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悩める少女に無名の騎士を

どうも。緋絽と申します。


本日、最終話です。



目の前には花園桃花が立っている。

いつも通り愛らしいその面立ちが、今は余裕なく厳しい表情を浮かべている。

「わざわざすまないな。よかったらかけてくれ」

絵莉花はティーカップを持ち上げながら花園桃花に声をかけた。それに気がついた花園桃花が絵莉花を睨めつける。

「そのティーカップ……みんなが私に買ってくれたものに見えるなー?」

「そう考えていたなら、残念ながら違うようだぞ。これは生徒会の予算として計上された、歴とした生徒会の備品だ。個人の持ち物なら自分の金で買うんだな」

絵莉花の遠慮会釈ない言葉に、花園桃花が悲しげな顔を作る。

その愛らしい顔立ちは、間違いなく憐れみを誘う。ーーー何も知らなければ。

けれど絵莉花はもう、花園桃花の本性を知っている。

「酷いよ、そんな言い草……まるで私が皆に買わせたみたい。皆が私にって言ってくれたのに、」

「悪いが、その手はもう通じない。人の罪悪感を煽るのがお前の常套手段らしいからな」

目に見えるほどに、花園桃花の表情が一変した。

悔しげな、明らかに敵意を持った顔。

そう、その顔こそが、本当にふさわしい顔だった。

「ーーーさて、本題に入らせてもらう。単刀直入に言う。君が集金盗難事件の犯人だな? いや……正確には、主犯と言うべきか」

「なんのこと? 私は何にもしてない。それに、私には事件が起きた時間のアリバイがあるし。一つ聞くけど、瞬間移動が現実にあると思う? そうでもなきゃ、私にはできないよね?」

余裕そうな笑みを浮かべている花園桃花を、絵莉花は冷静な頭で見つめた。

ここまでくると、どこまでも滑稽に見えてくる。絵莉花は以前、彼女にすべてを崩されるような気がしていたが、今となればその理由すらわからない。

「そうだな。アリバイがある。あの夜、君に犯行を行うことは不可能だった」

勝ち誇った笑みを浮かべる花園桃花に、絵莉花は頬杖をついて胡乱な視線を向けた。

そして笑う。顎をあげ、どこまでも傲然に。

「こちらからも聞きたい。私が何の証拠も掴まずに、君を問い詰めると思うのか?」

怪訝な顔をする花園桃花に、絵莉花はパソコンで動画を見せる。

花園桃花の表情が、完全に凍結した。

それは、花園桃花に盗難を教唆され、犯行に及んだと自白する、男子生徒の映像。

「こ、んな、自供だけで、私を犯人扱いするの!? こいつ、私に恨みがあるのよ! そうよ、以前にこいつの告白を断ったことがあるわ! それ以来、ひどい嫌がらせを……!」

「『貴方が好きなの。だから、貴方に助けてほしい』、だったか? 聞きすぎてすっかり耳にタコができたぞ」

「な、に?」

別の音声ファイルを聞かせる。

それは間違いなく、花園桃花の音声。

口をパクパクさせる花園桃花に絵莉花は鋭い目を向けた。

「人の好意につけこむから、あとで跳ね返るんだ。この音声をくれた彼は、嬉しくて嬉しくて仕方なかったそうだぞ。ずっと慕っていた人がようやく自分の事を見てくれたと思ったらしい。これを聞いて、何度も何度も夢じゃないと確認したそうだ」

「一回聞いたら消せって言ったのに……!」

怒りで顔を真っ白にした花園桃花を、絵莉花は無表情で見つめる。

そう、蓋を開けてみれば、すべてはとても簡単だった。

今川が絵莉花達の見た物とは別視点のカメラの映像を見て、そのうちの一人が花園桃花の取り巻きだったことに気がついたのだ。カメラの位置は、生徒会室のある階へ行くための階段。何度もそこを通るのを、今川が怪しんだ。

