が施されている。
『これが僕の剣…軽い…』
片手でラクに持てる。
「そうじゃろ!これは軽いシルバニウムを使っておるんじゃ。出来るだけ子供でも扱えるようにというダンテの注文じゃな。しかし軽いと剣の重さを利用出来なくなる。切れ味に特化させることになるが、そうなると今度は強度不足になる。シルバニウムは軽いが脆いからな。それを、高価なミスリルをごく少量混ぜ込むことで粘り強さも出たのじゃ。じゃから若干光の加減で青く見えるのも美しいじゃろ?ちなみにミスリルはダンテが持ち込んだ物じゃから素材代はシルバニウムだけじゃ。普通は既製の武器を買っていく者たちばかりじゃからな。今回このような配合の実験が出来たのもあやつのおかげじゃな。」
『……』
ドグさんがめっちゃ喋り始めたわ。
「おぉ、すまんな。子供にこんな説明をしてもしょうがないよな。」
『いや、全然!ドグさんの武器に対する情熱も伝わってくるし、僕も自分の剣の知識はあって困る事はないから説明してくれて助かるよ。』
「そうかそうか。しかしアルよ、お前はホントに6歳か?」
まぁ普通の6歳児はこんな話聞いてもチンプンカンプンか。僕は気になる事は何でも知っておきたいタイプだし、別に6歳児っぽく振る舞うつもりも無いから良いんだけどね。
『それはどうでも良いんだよドグさん。シルバニウムは結構高いの?強度は鉄と比べてどうなの?』
「ふむ…完全に6歳児という認識は改めておこう。シルバニウムは鋼よりもほんの少し強度が高く、非常に軽い。その為、鋼の3倍の値段はする。軽さのメリットというのは基本的に防具として用いることにあるな。上級冒険者も軽いシルバニウムの鎧を使うことは多いのじゃ。」
『なるほどね…結構高いんだね。それに合わせて希少な魔紋磁石も付けている。恐ろしい値段だね。じゃあ基本的には武器には使わないということか。』
「そうじゃ。先程も言ったが、シルバニウムは脆い。硬さはあるが、折れたり、割れたりということが多いんじゃ。その性質をミスリルの配合で補えることが今回分かったということじゃな〜。ちなみにダンテの剣はミスリルじゃから家が建つくらいの値段はする。くれぐれもミスリルの剣と打ち合うなよ、武器が壊れるわい。」
『ふむふむ。ありがとうドグさん。これで鉄は斬れるかな?」
「いやいや、構わんよ。鉄か…力・技があれば斬れるじゃろうな。しかし6歳児が持つには絶対に危ない剣だと思ったが、アルなら大丈夫じゃな。」
『そうかな?割と、早く何かを斬ってみたくてウズウズしてるけどね。』
「ガッハッハ。そりゃ誰でも新しい武器を手に入れたらそうなるわな。しかしホントに気を付けろよ。これは刃先がかなり薄い。マジで切れるからな?」
『分かった。気を付ける!』
そうして専用武器を手に入れた。専用だから3倍の能力とかがあるわけでは無いが、非常に嬉しい。
あとはドグさんに身体に合うベルトを付けてもらい、腰に帯剣するようにした。マジ軽くて違和感無いわ。てか帯剣してるだけでカッコいい。
一応魔紋磁石の操作方法も習っておいたので奪われたりはまずないだろう。
ドグさんに挨拶をして、武器屋を出て家に帰ろうと歩くが、すれ違う人に結構見られる。小さい子供が自分の身長に近い長さの剣を持ち歩いてたら目立つよな、そりゃ。
その後、大通りから住宅街の方へ入って行くと前の方から見たことのある奴ら―3人組―が歩いて来ていた。ヤベェ、これはスルー推奨…と思った時だった。
「お、アルがいるじゃん。何か剣持ってんじゃん。」
くっ。話しかけんなよ。
こいつらは近所の悪ガキ3人組のトン・チン・カンだ。まぁそんな名前ではないが僕が勝手に呼んでいる。
左からデブのやつがダズ。真ん中がリーダーのラスター。いかにも悪ガキ。右が金魚のフン的な存在のマット。
こいつらは僕と同い年だ。別に友達でも何でもない。歳が同じだからお互いに知ってはいる程度だ。
『やぁ、ラスター、ダズ、マット。』
無視するわけにもいかず返事をしたが、3人に囲まれてしまった。ただのヤカラじゃねえか。
ラスター
「アル、何だよその剣は。騎士ごっこか?」
マット
「そうだ、何カッコつけてんだよ〜。」
ダズ
「大人用かー?」
『僕、急いで帰らないといけないから。じゃあね。』
そう言って足早に包囲網を抜けた、と思った瞬間ラスターに肩を掴まれた。
「待てよ。その剣見せろよ。」
『うん、やだ。』
ニッコリと営業スマイルで、しかしながらハッキリと意見は伝える。この営業スマイルで今までも切り抜けて来た。自信はある!
「やだじゃねーんだよ。」
ダメだったわ…うーんどうしたものか。
そうこう思案していると。ラスターが剣に手を伸ばし、掴んでくる。父さんからの誕生日プレゼントなのだ。クソガキなんかに触られたくない。
『触るなっ!!』
力の限りで振り払い、怒気を飛ばしながら睨む。
バランスを崩したラスターが怒り始める。
「てめーやんのか!?」
何でだよ…お前がやってきたんだろ…ヤカラは言葉が通じないから困るわ。どこの世界でもヤカラは同じだということが分かった。
しかしどうしようかな。僕の威圧なんかでは全然怯まないし、こんな奴ら斬って捨てるのは簡単だろうが、人を殺すなんてことはしたくない。
ため息が出る
『はぁ、これ以上近寄るなら、この剣を振るうことになるぞ。良いか、これは警告だ!』
「うるせー!難しい言葉で喋ってんじゃねー!」
マジか。こいつ警告って単語も分からんのか、と考えながらも瞬時に鞘をベルトから外す。掴みかかってくるラスターに対し、横に一歩ずれながら鞘ごと剣を振るう。狙いは腕だ。上段から腕を叩き落とした。ゴッ!と鈍い音がし、ラスターが転ける。
「ああああぁぁぁ!いてええぇぇ!ぁぁぁ…」
全力で振ったわけじゃない。骨折まではいかないはずだ。正直父さんとの稽古に慣れてるから実力差があり過ぎるな。しかし…なんて使いやすいんだ。片手で素早く振れる剣に感動する。
ラスターは半ベソ状態だ。6歳なら只々泣き叫ぶ奴が多いだろう。その根性だけは認めてやる。
『言っただろう。近寄ったら剣を振るうと。この剣は僕の宝物なんだ。』
「くそっ!覚えてろよ!」
と言いながら逃げていく。
マット&ダズ
「ラスター。待ってよ!」
こちらもリーダーがやられて気まずくなり逃げていく。
『そのセリフはザコキャラが言うセリフだぞ、ラスター。』
しかし抜剣はしてないものの、初めて剣を使ったのがラスター相手だなんて…はぁ…。
その後、家に帰り、父さんに喜びと感謝を伝えた。トンチンカントリオに絡まれたことも報告しておいた。