9.クラウディア・クラウディウス
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クラウディア視点から始まります!
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監禁される事が決定事項となりとうとう用済みになって殺されるのかと思えば、連れてこられた監禁場所が自分の寮だったので拍子抜けした。
しかも監禁される理由を尋ねれば『王子に暴力(頬に平手打ち)』という見当違いの理由だったので、これ以上追及する事も馬鹿らしいと感じ、今の状況に甘んじている。
私、クラウディア・ロレーヌ公爵令嬢改め、クラウディア・クラウディウス公爵令嬢。
表向きは『リーテルシュタイン国籍のロレーヌ公爵令嬢』だが、本当の私は『隣国・ヴェルエステ国籍のクラウディウス公爵家の者』であり、エルザ女王の厚意によって隣国の王子の婚約者となった娘である。
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私の家について語る前に、まずは私の祖国について話さなければならない。
私の祖国、ヴェルエステ王国は数千年前にやってきたエルフの加護により魔法の技術が格段に発達した国であり、現在では強い影響力を持つ大国として君臨している。
そのため、他国に比べて魔法が発現する人間を多く輩出しているため、他の国とは生活の仕組みも全くと言っていいほど異なっている。
実際に私も『地』の魔力を持っているが、リーテルシュタイン王国は魔法なしでの生活が当たり前の国なので、この国に来てからは1度も使っていない。
他の周辺国で魔法が発現した事例は数千年の営みの中で僅か50件ほどらしいので、ヴェルエステ王国がどれほど魔法に恵まれた国であるか理解するのは容易い事だ。
しかし、強い影響力を持ち向かうところ敵なしだと思われているヴェルエステ王国だが。
魔法で成り立っている国であるため、その恩恵を与えてくれたエルフに対し、絶対服従しなければならないという厄介な宿命も抱えている。
実際に、この国ではエルフの気まぐれによって100年に数人ほど、『祝福』と呼ばれる『エルフの技術を授け、魔力をより強固とする恩恵』を与えられた人間が現れる。
『祝福』を授けられた人間はその周りに強力な影響を与えるとされ、良し悪しはともかく、只人であれば絶対にできない事を成し遂げるとも言い伝えられているそうだ。
ここで、私の家・クラウディウス家が関わってくる。
エルフによって発展したヴェルエステ王国だが、残念な事に『エルフを見た』という者はほとんどいない。
なぜなら、エルフは別次元へと行けるほど高貴な存在であり、エルフから祝福を受けるに値する人間か、エルフと同じように別次元へ行く事ができる何かでないと垣間見る事すら無理らしい。
しかし、クラウディウス家は魔法とは別に、数代に1人という割合で『星降りの預言』と呼ばれる力を持つ人間が現れていた。
『星降りの預言』を持つ人間は『別次元から転生する』事でその力を覚醒し、驚く事にエルフを認識できるだけでなく会話をする事も可能になる。
なぜ私達一族にそのような人間が誕生するかは謎だが、そのおかげで私達一族は古くから国の祭事に関わる事ができ、現在でも公爵家として多大なる影響力を有していた。
ちなみに『星降りの預言』の由来は、授かった者全てが、何の前触れもないのに流星群を予測できる特徴を持っている事に起因するらしい。
私自身にその力はなかったが、その事実が絵空事ではなく本当の事だとは理解していた。
なぜならば……私の最愛の姉・ソフィアも、『星降りの預言』を持つ人間だったからだ。
10歳上の、私と同じ黄緑の瞳と絹のように美しい銀髪の髪を持つ、聡明な姉・ソフィア。
姉は転生した後に持った記憶の話を、私にもしてくれた。まるでおとぎ話のような姉の記憶の話に、私は幾度となく胸を躍らせた。
何度か『流星群を見に行こう』と姉に誘われては屋敷を抜け出し、時には両親にバレて大目玉食らった事があったが、姉と一緒に見た流星群は全て美しかった。
『星降りの預言』を持ち、クラウディウス家の次期当主として生きる彼女を、私は愛し、尊敬していた。
『クラウディア』と名付けてくれたのも、他ならぬソフィアだった。
しかし、『星降りの預言』を持つ人間が輩出される事は、もうない。
2年前、私以外のクラウディウス家の者全てが虐殺され、『星降りの預言』を持つソフィアを最後に、その血が途絶えてしまったからだ。
今でもよく覚えている。
燃え盛る劫火。逃げ惑う多くの使用人。
魔法の練習のため屋敷の離れにいた私は、家族を助けようと屋敷に向かう途中で使用人に止められ、結果として助かってしまった。
屋敷の炎を半日がかりで沈下させた後に見つかったのは、3つの遺体。
人間が作った武器によって無残にも切り刻まれたであろう3つの遺体が、両親と姉の亡骸なのは明らかだった。
たった1日で、クラウディウス家は断絶手前に追い込まれた。
ヴェルエステ王国の王宮にもこの知らせはすぐに届き、私はエルザ女王の命により急遽、彼女本人と会う事になった。
最初は私の悲しい境遇を慮り、すぐに犯人を捜すように動いてくれると当たり前のように期待して王宮に参ったが。
実際は、事件の追及を禁止する事を告げるだけだった。
行き場のない怒りと無念さをエルザ女王に訴えたが、彼女は悔しそうに顔を歪め、私に告げた。
「今回の件は、祝福を得た者による行いなのだ。本当は、貴殿の気持ちを慮りたいが…。祝福の者を処罰するとなると、エルフから、怒りを買ってしまうのだ…。どうか、どうか耐えてくれ、クラウディアよ…。」
愕然とした。
女王は私を思って泣いてくれたが、私は泣く事すらできなかった。
祝福を得た者ならば、何をやっても許されるの?
家族が殺されたのに、エルフの怒りを買わない為に無かったことにしろと?
私の暴言を、エルザ女王はひたすら黙って聞いていてくれた。
やがて彼女が玉座から降りて私を抱きしめた時、私は『本当に諦めるしかないのか』と悟り、彼女の胸の中で叫ぶように、泣いた。
その後、エルザ女王は謝罪の代わりとして、私の一生を保証すると誓ってくれた。
私が『この国に居たくない』と呟けば、女王はその意図と汲んで『ロレーヌ公爵の娘』という身分を用意し、驚く事に隣国・リーテルシュタイン王国の第1王子・シリウスと婚約できるように手配してくれたのだ。
いくら大国とはいえ、自国の公爵家の娘を隣国の王族へ嫁ぐように手配するのはかなりの労力を必要としたはずだ。
事の大きさに慄き、私が急いで取り下げをお願いすると、エルザ女王は『遠慮しないで受け取ってほしい』とおっしゃった。
『クラウディウス家の今までの功労と、クラウディアに対する償いを考えれば当然の事だ』と付け加えると、エルザ女王は悲しみを隠すように、そっと微笑んだ。
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どのみち、分家のクラウディア家は続くとしても。
『星降りの預言』を持つ人間を輩出できないため、直系であるクラウディウス家が断絶する事は揺るがない決定事項だった。
それに、この国で生活するのにも限界を感じていた。
自分の家族を殺し、クラアディウス家を断絶するまでに追いやった犯人がいるこの国は、私にとってはもはや、牢獄にまで成り下がっていたのだ。
最終的にはエルザ女王のご厚意に甘え、私は『クラウディア・ロレーヌ公爵令嬢』としてリーテルシュタイン王国へ赴き婚約した。
そして、この国の生活になれるため、まずはこの国が運営している王立学園に通う事となったである。