クリティカルヒット
なんか暗い感じですが始めだけです。
宜しくお願いします。
自ら起こした業は自らに帰ってくるというのは古くからことわざでも何にしても当たり前のようなもので、俺自身もその通りだと思っていた。
だけど、先見の明がないというか、自分に良かれと思った行為が自身の首を絞めてしまうとは、現状を目の当たりにしないと気づかないようだ。それとも、何度もこのままでは危ないと自らに警告した瞬間が何回かあったのかもしれないのに、それに気づかなかったのか、気づこうとしなかったのか。
・・・今回の出来事は、明らかに後者だ。現状を壊したくないと怖がった俺は、されるがままに笑っていただけだったんだ。時間の経過とともに相手の遠慮は消えていき、徐々にエスカレートして行った結果、踏み込んで欲しくない領域にまで踏み込まれてしまった。
自業自得すぎる、そんな話から始まる。
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「だからさ、お前ほんとそういうとこ気色悪いよな!」
いつもならおきまりの流れで笑いにして返すことができる言葉が、妙に深く心に突き刺さった。
「・・・いや、仕方なかったんだって!逆にあっちが俺に求めすぎなんだって!」
ダンス部の練習終わり、いつものように学校内の大広場で今後の活動について話し合いが行われた後に、またいつものようにただの世間話というか、駄弁り合いが行われていた。
俺は不意に隣の同級生から言われたキショい発言に軽く揺さぶられつつも、いつも通りを装って言葉を何とか返すことができた。
「確かに、お前なんかそれっぽくできる風見せておいて結構要領悪いっていうか、鈍臭いしな」
「そうそう、この前のパート練習のときだって、ミナミさんに怒られてたし、なっさけないよなぁ。あぁ、またミナミさんに会いたいなぁ!」
俺の周りにいる同級生は俺を弄る。
まただ。言葉が心に良くない形で響いている。
「だ、だあ、もう、うるさい!俺も俺なりに頑張ってるの!泣くぞ!?」
決められた定型文のように最後にするつもりもないことを言って相手の反応を待つ。
大抵泣く発言や帰る発言をすれば周りは笑って別のトピックへと移行する流れだとわかっていたからだ。
だが、同級生がその日は許してくれなかった。
「はいはい、お前泣くとか言っておけば良いと思ってんだろ?返しがいっつも同じなんだよ、つまんないな」
ぎゃははは、と周りはそいつの発言に対して笑う。男女関係なく、何なら話を聞いていた後輩も遠慮なしに声を出して笑っていた。
こうして、また別の話に切り替わる。今度は学生街についにタピオカ店ができたということで女子がはしゃいでいる。
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「ただいま・・・」
家に着く頃には9時を過ぎており、夏にさしかかろうとしているというのに外は肌寒く感じた。
「おっかえりー。今日は早かったのね。」
リビングのドアを開けると母さんが父さんのTシャツにアイロンがけを行なっていた。事前に遅くなることと晩飯はいらないことをメッセージで伝えていたため、別にこっちを気にすることはなかった。
「風呂沸いてる?汗をさっさと流したいわ」
「あら、まだ洗ってもいないかも。今日はミオがやってくれる日じゃなかったかしら?」
そういって、ソファで寝転んでいるミオに母さんが顔を向けるも、スマホに夢中で聞く耳を持っていない。
「・・・はぁ、良いよ。パパッと入りたいから俺洗って入れちゃうから」
「え、お兄風呂洗ってくれんの!ありがと!」
スマホの画面から目を離さずに礼をこちらに言う。もろに聞こえてんじゃねえか。どうせどっかの実況者の生配信に夢中なのだろう。
でも、誰も俺の顔を見なくてよかった。今でも自分の顔が引きつっているのがわかっていたから。
さっさと風呂を洗い、風呂にお湯をため、シャワーで溜まりに溜まった汗を落とす。
いつもなら至福の時が、今日は他のことで頭がいっぱいで堪能することができなかった。
気色悪い。鈍臭い。情けない。
循環するのは今日同級生の同じ部活仲間で友達だと思っている奴らに言われた言葉。
言った本人たちはまさか俺がこの言葉に動揺しているなんて気づいてなどいないだろう。
相手に悪意があって言っているわけではないのは、なんども繰り返されてきたもはや様式美みたいなものだからとわかっている。
毎日のように言われる言葉は、いじられキャラとして定着している俺を引き立てるため。罵詈雑言の数々はその言葉を返す俺の反応を面白がるため。場を盛り上げるため。
なんか自分で言ってて、俺っていじめられてるんじゃないかって思うが、そんなことはない、はずだ。自分で言うのもなんかおかしいが、ダンス部では中心的立ち位置にいると思うし、みんな気さくに話しかけてくれる。
誰もかれもが俺をいじるということもない。個人での話し合いの時はみんなの前では俺をいじる奴も他愛ない話で盛り上がるし、話が続かない時なんかは俺がいじられてもらうように動いたりもする。
このいじられキャラは、俺が進んで行なってきたものだ。
根暗で、コミュ障で、だけどハブられることが嫌な俺が輝けると思ったいじられキャラ。
周りを巻き込んで笑いを生み出すことができることに、ある種の快感を得ていたのかもしれない。引っ込み思案の自分を帰ることができると思っていた。キャラ、と言うものに心酔していたんじゃないのか。
『つまんない』
特に響く最後の言葉。
ここにきて、言葉としてここで使うのはおかしいのかもしれないが、油断していたんだろう。突如隣から浴びせられた言葉が、深く俺を貫いた。
あの時の感覚が忘れられない。ヒュンっと血が引いていくような、冷えていく感覚。
思い出したくない過去がフラッシュバックしてくる感覚に、思わず先に席を外した。
風呂から上がってすぐにベッドに潜った俺は、夜通し頭に駆け回る言の葉に振り回されるのだった。