奇譚ノ終ノ弐 黒い罪と白い罰のものがたり
コツコツとハイヒールの靴音を岩肌剥き出しの
瓦礫に響かせ美梨は、
「やっと 此処まで来たか いよいよこの躰ともお別れね」
と歩きながら自らブラウスに手を差し入れながら、
軽い嬌声を交えてこうつぶやいた。
今や鎖軀山総合病院は、鎖軀山医療特区に指定され彼の病院は
サキモリ・メディカル・コンツェルンとして新しい歴史を刻もうとしていた。
中世の大聖堂を思わせる尖塔群からなる巨大なビル群、
ゴシック建築と現代建築の融合は、眼下に鎖軀山医療特区の
小都市を据え、さながらガウディー建築の某大聖堂のようである。
璃依奈の旧病棟の総合管理責任者の就任パーティーから
わずか一年という奇跡の発展だった。
裏には、当然異忌家の絶大なバックアップが合ったのは間違いなく
都市デザインとコンツェルンの社屋は、魔術的な意匠や風水に基づく
設計がふんだんに盛り込まれたのは言うまでもない。
一度現代建築になった建屋がまた創立時の純西洋建築に戻ったのは因果という他ない。
しかし地下は今だ整備されてもおらず人知れず佐奇森の化生によって
そのまま維持されてきた
一人の一糸纏わぬ女性が今
地階五十階に相当する、御柱様のある礎で最後の再誕の儀に臨もうとしていたのである。
仄暗い狭い空間 乳香やベンゾイン・コーパル・ドラゴンズブラッド・没薬
パロサント・スティック等の匂いが入り交じる
剥き出しの地面にはキングサイズベッド大の四角錐の楔型黒耀石が
地面に逆さに半分埋めて突き刺さっていた。
四角錐の底面部に当たる部分は丁度人一人丁度入るくらいの
人型の窪みがあり換魂の儀当時と変わらず
一糸纏わぬ淡い茶色、瞳は外国人のような淡いアイスブルーの小柄な
女性が、その美しい肢体を惜しげもなく晒していたが前回と異なるのは
表情の笑みであろう 苦悶の表情が今は対極の恍惚感に溢れていた。
璃璃乃は一人のニンゲンが此処まで願望を渇望していたことに
驚きを禁じ得ない。
(たいしたものね 咲人 貴女は全てを手に入れる
男を完全に棄て ”美梨那”という新しい”少女”になるのね)
異界が開き、無数の腕が伸びる
対価の支払いの残りは前回で使い切っている
掛け値なしの苦痛と激痛と魂が霧散する煉獄を味わう
「うわぁーーッ ......」
という”雄叫びから”
「いやぁーーッ あぁーー ぃやぁ〜〜っ」
という少女のそれに変わるまでそう長くは、掛からななかった
”彼”の願望が魂が霧散する苦痛に打ち勝ったのである。
千々の肉片から異界から出てきたときは
縷瑠華のように、色素が抜けた蒼っぽい銀髪。
ヒト形態時の紗理のような足首まであるウェーブロング。
蠢く色違いの髪。
紗璃菜のような右が金翠色で左がピンクのオッドアイ。
おっとりした瞳で童顔で儚げな白い肌の少女
が全裸でおっとりした童顔であどけない表情で
自分の躰を眺めていた。
「んしょ これが美梨那の躰? 」
禊用の控えの間で姿見を見て可愛い少女は
つぶやいて何度も動かし隅から隅まで咲人が美梨になった時同様
確かめていた。
ただ二点違うのは
「おぉ 男の声だぜ可愛い少女の躰に男の声 たまんねぇな」
と咲人とも違う男性の声に美梨那は嬉しそうな表情を浮かべつつ
徴を体内から飛び出させ
暫くその背徳感に酔いしれていた
美梨那にとって此処までの願望を叶える為
此処鎖軀山の地に永劫縛られる対価を払った
今では、璃璃乃の同行又は、御柱の分霊御霊なしでは
鎖軀山の異界範囲内から一歩たりとも出る事は不可能になった
元々、土地所以の異界である璃璃乃から
