~たどり着いたけど~
雨の中を走り、僕たちは丘に着いた。その間も蓮華は楽しそうに、穴を発見した時のことを話していた。息切れもせずに。その体力はどこから来るんだろうと思いながら、僕は適当に聞き流していた。でもただ一つだけ、心に響いた話があった。
「穴を見つけた日も雨だったんだけどさ、穴を覗いてたら急に晴れて来たんだ。それで、大きな木の上に虹がかかって綺麗だったぞ」
僕は虹が大好きだった。少し心が躍り足取りも軽くなった。今日もその現象が起きてくれたらいいのに、と思いながら丘を登り木の根元に着いた。しかし…。
「何でどこにもないんだ!?」
困惑する蓮華を横目に、僕は呟いた。
「そりゃそうだよ。穴だよ。危ないじゃん」
納得行かない蓮華は地団駄を踏んでいる。雨で水溜まりになっているから、水が跳ねてズボンの裾が濡れる。まあ、今までの道ですでに濡れているから、あんまり気にはならないけど。
虹が見れないのはちょっと残念だけど、予想はついていた。
「場所覚えてるから、私が掘ろうかな…」
諦めきれない蓮華が、真剣な顔で言った。
「やめときなよ。どうせまた大人に埋められるだけだよ」
「でも、このままじゃあんたに虹が見せられないじゃないか」
僕の為と言うのは建前なのか本当なのかは分からないが、ちょっとだけ嬉しかったし驚いた。
「掘るって言っても、道具ないじゃん。どうするの?」
「手で掘る!」
蓮華がしゃがんで掘ろうとしたその時…、
「あっ!」
地面がゆっくりと割れ始め、分厚い雨雲が消え青空が広がった。僕の大好きな虹も出ている。
「えっ…。何これ、どういう事?」
僕は狼狽しながら、穴と空を交互に何度も見た。空には大きくて綺麗な虹がかかっている。蓮華を見ると嬉しそうに飛び跳ねている。でも、町の方を見た時僕の心は凍った。
「えっ…。何これ、どういう事?」
僕はさっきと同じことを口走った。町の景色が一変していた。というか今まで見たことがない景色が僕の目に映っていた。
「蓮華…、蓮華!」
僕は蓮華の服の袖を引っ張って呼んだ。
「なんだよ、今私は喜びで飛び跳ねてるの」
「周り見て!」
怪訝な顔をしながら蓮華は言うとおりに周りを見て、絶句した。
「えっ…。何これ、どういう事?」
蓮華も全く同じことを言った。若干面白かったが今はそれどころではない。空には相変わらず綺麗な虹がかかっている。でも、今は逆にそれが怖かった。