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突発的嵐

「明先輩、一体どういうことですか」


目の前で有無を言わせぬ口調で立ち尽くす後輩ちひろに、俺も響も、なんなら近くにいたクラスメイトも唖然としていた。


昼休み、いつもと変わらずクラスの男子たちで固まって、弁当を食べようとしていた。学食もあるのだが、こうして家から弁当を持参してきたりコンビニで買ってきてたりしているメンツがうちのクラスには多い。響もその一人で、朝のやり取りはあったものの変わらず接してくれるようだ。


そんな矢先、ドアをぴしゃりと開け放ち、ズカズカと上級生の教室に入り込んでくる金髪のギャル。

メイクをきっちり整えて、指定外スカートを履く、校則を全力で無視した格好。それでもまだあどけない可愛さを持つ、小悪魔系なちひろが、読み取れない表情のまま椅子に座った状態のこちらを見下ろしている。


「あ、あれって、1年の柳ちひろじゃね?」


「うわ、可愛い・・・やばいね、芸能コースに引き抜かれそうになっただけあるわ・・・」


ちひろを見てガヤがヒソヒソと盛り上がる。今はどう見てもそれどころじゃないが、こんな状況じゃ無くても、ちひろは存在感が他より頭二個分ほど抜きん出ている。


数年に一人、芸能コース以外の学科から引き抜かれる、つまり芸能コースへの転科をする生徒がいる。その全部が、学校内のスカウトによって生まれる。


芸能コースは俺もよくわからんが、芸能コースの中でもさらにコースが枝分かれして、その中の一つにモデルコースとやらが存在するらしい。

そして、そこの先生にスカウトをされたわけなんだが、ちひろは丁重にお断りした。


理由は俺も聞いていないが、将円高校から女優やモデルは数多く輩出されているらしいので、もったいないっちゃもったいないなと感じていた。


そんな構内でも有名なちひろが、目の前にいる。しかも見るからによくない案件で。


誰かが何かしら言いにくるんじゃないかと思っていたが、まさかちひろが誰よりも早く来るとは思わなかった。


「・・・グループで言った通りだ。みんなには本当に申し訳ないと思っている」


響にも言った、謝罪の言葉。まっすぐにちひろを見て言う。


「本当ですか?もっと別の理由があるんじゃないんですか?」


きっちりとした敬語を使ってくるのが逆に怖い。~っすよねー。うは、うけるんすけど!っとか毎回突っかかってくるちひろとは別人のようだ。


隣のクラスから賑やかな声が聞こえる中、俺らのクラスだけ隔離されたような静けさに満ちていた。なんなら体感温度もだんだん下がってきている気がする。


『ちひろちゃんを狙ってる子がいっぱいいるのに』


あの帰路の際に誰かが言ったことを思い出す。根暗な部分の自分がパッと表層に出てくる。


「あったとして、ちひろにそれを言う必要はないだろ?」


「な!?明先輩、それはどう言うことですか!」


「突然伝えずにグループを抜けたことは悪かったよ。でも、先に言ったところで、お前に言ったところで、何か変わったと思うか?」


「!!、先輩、そんな言い方・・・!」



「落ち着け、柳!周りをよく見ろ!」


響が激昂しそうになるちひろを落ち着かせる。はっとしたちひろは周りを見て萎縮したように口を閉じた。

俺は、ちひろが怒ることを見越してあえて遠ざけるような発言をした。


本当はこんなこと言うはずじゃなかったのに。


誰も傷つけずに波風立てずにすっとダンス部から抜けようと思っていたのに、もう既に可愛い後輩を傷つけている。


俺は一体何がしたいんだ?


「・・・ごめん、ちひろ」


「・・・」


ちひろは何も言わない。今はもう周りのことなんか気にすることができなかった。

この謝罪はなんのため?


今俺は何に対して謝ったんだ?


傷つけたことか?何も言わずに抜けたことか?嘘をついていることか?


「本当に、ごめんな。・・・本当に・・・」


自己嫌悪に陥った俺の口から、滑るようにか細い言葉がでた。


「・・・自業自得だよな」


「!!」


突如ばっと顔をあげてこちらを見るちひろ。何かを見透かそうとじっと見る表情に、思わず顔を背けた。


「明先輩、ちょっと来てください。響先輩、明先輩をお借りします」


「ちょ、おい、ちひろ!」


突然、俺の手をとり、ちひろは廊下へと引っ張っていく。響たちクラスメイトはそれを呆然と目で追うしかなかった。


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