産まれた存在であり、この制約は至極妥当な対価であろう。
しかし、例え土地から制約無しで出ることは叶わなくなっても
全て、事足りる上小都市規模の広さもあり特区が拡大されれば
自分の”縄張”が広がる。
不都合は無かった。
縷瑠華から依頼された”体液”を小瓶に採取し
丁寧に躰を微温湯で洗い
予め用意していた、下着、
以後これが普段着となる
ローズピンクに、オールドローズ柄のワンピースドレスに
ローズピンクのチュールのオーバースカートを重ね
ローズグレーのタイツ、濃いローズピンクのパンプス
頭にはフラワーブーケの髪飾り等をあしらって少女趣味満載のワンピースドレス姿で
実験棟へ向かっていく
「おぉ すげぇ美少女」
と誰もが目に留める
しかも咲人らしさは男言葉と男声・隠された徴からしか押し測ることが出来無い
九割九分ほぼ完全な”少女”の 佐奇森 美梨那がいま此処に再誕した。
「わお 美梨那とうとう再誕したの? 」
「うん 美梨那ね ようやく今を手に入れたの
これで、早速女の子を造ってちょうだい とびきり可愛くてとびきり怖い娘」
「うん まかせなさいな 後は貴女のそれだけよ」
と美梨那が差し出した少女の””体液”を
可愛らしく両手持ちしたバスケットから彼の小瓶を渡しそれから
一週間後、
佐奇森の美梨那・縷瑠華・紗璃菜・
璃依奈・零華にしか懐かず、
粘着気質のストーカーで、気に入った少女を姉達に褒めて貰いたいが為だけに
平気で凶行を行う倫理感を持つ、
普段は実験棟の、最深地下で鳥籠状の檻で生活している
佐奇森 瑠奏那という現代の最凶で残虐で残酷な
歪んだ姉妹愛を持つホムンクルスの少女が誕生した。
彼女はペットに擬態した独自の捕喰器官を
いつも連れ歩いていて、自分の”口”を嗾けて
好き放題な為、零華同様実験棟の
地下四階の隔離棟に棲んでいた。
そこに、現れたのは鎖軀山女学院の
主任講師 鬼来 亜由莉である。
「ねーっ 瑠奏那を此処から出してっ!!
おねーさまに逢いたいの ねーったらねーっ」
と激しく駄々をこねる少女
「ご ごめんなさい 今、縷瑠華様が貴女の”妹”を造っているの
その娘が出来たら、 ねっ それ ......っ 痛っ 亜由莉の”それ”握らないでっ
それまで待って ねっ いやぁ 痛い だめだったら! 」
とおっとり顔の見た目は、優しいお姉さん風の女性が見た目通りの可愛い声で
ワンピースドレスの膨らんだ股間を押さえた。
鬼来 亜由莉 鎖軀山女学院の主任講師で”女性”という
”名目”で赴任しているが
実は少女願望が高じて縷瑠華の魔術実験の被験体に
自ら進んでなることを条件に躰の99%を女性化、精神の90%を少女化した
縷瑠華配下の主任研究員だった。
”彼”は異界の再誕の苦痛の対価なしで純粋な魔術医学で躰を
女性に変成させた男で、学院で実験素体をその優しい容姿で誑かし
僅かに残った男の徴と男性的な”劣情”で少女達に
凶行を働くゲスであり、佐奇森にしか懐かない瑠奏那の唯一の
世話人であった。
「ふーん じゃいいわ 早くその娘を連れて来なさい
でないと 貴女のたったひとつの男を
この子に喰わせるから」
と瑠奏那の肩には
姿はオコジョ、耳はウサギの耳を細く伸ばしたような、可愛い生き物が
淡い蒼銀の毛並を見せ更には
狐のような尻尾をゆらゆらさせ、可愛い顔からは鋭い犬歯やズラリと並んだ牙を覗かせていた。
この生き物は、本来はヒトの消化器官に全体が似て、大きな口が食道に小さな口が
体表面に付いている、
眼も鼻もなく只貪欲に貪るその生き物は
瑠奏那の口であり、胃であった。
