奇譚ノ弐 緋(あか)と紅(くれない)のものがたり
やや寝苦しい朝を迎えたものの、
昨日ほどではない なぜなら母の言う通り”実害”がなにも無かったからである
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等と派手なテレビコマーシャルが流れ込んできた
端末にもアドセンスがポップする
「へぇ 何年ぶりかしら ブラッディ・ムーン なんてね
若い頃以来ね」 とまだ青空を見上げる美梨
「そーなんだ ママってこの時パパと一緒になったんでしょ」
と歳相応の興味を示す紗理
居間では派手なゲーム音共に一心不乱にコントローラーを握る尊
母と娘は恋話に夢中である
珍しく母親の美梨は今日は伯父の室橋 義邦 (むろはし よしくに)に
仕事を任せ3日の休暇を取っていた。
それでも、想定外が生じれば休暇は直ぐ業務に取って変わる
「 義邦叔父さんにまかせて大丈夫なの? 」
「今回の案件は”多分”大丈夫よ ちょっとした噂の調査だから」
珍しいこともある母が家庭内で仕事の話をするのは。
「噂? 」
紗理もオカルトや占いには興味が同年の同性と同様関心が高い
「そっ 噂 ちょっとねあまりよくない方の ...ね」
医療観光で成り立つ鎖軀山市は対外的にアピールも積極的である
マスコットを使ったコマーシャルはもとよりアニメ会社とタイアップして
”聖地巡り”作りにも余年がない。
人の生死を扱う病院ともなれば”悪い噂”は払拭しなければならないのは
経営者としても当然でマネジメントの一環であった。
医師の技巧の未熟さによる医療事故の数、必ず人身事故が起きる救急車、お化けが出る、等
人はそういう所も意外と気にするモノである。
〇〇総合病院というブランドだけでは患者は集まらない
特に明確な論拠のない後者、2者についてはライバル病院からの風評攻撃も
有りうるので確実に潰しておきたいが、見えない敵も様々な手段を講じてくる
鎖軀山総合病院もこうした地味で確実な風評攻撃を潰してきて
現在の揺るぎない地位を築いてきたのである。
「これは愚痴よ 聞き流して頂戴ね」
とまるで親しい女友達に話しける美梨の”噂”の内容は
『夜、正確には午前2時 時折黒い救急車が搬入されるというもの
病人の姿はなく黒い影のような人が盛んにその救急車から乗り降りするというもの』
だった
「でね」
と美梨の話しには続きがあった。
『翌日には必ず入院患者が錯乱して廃人になったり人が変わったように性格が
激変する・退院間近の患者が突然死する』
『中には殺傷事件を起こす者までいる』とまで尾鰭がついてるのもあるわ
そういった”黒い救急車”の噂が真しやかに噂されているそうだ
現実にはニュースになっていない以上、全くの風評被害だけど。
とにかく、これは明らかな威力妨害行為だわ
警察や司法機関とも連携を強めているけどね”噂”じゃ動いてくんないし
そこで 義邦の出番ってわけ
美梨の弟の室橋 義邦 (むろはし よしくに)は紗理の叔父に当たり
まだ、30歳の若手医師であり経営陣で最も若い
背が高く躰もガッチリしていてとても医師には見えない
初見では、どちらかというとアスリートに近い立場の人と思うだろう。
それに叔父はこういった調査が大好きで裏で荒事も何度か
潜り抜けてきた実績もある
その上徹底した合理主義でオカルトや非科学的な事象や非医学的な現象を
全く信用していない
たからこういった論拠の無い”オカルトや非科学的な事象や非医学的な現象”には
びくともしないメンタルの持ち主で”噂”の調査にうってつけというわけだ。
