新入りが加入
side:ハルヒ
今、10時。今日は比較的穏やかな空気が漂っている。
午前の分の鍛練も済ませて私は、あたりを一望できるこの場所で風に吹かれていた。
崩れかけの鉄骨の見える廊下の一角である此処に私が普段からよくいることを知っているのは、隊長であるエリオだけだ。
「アル」
一人のこの時間を堪能していた時、後ろに何人か連れ立って私の前に現れたのは、やはりエリオ。
「新入りを紹介するよ」
丁度逆光の位置に彼らがいて、目を細めた私に
「キリです」
「・・・スーよ」
立ち上がり彼らを見る。
名乗った二人は中華系の出身なのか、キリと名乗った青年は所謂 チャンパオ と呼ばれる類の服を。
スーと名乗った少女は アオザイ に近いものを着衣していた。
彼等も例にもれず、その服に全く似合っていない 精鋭部隊員に着用義務のある防具を(私から言わせれば胸の部分のみの胴)身に着けていた。 まあ、私やエリオもだが。
「ハルヒです。どう呼んでくれてもかまいません。隊長エリオの補佐という立場です。現場ではよろしくお願いします。」
ふたりの姿を確認し、私も名乗った。
「「・・・・?」」
二人は微かに疑問符を自身の顔にうつした。
「何か聞きたい事でもあるんですか?」
「・・・隊長はアルと呼んでいたが、、、呼んでおりましたが」
「ああ!それはね、俺が・・・あ、ある、、h、、うーん、呼べなくて。」
「、は、という音を母音に置いて話すのが難しいようで。私はアルと呼ばれています。・・・後、話しやすいしゃべり方で大丈夫ですよ」
「なるほど」
「わかった」
「・・・ま、じゃあ、スーの世話係、頼むよ。一週間で戦場に出れる程度に」
「うん、わかった。・・・じゃあ、行きましょうか」
「ん・・・」
スーは素直に私の後ろをついてきた。ここ五階から二階に降り個人の部屋へ案内する。
「ここがスーさんの部屋です。」
部屋の前に着き、そう言った瞬間、苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「スー。スーでいい。あと敬語もいらない」
「わ、わかった・・」
その勢いに反射的に応との返答をした。
気を取り直し、部屋割りや備品などの説明をしたあと、
「次は・・・あー、エリオからは何処まで説明を受けたの?」
「えっ?・・此処に着いてすぐあんたのところに行ったから何も・・・」
同じ説明はスーに悪いと思い聞いたが、予想以上にエリオからは何も聞いていないようだ。
「そう、じゃあ次は・・・あ?・・・っ」
ふと窓から外を見ると米粒大の何かが無数。
「こっち」
スーの腕を掴み、シェルターにもなっている物置に押し込む。
「え、ちょっと」
「ここでおとなしくしてて。終わったら開けるから。」
状況をまだ掴み切れていないスーは眉を寄せ私に抗議する。がそんなことを無視して扉を閉めた。
中からの扉の開け方を知らないスーは、がちゃがちゃがんがんと扉を叩く。
私は片手で自身の武器を確認しながら全体に聞こえる受話器を掴んだ。
「敵を確認。本基地正面より700m。非戦闘員は付近のシェルターへ。戦闘員及び防御隊員は各自現場に赴き基地を守れ。」
言いなれた文言を言い、私は出口へ向かいバイクで現場へ向かった。
私が敵と対峙したときまだエリオは来ていなかった。それもそうだと思いながら短刀を手に取る。
敵が攻撃してくる前に首の接合部や顔部分などの重要だが弱い部分を狙って攻撃を仕掛ける。
敵は初めてこの星に攻めてきた時からほぼ変わりない機種のロボットを使用しているようで、そして攻めてくる場所もあまり変わりはなかった。