くりくりしたつぶらな瞳は、保護欲を掻きたてふわふわの毛並みは
更にカワイイを想起させるには十分だった。
空腹を感じると
胸の宝珠から勝手に”消化器官”が抜け出して可愛い動物に擬態して
餌を喰うそんな少女が瑠奏那だった。
このホムンクルスは、このように口と胃袋が独立して活動する
縷瑠華最高傑作の化生であり成果の一つであった。
{きゅー きゅきゅっ}
と淡い蒼銀の毛並の動物は指を差し出した
亜由莉の指に激しく噛み付いた
「きゃぁ 痛いっ 何するの? 瑠奏那ちゃんっ!! 」
「ふーん 亜由莉って 美味しくない だってさー”オトコ”
だもんねー ねぇー? ねぇー? 」
と煽り立て 瑠奏那本人の口から亜由莉の
指先の小さな肉片を唾とともに吐き出した。
このように、この生き物が飲み食いする物は
正に瑠奏那自身の消化器官に他ならなかった。
亜由莉は涙目に成りながらも霊膏を塗る
直ぐ様疵が塞がり欠けた肉が盛り上がり
綺麗に消えて元通りになった。
「とっ ともかくっ 縷瑠華様が良いというまでは、勘弁して」
と嘆願すると
「いいわ もう少し温和しくする
いくら女の姿でも ”オトコ” なんて見たくないもん でも早く出ていって」
と泣きべそを掻き始める。
見た目も声も一点を除き
女性でオトコ臭さひとつ無い亜由莉でさえもそんな言い草であり
言いたい放題だった。
亜由莉としてはいつものことだが
この娘が学院に転入して来たらと思うと
新たな頭痛の種になりそうだとウェーブロングの淡い茶色の髪を
ふるふる揺する可愛い溜息をつく亜由莉だった。
実験棟から鎖軀山女学院の保健室の準備室に通ずる
地下通路の一室に彼の私室がある
此処に立ち寄り、普段着の少女趣味なワンピースドレスから
やや控えめな少女趣味なワンピースに着替え彼の保健医としての姿になり
通路の先へ急いだ。
途中通路に屯していた、失敗作の被験体に
「うるせぇよ オレ様に引っ付いてくんなよ この○○○どもめ
卑しい姿を晒すんじゃねぇよ」
と八つ当たりをして死なない程度に派手に蹴飛ばした。
彼は徹底した権威主義者で、立場の弱いものや実験動物等には
一切容赦しない外道で、佐奇森には絶対逆らえないし
あのホムンクルスの少女は既に佐奇森の”養女”として
美梨那・縷瑠華の絶大な庇護下にあり
亜由莉より悠かに格上の存在である。
逆らうことは躰が本能で拒否していたがこうして鬱憤を晴らしていた。
両手を頭乗せ、自分を庇おうとする者、いち早く離れる者
それらは彼が女学院から女生徒を男声の劣情に任せ凶行を働き
揚句、魔術実験の被験体した女生徒の成れの果てだった。
それでも餌は、ちゃんともらえる上彼の機嫌が良いときは
彼の少女趣味な部屋で贅沢なお菓子さえもらうことが出来る。
被験体達が逃げ出さないのはこうした事に加え
逃げ出したり楯突けば、縷瑠華の被験体に回され
完全に死ぬまで魂の尊厳さえ無い魔術実験や生物実験に付き合わされる
過酷な運命が待っていて、廃棄寸前だった彼らを
小間使いとして拾った亜由莉に少しは恩義を感じていたのである。
通路に放し飼いになっている
小間使い感覚の被験体達にもこうして辛く当たっていたのだが
命までは奪おうとはしない。
それは哀れみからではなく、寿命尽きるその時まで醜く変成させられた肉の牢獄に
縛られているのを観察するのも彼:亜由莉が大好きだったからである
それを恩義と感じるか、苦痛と感じるかは
いま此処に今だ彼に小間使いとして付き従っている彼らが多数いる事を
考えれば自ずと知れている。