母も当然それを見越しての人選だろう。
「そーいうわけ だから今回は彼に一任することにしたわ それで
ようやく3日の休暇ってわけ」
とまるで女子大生のような喋り方で娘にも話す。
居間では
「やーーっと、おねーちゃんに消された分のデータを取り戻したぁ
セーブデータはバックアップ取ったし今夜はいよいよラスボスだぁー」
とゲーム機をシャットダウンさせそそくさと外に出かけていった
「かーさん オレ遊びにいってくる ダチと約束があるんだ」
と踵を返しかけ
足をわざわざ止め紗理の可愛いワンピース姿をじっと見つめている
「どーしたの? 尊 おねーちゃんそんなに可愛い? 」
と紗理が茶化すと
「るせぇ 莫迦姉貴」
と悪態をついて飛び出していった。
今日の紗理は白を基調として青の小薔薇柄のワンピース
に淡いアイスブルーのチュールのジャンパースカートを重ねていて
淡い水色のパンプスとフリルソックス、頭には
母のお下がりの青の小薔薇柄のコサージュをあしらっていた
淡い茶色のゆるふわの猫っ毛の髪質も相まって
今日は一際可愛さが際立っていた
「尊 なんであんなにじっと見ていたのかしら? 」
と紗理
「さぁ オトコノコって良くわかんないわね 母親失格ね」
と美梨
「でもあれ ”羨望” の視線だった あれほどわかりやすいのは珍しいわね」
それでも臨床心理を修めただけのことはある
すぐ医師らしくやや事務的な解説をした。
「わたしなんかの何が”羨望”だったのかな 尊って時々わかんなくなるわ」
「意外と貴女の可愛い格好に憧れたのかもね」
「えーっ なんで男の子が女の子の格好したがる訳 信じられない」
と紗理は大声をあげた。
多様な表現が認知されている現代でも
個々人の感性まで皆同じではない
多様な表現があるように多様な感性もまた存在する
紗理にとって異性装特に女装はあまり受け容れ難い表現だった
服は生物学的性別にあった服を身につけるべきという
やや時代錯誤気味の感性の持ち主だった。
「でも紗理 貴女昔悪戯で尊にお下がり着せて遊んだ事あったよね」
途端に紗理は恥ずかしくなった
「うちの心理科にくる男の子で同様な子を見て来から良く分かるわ」
紗理は人形遊びに飽きて生れた弟に可愛い服を着せてよくおままごとをした
黒歴史が蘇ったのである。
「男って不思議な生き物よ 人って元は”女”じゃないそれが
男って最初から男じゃなくて男に”ならされて生れてくる”のだから
可愛いって言われたり女の子の格好をしたがる子も多いのよ」
流石に美梨は医者だけの事はあった
冷静に偏見なく淡々と心理学的生物学的に説明する
「まぁ 今はほっときなさい
尊は尊なりにおねーちゃんの事が綺麗で可愛いと思っただけでしょ」
と実に事務的だった。
医師は直接心や躰と会話する職業である
だから美梨は差別や偏見は常に取り払うようにと医師として当然の義務を果たしていた。
そういった心構えも、彼女を大くの支持者から経営者をに推挙され
今まで磐石な地位を固めた要因だろう
尊は一人でトボトボと母親の勤め先の鎖軀山総合病院の広大な敷地
の一角の秘密の抜け穴の傍に来ていた。
増改築を繰り返した結果鎖軀山総合病院は巨大な迷宮の如き
様相を呈していた。
特に、旧総合病院棟は危険な薬物や廃棄医療機材等の一時保管場所としても
使用されている
尊にとって旧総合病院棟も鎖軀山総合病院も第二の自宅であり
秘密の隠れ家のようなわくわくする空間だった
彼しか知らない通路を右往左往上下に通り小部屋にたどり着く
