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理想主義の女の子

どうも。緋絽と申します。

2話です。よろしくお願いいたします!

絵莉花は首を鳴らした。というか、首を回したら鳴ってしまった。

「う……流石にこれは、女子としてどうなんだ……」

若干落ち込んでいると、ガチャリと音がして重厚な扉が開いた。

そこから清月が入ってくる。頼んだ仕事が終わったらしい。

「何落ち込んでんの」

「い、いや。何もない。そうだ、今日は助かった、礼を言う。おかげで明日は綺麗な部屋で始められそうだ。もう帰ってかまわない」

絵莉花にちらりと目線をやって、清月は脱いでいた上着を羽織る。

「言っとくけど俺、明日も来るから」

「え? いや、でももう充分……」

だって今日だってあちこち動いてくれたのだ。役に立たない他の役員の代わりに。

「あんたを手伝う必要性がないと思うまでは来る。…………何ボーッとしてんだよ。行くよ、九条絵莉花」

「へ?」

ポカンと口を開けた絵莉花に清月は欠伸をすることで返した。

「送迎の車まで送る。拒否は受け付けてない。急いでくんない」

「あ、わ、わかった」

慌てて絵莉花は立ち上がる。そこに清月が思い付いたように振り返り、びしりと指を指した。

「それと、俺のこと、白藤って呼ぶのやめて。あんま好きじゃない」

「じゃあ……なんと?」

清月が肩を竦める。その仕草が如何にもやる気無さげだ。

「白藤以外ならなんでもいい。あぁ、清月でいいんじゃねえの」

「あ、あぁ、わかった。清月」

「ん。よし行くよ」

さっさと清月は絵莉花を外に押し出す。そして廊下の奥に一瞬だけ清月が目を向けたことに、絵莉花は気づかなかった。


それからもまた絵莉花は忙しかった。

どれだけ処理しても、また色々な問題が報告されてくるので、その対応で目も回る。清月が来てからは文書の提出などの細々した仕事が減ったが、それでも忙しかった。

しかしそれはいつものことでもある。以前も生徒会役員のファンと花園桃花が揉め、そこに役員達が乱入し、かなりの騒ぎとなった。絵莉花が止めなければ、さらに大きな騒ぎとなっていただろう。

それでもその日絵莉花がダメージを受けたのは、それが“ただの問題”ではなかったからだ。

「生徒会役員と一般生徒が、花園桃花の扱いのことで揉めている……!?」

思わず絵莉花は机に強く手を叩きつけて立ち上がった。次いでクラクラする。

つまりなんだ。花園桃花の特別扱いに苦言を呈した生徒に、生徒会役員が食って掛かったということか。

生徒会ファンの時とは、違う。これは、文句に対して揉めたのではなく、諫言に対して揉めたのだ。

頭を押さえて座り込んだ絵莉花を、背後のソファーから清月がちらりと見た。

「…………わかった。報告ありがとう」

生徒がペコリと頭を下げて出ていく。

呆れを通り越して納得した。あいつらが花園桃花を特別扱いしてるのは自明の理だ。どう考えてもあいつらが悪い。

身内の汚れは、落とさなければ。

はぁと溜め息を吐き、立ち上がった絵莉花を引き留める声があった。

「ちょっと。どこ行こうとしてんの」

「花園達のところへ行ってくる。事態の収拾をしなければ」

振り返った絵莉花はソファーに座ってこちらを見ている清月と目を合わせた。パチパチ目を瞬かせた清月が首を傾げる。

「はぁ? なんで」

「なぜと言われても……身内のことだし、放ってはおけないだろう」

その返事に清月が眉をひそめる。

絵莉花はつんと髪を引っ張られて少し前屈みになった。

そして相も変わらずやる気の無さそうな清月の顔が間近にあって仰け反る。

どうしてこんなに近いのだろう。

後ろに下がろうとして、髪を摘ままれたままだったために、勢いつけて下がった体はそれ以上下がらず、代わりに引っ張られるように前方に倒れ込んだ。

清月が慌てて抱き止める。というより、絵莉花が飛び込んだところで肩を掴んだ感じだが。

「何してんの。あー、座りたいわけ?」

少し脇にずれて座る場所を作ってくれた清月に違うとは言えず、絵莉花は大人しくそこに収まった。

「なぁ」

膝の上に肘をつき、頭を支えて清月が絵莉花を見る。

「な、なんだ」

「こないだからずっと思ってたんだけどさ。あんたのそれ・・、本気で言ってんの?」

「え?」

それとはなんだ。

本気でわからない絵莉花に、清月はいよいよ大きく溜め息を吐いた。

この女は、ほんとに今までどうやって生きてきたんだか。

「古城殿の時とか、生徒会ファンの奴等の時とか、それこそ今もだけど、頑張ればなんとかなるなんて、まさか本気で信じてるわけじゃないよな。頑張っても頑張っても頑張っても、できないことがあることくらい、知ってるだろ?」