話を聞こうとしただけで、男子生徒は簡単に自白した。自分のしたことに酷く怯えきって、いっそ憐れなほど生粋のお坊ちゃんだった。

一言でまとめると、花園桃花がある男子生徒に盗難を唆し、その男子生徒が花園桃花の代わりに犯行に及んだ。

そういうことだ。

鍵の入手経路はわからないが、恐らく会長の持っている物をこっそり写しとり、あとで合鍵を作ったのだろう。その辺りは警察に任せればいい。

「答えろ。集金を盗んだ理由はなんだ」

絵莉花はもう、何にも心が揺れることはなかった。

自分がすべき事をすれば、守るべき守りたいものは守れる。それがわかったから。

自分がボロを出すのを恐れてのことか、花園桃花は固く口を閉ざした。

絵莉花は、最後の溜め息を吐く。

「聞かせてくれたっていいだろう? ―――それとも、警察に引き渡すことを条件として脅迫してほしいのか?」

そもそも警察に引き渡すつもりだが、それが交渉材料になるのなら嘘でもなんでも吐こう。絵莉花は、知りたいのだ。

花園桃花が、こんなことをした理由を。

おこりのように、花園桃花が震えているのが分かった。俯いているため、表情が伺えない。

「……ばよかったのに……」

「よく聞こえない。声を張れ」

絵莉花の言葉に、花園桃花が絶叫した。

「あんたが捕まればよかったのに! このクソ女!」

「悪いがごめんだ」

「なんであんたが女なのよ! ほんとは男のはずなのよ! 皆に愛されるのは私の役目なのに、どうして清月君は私を見ないわけ!? 好きになっていいってあれだけ言ってあげたのに!」

絵莉花には理解できない思考回路に若干戸惑う。

それはまるで、幼子が愛情を精一杯かき集めるようで。それだとあまりに可愛い印象が残るので、もっと欲の剥き出しになった理論。

自分は愛されて当然で、だから自分を愛さないものは罪。

要約すると、そういう話だ。

「あんたが邪魔してるんだって、だから追い出そうとしたのに! 清月君が庇うなんて! ほんっとにあんた目障りだわ!」

「…………清月にも選ぶ権利があったというだけの話ではないのか?」

それだけの理由で人生を左右されたのではたまったものではない。

まして、絵莉花が責められる謂われもない。

「うるさいわね! あんたさえいなきゃみんなが私にかしずくのよ!」

「ーーー高校生にもなって戯けたことを言うな!」

絵莉花の大喝が花園桃花の言葉をかき消す。

怯えたように体を竦み上げた花園桃花を、絵莉花ははっきりと睨めつけた。

「花園桃花。犯罪教唆の疑いありとして風紀委員会に引き渡す。追って沙汰は下されるだろうが、復学できるとは思わないことだ。恐らく刑事事件扱いとなり相応しい罰が与えられるだろうな」

「なっ……警察には引き渡さないってさっき……!」

「言った覚えはないが、言い逃れするのなら、私は(・・)警察には引き渡さない」

生徒会室の扉が開き、今川と吾妻が風紀委員を何人か引き連れて入ってくる。

ちらりと絵莉花を見た後、花園桃花の腕を掴んだ。

「花園桃花。立ちなさい」

「あんたら皆、潰してやる……! 皆に頼めば、あんたたちなんて、」

「皆が生徒会役員のことを指しているのなら、それは不可能ですよ。ーーー先日、九条さんから正式にリコールの申し出を受けとりました。本日の午後、緊急生徒総会が開かれ正式に可決されるでしょう。校内での優遇措置はもちろん、すでにリコールの原因も各家に通達してありますので、大々的に振るえる家の権力も制限されているはずです。…………残念なことですが」

