3話 「ラティス魔法学園」
ついに明日、学校の編入試験の日になった。 幸い、国語とか数学がないから良かったが、どんな問題が出されるか予想出来ない。
アスラによると、試験内容は毎年変わるらしい。 つまり、同じ試験は一度もないと言う事だ。
「あ、ヨウタさんリビングに居たんですね! これをヨウタさんに渡します!」
そう言って、フランが俺に剣を渡してきた。 剣……剣!?
「うわっ! 何これ本物!? すげぇカッコイイ!」
アニメとかで見る剣だ。 実際に持つと結構重いなぁ…これは筋トレとかしなきゃダメだな。
「これを俺にくれるのか?」
「はい! ヨウタさんは魔法使えないですし、身を守る時用に剣があれば便利だと思って」
「…え、その学校ってそんなに物騒なの?」
「まぁ…歩いてたら決闘を申し込まれる事はよくありますね」
「何それコワッ…世紀末かよその学校」
どこの不良高校だよ。 釘バットじゃなく剣を持ち、石ころを投げるんじゃなくて魔法を撃ってくる奴らなんて……
…俺、そんな学校に入ろうとしてるのか?
「まぁ目立たなければ何もされないので、大丈夫ですよ!」
「目立たなければ…ねぇ…」
目立たないのは得意だ。 得意というか、何もしなくても目立たない。
……うん。 悲しくなってきた。
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そしてついに、俺の編入試験の日がやって来た。 俺たちは各々準備を済ませ、城の前に集まった。
俺は荷物なんかないから手ぶらで、昨日買ってもらった服を着ているが、2人は違う。
アスラとフランは、黒のブレザーに黒のスカートを着ていた。 2人ともお揃いだ。
「…それって制服か?」
「あら、よく分かったわね。 そうよ、これが女子の制服」
「ほぉ〜」
なんか、日本の物とは違うが、この世界にも制服があるんだなぁ〜…
しかも、2人ともよくにあっている。
「それじゃあ、馬車で行くわよ」
「え? この前みたいにテレポートで行けないのか?」
「テレポートは、距離が遠ければ遠いほど魔力を消費するのよ。 私は魔力が多い方じゃないから、長距離移動は無理なの」
「ほぉ〜。 なるほどな」
魔力か。 どうやら魔法は万能って訳じゃないらしい。
その後、俺たちは街までテレポートし、街で馬車を雇って出発した。
初めて馬車に乗ったが…なんか…揺れがすごいな。
こんなに凄いとフラン達の胸が…!
「…あぁ…」
揺れる事はなかった。 いや、多少は揺れてる。 だが、本当に多少だ。
俺が求めている揺れ方は…そう。 まるでプリンのような揺れ方だ。
だが、フランとアスラにはそれ程の力はなかったらしい。 非常に残念だ。
「…さっきから、人の胸を見て残念そうにしないでくれるかしら」
「ごめんなさい!」
どうやら気づかれていたらしい。 2人に冷たい目で見られてしまった。 まさかフランにまで冷たい目で見られるとは……
「は、話は変わるけどさ、その魔法学校? ってなんて名前なんだ?」
「ラティス魔法学園。 この世界で有名な3校の1つよ」
「3校?」
「えぇ。 魔法学園は沢山あるけど、その中でも特に力がある。 または、有名な人間を育ててきた学校の1つが、ラティス魔法学園よ」
なるほど。 つまり偏差値が高い学校って事か。 その偏差値高い学校の1つが、ラティス魔法学園って事ね。
なるほどなるほど……
「…俺、そこ入れんの?」
「大丈夫よ。 入るだけなら簡単だから。 入るだけならね」
いやそれ、出るの難しい奴だろ!? 入学出来てもすぐに退学〜。 なんて洒落にならんぞ…
「まぁ、こればっかりは入らないと分からないわよ。 得意不得意があるしね」
そんな事を話しながら、俺たちはラティス魔法学園へと向かった。
あれから数時間経ち、ようやく馬車が止まった。
フランとアスラが馬車を降りたので、俺も降りる。
「ヨウタさん。 ここが…」
「ラティス魔法学園よ」
2人がある建物に手を向けた。
その手の先には……5階建ての煉瓦造りでとても大きな建物があった。
そして、俺たちの前には大きな門があり、その周りは高い塀に囲まれていた。
「で…でけええええぇぇっっ!!」
何これ! はぁ!? これが学校!? 皇居の間違いじゃねぇの!?
しかも門の近くになんか兵士居るし! めっちゃ剣持ってこっち見てるし!
