3日目 距離
夕飯を食べ終わり、一息ついた。
しかし、少年もとい白い竜は戻らずにいた。
「戻らないなぁ」
『この姿は嫌ですか?』
「んー、君が嫌なわけじゃないんだけど」
なんか違和感があるんだよ。と苦笑いを浮かべると不思議そうな顔をされた。
可愛いからいいのだけどね。
『そういえばプレゼントってなんですか?』
「ああ、そうだった。実はね、君たちに名前を付けようと思うんだ。」
『名前、ですか?』
「そっ、名前。でも、もともと付いているならそれを呼ぶけど。」
『名前なんてありませんよ。
僕達が前に飼われていた時はお前、とか、おい、とかでしか呼ばれませんでしたから』
困ったように笑っていた。
これはすごい環境にいたのだな。
『あの…?』
どうやら、眉間にシワが寄っていたようで不安にさせてしまったようだ。
「無理に笑わなくていいよ。」
『えっ、……』
「君たちに何があったのかは知らないし、興味もない。」
『……っ』
少年は少し震える。
それでも言葉を続ける。
「辛いなら辛いと苦しいなら苦しいと言ってほしんだ。」
『僕、……。』
「だから、ね。光輝君は君だけの性を謳歌するといいよ。君もだぞ、清光」
『……光輝、それが僕の名前』
『………。』
無視と来たか、まあいいさ。
人間嫌いの理由はなんとなくわかったから良しとするか。
「わかった、黒い竜君。君が心を開くまでこの名前は呼ばない。」
『……。』
反応がないがおそらくはそれでいいのだろう。
どっちが負けるかはわからないが。
『そういえばあなたの名前を聞いてなかったです。』
「ああ、そういえばそうだったね。私の名前は卯月茉奈だよ」
光輝はマナ…マナと嬉しそうに繰り返していた。
そんなに呼ばんでも聞こえているのに。
まあうれしそうだからいいかな、と心の中で笑った。
『……変わった人間。』
黒い竜は、そんな事をつぶやいてとは知らずに。