「……う、嘘よ、そんな」

「何故嘘だと? 最も障害となる彼等を、真っ先に潰すのは当然でしょう? 何かおかしいですか」

絵莉花はリコールをする前に、吾妻に協力を仰いだ。そうすることで邪魔されるのを防いだし、より効率よく準備が進められたのだ。

呆然とした花園桃花を再び吾妻が引っ張る。吾妻はそれでも動こうとしない花園桃花の顎を掬い上げ、無感動な瞳で見下ろした。

「さんざん迷惑をかけられましたが、愚かな少女である貴女のことを、私は案外嫌いじゃなかった。こんなにも穴だらけで仕留めやすい獲物もなかなかいません。だから私の言うことをよく聞く限りは、丁重に扱いましょう。けれど、いつまでもぐずる(・・・)なら、それなりの手段をとらせていただきますよ」

吾妻の肩から滑り落ちた髪が、花園桃花の顔に落ちかかる。顎にかけられた指に力が入ったのが見えた。

吾妻は言葉の通りにする。

蒼醒めた花園桃花が無言で頷いた。

それを合図にしたようにするりと手を引き、吾妻は絵莉花に向き直った。

「私も、独り占めできるはずの獲物を盗られて業腹なんです。お互い散々ですね。ーーー九条さん、確かに対価はいただきました。……彼の謹慎処分も直に解かれるでしょう。今後は二度と嘘の証言はしないよう、くれぐれもお伝えください。それでは」

その気のない台詞を吐いて、一片の躊躇いもなく吾妻は花園桃花と風紀委員をつれて出ていった。

それも当然だ。この場で絵莉花が花園桃花を糾弾したのは、完全に絵莉花のわがまま。

絵莉花が、花園桃花を言い負かしたかったのだ。完璧に、一点の曇りなく。

ふ、と息を吐く。

「……やったな」

今川が後ろでポツリとこぼす。

「………………あぁ。まさかお前が、警視総監の息子とは知らなかったぞ。しかも外部からの特待生だと? 道理で知らない顔な訳だ」

音声の取得や証拠集め等、学生にしてはやけに探し慣れていると思えば、親から完全なる英才教育を施されていたという。

「役に立っただろ。あんただけじゃ、間に合わなかったかもしんねえぞ」

「あぁ。清月が残していった意味がわかった。本当に、助かった」

振り返って微笑むと、虚を衝かれたような顔をして、そして今川は不本意そうに唇の端を歪めた。

「ちっ、これだから純粋培養のおじょー様は。ほらよ」

折り畳んだ紙片を渡される。

開いてみると、どこかの住所が書いてあるようだった。

「どこだ?」

「セイとの待ち合わせ場所だ。仕方ねえからくれてやる。俺を配達員にするとはあとで高くつくからな。あと、セイに、伝えてくれ。貸した1000円を耳揃えて返すまでは意地でも逃がさねえ。だから、ぴんぴんして出てこいってな」