ここは嘗て入院している子達用にせめて格好だけでも
世間と同様にという主旨で設けられたらしい
貸し切り衣装部屋だった。
事故や事件で手足を喪った子や余命幾ばくもない子様に
お洒落をさせたいという目的だったらしい
昔は偏見もありこうした部屋を設け、世間の晒し者にされず院内で堪能出来ように配慮した
と病院史に記述があったのを母の書斎で
見つけたのである。
尤も現代語まで書かれた部分まではどうにか読めたが
旧仮名や旧字体や更に古文で記述されたものまであり
こちらは破損が激しく尊でも読むことは出来なかった。
やがて世間の偏見が薄まってその必要もなくなり、旧総合病院棟とともにその衣装達も
葬り去られた。
お洒落目的なので女の子用の様々な服が特に多かった
当然男の子用の服もあったが尊が手に取ったのは
女の子用だった。
黒と白を基調としたゴシックロリータ様式と呼ばれる少女性を
強調した様式の服たちであり 尊が幼い頃姉に女装させられて以来
ずっと心の奥底に棲まわせていた
イマジナリーフレンド 小鳥遊 璃依奈 (たかなし りいな)
になる為だった
幸い医療用のウィッグも数が豊富でなかには
奇抜すぎて使わないまま未開封の物まである
今朝の姉の清楚なワンピースドレスを見た瞬間
今まで頑に眠らせていたもう一人の自分 小鳥遊 璃依奈 (たかなし りいな)が
目覚めたのである
何か切っ掛けがあったとすればあの”猫”らしきモノだと幼いなりに彼は判断していた
夕べ姉の部屋を覗き見していた彼は姉の胸の上で香箱座りをしていた”猫”と目が
合いその瞬間小鳥遊 璃依奈 (たかなし りいな)が目覚めた
そして今朝の姉の可愛いドレスである
心の中に棲まう少女 璃依奈が激しく責めたてるのだ
{早く可愛い服を着せて 可愛いオンナノコにして}
と
そしてあの病院史でその妄想と願望は、すぐ現実となった
今の服を脱ぎ捨てると彼の下着は男の子のそれではなく
女の子のそれだった
姉からくすねてきた数枚の一つであった
家は大金持ちで姉はああ見えて服にはだらしがない
下着の一枚や二枚見当たらないくらいで大騒ぎするはずもない
しかも彼女は、自分の小遣いは例のクラウドネットワークの構築とそのパテントで
既に十数億の資産家であり15歳になった今、個人会社まで叔父名義であるが
裏で所有している
彼はそんな彼女(紗理)が羨ましかったし妬ましかった
そして何より オンナノコ が羨ましかった。
「まってて 璃依奈 いま可愛くしてあげるね」
と性徴前の女の子のような声で言うと手慣れた手付きでウイッグを着ける
あまりに長いウェーブロングでこれも幸いにも手付かずだった
次に 璃依奈が手を伸ばしたのはゴシックロリータ様式の姫袖の
ワンピースドレスでこれも豪奢な誂えだった
黒のストッキング黒のリボンストラップパンプスを履く
そしてウィッグ固定用も兼たリボンカチューシャを着け
母の化粧の様子を見様見真似で口紅を(とはいっても口紅くらいだが)
引くとそこには少年:尊の姿はなく、
古ぼけた鏡台の前でスカートを可愛らしく摘まみカーテシーをする
少女 小鳥遊 璃依奈 (たかなし りいな)がいたのである。
「あぁ 璃依奈ってすてき紗理おねーさまを苛めたいくらい」
始めはごっこ遊びで一人二役のつもりでいた ...が
自分で想定して無かったセリフが勝手に出て尊は焦り
慌てて我に返り、ウィッグや服を脱ごうとする ...が
手が勝手にスカートを摘まみくるくる回す
「なぁんで璃依奈がイなくならなければ、ならないのかなぁ ねぇどうしてタケル?
