プロローグ
——来い。
誰かに呼ばれた。
とても遠くからだったけれど、その声は私の下まで届き、とても懐かしいように感じられた。
私は今日作られたはずなのに。
その声は始めて聞いたはずなのに。
不思議な感覚を覚える。
なのに私はたぶんその声を知っている
知っているのに思い出せない。
(一体誰なんだろう)
私の体は光に包まれた。その輝きに照らされて私が何者であるかを知る。
私が与えられた役割。誰のために戦うのかとその力の扱い方。私が私になる感覚、色々なものが混ざり合い1つになっていく。
意識がはっきりし、体に重さがかかる。
(ん——)
光が薄くなり、目の前に1つの影がある事を確認する。
私を呼んだのはきっとこの人。
視界が開けてくる、さっきまで私を包んでいた光は完全に消え、暖かい風が髪を撫でる。
私は今、この人によって"錬成"されたんだ。
「あ、あの」
何を言えばいいんだろう、その一言を言ってから口と頭が回らない。
私がそんな事をしている間に彼は驚いた様子でこちらを見下ろしていた。
そんな彼の顔はとても懐かしく見える。髪は黒く、気を使ってないのかボサボサで瞳も髪と同じく黒。
軍服は着慣れていないのか少し乱れたような装いをしている。
ただその幼さが残る顔は見ていて飽きない。
だけど——今はやるべき事がある
一度落ち着き、私は伝えた
「貴方が主人だよね、私に名前と命令を下さい」
「名前?」
彼は私の質問を繰り返した
「うん、名前。ないと不便だし」
大分落ち着いてきた。
私は人形だ、ホムンクルスだ。
彼は少し考えるようにして
「一応考えてはいたけどね、いざ決めるとなると迷うなあ」
さらに考え出した。
私は掌を握ったり開いたり、グーパーさせる。
一瞬だけ冷たく感じた。一度確認してみると開いた手の上の空間に、水滴が何粒か浮いている。
多分これが私の力、私の魔法なのだろう。
それを見た彼は、何かを決意したように頷き、先ほどまで唸っていた口を開いた。
「やっぱり、"シズク"かな…」
私をじっと見つめながらそう言った、そこまで見られると恥ずかしさを感じてくる。
「今日から貴方の部下になる、シズクです。よろしくお願い致します。」
そう言って頭を下げると彼は私の"耳"を指で撫でた。
「ひぇッ、い、いきなり何するの!?」
変な声が出てしまった、でも一言もかけずに触る彼も彼だ。
「悪い、モフモフしてたからつい、な」
そう言ってもう一度触ろうとしてくる手を、私は避ける事なく受け入れる。
嫌ではない、また懐かしいと感じてしまう。
「この耳からしてタイプbeastのホムンクルスか」
ある程度撫でると彼は手を引っ込める、少し名残惜しいが口には出さない。
「不満、ですか?」
少しだけ不安になった、私はもしかしたらハズレだと思われているのかもしれない。
それが怖い。だがそんな不安は彼の一言で吹き飛んだ。
「そんなものないよ、むしろ期待してるから」
多分、私の尻尾は今すごく揺れている。
そんな一言でこんなに喜んでしまうのは我ながらチョロいと思う。
「こちらこそよろしくね。人類のため、君の力貸してくれ」
彼が優しくそう言って伸ばした手に、私はちょこんと触れた。