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無名の騎士の思い出

どうも。緋絽と申します。


明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!




何故花園桃花と一緒にいたのか。

その質問に、清月はガリガリと頭をかいて答えた。

「……まぁ、俺にも独自の情報網があってさ。漏れるとそいつに面倒がかかるかもしんないから、何も詳しいことは言えないんだけど」

絵莉花のむくれた顔を見て清月はげんなりした。

余程今回のことが嫌だったらしい。けれど、どこか聖人君子然としていた以前より、今の方がずっといい。やっと、年相応の女の子に見えてきた。

なんだか肩肘張っていたような絵莉花の危うさが少し薄れた気がして、清月は満足した。案外自分も役に立つかもしれない。

「まぁ、ちょっと花園桃花が変な動きしてるって聞いて。狙いを探ってただけ」

「狙い」

「うん。狙いはわかったけど、俺があんたの傍にいる以上は避けられないっぽいから。なんとか頑張る」

狙いって何だと視線で訴えかけてくる絵莉花を、清月は意図的に気づいていない風をそれとなく装って無視する。知って、それならいいと遠慮されてしまうくらいなら、黙っている。

そう、花園桃花が、絵莉花を学園から追い出そうとしていることなど、知らなくていい。そのために孤立させようとしていることなど。

花園桃花は馬鹿じゃない。むしろ周到な性格で、きっと清月が自分の目的を探るために近づいてきたこともわかっているだろう。

なのに、清月に他の男にするように接してきたのは、清月すら絵莉花から引き離す自信があるからか。

清月も他の男達のように花園桃花に惹かれるだろうと安易に思われたのはいい。実際、侮られる程度の人間だろうと、特に悲観するでもなく清月は客観的にわかっている。けれど。

簡単に絵莉花の周りから人が排除できると思っていることが、酷く気に障った。

清月は恩のある絵莉花を助けるためにここにいる。日常の手伝いをしたくらいで絵莉花は充分だと言うが、清月はそうは思わない。今の状況をどうにかしてやれたら一番だが、それにしては自分が無力すぎる。なるほど、これが世にいうジレンマか。

「……なぁ、清月」

「ん、何?」

絵莉花は口籠ったが、意を決したように顔を上げた。

「お前のことを、教えてもらえないか。その、実のところ、何も知らないということに最近気づいてしまったんだ。こんなによくしてもらっているのに、すまない」

「あぁ、いいよ。あんたに話してなかったのは俺だし」

何でもないことのように清月は返し、ソファに沈み込む。聞いてはいけないのではないかと思っていたので、あっさり受け入れられた絵莉花は少しだけ拍子抜けした。そしてホッとする。白藤と呼ばれることを、清月は嫌がっていたから。

「んー。俺って、父親の愛人の子でさ。母親が死ぬまでは一般人として育てられてたんだよね」

「待て待て」

今、さらっとすごいことを言わなかったか。少し飲み込むのに時間を有した。

愛人の子。そして、母親が、死んでいるのか。なんとなく、その立場は推し量ることができた。正直に言って、居心地がいいとは言えないだろう。

それを悟らせないような清月の語り口に、絵莉花は言いようのない気分になった。

律儀に口を閉ざす清月の顔からは何も読めない。このまま聞いていいということか。

「続けてくれ」

「で、中一の時に引き取られた。天涯孤独だと思ってたから、マジで驚いたよね。何に驚いたって、引き取られた先の超絶でかいお屋敷。豪華絢爛どころじゃないよそれみたいな」

「白藤家というと……確か、芸術家の家と言っていたか?」

「そー。さすがお嬢様、ちっちゃいおうちのことも把握してんだな。まーあんたんちに比べたらウチなんて大人しいんだけどさ。描画とか、彫刻とか、陶芸とか、鑑定とか、手広くいろいろ手は出してるみたい。そんなこんなでいろいろあって、今に至ると」

絵莉花はむっとした。聞きたかったことが含まれていない。清月のうげっと言いたげな表情を見るからに、あえて言わなかったのだろうことは容易に予測できた。

「私は、いつお前に会ったんだ?」

なんだかんだと聞いていなかったが、今が聞くべきときじゃないだろうか。

絵莉花が引かないと悟ったらしい清月が溜息を吐く。

「三年前くらいに、何かお偉いさんがいっぱい集まるところで。なんやかんや言われて、…………ちょっときつくてさ。どーすっかなーって考えてた時に、あんたに、会った」

ふと清月が顔を上げる。軽い口調とは裏腹に、懐かしい何かを思い出すかのような表情を浮かべて。

「あの時あんたが俺に言ったこと、忘れたことない。あんたの超人並みの精神論のおかげで、俺は生きてるかもしんないって、今ちょっと思った」

清月が真顔で言うから絵莉花は戸惑った。そんな大げさな。けれど、何となくそこには突っ込まない方がいい気がした。

「超人並みの精神論って何だ」

「最大限までやれるだけのことはやる云々。合金マシンでできてるんじゃないかって、実は本気で思ったことがある」

真顔で言うものだからどう反応していいのかわからない。だから、絵梨花は頭を下げることにした。

「すまない。覚えていなくて」

「あーいいよ。合金製のお嬢様にはきっと取るに足りない雑談だったろうから、忘れててもしかたない」

本当に何とも思ってなさそうで、絵莉花は逆にムッとした。もっとこう、覚えていないことを残念がってくれたっていいだろうに。

「その、なんて言ったのか、聞いてもいいか?」

「あの時あんたが言ったこと? ……やだ。なんで本人に言わなきゃいけないの」

プイッとそっぽを向く。

その後何度かねだったが、清月は絶対に口を割ろうとはしなかった。

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