ひたすらにレベリング
気付いたら夕焼けが空を染めていた。
歩きながらカウンターを当てていく戦法でスライムを探し続けた。途中でさすがにお腹が空いたので、インベントリから母さんのお弁当を取り出し、食べたが、その後もずーっと同じことを続けていた。
流石に暗くなるとまずいよな。
今のところ、ステータスは…
□アル 【戦士】レベル18□
力 :59
体 力:59
素早さ:41
器用さ:23
魔 力:23
抵抗力:41
《アビリティ》
剣術Lv3、体術Lv1、攻魔Lv1、学術Lv1
《アクティブ》
火魔法、威圧
完全に脳筋だ。
しかしスライムだけでこんなに上がるとはな。経験値3倍はさすがに凄い。
軽く剣を振ってただけだが剣術もレベルアップしており、レベル10になった時に、威圧を覚えた。
〔威圧➖相手を威圧する。
使用者の能力値が高い程、効果が高くなる。〕
父さんの威圧感はこれだったのか。さらに相当能力値は高いんだろう。
一度スライムに使ってみたが、逃げられてしまったので以降は使っていない。
とりあえず今日はもう帰って魔石をギルドに持って行こうかな。
狩りをしていた所は近い為、すぐ帰れる。
「お、坊主帰ってきたか。良い判断だ。暗くなってくるとそれだけで危険度は2倍、3倍にもなるからな。」
『ライクルさん。おかげさまで今日1日で成長することが出来ました。また明日からもお願いします。』
「ああ、勉強になったか?お疲れさん。最後にアドバイスしておくと家に帰るまでは油断するなよ。」
なるほどな。街の中にも危険はないとは言えないもんな。
でもそれってフラグってやつじゃね?
ギルドに着くと、ミントさんが声を掛けてきた。
「あっアル君!無事帰ってきたのね。はぁ、良かった」
『スライムしか狩ってないから大丈夫…いや…そういえば最初に死にかけたわ。』
「えっ?スライムで死にかけたの?でもまぁちゃんと帰ってきたし大丈夫なんだよね?」
『うん。それでスライムの魔石を買い取ってもらいたいんだけど。』
おもむろに革の袋をカウンターの上に出し、中身を全部取り出した。
実はギルドに入る前に誰にも見られないように袋に入れたのだ。
恐らくインベントリの存在がバレると大変な事になるだろうと予想してのことだ。
「ちょっと、この量!こんなに狩ってきたの?すぐに鑑定に回すわ。」
『お願いします。あと、これも。』
僕は青いゼリーみたいな物を5つ出す。
「これっ!スライムのドロップ品のスライムゼリーじゃない!これは高く買い取るわよ〜。」
『あ、買い取ってくれるんだ。何かなと思ったんだけど。』
「ドロップ品は中々出ないし、スライムをわざわざ狩る人なんて少ないからね〜。かなりのレアアイテムなのよ。』
どうやら魔物は倒せば消えるが、極稀にドロップ品が落ちるという。
確かに腕が上がれば、もっと稼ぎの良い魔物を狩るだろうからな。僕もスライムばっかり狩るのもさすがに飽きるし。
『しかしミントさんも遅くまで朝から晩まで働いて大変だね。お疲れ様です。』
「それが仕事ですから。でも子供に労われるとは思わなかったわ。まぁ…大変と言えば大変なのよ。でも給料が良いし、辞める理由はないかなって感じ。」
ふむ、ギルド職員は給料良いのね。
適当な話をしつつ待っていると、鑑定結果が出た。
「スライムの魔石が294個…こんなにスライム狩った人初めて見たわ。」
『いや〜つい夢中になっちゃって。』
「つい、で狩る量じゃないけど…スライムの魔石1つ5オース。だから1470オース。スライムゼリーが1つ10000オース。だから全部で51470オースになります。」