清月は当たり前のことを言ったつもりだった。

しかし、絵莉花は首を傾げる。

「でも、それは頑張ってみないとわからないだろう?」

「…………わかるんだって。だいたい自分がどんな状況にあるか考えれば、想像つくだろ。そんでもって考えたら、あんたは今、他人のことにかまけてる時間なんてまず作れないはずだろ」

絵莉花は少しムッとした。そんなことは清月に決めつけてほしくない。

でも、癇に障ったのは、それが事実だからか。

「やってもいないのにやらないなんて、そんなの駄目だろう」

「子供みたいなこと言うなー、君。この間も言ったけど、ほいほい引き受けて、なんだかんだで潰れちゃって、関係ない人巻き込んで共倒れのほうがよっぽど駄目なんだって。今、生徒会役員は実状あんたしかいないんだから、君がいなくなっちゃ駄目なんだよ。先を見て考えろって」

くしゃくしゃ頭をかき混ぜられる。

絵莉花は口を尖らせた。納得がいかない。これは、どちらかが折れるまで膝を詰めて話し合いをするよりない。当然、絵莉花に折れるつもりはない。

「…………やつらは身内だ。他人じゃない」

「ただの幼なじみでしょ。今だって生徒会で同じなだけの。他人と一緒」

その言葉に絵莉花の奥からせり上がるものがあった。これはなんだ。熱くて熱くて、身の内を焼き焦がすような何か。

「────違う!」

昔から、よく顔を合わせた。互いの親のパーティーでも今の生徒会役員で集まって、こっそりかくれんぼをしたり、互いの家に遊びにいったり。小学校から今までずっと、同じように過ごしてきたんだ。

たった数ヶ月の付き合いの奴に、かっさらわれるほど脆いつながりじゃなかった。

「あいつらは私の友だ! 何者にも代えがたい! だから、奴等が困りそうなときは、手を差し伸ばしてやるのは当然のことだ! それに、私は生徒会役員だ! 生徒のために困りごとを解決するのは私の役目だろう!」

────でも。

いつの間にか、生徒会室にひとりぽっちで。穏やかだった時間は、一人の少女が騒音に変えて奪い去り。喧嘩してもそれを楽しむようだった、あの空気感はもう失われてしまった。

「わっかんないなぁ。ほっとけばいいし、君は生徒会役員である前に、一人のただの女の子だろ。何をそんなに頑張ってんの? 言っとくけど、君がいなくたって、他にやってくれる人はいると思うんだよね」

絵莉花は息を飲んだ。

清月が悪意をもってそれを言ったなら、絵莉花も言い返しただろう。でも、清月の瞳には侮辱の色が見てとれない。

本気で言っているのだと、わかってしまった。

私は……私は。

「だって……そうしていれば、いつか」

あいつらが、帰ってきてくれるかもしれないだろう?

「ごめん。ごめん、九条絵莉花。俺は間違ってないと思うけど、君を泣かせるつもりはなかった」

手が伸びて頭を再びかき混ぜられる。

絵莉花はその言葉に首を傾げた。本当に、泣いてなどいなかったから。

「泣いて、ないが」

「でも泣きそうだし。泣かれる前に泣き止ませようと思って」

顔が熱くなった。

泣きそうになんかなってない。 でも、息を詰めていて息苦しかったのは認める。吐き出した息が震えていたのも。

「そういうときは撫でるのではなく、涙を拭うべきだ」

「流れてもいない涙をどうやって拭えっての」

真顔で返した清月に、思わず絵莉花は吹き出した。

それなら、泣いてもいない絵莉花を泣き止ませるのも出来ないだろうとは、つっこまないでいよう。

笑う絵莉花を変わらずやる気なさげに見てから、清月は言った。

「俺、君のそういうとこ嫌いじゃないけどさぁ、もう少しあんたは自分本意に考えてもいいと思う」

今度こそ絵莉花は固まった。後半は前半の衝撃のおかげで聞き流されている。

「あ、ありがとう」

こ、これは告白か!?  だがまだ出会ったばかりで、早すぎる!

「勘違いすんなよ。嫌いじゃないってだけで、好きでもないから」

しっかり釘をさされた絵莉花は、自分の先走りに羞恥で顔を染めた。

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