これってなんかおかシいよね 変だよね 今まで心の中に
閉じ込めておいて 自分が満足したら はいさよならってそれは
あまりに璃依奈が可哀想だとおもわない ねぇ?」
璃依奈の姿をした尊は自分の可愛いワンピースドレスの胸を
女の子らしくポンポン叩く
(えっ なんでボクそんな事思ってない ただ興味本位で)
と抗弁しても
「ふふっ そ・れ・はウ・ソ だって紗理のショーツ履いてるの 知ってるもん
自分に正直になりなさい でね もうそれ て・オ・く・れよ 尊ぅ
これから この璃依奈が主導権握らせてもらうわ
どうせもう既に九割方尊の心は食い潰してるんだから
わたしのものよ
ねぇったらねぇーッ これからは 璃依奈が ”尊” を演じてアゲル
いいわね? 」
等とまた勝手に口がしゃべり
「これから此処は 璃依奈のお城にしてあげる いい”尊”貴方は
もう一人の 璃依奈なのだがら 言うことを利くの」
「うん」と 璃依奈が返事をする
もともと温和しかった尊は対極な性格の璃依奈の人格に
ゲームキャラのようには都合よく勝てるはずもなくこの瞬間、完全に敗北した
「ふふ これでやっと 璃依奈が全面にでてこられる
お洒落もいーっぱいできる きゃはははっ」
とあさっての嗤いをあげるゴスロリ姿の璃依奈
そこには既に尊の姿はなく
足元まである漆黒のウェーブロングに水色のリボンを散りばめた
狂った少女がそこにいた
プルッルル プルッルル
と時報を知らせる電子音が哄笑の最中響き渡る
もう昼がちかい
12歳の子供があまり長時間保護者の元を離れると
世間的も都合がわるい
「ちっ もうこんなじかん 取り敢えずお片付けしちゃいましょ」
元々聡明だった”尊”に璃依奈の狡猾さが加わった
最凶の”少女”は 下品な舌打ちをして
手早く自分の趣味に合わない衣装をゴミ袋にまとめ
ウィッグも数点手付かずのを壁にぶら下げ残りはゴミ袋にまとめた
お気に入りのゴスロリ風なのや甘ロリ風・清楚なお嬢様風なのを丁寧に畳み
古いドレッサーに仕舞い込む
「ねぇ尊 いま貴方になって だーぃ嫌いな男の格好してあげる
感謝なさい あーぁもっと璃依奈でいたかったなぁ」
とまた丁寧にワンピースを脱ぎ
”尊”に戻る
「うん これでいいかな でもすごくきもちわるい
男の子ってこんな気持ち悪いのいつも着てるの信じられないわぁ
っと、言葉使いもかえなきゃね 面倒だわぁ」
と尊はしなを作り
「それじゃ また来るね 璃依奈の可愛いお城さん」
とそこには既に可愛いゴシック調の部屋が完成していた
「尊っ 何処行ってたの? 時報過ぎてるじゃない
また変なトコ潜り込んでいたんで無いでしょうね
何時だがみたいに」
「ごめん おねーちゃん ぼくちょっと虫取りに夢中になっちゃって
忘れてた」
あれほど嫌がっていたTシャツや七分丈のズボンをきちんと身に付け
さっきの狂少女とはうってかわって温和しい”尊”を演出する。
「莫迦ね ここら辺って旧総合病院棟あるから危いて言われてるのに」
と慰める弟の顔はいつもの尊だった。
「ねぇ ここって取り壊される? 」
「さぁね ここは資材置場も兼ねているから当分は取り壊しはしないでしょ
そんなことは 義邦叔父さんに聞いてよ わたしに聞かないで
ねんでアンタが気にすんの? 」
「そう」
とだけ答えた尊の唇は口角がニヤリと上がったが紗理には見えるはずがなかった
「あとね おねーちゃんの部屋綺麗にしていい?
