武器屋に行く
朝食を済ませた後、父さんに連れられ家を出る。
数分も歩くと大通りに出た。
大通りには人が多く、様々な商店があり、活気がある。
アルの記憶が有るものの、異世界から来た僕にとっては見る物全てが物珍しく感じてしまう。日本には無いような建物で、レンガで組み立てられている建物が多かった。人も西洋人的な顔の人達ばかりだった。
ヨーロッパ的な雰囲気なのかな?と思うけどヨーロッパ行ったことないんだよね。
そんな僕を見て、「逸れるなよ。」と手を握ってきた。
どうしてもキョロキョロしてしまうので、見かねた父さんが手を繋いで引っ張っているのだが、正直僕の精神年齢だと、父親と手を繋ぐのはかなり恥ずかしいのだが…まぁ逸れてしまうよりは良いかと思うことにする。
数分も歩くと剣をクロスしてる看板が目に入ってきた。一目で武器屋と分かる。木の扉を開け、入っていくと色んな種類の武器が置いてあった。
『すげぇ…』
その数の多さにも驚きもあったが、まず日本では武器など見ないので、剣や槍、弓、杖などを見て、純粋にカッコ良いと思ったし、また、新品の武器は美しいとさえ思ってしまった。
反面、武器がこれほど日常で必要であれば物騒な世界ということでもあるよな。日本は平和だったんだなぁとしみじみ思う。
「アルは初めてだったな。この店に来たのは。」
『うん。凄く良さそうな武器ばっかりだね。』
「そうさ。ドグさんの腕はこの大陸では1番とも言われてるからな。」
「ドグさーん!連れてきたぞー!」
父さんがカウンター越しに呼び掛けると、少し経って小さなおじさん-但し、筋骨隆々-が出てきた。
「おーきたかー。これがお前さんの倅か。んーちっこいのう。」
『こんにちは。アルです。おじさんも小さいですね。』
「ドグじゃ。まぁワシはドワーフじゃからのう。ドワーフは大体こんなもんじゃ。」
初ドワーフである。身長は僕より少し高いぐらいで130センチ程度だが、とにかく筋肉ゴツい。人間以外の人を見ると、本当にファンタジー世界へ来たんだなーと実感する。なんか鍛治師といえばドワーフが定番って感じなのでしっくりくる。
「しかしアルはこれからデカくなっていくだろうから剣のサイズをどうするか…材質も…」
ドグさんは僕を見て、悩み始めた。
「まぁまぁ、それは後でたっぷり悩んでくれよドグさん。今は魔紋登録の為に来たんだろ。」
「そうじゃったな。始めは子供用の剣なんぞとは思っていたが、創作意欲が湧いてきたらつい、な。ちょっと待っておれ。」
そう言ってドグさんは奥の部屋に戻り、ビー玉のような物を2つ持ってきた。
『父さん、魔紋登録って?』
魔紋に関しては知っている。人の魔力には指紋のように、人それぞれなの微妙な差があり、同じものは存在しないと言われている。
話を聞くと、このビー玉は魔紋石という鉱石から作られていて、魔紋磁石という物に改造されているものらしい。
魔紋石は産出量が少なく、魔力を注ぐと、その人の魔力を一度だけ記憶する性質を持つ。その性質を利用し、盗難防止用に作られた魔道具ということだった。
例えば、剣と鞘にそれぞれ魔紋磁石を埋め込む。すると登録された人なら、魔力を操ることで引力でも斥力でも自由に発生させることが出来る。もしこの武器を他人が使おうとしても、引力または斥力に邪魔されて自由には使えなくなる。
詳しい仕組みは分からないが、要は僕しか使えない剣にしてくれるということだった。
「アルの年齢、実力だと武器を簡単に奪われる可能性がある。奪われるだけならまだしも、俺がプレゼントした武器で殺されることもあるだろうからな。それだけは避けたいと思っている。」
『父さん…でもこれってかなり高いんじゃないの…?』
「ああ。家が買える、とまではいかないが相当希少な物だ。初めての剣だからな。良い物を長く使え。」
『分かった!大事にするよ!ありがとうございます!父さん。』
「まぁまだ出来てないから礼を言うのはまだ早いぞ。」
父さんがこれほど僕の事を考えてくれて、金を注ぎ込んでプレゼントを買ってくれるとは思ってもみなかったから、感謝の気持ちが溢れると同時に、早く剣が欲しくなってしまい、いても経ってもいられなくなってしまった。
「とりあえずこれに魔力を流し込んで登録するんだ。」
『うん。やってみる。』
魔力を手に集め、指先から1滴の雫が落ちるようなイメージで魔力を流し込んだ。
魔紋磁石に波紋のように蒼白い光が波打った。
「ほぅ。綺麗な魔力だな。」とドグさんが言う。
どうやら無事登録に成功したようだ。
「そしたら、武器と鞘は大体4日もあれば作れるからな。」
「ああ、分かった。支払いはまたその時でいいか?ドグさん。」
「うむ。かまわんぞ。剣のイメージは出来とるからな、早速取り掛かろう。」
ウズウズしていたのだろう。すぐに奥の工房の方へ入って行った。4日なら判定の儀の前日になるな。色々楽しみなことが目白押しだ。
その後、家に戻り、父さんに稽古を付けてもらって、晩ご飯を済ませ、その日は眠りに就いた。