『え、ゼリーそんなに高いの?』
「そうよ。さっきも言った様に中々落ちないのに加えて、好き好んでスライムを狩る人はいないからね。というかドロップ品は基本的に全部価値が高いのよ。」
ちなみにこの世界では通貨単位がオースらしい。
銅貨が1オース、
鉄貨が10オース、
銀貨が100オース、
小金貨が1000オース、
金貨が10000オース、
大金貨が100000オース、
ミスリル貨が100万オースとなっている。ミスリルに関してはレアなので、滅多にお目にかかれる物ではない。
貨幣を渡された僕はつい思ってしまう。
これ、僕はインベントリに入れる事が出来るけど、貨幣ってめちゃくちゃ嵩張るよね。
紙幣が存在するのってそういう理由なんだろうなって身を以て理解した。
『ミントさんありがとう。じゃあ今日のところは帰ります。』
「うん。お疲れ様。疲れてるだろうからゆっくり休んでね。」
ギルドを後にし、家路へ向かう途中…金めっちゃあるわ〜何か必要な物を買おうかな、と考えながら歩いていると
フラグが回収された…
トンチンカンが現れた。
アルは逃げるを選択する。
だが回り込まれてしまった。
くそ…やっぱりフラグだったじゃないか。
「おい、無能のアル君よ〜。この前の借りを返しに来たぜ。」
ヤカラのセリフを吐くラスターを見ると、槍を持っているのが分かった。しかも先端にはちゃんと刃が付いている物だ。一般的にスピアと呼ばれる武器である。
『ラスター…お前…その槍を使うつもりか?』
「そうだよ!俺には槍の才能があるからなっ!訓練して使えるようになったんだ。槍を使った俺は超強いことが分かったんだ!」
『もう一度聞くぞ?刃物が付いたソレを振るうのか?』
「お前を痛めつける為だ!ボゴボコにしてやるぜ。」
その言葉を聞いた僕は、このバカに対して怒りを露わにする。説教が必要だな、このガキは。
空気が揺らめいたかと錯覚する程の怒り。威圧をマックスで使う。
威圧に当てられたラスターは一瞬息をすることを忘れ、身体が震え始めた。身体が言うことを効かない。
しかしラスターは認める訳にはいかなかった。目の前の無能が自分よりも遥かに強いだなんて。
「ひっ!…な、なんだよ!それは!無能なんかに負けるわけにはいかないんだよ〜!」
叫びながら拙い槍を振るってくるラスター。
ふんっ。そんな震えた身体で突っ込んだところでスライムよりも遅いじゃないか。
槍の一撃を鞘付きの剣で横薙ぎにする。ステータスが上がっているアルの攻撃はいとも簡単にラスターの槍を吹っ飛ばす。
次に、返しの剣で呆然としているラスターの腕に斜めに振り下ろす。
バキッ!
嫌な音だと顔をしかめながらも骨を折ったのを確認する。少し痛い目に合わないとコイツはダメだ。
腕が折れたラスターは叫んだ。
「あああああぁぁぁぁぁっ!がぁっ!腕がぁっ!」
尻もちを突いたラスターに対し、剣を鞘から抜き、首筋に当てる。剣先が触れた首筋から血が滲む。
『いいか、刃を人に向けるということはこういうことだ。このままお前の首を刎ねる事だって出来るんだぞ?刃物を使った闘いは殺し合いになるんだ。分かったか!』
痛みに顔をしかめながらも首を縦に振るラスター。
別にコイツに優しく説教してやる義理もないが、まだ子供だしな…
「ううぅ痛い…痛いよ…グスッ。」
『帰って回復魔法をかけてもらえ。あと《痛み》が分かったなら他人に簡単に暴力を振るうな。他人の痛みを分かる人間になれ。』
ラスターは取り巻きに心配されながら帰っていく。
これぐらい痛い目に合えば今後馬鹿な真似はしないだろう。
何か更に疲れたわ。今日は早く寝よう。