7.ルシエ・カニスミノル
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ルシエ・カニスミノル。
『ノッテ・ステラ―タ -星降る夜に、君と―』に出てくる、シリウスと同じ攻略対象キャラクター。
年齢は17歳。
シリウスの専属の付き人でもある彼は、襟足もきちんと整えられた茶髪に、透き通る氷のような瞳の色が特徴の爽やかイケメン。
身分も名門貴族・カニスミノル公爵家の嫡男であり、シリウスと生まれた年が同じである縁もあって親友に近い間柄。
割愛せずもっと細かく説明するなら、ルシエはシリウスに忠誠も誓っている。
今は俺と同じ体格だが、幼い頃『身体が弱い』という理由で、同年代の貴族の子ども達に虐められた過去を持つルシエ。
そんなルシエを助けたのが、たまたまその場に居合わせた王族のシリウスだったのだ。
シリウスは虐めていた者たちを諫め、ルシエを自分の付き人に迎える事によってその境遇から彼を救う。
自分を救ってくれた恩人でもあるため、ルシエはシリウスに対し強い友情と忠誠心を誓う。
ゆえに、学園で出会ったオリビアに恋をするも、シリウスがオリビアに恋をしているとわかると身を引き始め、自分の恋心を捨てようとする好青年なのだ。
ゲームでも舞台でも、その設定は基本的には変わらなかった。
舞台ではシリウスがメインとなっているためルシエはあくまでも当て馬ポジションとなっているが、ゲームではハッピーエンドの場合オリビアがルシエに『誤解だ!好きなのは貴方だ』と告白して結ばれる。
逆にバッドエンドの場合、ルシエは舞台と同じように身を引いて2人が結ばれるのをそっと見守る、という結末だ。
実際、俺が仮想世界にシリウスとしてやってきた後も、ルシエがオリビアに恋をしている事はバレバレだった。
それは俺が目覚めた次の日の事。
外の空気を吸いたくて窓を開けようとした時、専属のメイドを連れて王宮の庭を横切るオリビアの姿を見かけた。
その時は素早く隠れ、しばらくして食事を運んできたルシエに尋ねてみると、どうやらオリビアが俺の見舞いにとわざわざやってきてくれたらしい。
しかし、ルシエは先ほど俺が絶対安静で誰にも会えない事をオリビアに伝えたらしく、彼女はそのまま伯爵家に帰宅したそうだ。
俺が漏らしたセリフにルシエが複雑そうな顔をした時、俺はルシエがまだオリビアへの恋心を捨てきれてないと判断した。
きっと俺の『そうか…。』を『そうか…。(会う事が叶わなかったか…)』と勘違いしたのだろうな。
実際は、『そうか…。(会わずに済んでよかった…)』の意味を含んでいたが。
俺はルシエがオリビアをまだ好きだと何となくでわかった時、素直にルシエの恋を応援しようとすでに決めていた。
まず、俺はあくまでも俺であってゲームや舞台と同じようなシリウスにはなれないし、これ以上シリウスを演じるなんてもう嫌だった。
それにオリビアには申し訳ないが、今の俺はクラウディアが好きだと自覚した。
あのキス以来、なぜかクラウディアが頭から離れない。
クラウディアの事を考えると、頭が沸騰しそうになるし顔の火照りもなかなか引いてくれない。
そして、クラウディアに会ってきちんと話をしてみたかった。
オリビアにもきちんと断りを入れないといけないが、どうしても先にクラウディアに会って謝りたい気持ちが強かった。
それにこう言っちゃなんだが、元々オリビアはルシエの方に最初は惹かれていた。
2人の甘酸っぱい世界に無理やり入り込み、強引に持って行ったのが、こともあろうにシリウスなのだ。
見た目は女顔のくせにどんだけ肉食なんだよ……と前の自分ながら、罪深い。
前の俺がやってしまった償いも兼ねて、自己満足かもしれないが今度は俺がルシエの恋を応援しようと決めたのだ。
そのため1週間後の今日、実はルシエには内緒でオリビアを午後に呼び寄せるように護衛に頼んで手配をしている。
あと15分もすればオリビアがここに到着する予定だ。
だからこそ、俺がクラウディアに会いに行くと先に出掛け、時間差でオリビアがやってきて2人きりになるよう計画していたが…。
世の中、そんなに甘くはないらしい。
ルシエは恐ろしい笑顔で、俺の行動を牽制する。
今の状況はまるで食われる蛙と蛇の関係だ。
俺を食い殺しそうな蛇…もといルシエはにっこり微笑みつつ、口を開く。
「どうして殿下が、わざわざロレーヌ令嬢に会いに行かれるのですか?」
「えっと…」
「あのお方は恐れ多くも、殿下に暴力をふるった罪人ですよ。学園寮にひとまず監禁という処置でも甘いくらいです」
「は!?監禁!?」
「はい、それに今からオリビア樣もいらっしゃるのですよ」
「な、なんでそれを…!?」
「僕には殿下の行動なんてお見通しですよ?何年付き人をやっていると思っているのですか?」
ルシエは上着を片腕にのせながら、呆れたように溜息をつく。
俺としては、開いた口が塞がらない。
なんてこった。まさかルシエがここまで俺の行動を読める人間だったなんて。
しかも『暴力をふるった』というがそれは少し語弊がある。
実際は頬に平手打ちをくらわした程度だし、あれはどちらかと言うと正当防衛に近い。
そりゃいきなりキスされたんだ。反射的にそうなるだろう。
現実世界の俺の母親は、それこそ社交界パーティーで尻を触ろうとしたどこかの社長に回し蹴りをかましたくらいだったし。
拳で殴られなかっただけでも御の字だ。
それなのに寮に監禁されているなんて…絶対に間違っている気がする。
自分の行いのせいでクラウディアに迷惑をかけた事を、俺自身が許せなかった。
ギリリと奥歯を噛みしめ、両方の拳を強く握る。
尚更、急いで早くクラウディアに会わなくては。
しばらくは防戦一方に近い俺が歩き始めた事に驚きつつも、ルシエは俺の行く手を阻もうと前に出て俺の腕を掴む。
でも、構わず俺はルシエに掴まれた腕を払い、ドアノブに手をかけた。
後は猛ダッシュして王宮から出れば、こっちのもんだ。
これでようやく、クラウディアに会いに行ける。
勢いよく扉を引いて開けた俺は、彼女に会える喜びで胸が一杯だった。
「シリウス様……!!」
そう、喜びで胸が一杯だったよ。
開いた瞬間に現れたハニーピンク色の髪の持ち主が俺の名前を呼んで、抱き着いてくるまでは。