亜由莉はおっとりした容姿からは全くかけ離れた
ゲスで外道な”男”で
本人もこのギャップを愉しんでいる節があった。
あんなに激しく罵倒されても亜由莉の徴は
ワンピースドレスの中で、一向に衰えることはなかった。
瑠奏那との邂逅から約一週間ご
学院の保健室準備室で、シンパの女生徒と男女を愉しんでいた
亜由莉
んんっ ぃやぁ ”おねーさま”ぁ
あっ そんなふうにしちゃ、やっ ......やぁん
「ふふ 可愛いわぁ 貴女 このオレの正体に気付いても
平気とはなぁ たいしたタマだせ」
と男声を失った彼は少女口調と男口調を交えて
生徒と愉しんでいた。
「んっ だってー 素敵だもの こーれっ」
「んーっ 貴女こそ ”男” を咥えてガッつかないの 少し下品よ♡ 」
と亜由莉はソファーに座り自分のスカートを
捲り女生徒を抱っこするように腿上に座らせうしろから腕を回しキスをしていた。
この 更野 亜梨華は容姿もかわいく
学業もトップの鎖軀山総合病院で初等部の時
性適合術をうけた元・男である
「うふ 亜由莉センセがまさか”同類”なんて
思っても見なかったわぁ でも亜梨華はね 女が好きで、女が好きで
こうなったの センセが立ちションしているのを見た時嬉しかったぁ
”同類”がいるって センセは抵抗無かった? 」
亜梨華は小悪魔のような笑みで亜由莉を舐る
「いや、 おれはこのような姿なら後はどうでも良かったから
病院勤めだといろんな奴いるし、少女に成りたい大人の男だっているさ」
と男口調で亜梨華に話す。
「んっ そう でも少女に成りたい大人って現代科学で出来るの
それ ファンタジー小説の読みすぎじゃなぁい
せんせって乙女チックよね見た目は裏切らないわぁ」
と半分見下した顔をする亜梨華。
「そうれはどうかな 現に亜由莉が目の前にいるでしょ」
とまさか隠秘が科学万能な世に脈々と息づいているとは
この元・男の亜梨華には及びもつかないだろう
亜由莉は言葉を言及を避け敢えて濁した。
「じゃさぁ もう揶揄われるのは癪だからさぁ
一つ現実的なお願い良いかしら、この亜梨華ちゃんを
実験棟に就職させてもらえるかしら? パパもママも病院勤めだけど
お給料安くてさぁ 亜梨華の手術代で今家計は火の車でねぇ」
と亜梨華は正面に向き直り
うっとりと亜由莉に迫る。
亜梨華は、隠秘のオの字も知らない
ネンネで現実主義の”少女”だった。
「そうね 亜梨華ちゃん あとメスガキ5匹ぐらいさぁ
わたしの被験体にしたいの
貴女、女の子”も”好きでしょ」
「うんそうね、亜梨華は女の子も好きよ
もともと女の子同士の恋愛にあこがれてこうなったの
センセは と・く・べ・つ♡ な女の子 だけど」
亜梨華は女性同士の恋愛に憧れて
性適合術を受けた変わり種だった。
亜由莉のシンパは亜梨華のような変わり種以外にも
”男”と知ってなお付き従うシンパがいる
尤も彼女等は亜由莉凶行の犠牲者で
心が壊れてはいたが、紗理や璃依奈のように
巧みにそれを隠して学院に紛れ混んでいた
「ん いいよ 亜梨華を就職させてくれるなら」
と離れてスカートを直し亜由莉は
亜由莉は何時でも劣情を満たせるよう
ガータータイツを愛用していてそのままショーツを履いた。
「へぇ さすが大人ねぇセンセ 答えは後でいいわ
メスは用意しておくわ じゃねー」
と保健準備室からで出ていき
「あのう お世話になりましたぁ」
と一礼して保健室から出ていった
亜梨華が元・男という事は亜由莉しか知らない
学院の保健医ならではの特権だった。
「あのションベン臭ぇクソオスガキが、いい気に成りやがって
