スライムとの熱戦
『ぐっ…いてて…』
僕は今死にかけた。
街を出て10メートル程の所で死にかけたのだ。
いや、すいません。マジで舐めてました。
〜10秒程前〜
意気揚々とギルドを出た僕は門番の兵士に挨拶をし、街を出た。
「スライムはすぐ出てくるから気を付けろよ。」
と門番さん。
『うん。大丈夫。』
と言って、10メートル歩いたところでスライムと出くわした。
青いゼリーみたいな球体。不思議な生き物だなぁと思いながら見つめてしまった。最弱と聞いていたので警戒もせずに近寄ってしまった。そこで急にスライムが跳ねる。気づいた時には僕のお腹へ飛び込んで来たのが見えた。
ドスッ!
僕のお腹へめり込むスライム。
『うっ!ゲホッ!』
普通に人に殴られるのと同じような衝撃を受けて、たたらを踏み、膝を付いてしまう。
や、やべぇ。鳩尾に…まさかこんな力があるとは…と思った時にはスライムが次の攻撃を繰り出す。
顔面目掛けて飛び込んで来たスライムを、腹のダメージがある僕は避けることは出来なかった。
ボグッ!
パンチを喰らったかのような衝撃。意識が飛びかけたのを認識しながら倒れていく。
やべぇ死ぬ。
「大丈夫か?坊主。まさか言ったそばから、街の入口の目の前で死にかけた奴はお前が初めてだぞ。」
と思った時には門番さんがスライムを剣で倒してくれていたようだ。
鳩尾に体当たりを喰らった僕は悶絶していたので返事が出来なかった。
数秒後、やっと話せるようになり今に至る。
『ぐっ…いてて…』
「まぁ大丈夫そうだな。」
『はぁ…はぁ…痛みも落ち着いて来ました。すいません。ありがとうございます。めっちゃ恥ずかしいわ。』
「坊主、とりあえずこの周りでスライムを狩る練習をしろ。」
『はい。さっきのは油断してました。今度から油断はしません。』
「死んだら終わりだぞ。油断してましたなんて言い訳は通じないんだぞ。」
そうだな、ホントにバカだ。ゲーム感覚でスライムなんかすぐに倒せるもんだと思ってた。この世界でも死んでしまったらそこで終わりなんだ。
『はい…あの、門番さんの名前を教えてもらえませんか。』
「ライクルだ。」
『ライクルさん。あなたは命の恩人です。いつかこの御恩はお返しします。』
「俺はただの門番さ。ただ普通に仕事をこなした迄の事だ。死なないように頑張ればそれが恩返しだな。
とりあえず門から見といてやるから、スライムを倒してみろ。スライムも倒せないようなら今度から外には出せないぞ。」
『うん。やってみるよ。』
数十メートル先にはもうスライムがいる。魔物との戦いは殺るか殺られるかなんだ、甘い事は通用しない、と自分に言い聞かせる。
剣に魔力を流し、ロックを解除する。
おそらくスライムは先程の力と素早さから見て、レベル0の僕とそう変わらないステータスだ。油断出来る相手ではない。ただ僕にはこの剣がある。
ジリジリと距離を詰めていく。今度は油断はない。相手の動きを見逃さないように集中力を高める。
その距離が3メートル程になった時、スライムが跳ねる。
先程と同じ突進だ。よく見ていれば簡単に避けられる直線軌道。
身体半分程、横に移動し通り過ぎていくスライムを見る。
このスピードならラスターの拳とそう変わらないな。
スライムは反転?し、すぐさま同じように飛びかかって来る。ワンパターンだな。その突進はもう見切った。
『でやっ!』
先程と同じように避けつつ、剣を走らせる。
手応えが全く無かったので当てれてなかったのかと一瞬錯覚した。それ程までに切れ味が良かった。
スライムの体が2つに分かれ、消滅していく。すると何かが僕の身体に吸い込まれた。スライムの魔力か?