それは、如何にも今川らしい言葉。

絵莉花は思わず吹き出した。

二人の普段が、伺い知れるようだ。

絵莉花が去ったその場所で、今川は一人ニヤニヤとしていた。

「感謝しろよな二人共。そろそろ会いたくってたまんねーだろ。ったく世話の焼けるカップルだぜ」


着いた場所は、何駅か離れた場所にある公園だった。

私服姿の清月は、遠目から見る限りは元気そうだった。どこか無防備に見えるのは、ベンチに座って遠くを見ているからだろうか。

久しぶりに見る姿に、思わず足が止まる。

言いたいことはいっぱいあった。それには文句もあったし、謝罪もあった。

だけど。なのに。

いざ目の前にすると、何を言えばいいのかわからない。

ふと、首を回した清月の目が、絵莉花を捉えた。驚いたように瞠目する。

そして頭をガリガリとかいて、観念したように絵莉花に近づいてきた。

「九条絵莉花。なんでいんの?」

「あ……えっと、今川に、教えられて」

そういうと、あのバカと清月がひとりごちる。

目が合って、思わず逸らしてしまった。

なんだか、緊張する。

「その、事件なんだが」

「うん」

「きちんと、真犯人を見つけて、お前の無実を証明した。明日には、謹慎が解けて登校できるはずだ」

「わかった。ありがとう」

言葉が途切れる。

こんなに、話すのが難しかっただろうか。頭が真っ白になって、ただその姿が見られただけで胸が一杯なのだ。

「……あー。花園桃花は、色々と大丈夫だった?」

「あ、あぁ。きちんと釘をさしてきた。こてんぱんにしてやったぞ!」

「ふ。こてんぱん」

清月が、笑った。

声が、出なくなる。

「君は、平気?」

「え?」

「人を責めるのなんて、最も不得意とするところじゃん。大丈夫かって、ずっと、」

ふいに言葉を切った清月が顔を逸らす。

それでわかった。

心配、してくれたのだ。

清月は、心配の押し付けを嫌う。

だから、今まで一度も、分かりやすく心配してくれたことはない。いつだって、遠回しな忠告ばかり。

思えばいつだって、清月は絵莉花の心配ばかりしていた。

「平気だ」

「…………なら、よかった」

沈黙に耐えられず、思わず次の話題を急いだ。

そうしなければ、ーーー泣いてしまいそうだった。

「………………あ、家には……家の方は、その、大丈夫か? 立場とか……」

「あぁ…………まあ、そこは…仕方ないかなって。……何、そんな顔しなくていいって。追い出されなかっただけマシだよ。まあ未成年だからだけど」

そんな顔って、どんな顔だ。

仕方なくなんかない。実は賢い清月のことだ。あんなことをして、自分の立場がどうなるかくらい、簡単にわかっただろう。

それでも選んでくれたのだ。絵莉花を。

「……っ、助かった。ありがとう、清月」

「よかった。また怒られたら、へこむとこだった。……俺、ちょっとは、役に立った?」

ちょっとなわけ、あるか。

絵莉花は清月の手を掬い上げた。

そっと手のひらを重ね、体温を伝える。

「百点満点だ。とってもとってもかっこいいぞ」

笑ってみせると、声が震えて涙が出た。

慌てて顔を伏せようとすると、その前に清月の繋いでいない方の手が涙を拭った。そのままぐいぐい拭われ続ける。

「何で泣くわけ。大団円じゃん」

「安心したんだ。……上手くいってよかった…。ーーーお前を守れて、よかった」

知らず知らず、手を握る力が強くなる。

もう二度と、離れるかもしれない恐怖に怯えたくなかった。

一頻り泣くと涙が収まってきた。

ふうと一心地ついたところで、清月が口を開く。

「……あのさ。俺、明日からも君の傍にいてもいいかな」

「え? それは構わないが…仕事がいっぱいあって、遊べはしないぞ」

「そんなの今までと同じだろ。いいんだよ、それで。俺が、あんたの傍にいたいだけ」

どきりとした。

急に、繋いでいる手が汗ばんだ気がする。

慌てて手を引こうとすると、逆に掴まれた。

「せ、清月」

普段のように無感動に見られていると思っていた。

けれど、その手の熱さが、違う事実を突きつける。

な、なんだこれは。清月なんか恋愛経験が多い方じゃないはずだろう。話に聞いたことはないが! あんなぽやぽやした奴が、誰かに好かれるはずもない。というより、恋愛というカテゴリーが死ぬほど似合わない。その、はずだ。

「き、嫌いじゃないというだけで、好きでもないと言ったじゃないか!」

出会って間もない頃、その話題で一通り恥はかいたぞ!

怒鳴った絵莉花をいつものようにやる気なさげに見つめる。

「言ったけど。でも、好きになったし」

「な、」

なんだそれは!! 何故そんな照れた様子もなくそんなことをペロッと言えるのか!!

「あわよくば、あんたに好きになってもらいたいんだけど」

思わず絶句する。

こいつは、いったい誰なんだ。

少なくとも絵莉花の知っている清月なら、こんなの俺のキャラじゃないとか言っているはずだ多分。

こんなーーーこんな。

痛いところをつく容赦ない言葉、遠慮会釈ない態度、たまにしか見せない微笑み。

全部全部、絵莉花のものだと言ってくれた。

そもそも、愛だの恋だの絵莉花にはわからない。経験がないからだ。

だけど。

誰にも、清月を渡したくない。ーーー清月がたまにでも笑いかけるのは、自分であってほしい。

その感情は、なんと呼ぶ?