後で、絶対におれの前に跪さてやるからな 畜生ガキが」
とソファーに座ったまま
可愛いワンピースドレスから伸びる濃いローズグレーに履いた
ブルーラベンダーのパンプスを応接テーブルの上に乗せ
そのまま脚を交差させくつろいでいた
「ふーん 亜由莉ってさぁ あの亜梨華ってガキ
壊したいんだぁ ねぇ 颯螺紗にそれやらせてよ ねーったらぁ」
と”いつの間にか亜由莉の前のソファーと応接テーブルの間に
一人の少女が立っていた。
蒼銀の髪をザックリと大きな一つの三つ編みにして
髪先を大きなリボンで結わえて右横に流している。
それを途中から更に分けリボンを散らしてサイドテールのようにして
アクセントをつけていた。
更に佐奇森一族のように前に濃い髪を垂らし
ウネウネ蠢いていて時折彼女の腕に絡み付いていた。
左も髪を少しバラけさせそれをリボンで飾っていた
何より驚いたのは、
彼女の上に三体浮かんでいる水母状の生き物と
三つ編みに潜るように潜んでいる小さなカタツムリであろう
ワンピースドレスは白を基調として巨大なカタツムリの柄で埋め尽つされ
ワンピースとしては変わった柄である。
小生意気そうな瞳は、蒼銀で右目は縷瑠華同様金翠色のオッドアイだった
背は璃依奈くらいだろう見た目は13才くらいで
淡いローズグレーのタイツにラベンダーブルーのパンプス
とひと目で人外で有ることが分かる。
「どうやって此処に 此処はセキュリティが何重にもあって地下通路だって
そうなのに」
と気配無き侵入者に亜由莉は慌てて脚を降ろそうとするが
「いいよ 縷瑠華から亜由莉のゆーことはちゃんと聞くように
言われてるもん それに今は悪戯はしないし ちょっとお話しようよ
あっ 颯螺紗はね颯螺紗って言うの
佐奇森 颯螺紗 瑠奏那と同じ♡ 颯螺紗って」
とカーテシーをする。
まだぎこちなく、子供っぽさが残っていたが見た目通りとは限らないし
佐奇森の化生達にそれは当てはめて扱うと
酷い目に合うのは既に瑠奏那で経験済みである。
「どうやって此処に? 」
「えーっ それさっきそれ聞いてたじゃない
今から説明するね」
と彼女が言うには、
固有異界 ”実在幻惑” で周りから動作が間欠的に視えるので
”その瞬間瞬間”を視認できないので
いつの間にやらそこに居るように視えて
電子的欺瞞も可能でセンサーやらカメラやらを小さなカタツムリで麻痺させてきたから
セキュリティーは用をなさないそうだ。
「でねでね この水母ってね颯螺紗のお口なの
今はちょっとお腹すいたから亜由莉には視えるかな」
といって三体の水母を指差した
この水母達は、彼女の捕喰器官で瑠奏那同様、
捕喰と消化を兼ねているらしい。
「珍しい、柄ねそれ」
ワンピースにしては珍しいカタツムリ柄であり煙管状の殻は
アフリカマイマイを彷彿とさせる
「えっへんだ いいでしょ これ颯螺紗の 取って置きよほらっ」
と言うと
ワンピースドレスの相銀一色のカタツムリ柄が
動き出し数匹のカタツムリがじんわり実体化? 立体化? して這い出てきた
「ふふん これ美梨那とね縷瑠華あと瑠奏那にも
全部出しちゃダメって言われてるの この子ねー 何でも喰べちゃうの
ほらっ ね」
と這い出てきた大きなカタツムリは、早速応接テーブルを溶かしはじめ
酸に腐食された金属のようだった。
よく見ると、腹足の粘膜で溶かしながら鑢のような歯で削り取っていた
僅かに殻の色が変わっていき応接テーブルと同じ文様になっていく
「わーやめて それ仕舞いなさいっ 」
と亜由莉が言うと
「ねー それ颯螺紗に命令?