その兵士の近くにアスラが行き…
「アスラ・アズリエル。 この子がフラン・アズリエル。 この学園の生徒です。
そして、そこの男は編入試験を受けに来た人間です」
アスラがそう言うと、兵士は一度俺を見た後、ゆっくり門を開けた。
俺は恐る恐る中に入った。
まず目の前にあったのは大きな噴水。 そしてベンチと花畑。
本当に学校なのかと疑問に思うが、噴水の向こうに見える建物がその疑問をかき消した。
中にはアスラ達と同じ制服を着た女子や、上下黒の服を着た男達がたくさん居た。
きっとあれが男子の制服なんだろう。
そのまま校舎の方へ進むと、アスラがある看板の前で止まった。
「編入試験は向こうでやるそうよ。 行きましょうか 」
と言って、校舎には入らず矢印の方へ歩き出した。
…矢印以外何が書いてあるか分からない。 まずいな、文字を勉強しなきゃいけないらしい。
アスラの後ろについて数分歩いて行くと、ある建物が見えてきた。
校舎よりは小さいが、普通に大きな建物だ。
「ここが試験会場らしいわ。 …じゃあ、私達はここでお別れね」
「あぁ。 絶対合格してくるぜ!」
「頑張って下さいヨウタさん!」
そう言って2人と別れ、俺は深呼吸をしてから建物の中へ入った。
扉を開けると、沢山の椅子が置いてあり、その椅子に沢山の人が座っていた。
…うわぁ…これ皆編入試験受けにきた人か? 多すぎないか?
100人近くいるぞこれ。
俺は適当に空いている椅子に座った。 すると、部屋にいたほとんどの人が俺の方を見た。
……えっ、何? 俺なんかした!?
なんか皆ヒソヒソ話してるし…何怖いんだけど…
「ねえねえ! あなたどこから来たの?」
すると、突然隣にいた女の子から話しかけられた。
周りよく見ないで座ったから、隣が女の子だと今知った。
……あれ? よく見たら、俺とこの女の子の周り誰も座ってねぇな…こんなに人数いるのに。
「俺か? 俺は…えっと…あ! 思い出した、レイアル王国だ」
「ははは! 自分の国の名前忘れてたの? 面白い人だね! 私カグヤ・ジュリエル! あなたは?」
カグヤさんか。 水色の肩までの髪で、とても可愛らしい子だ。
まさかこんな子に話しかけられるとは…
「俺はヨガワ・ヨウタ。 あ、ちなみにヨウタが名前ね」
「ヨウタ? 変わった名前だね〜」
「ははは、そうかもな」
俺たちは普通に話していたが、周りの人達は俺たちを見て目を見開いていた。
…うーん…あまり目立ちたくはないけど、流石に気になるなぁ…
俺は、ゆっくりと立ち上がった。 カグヤが隣で不思議そうに首を傾げている。
「あのさ。 さっきから何? 俺たちの方ジロジロ見てるけど、言いたい事があるなら言ってくれないか?」
俺がそう言うと、一気に部屋がシーンとなった。
…………やっちゃったあああああああああ!!!
俺何やってんの!? 異世界来て浮かれてんのか俺は!
「…お前、その女の事知らないだろ?」
「ん? それってカグヤの事か?」
1人の男が立ち上がり、カグヤを指差した。 その男の目は、なにか怯えているように見えた。
「カグヤ・ジュリエル。 魔法の天才で、5歳の時、自分の両親を殺した悪の天才魔術師だよ。 悪い事は言わない。 そいつには関わらない方がいいぞ 」
……は? 自分の両親を…? カグヤが?
…全然そんな事をする奴には見えないが…
「カグヤ、本当か?」
そう言ってカグヤの方を見ると、カグヤは下を向きながら…
「うーん…結果的に言えばそうだけど…私は殺したくて殺したんじゃないよ。 殺さなきゃ私が死んでたから、殺した」
「………」
この世界の事はよく分からない。 だが、1つわかった事がある。
この世界は平和じゃない。 日本みたいに当たり前のように親から愛情を注いでもらえる世界じゃないって事だ。
俺は、そのままカグヤの隣の椅子に座りなおした。
さっき俺に話しかけた男は、また目を見開いている。
「俺はカグヤの事はよく知らない。 だからカグヤの話が本当なのか嘘なのか分からない。
俺は、勝手に人を悪者って決めつける人間は大嫌いだ。
悪かどうかは、自分の目で見て決めたいね」
世の中には、ロクに調べもせずに悪者だと決めつける奴が沢山いる。 俺はそんな奴にはなりたくない。
…俺が、昔実際に悪者だと決めつけられてイジメられた過去があるからかもしれないがな。
「…ヨウタは、他の人間とは違うんだね」
「人間なんて一人一人違って当たり前だろ?」
「そうだね!」
その後も、俺とカグヤは2人で話し続けた。 そして、数十分経った頃、この部屋に大人が2人入って来た。
その大人は、俺たちの前に立つと…
「諸君。 本日はよく我がラティス魔法学園一学年編入試験を受けてくれた。 私はこの学園の教師、グラスだ。 今回集まってくれたのは110人。 これはとても喜ばしい事だ。
では、早速試験内容を発表する!」
そう言って、グラスは黒板に何かを書き始めた。
…やばい、読めない。
「今回の試験は、これだ!」
すみません読めません! とは言えないので、小声で
「…カグヤ。 あれなんて書いてあるの? 俺文字読めないんだ」
カグヤにそう言うと、カグヤも小声で
「…そうなの? 黒板には”2人ペアでグラスと戦闘”って書いてるよ」
「……マジ? 戦闘?」
嘘でしょ。 しかもペアって! 俺戦闘なんてした事ないぞ。 喧嘩だってした事ない。
一方的に殴られた事はあるけどな!