初めは仰々しい攻撃手段を用いてきたこちら側は不定時にそれでいて毎日攻撃を仕掛けてくる敵側にとうとう燃料切れを起こし、小刀や槍、棒などの遥か昔からある武器で応戦することになって早数年。
徐々に、じわじわとこの星の人口は減っているようだ。
私たちは、この場所で第一陣を務める精鋭部隊だ。
ここが破られたとき、基地にいる防御隊員がアラームを鳴らしながら地下シェルターに避難することになっている。いまだそれはない。
今後のないことを祈ろう。
「遅いな・・・」
軟そうな敵を倒していき、エリオが来るまでの時間稼ぎをする。
一回り大きい硬い敵はごり押しでも行けなくないが如何せん刃が欠けてしまうと後が面倒くさい。
「・・・っはぁー、あっつ」
雲一つない晴れた天気は私に暑さをもたらした。汗で張り付いた前髪が気持ち悪く、乱暴に拭う。
基地からはこちらに近づいてくるモーター音が聞こえた。
「やっと来るのか・・・」
もう少しだと大きく後ろに退いて敵と距離を取る。
遠くから聞こえるジープの駆動音に敵はわずかに動きを速め、先程までのお遊びとは違い一斉に向かってきた。
「!」
小刀を鞘に納め、構える。攪乱させるように敵の間を攻撃しながら動き回る。
大ぶりな敵は自滅していく。
「遅くなった」
「!」
エリオのその言葉に私は僅かに油断したようで。真後ろの敵に気づくのが遅れた。
「・・・っ」
大きく飛びのくがその攻撃を掠るじゃすまない。受け流しの体制を取った瞬間に乾いた破裂音と、目の前の敵の横面が吹っ飛んだ。
銃火器の類の攻撃。私は小刀。エリオは棒。
なら。
「キリか、スー。」
敵も今までにないこちらの攻撃に数メートル退いた。
「重役出勤が過ぎるぞ」
「ちょっと!敵が来たんなら私も連れて行きなさいよ!置いていくなんて信じられない!!」
私の軽い冗談はスーの糾弾に掻き消されていった。
「・・・そうはいっても、こいつらの出陣は一週間後でしょ?・・・ああ、見学か」
自身の主張とわずかな皮肉をエリオに向けて言う。若干ばつの悪そうな顔をして、片手をあげる。
「いいえ、今日。今からが私たちの出陣よ。見くびってもらっちゃ困るの。」
ギラギラした瞳を隠さず、敵を見つめるスー。
エリオをちらりと見ると苦笑いを浮かべ私から目を逸らした。
「・・・来るぞ!」
キリの一言で私たちは各々構える。
その様子を見るにキリが銃火器を使うようだ。
全ての敵を壊した時、全員汗だくだった。それぞれ傷はあるものの、死に直結するものはなさそうだった。
ふぅと敵の残骸に足をかけて汗を拭おうとした手は掴まれた。
「・・・?何、スー?」
「これ、これで押さえて」
そう言い渡されたのは手ぬぐい。
「ん?」
何のことかとぽかんとしているとその様子を見ていたキリとエリオまで寄ってくる。
「もう!じっとしてよ!」
特に動いた記憶はないが、しびれを切らしたスーがその手ぬぐいで私のおでこを抑えてしばった。
どうやら汗だと思っていたのは血だったようで。アドレナリンで全く気付かなかった。
「ああ、ありがとう。じゃあ戻ろう。」
これ以上この場にいることはないと、敵の残骸から使えそうな部品だけ適当に袋に詰め、ジープに乗せる。
「じゃ、先戻っとくね」
「え、それで帰るの?ジープ乗って帰らなくて大丈夫?」
キリのその言葉に、なぜかはっとなるエリオ。
「ん?そりゃあ、乗ってきたバイクだし、乗り捨てたらダメでしょ?」
「だが、大丈夫なのか?」
「ちょっと、こんな傷何度もしてきたでしょ、今更なんでそんなに過保護なんだ。そんなに心配しなくても運転くらいできるよ、それにこの特注のバイク、運転できるの?」
うっと押し黙ったことを良いことにそのままバイクを吹かせて先に帰った。
が。後ろから猛スピードで迫ってくるジープはある意味敵よりも怖いものに感じた。