それは絶対いやっ ”お願い” してよ”お願い”って言葉分かるでしょ ねー?
いまね颯螺紗ね すんごく怒ってるの分かるでしょ ねーっ ねーっ」
と三体の水母を指差した。
さっきまで半透明だったものが今は完全に視認できるようになった。
嫌な気配が濃厚になる。
「ごっ、ごめんなさい お願いだからそれしまってくれる? ね?」
と丁寧に言うと
「うん いいよ」
とあっさり二つ返事をすると
巨大なカタツムリ達は彼女の空白になったワンピースドレスの上に這い戻り
染み込むように元の柄の蒼銀色一色の柄に戻ったが
柄の位置は先程と微妙に異なっていた。
その時、内線端末の着信音が鳴り
颯螺紗に渡す。
「えー もう戻って来いって ねー美梨那もそう言ってた
縷瑠華ぁ」
.......
...
「うん 仕方ないもんね うん じゃ帰るね お話代わってって」
と渡され
「はい 縷瑠華様 彼女の能力はある程度は見ました
全てでは無いですが .......では」
と通話が切れる
「ねぇ見ててね 後、ぜーったい誰にも見せないから」
というと颯螺紗は
今度は三つ編みの髪の小さなカタツムリをカメラに這わさせて行くと
カメラの動作ランプが消えて沈黙して、
異常警報もならない既に制御盤までカタツムリ達が潜り込み
一時的に麻痺させていたのだ。
その一部始終が先程の固有異界”実在幻惑”で間欠的に途切れる
と”幻惑させられている”せいでいきなり気配なく現れるように感じるのである
亜由莉が、颯螺紗のこうした一部始終の”悪戯”を見られたのは
これが最初で最後だった。
程なくセキュリティも何事もなく回復し、亜由莉はボロボロに溶かされた
応接テーブルの言い訳を考えながら、学長室に向かった。
その帰り亜由莉が手に持った電子ペーパーには
特別転入許可願い
佐奇森 瑠奏那
佐奇森 颯螺紗
二名の名が記されており
授業は全て、出席自由の”任意”の聴講生扱いとする
鎖軀山女学院 学長 異忌 国際心霊協会CKO 異忌 孝士郎 (いき こうしろう)
鎖軀山女学院 特別顧問 異忌 国際心霊協会CEO兼COO 異忌 巌 (いき いわお)
両名の花押の電子著名がしてあった。
「これで全てが 揃ったね 縷瑠華」
「そういうことかな 美梨那」
「いよいよ この俺達が更なる高みに至ル巨大な術式
”異譚ノ謝肉祭” を始められるな」
可愛い少女趣味なワンピースドレスを纏った美梨那
から男の声が洩れる。
「うん 縷瑠華嬉しいわぁ こうして美梨那と
女と女の躰で、褥を共に出来るなんて」
負けじと劣らず、可愛い少女趣味なワンピースドレスを纏った
悪戯好きな大人の様な少女のような縷瑠華
二人の少女達は、
サキモリ・メディカル・コンツェルンの地上70階相当の
尖塔のペントハウスにある巨大な庭園の真ん中の四阿の
ベンチでワンピースドレスを着たまま、パンプスを履いたまま
数多くの異形と小型の化生が見守る中
唇を重ね、脚を絡め合う。
”少女”と”少女”の甘くて、切なくて、もどかしいそんな雰囲気を
誰憚ることなく愉しんでいた。
「我ら異界を開放した黒い罪
永遠に肉の軛から魂を開放出来無い永劫の罰
何時になったらそれに気付くのかしらねぇ 佐奇森の化生は」
「ねぇ 璃璃乃? まだ遊ぶ気? なの? 」
と璃梨奈
