アルとの邂逅
その日の夜。
まどろみの中、誰かが俺を呼んでいる。
「…ちゃん。お兄ちゃん。」
んー?稽古で疲れて眠いんだよ。寝かせてくれよ。苛立ちながら薄らと目を開ける。
「やっと起きたね。お兄ちゃん。」
目の前に居たのはアルだった。
『アルか…初めましてっていうのも変だな。ここは夢の中みたいな感じか?』
「そうみたい。お兄ちゃんも有っていう名前なんだね。」
『そうだな。俺の居た日本では珍しい読み方だったよ。しかし、すまないなアル。』
そう言う俺は、元の俺の姿だった。
「ん?何が?」
『いや、アルの身体を乗っ取ったような形になってしまってさ。身体は多分俺が動かしてるよな。』
「そんなことないよ。お兄ちゃんの記憶が沢山沢山流れ込んできて、お兄ちゃんの記憶がかなりの部分なのは確かだけど…」
そりゃそうだよな。6歳になったばかりの子なんて物心が付いてすぐだ。長く生きている俺の方に意識が傾くのは当然だろう。俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
『………』
「でも僕たちは似てるんだよ。名前が同じだし、僕も父さんや母さんのように強くなりたいって思ってる。お兄ちゃんもそうなんだよね。何て言えばいいのか分からないけど…僕達は2人で1人なんだよ。僕の意思が無くなったわけじゃないよ。」
『そうか、なら良かった。確かに俺は日本ではずっと燻った気持ちを持ちながら生きてきた。まぁ厨二病ってやつかもしれんが、物語に出て来る勇者のようなものに憧れてたな。』
「お兄ちゃんの記憶で分かるよ。勇者に憧れてると痛い子だと思われるんだね。」
『そうなんだよ…』
人間誰もが自分を認めてもらいたいという承認欲求があるし、自己顕示欲もある。
それに小さい頃は皆ヒーローとかに憧れるもんだ。
それ以上に、地球のシステムに嫌気が差していた。力こそが正義!とまではいかないが、ゲームでよくある、強い奴が偉いっていうのは単純明快だし、頑張れば強くなれるっていうのもモチベーションが上がる。
ゼウス様が言ってた。この世界はゲームのような世界だって。強ければ自由に生きられる。どんなシステムなのかはまだ知らないけど。普通に黙々とレベル上げしたい。
俺はゲームではやり込みタイプで、充分にレベルを上げてからボスに挑むタイプだった。レベルを上げれば上がるほど強くなるし、カッコイイ技を覚えたりする。その時間は全く苦にならなかった。
地球では別に偉くもない、能力も無いような奴が偉そうに振る舞う事が多々あり、納得がいかなかった。
恐らくこの世界でもそれは充分あるだろう。王様なんてのが居るくらいだし。
別に無法地帯が良いなんてことは思ったことはないし、暴力で全て片を付けるのも違うとは思う。でも自分の信念に従って生きていきたいのだ。
きっとこの世界では楽しく生きていけるんじゃないかな。魔力もあるし。母さんから教えてもらったファイアボールも本当に使える。
これからが楽しみでしょうがない。
『ところで父さんと母さんは凄腕の冒険者だったんだよな?』
一応記憶にはあるが、確認しておく。
「そうだよ。父さんは闘気剣の使い手だし、母さんは5属性が使える魔法使いなんだよ。僕が産まれることになったから冒険者は辞めたみたい。僕も父さんと母さんを超える冒険者になるんだ。」
子供らしくて良い夢だ。
『それで王国を脅かすドラゴンを退治したことで、その後剣術指南役を仰せつかったわけだな。」
大活躍をした両親は本来貴族しか無い姓を与えられたということだった。闘気剣を使う姿は古の光の剣を使う勇者を彷彿とさせるが故にライトブリングという姓を頂戴したとのことだった。
そんな2人の子供だからアルは期待されている。稽古でも6歳ながら剣は使えるし、魔法もファイアボールを習得している。
才能が無いと剣を使おうとしてもすぐに手を滑らせたり、地面に擦ってしまったりと、上手く扱えないらしい。魔法もまず習得が出来ないとのことだった。
アルがチート的両親から産まれたチート的存在だからこれから先も安心だな、と思うことにしたが、そう簡単なものでは無かったのだった。