そして身体の力が漲る感覚に襲われる。明らかに今までの僕の能力と違うぞ。
『!?これは?』
落ちた魔石を拾いながら、これはレベルアップだよな?と考え、すぐさまステータスを開く。
□アル 【戦士】レベル1□
力 :8
体 力:8
素早さ:7
器用さ:6
魔 力:6
抵抗力:7
おおっ!まさか1体倒しただけでレベルが上がるとは。
というかヤバい。興奮してきた。これがレベルアップ。マジで力がさっきまでとは全然違う気がするぞ。
ステータスはザ・戦士って上がり方だな。
恐らくは魔物の生命力を自分の身体に取り込む事で成長する仕組みなんだな。
「やるじゃないか。本当にさっきのは油断してただけなんだな。」
『ちゃんと見てたら大丈夫だったよ。ライクルさんありがとう、見てくれて。あとは調子に乗らないように狩りを続けるよ。』
「おう。ちゃんと帰って来いよ。」
ライクルさんに手を振り、狩りに向かう。実はレベルアップした能力を試したくてウズウズしている。
時刻はまだ昼までに数時間はある。今日はいくらでも狩れるぞ。
2体目と出会い、こちらから斬りかかる。踏み込みの速度が上がっている。スパッ。スライムが跳ねる前に倒せた。
これは素晴らしい。能力値というのは今までゲーム内でしか見なかったので、これ程の違いがあったのかと驚くばかりだ。
スライムの生命力を取り込む。さすがに1体でまたレベルが上がるということはないな。
次に3体目と出会う。無造作に歩いていく。今度はカウンター狙いだ。向かって来るスライムを下段からスパッとな。
うん、向かってきてくれるからカウンターで斬るのが一番楽だな。
レベルが上がった。
もはやスライムの動きが遅く見える。
□アル 【戦士】レベル2□
力 :11
体 力:11
素早さ:9
器用さ:7
魔 力:7
抵抗力:9
ふむふむ。どうやら上昇値は固定だな。
更に強くなってしまった。しかしレベル上がるの早すぎる気がする。
と考えていると声が聞こえてきた。
「有よ。楽しんどるか。」
頭に響くこの神々しいオッサンの声は…!
『ゼウス様!久しぶり…でもないか。どうしたんです?いきなり。』
「そうじゃな。1週間ぶりくらいかの。こうやって声を届けるのも神力を使うからな。溜めておったのじゃ。」
『なるほど。それでゼウス様、チートなんて無いって言ってたのに、このシステムはチートじゃないですか。しかもレベルアップ早いんですけど。』
「ふむ、ステータス等のシステムは確かに、異世界から来たお主に分かり易いようにと思って作ったが、それ以外は何もしとらんぞ。」
『え?どういうこと?』
「そうじゃな〜。他の者も皆、魔物の生命力を取り込み、成長する仕組みは同じということじゃ。じゃがお主のステータスの様に可視化してないだけじゃよ。だからステータスの伸び等が分からない者からするとレベルアップの楽しさと伸びがイマイチ理解出来ないだけなのじゃ。
それと職を色々と変えれるのはお主にほぼ全ての才能があるだけじゃ。前の世界でも才能を持て余しておったじゃろ。
あと成長が早いのもお主の才能でもある。『あ、そうなの?』お主の世界の言葉でいうー経験値ーが2倍じゃな。更にあと、アルの分も入っておるから、お主の獲得経験値は常時3倍じゃな。それだけはチートと言えるじゃろうな。」
なるほど。俺TUEEE始まったわ。
『そういうことか。判定の時は才能が無いと思って一瞬絶望しましたよ。』
「すまなかったな。あとはワシは見守るだけじゃから。楽しんでくれ。」
そう言うとゼウス様の声は全く聞こえなくなった。
『通常の3倍ね…やってみるさ!』
ちょっと言ってみたかっただけです。
その後は、もう一度だけスライムの攻撃を受けてみた。体力が上昇した身体は不思議と頑丈で、ほぼダメージは受けなかった。
とはいえ、一度死にかけたので調子に乗らずにスライムだけを倒して倒して倒しまくった。