「瑠璃乃おもちゃ箱をぜーんぶひっくり返したくなっちゃたの? 」
と瑠璃乃
「えぇ 勿論よ でもね おもちゃ箱を全てひっくり返すのはぁ 最後まで取って置かなくちゃね」
璃璃乃はニヤリと嗤う。
「 ......でも こんなに保ってるって佐奇森が初めて ......ね」
璃梨奈は感心したように顎を抉る
「我ら 異界を手懐ける手腕は、お見事というしかないわ
だから 貴女方にはもーっともーっと我ら
異界の礎を成長させて貰わなくてはいけないの
鎖軀山が完全な異界に置き換わるその時まで
ずっとずーーっと いつまでもいつまでもね また再びこの地が
拷問と処刑と怨嗟と苦痛・欺瞞・慟哭の地に”再び”戻るその日まで」
サキモリコンツェルンの地階60階相当にある床と壁、純黒耀石製の
正六面体の大部屋にマス状に配置された黒耀石それぞれ
魔術陣が刻まれ、その細い溝を魔術触媒液が毛管現象の作用で
ゆっくりと循環している。
その正六面体の空間の中央に新な御柱、
巨大な黒耀石製の六角柱槽に
久我山の娘二人が、魔術触媒液に浸され逆さまに浮かび
重力に逆らって足元まで垂らした黒い髪をなびかせ虚ろな眼を
半開きにしている。
時折、口が動くようだが錯覚かも知れない
その液体越しに哀れな娘二人を
璃璃乃・瑠璃乃・璃梨奈の三体の化生は
哀れむような蔑むような不思議な表情で見つめていた。
天頂には、最大級の大きさに見えるブラッディムーンが
紅く輝いて表向きはいつもと変わらない鎖軀山の地を照らしていて
「なぁ 御嬢そろそろ始まるぜ」
「あぁ そうじゃな」
”鬼転がし”を持った黒髪の少女:緒都葉
”蛇しばり”を持った漢の中の漢臥亥
それぞれの酒を紅い月を眼前に杯を傾けた。
了。
鎖軀山怪異奇譚考_佐奇森 瑠奏那
美梨那を元に縷瑠華が創造した現代のホムンクルスで
一体のみ胸に2つの宝珠がありこれを巡り
各勢力が思惑を巡らせる
佐奇森の美梨那・縷瑠華・紗璃菜・
璃依奈・零華にしか懐かない残酷で残虐なヤンデレキャラ
粘着気質のストーカーで、気に入った少女を姉達に褒めて貰いたいが為だけに
凶行を行う倫理感が欠如している少女で、
普段は実験棟の地下の鳥籠状の檻で生活しているが
平気で脱走を繰り返していて零華より病的で危険な少女
ペットに擬態した独自の捕喰器官を
いつも連れ歩いている
鎖軀山怪異奇譚考_鬼来 亜由莉 (くくるい あゆり)
鎖軀山女学院、主任講師 (くくるい あゆり)
見た目は20前後のおっとりして、優しいお姉さん風
で鎖軀山総合病院実験棟の主任研究員。
縷瑠華の魔術実験に進んで被検体となり
その対価として99%の女性の躰と
90%の少女の精神を手に入れた
強い少女願望を持つ”男”
二人のホムンクルスの少女の世話役で
学院では講師と生徒という立場だが
実際は、主従は完全に逆
魔術医学に、秀でていて魔術と医療を融合した
魔術医学の権威。
学院の保健医も兼ねる。
そのおっとりとしたお姉さん風の容姿で女生徒を
誑かして実験棟に連れ込み男性の劣情を
ぶつけた後、魔術実験の被験体にする外道。
少女好きは躰を変成する前から変わっていない。
徴は隠すことが出来無い。
鎖軀山怪異奇譚考_佐奇森 颯螺紗
<i鎖軀山怪異奇譚考_佐奇森 颯螺紗
縷瑠華が自身の体液で創造した
ホムンクルスの少女
瑠奏那同様