「ふっ、ふざけるなっ、バカ清月! そもそも、好きって言わなきゃ離れるつもりか!? お前はとっくに私のものなんだから、私の傍にいるのは当然だろう! 少なくとも私には、お前を手放す予定なんかないんだから、つまりお前は一生私のものだ!」

混乱しすぎて自分が何を口走ったのかわからない。

ちなみにあとで清月に諳じられ、絵莉花は人生で初めて人の頬をひっぱたいた。

「想像の斜め超える返事くれるよね、ほんと。まあ、仰る通りなんですけど」

ツンと髪を引っ張られて絵莉花はたたらを踏んだ。前にいた清月に突っ込む。

「いっつー……」

絵莉花は謝ろうとして我に返った。

そうだ。そもそも、こいつがひっぱったから突っ込むはめになったのだ。

「おいこら、清月、───」

顔を上げた絵莉花は、文句を言う前に唇を塞がれた。さらりとかかる清月の前髪が、案外柔らかい。

ぎこちなく頬に添えられた手が、数拍の内に離れた。

「九条絵莉花、君の言う通りだ。俺は君のものだよ。好きなだけ、傍に置いたらいいよ」

よしよしと頭を撫でられ、絵莉花は動けなかった。

どうしたものか。顔が熱くて、耳まで熱くて、清月の顔をまともに見れない。

混乱と照れで言葉を発せないところに、とどめとばかりに抱き寄せられた。

「ごめん。気が逸った。許して」

ください、とその平淡な声に、少しの焦りが見られーーーようやく絵莉花は動いた。

「謝るなバカッ」

「いて、ちょ、バカバカ言われすぎじゃない俺!?」

叩かれて不満げな顔をした清月が、絵莉花を見て満更でもなさそうな表情をする。

自分でもわかるくらいに上気した頬と、恥ずかしさのせいで涙目になる。くそ。辛いとかならいくらでも涙を我慢できるのに。

「そんな顔してると普通の女の子みてー」

「うるさいっ普通じゃないと思ってたのかっ」

「そりゃそうでしょ。超合金製だと思っ」

「うるさい!」

「だから痛いって。照れ隠しにしろもっと平和的にやってくれよ」

溜め息を吐いた清月に不安になる。

流石に怒りすぎたかもしれない。別に、本当は、そこまで怒ってもいなかったのだ。ただ単に、この気持ちをもて余しただけ。

歩き出そうとした清月の袖を握る。

振り返った清月の顔が、見れない。

「怒ってごめん。嫌だった訳じゃないんだ。…………嫌いに、なったか?」

清月は、びくりと体を跳ねさせた。

心臓が止まるかと思った。唐突に体の奥の方から沸き上がってくるものを、なんとかこらえる。

この人は、なんでこうなんだ。

「……今更。なるわけないだろ。こっちは色々、がっつり捕まれてんだから」

清月が身代わりになったことを、絵莉花はバカなことと怒ったが、清月だって誰にでもするわけじゃない。そもそも清月は自分も他人と同じくらい大事なので、自己犠牲なんていうものには縁がない人物だった。

それでも、絵莉花なら許した。絵莉花以外には、しない。する気もない。それが、清月の選んだ答え。

自分を救ってくれた、誰にでもいつでも誠実で一生懸命な絵莉花。一度関わってしまった相手を、簡単に切り捨てられない所も、清月は好ましかった。これまで切り捨てられることの多かった清月は、必死に守ろうとしてくれる絵莉花の傍なら、深く息が吸える。そして、絵莉花が傷つけられるなら、それから守りたい。

絵莉花のためではない。そうしたいから、そうするのだ。

「色々?」

「例えば俺の心とか」

またふざけて言ったつもりだったのに、真顔だったせいか絵莉花はまともに受け止めたらしい。

頬を赤くした絵莉花に、実はそう可能性がないこともないのかもしれないと、清月は笑った。

御読了ありがとうございました!


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