「2人ペアを組んでもらい、私と対戦し、私が認めた者を合格とする!」
なるほど…実力がある奴を選ぶならこれが手っ取り早いんだろうな…
…やばい、これ俺落ちたかも。
「では、早速ペアを組んでくれ! ペアが決まったら私の所に来てくれ」
「ヨウタ! 私と組まない?」
カグヤが俺の手を握ってそう言ってくる。 確かに、カグヤは魔法の天才らしいし、組めれば強いかもしれない。
…だが。
「…いや、カグヤの足を引っ張るわけにはいかないし…俺さ、魔法使えないし、戦闘もした事ないんだ。 だから…」
「グラス先生! 私この人と組みますね!」
「カグヤとは組めな……え!? ちょっと何してんの!?」
どうやらカグヤは勝手にペア申請をしてしまったらしい。
しかも一番手。
「よし。 ではこの名簿に名前を書いてくれ」
「はーい! 」
そして、渡された名簿にカグヤが2つの名前を書き、グラスに渡す。
「では君達は一番手だ。 全員が決まるまで待機していてくれ」
そう言われ、俺たちはまた椅子に座った。
「おいカグヤ! 何勝手に書いてんだよ!」
「えー? いいじゃん別に! 合格できればさ!」
「俺がいたら合格出来ないかもしれないんだぞ!? 足手まといになっちゃうぞ俺!」
「合格出来なかったらまた次挑戦すればいいよ!」
「えぇ…」
カグヤはずっとニコニコしながら話している。
そして、カグヤは笑顔のまま
「まぁ、私戦闘は得意だから、任せてよ! 折角友達になれたんだし、一緒に合格しようね」
おぉ…なんだこの頼もしさは。 全然失敗を恐れていないというか、失敗なんかしないと確信しているかのような表情だ。
「…はぁ…カグヤだけに頑張らせるわけにいかねぇし、俺も出来るだけ頑張るよ」
「うん!」
それから、どんどんペアが決まっていき、ようやく全ての人間がペアを組み終わった。
「よし。 全て決まったな。 では早速、編入試験を開始する!
皆外の闘技場へ移動してくれ!」
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さっきの建物を出てグラスについて行くと、砂の地面のエリアが見えてきた。 周りにはベンチが置いてあり、そのベンチには沢山のの生徒が座っている。
……あれ? 向こうで手を振ってるのってフランじゃね? となりにアスラも居るし…
なんで生徒がここに?
「ちなみに、今回の試験内容は先ほど生徒達に伝えた。 そして、見学自由にした。 つまり、君達にとってこの場はアピールの場でもあるという訳だ」
…なるほど。 先輩達に自分の力を見せるわけか。
…まずい。 恥ずかしいところを見せないようにしなきゃ……!
「では1組目、カグヤ・ジュリエル、ヨガワ・ヨウタ! 前へ! 他の者は周りで見学だ!」
そう言われ、俺とカグヤは2人並んでグラスの前に立つ。
遠くでフラン達が心配そうに見ている。
…うわぁ…めっちゃ緊張する…
「ヨウタ。 ヨウタは魔法使えないよね?」
「あぁ…申し訳ない」
「剣術の経験もないよね?」
「あぁ…申し訳ない」
あぁ情けない! 逆に何が出来るんだ俺は…
「分かった! じゃあ、ヨウタが攻撃しやすいようにグラス先生を誘導するから、よろしくね! ヨウタはがむしゃらに攻撃してくれればいいから!」
「おぉ…分かった」
そう言って、俺は剣を鞘から抜く。 やっぱり重い。
俺は、この刃物を今から人に使うんだ。
「では、編入試験。 開始だ!!」
俺の、人生初の戦闘が、始まった。