佐奇森の美梨那・縷瑠華・紗璃菜・
璃依奈・零華・瑠奏那にしか懐かない残酷で残虐なヤンデレ
世話役の亜由莉には我侭言い放題の駄々っ子のお子様気質
魔術生物を操るが主な生物種は蝸牛で髪に棲まわせている。
固有異界は”実在幻惑”で周りから動作が間欠的に視える電子的欺瞞も可能
いつも、”その瞬間”を視認できないので
脱走した”瞬間”や”捕喰した”瞬間”を確認出来無い上電子的欺瞞も可能
瑠奏那同様捕喰器官は別だが彼女は肉食クラゲ3体で
お腹が減っていないと透き通っていて、偶に視えるくらい
機嫌が悪かったり、空腹時になると
段々視える様になってくるが、捕喰対象者にしか視えない。
彼女の髪に棲みついている蝸牛はヒトの脳髄が大好物で
体内に潜り込んで食い荒らす
電子回路も同様。
彼女のワンピースドレス柄も巨大な蝸牛で
(アフリカマイマイに酷似)単なる柄ではなく生きている模様で
これも彼女の武器の一つだが、今は身を守るぐらいにしか
使ったことがない
鎖軀山怪異奇譚考_更野 亜梨華
鎖軀山女学院の初等部に女性として転入
女性として女性を好きに成り
それだけで性適合術を受け女性になった元・男
父も母もともに、性適合術で性転換しており
彼は両親が性転換後に、保存していた精子と卵子で人工授精
で産まれた。
父親は 更野 深優莉で実験棟の素体の
調達を主に行なう
同類も亜由莉とは非常に仲がいい
息子を自分と同じ性適合術を受けるように焚き付けた
ゲスで彼も亜由莉同様縷瑠華
に躰を変成してもらった。
徴は残っていて大の女好き。
男性になった母親は現在鎖軀山総合病院の本院で外科を担当していて
人望もある普通の常識人だが、夫の深優莉の裏の本性は知らない。
亜梨華の施術は、久我山クリニックで行なっていて、
更野家と久我山家は遠縁に当たる。
9話時点で久我山家は御柱になった娘二人を除き
完全に家系が断えている。
お嬢さま気質の自己中心的なネンネのガキ
亜由莉が男だと知っている。
それをネタに亜由莉を強請ったり恫喝しているが
深優莉と亜由莉が同じ職場で働いていることを知らない
亜梨華は、亜由莉にいいように使われている。
家計が苦しいと嘯くが実は裕福な家庭。
両親共に鎖軀山総合病院に勤務
オカルト趣味だが、素養は無い
同級生や下級生の取り巻きの女生徒が多数いて
元・男の利を活かして女心を掴み女と女の仲になっている。
成績は学院全体でも紗璃菜とツートップを争うくらい
成績は良いが自分に、なびかない異端分子は”魔女狩り”
と称して徹底して追い込むゲス。
紗璃菜や璃依奈には媚び諂って
少しでも自分をよく見せようとしてくる。
瑠奏那と颯螺紗が大の苦手で
彼女らが近くにいると、猫被りをしていて温和しい
元・男だと知れた相手に、凶行を働いた事もあり
危険な少女
本奇譚を持ちまして
鎖軀山怪異奇譚考は一区切りとさせて戴きます。
この世界観の続きの物語 ”異譚ノ謝肉祭”は
他の物語の進行状況を鑑みながら
連載したいと思っております。
拙い物語を最後迄お読み頂き
有難う御座いました。
ニュアンス修正や誤字脱字は折を見て修正しますが
ストーリー変更は有りません。
作中キャラ 更野 亜梨華の挿絵は後日
追加する予定です
2019/08/29 更野 亜梨華の挿絵を追加致しました。