全くだらしないんだから」
「ふーん 随分と殊勝ね 前はお小遣い上げるっていっても
女物には触りたくないってごねたくせに」
「えっへん ボクは殊勝になったのです お小遣いは欲しいのです」
とドヤ顔で答える。
「いいわ 適当にやって綺麗になってたらお小遣いあげる」
紗理は外面は清楚できちんとしているようだが
プライベートでは、脱ぎっ放しの散らかしっ放しで度々
母親に小言を言われていた。
「うん やったー」
「なにそんなに嬉しいのかしら 変なの」
今思えば紗理はこの時尊の言動の
不自然さに気付くべきだった
いや、とことん追求すべきだった
これを見逃さなければ後の悲劇を招かなかったであろう
時として、言葉の選択肢は思わぬ方向に
悲劇を転がしていくのである。
「ママー 尊いたよー 旧総合病院棟の方にいってたって」
「尊ッ!! あれほどあそこ行ったらダメッって言ってるでしょ
今度の総会で取り壊しの議題に出さなきゃね」
と美梨が言うと
「それは 絶対ダメっ」
と温和な尊が珍しく大声を上げた
「どうして 尊が反対するの? 関係ないでしょ? 」
「関係ある だって ......珍しい昆虫がいるんだもん」
最後の言葉を取っ掛かりしようとしたが
取り壊しを否定する論拠が薄過ぎた 流石に尻窄む
「昆虫云々じゃないでしょ
まぁいいわ あそこは 義邦の管轄だし
資材置場にちょうどいいからっていつもはぐらかせられちゃうのよね
しょうがないもう一度きつく言っておかなきゃ」
「うん おかーさん ごめんなさい」
(ふふ璃依奈のお城ってもう少し複雑な経路じゃなくちゃ
行けないもん まぁしばらく安心でしょ)
心はすでに狂気の少女璃依奈の人格だったが
彼女? の演じる”尊”は完璧だった
狂気の少女璃依奈の人格を作り出しあっさり完全に支配されるほど
彼の心の中は女装させられて以来ずっと抑圧されていたのある
折しも今夜からブラッディ・ムーンが始まる
自室に戻った尊はゲーム機を立ち上げ
オートバトルに設定し本人は鏡の前で
「ねぇ 完璧だったでしょ? 尊?
これからは璃依奈がすべて”尊”になってあげるからねって ...もう反応もないかぁ
ごめんね”尊”君 この躰有意義につかってアゲるかラ
あぁ 早く明日になぁれ 女の子の格好したいしたいわぁ
もうこんなダサいパジャマいやだぁー」
と隣の紗理の部屋の壁にカリカリ爪を立てて半べそをかいた
璃依奈は、尊の理想の少女性が極めて強い人格である
男物は一分一秒でも身に着けたくなかった。
次の日から毎日”お城”に通う璃依奈 少しずつ姉からくすねて来た
下着やワンピースドレスもそこそこになってお洒落もたのしめるようになった
後はこの髪である今度の 璃依奈 の目標は地毛を伸ばすことである
当面は我慢シなければならない
璃依奈はお洒落を覚えたての少女のように
お洒落に貪欲だった。
それをじっと見つめるあの”猫”狂っていく璃依奈をみて
満足そうに目を細め
{ニャーオ}
と一声鳴くと陽炎のように掻き消えていく
「ねぇ ママ? 」
「なに? 何かおねだり」
「自由課題のテーマ決めた ブラッディ・ムーンの観察ッ」
「いいんじゃない で欲しいのは望遠鏡? 」
「えへへ」
「んもう ちゃんとレポートまとめるのよ 貴女の叔父さん名義の口座から
払っておいてあげる
それと尊にも同額をあげなきゃね
怒られるわね」
と紗理の自宅には 化野 隼人天文博士
の解説付きプラネットエレクトリック社製の最新型望遠鏡が
届けられ
尊の端末には同額の電子マネーが振り込まれることと成った。
この頃からまた鎖軀山総合病院に奇妙な”噂”が一つ加わる
ゴスロリ姿の黒い少女の話である
大抵は黒いゴスロリ姿だが時折清楚な少女に変わったり
甘ロリ姿だったりと姿は一定しないが旧総合病院棟付近を根城にしているらしいという
噂が聞こえ始める
悪さはしないものの気味が悪いとうだけのようであるが
廃屋に得体の知れない”少女”ともなれば
尾鰭がつくには十分すぎた
生気を吸うだの、血を吸うだの、異界に連れて行かれるだの、立ち小便していた等と
ネットでもかなり有名になっていたがその当人が
隣の部屋の”弟”だとは紗理は気付かなかった
この佐奇森の人間達に何らかの意図が介入しているのは
隠秘学の専門から見れば明らかだったが
少しずつ狂わされていく日常は案外、内部からは分からないものである。
紗理はこの頃から軽い貧血に襲われるようになっていたが
心配性な母親を気にして黙っていたことも
悲劇をより残酷な泥濘へと絡め取っていく。
次回、
奇譚ノ惨 魔窟と巣窟のものがたり
お楽しみに
後で、語句のニュアンスの変更はあるかも知れません