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頼むから、攻略するなら他を当たってくれ!!  作者: 伊右衛門
転生前・黒崎士狼編
1/15

1.舞台俳優・黒崎士狼

今連載している作品の息抜きで作った作品です。

こちらも楽しんでいただければ嬉しいです。

ちなみに『士狼』と書いて『しろう』と読みます。


 背景セットは華やかな王宮の舞踏会。

 流れるのはざわつく人々の声入りBGM。

 観客席はBGMと対照に神妙な空気に包まれている。


 対照的な雰囲気の中、舞台の袖から現れたのは1人でエスコートも無しに入場した主人公のライバルでもある婚約者役の女優。

 

主人公役の女優は何役か主演を演じた経験もあるベテランらしく、今日も練習と変わらず断罪の舞台に嬉々としてもどこか戸惑う表情を見事に演じていた。


戸惑う表情を和らげるように主人公役の女優の肩をそっと抱き、そっと微笑む。

それからさっきと笑顔を真剣な表情にすぐさま切り替え、静かに前に出る。


そしてこれから断罪する自分の婚約者に向けて、俺は練習も含めて何百回も繰り返したセリフを叫ぶ。


「クラウディア・ロレーヌ。今日限りで君との婚約を破棄し、断罪する!」


 婚約者役の女優は断罪に言葉に対して怒りを露わにし、従者役2人が今にも暴れだしそうな動きをする彼女を押さえつけて舞台の袖に引きずっていく。


 一瞬の暗転から、俺と主人公役の女優にスポットライトが当たる。

観客席から注がれる何百の視線を受けながら、俺はやや乱暴に抱きしめ、顔をやや斜めにしつつ口元を隠しキスをする。


 実際にキスはせずギリギリまで口を近づけて寸止めを保っているだけだが、口元を隠したおかげで観客席からは本当にキスをしているように見えるだろう。


 そっと顔を離すと、主人公役の女優は頬ける演技まで完璧にこなしていた。

流石はベテラン女優、プロ意識も高いもんだ。


 舞台は最後まで終わっていなかったが、いつの間にか拍手喝采と黄色い叫び声が会場を熱くさせていた。

1回で終わるだろうと思っていたカーテンコールは、驚く事に後4回も繰り返される事に。


 観客席からは、『シリウスくーん!!』と俺の役名を叫ぶ女性陣も多くいた。

涙をハンカチで必死に抑える観客もちらほらと見受けられる。


 手を振りながら笑顔でファンサービスをこなしつつ、心の中の俺は別の事を呟く。


そんなにシリウスってかっこいいか?

婚約者いるのに別の女と恋人になって、それを正当化するために婚約者を断罪する奴だぜ?

なんでこうキャーキャー騒ぐんだろうなぁ…。


きっと演じている役者が笑顔でファンサービスしながらボロクソ悪く言っているなんて思ってないんだろうな。

まあ、この場でそんな事をうっかり言ってしまえばこの後がどうなるかは予想がついていたので。

できるだけ表情にも出さないように細心の注意を払いながら、今日も問題なく舞台は成功に終わった。



 役作りのためにプレイしたゲームのシナリオでも、きつい稽古を乗り越え本番の舞台で演じる事になっても、彼女が断罪される事は決定事項だった。



*****




 舞台公演を無事成功させ『お先に失礼します。お疲れ様です』と言い続けながら、目が合った人には軽く会釈をしつつ控え室の扉を開ける。

『お疲れ~』『お疲れ様でしたー!』と天真爛漫な笑みで挨拶を返す共演者やスタッフ達。


その一方でデビューして1年目の俺が舞台の主演に選ばれた事に不満を持っていた一部の共演者の『先に帰るとかありえねぇ』『礼儀がなっとらん』と嫌味の声も聞こえたが、その両方を無視して控え室を後にした。


 あまり人に遭遇したくないため、わざとエレベーターではなく階段を利用してエントランスまで降りる。

その合間に慣れた手つきでマスクに帽子、日によっては伊達メガネを装着して変装は完了。


エントランスに到着しても出待ちのファンがいないか一通り確認し、誰もいないとわかると逃げるようにスタジオを出て自宅に戻る。




 これが、デビュー1年目の舞台俳優・黒崎士狼のうんざりしているここ最近の現状だ。



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