表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

この身に代えても、理想を踏みにじっても、守りたいもの

どうも。緋絽と申します。

よろしくお願いします。



生徒会室に着いてから、ようやく清月は我に返った。

さっきから一言も絵莉花が言葉を発さないのが気にかかる。それに、部屋にたどり着いてもまだ一度も振り返らない。

「九条絵莉花、手を離してくんない?」

「断る」

スパッと返ってきた言葉に思わず押し黙る。

何故そんな態度なのか、清月はよくわかっている。けれど、自分が間違ったことをしたとは、少しも思わない。

「なんでこっち向かないわけ」

「…………断る」

もはや会話になっていない。

頑なに清月の方を向かない絵莉花に、清月は溜め息を吐いた。

「…………じゃあ俺がそっちいく」

ビクリと肩を揺らした絵莉花の手を握ったまま、清月は絵莉花の正面へ立った。

その泣きそうに歪んだ顔は、口を固く引き結んでいた。絵莉花がぱっと顔を俯かせる。

「お、前は、大馬鹿者だ……! 何も、私の身代わりになることもないだろうに…!」

「ごめん、九条絵莉花。あんたは嫌がるだろうと気付いてたけど、わざとやめなかった」

強く絵莉花が奥歯を噛み締めたのがわかった。歯痒いと感じているのがありありとわかる表情。

「何故あんなことをした。私がそんなことを望んでいるとでも、思ったか? お前と、引き換えに、自分の名声を優先させると思ったか? ―――見くびられては困る!」

さっき見たときの顔色は、青白かった。自分のせいで清月が罪に問われる。そう思って己を責めているのがわかる。

そんな顔をさせてでも、清月は絵莉花を守りたかった。何故ここまで自分ができるのかは、うまく言葉にできない。

感謝と、友愛。それと―――少しの思慕があることは、認める。初めはなかった感情も、自分の中に見つけた。けれど、それがすべてではない。

ただ、大事なのだ。絵莉花なら、身を賭してもいいと思えるほど。

「聞いて。九条絵莉花」

震えている絵莉花を清月はソファに座らせた。ここ最近、何度も二人で座った場所へ。

「俺を救ってくれたあんたに、同じだけの恩返しをしようって、ずっと考えてた。確実にあんたを守るためなら、一回だけ。一回だけだけど、全てをなげうつ。そう、決めてた。それが、今だ」

何度も何度も、絵莉花が周りに足を引っ張られるのを見てきた。

少なくとも清月が見た限り正しかった絵莉花は、その懐の深さ故に苦しんでいた。それを見て、思ったのだ。正しいまま破滅しそうになったのなら、その時は。どんな手を使ってでも、助け出すと。

「馬鹿なことを!」

絵莉花は怒っていた。

どうしてきちんとお金を管理できなかったのか。内部で分裂している以上、金銭管理も厳しくしなければならなかったのに。金庫の管理を徹底できなかったのは自分の落ち度だ。それを、清月が負うのは間違いだ。

「馬鹿なのはあんただ、九条絵莉花」

柔らかな声音は、絵莉花の耳朶を打った。

どこまでも、他人のためを装わない清月は、その淡々とした口調のときが一番誰かを思っているということを、もう絵莉花は知っている。

「九条絵莉花、あんたもわかってるんだろ? 監査が動いたってことは、生徒会のリコールを目論んでるってことだ。一人ぼっちでこうやって頑張ってるあんたも例外じゃねーの。他の執行部員を諌めなかったとか、学園祭できちんと執務を果たさなかったとか、いくらでも理由つけてリコールする原因にでっち上げれんの」

そうなる前に、と清月が一呼吸置く。

絵莉花もその先がわかっていた。

清月は絵莉花だけでも助かる方法が選べる道を、残してくれたのだ。

「……わかっている。けど、悔しかったんだ。お前をこんな目に遭わせるくらいなら、さっさと追い払ったのに」

私だって、清月を守りたかったのに。

そう呟くと、清月はくっと瞠目した。

絵莉花の本心だった。巻き込むなら、清月を守るつもりだったのに。少しも助けになれないどころか、足を引っ張った。

「…………………あんたに二度も助けられるなんて、ごめんだっつーの」

絵莉花から体を逸らして清月は頬杖をつく。

その理由を、絵莉花に知られないように。

「なあ九条絵莉花。頼むから、馬鹿だけはしてくれるなよ。あんた、頭はいいけど時々驚くほどやらかすからさ」

「何を生意気な口を聞いてるんだ、清月のくせに! いつもいつもぽわぽわしてるくせに、私がいなきゃ何もできないって、いつも……!」

絵莉花は怒ったように声をあげた。でも、気がついていた。

清月がいなければ何もできないのは、絵莉花の方だ。思い知る。絵莉花は、清月の言うように頭がよくなどない。

「…………自分から離れたりしないって……約束してくれたじゃない……」

ごめん、清月。駄々をこねて、困らせて。許してくれ。

私はまた、一人ぽっちになるのが、怖い。

「ごめん、九条絵莉花。約束を守れなくて。優しくいてやれなくて、ごめん。でも、約束してほしい。馬鹿なことで時間を費やす前に、何よりもまず、自分を守れよ」

意味するところはわかったから、絵莉花は言葉なく頷いた。

もちろんだ、約束する。――――一部を除いては。


次の日、清月は学校に来なかった。その後もずっと。人の口に戸は立てられないとはうまく言ったもので、清月の家に、彼に盗難の容疑がかかったことが知られてしまったらしい。このまま清月は退学になるのではという噂が真しやかに流れた。

清月と、一切の連絡が取れなくなった。正確には電話を掛けているのだが、清月が出ない。あるいは、出られない、のか。

リコールは勿論する。本人達の目の前で、叩きつけてやるのだ。お前達のしたことは、自分の地位を危うくさせるものだったと、自覚させてやるのだ。証拠なんていくらでもある。

けれどその前に、清月の潔白を証明しなければ。

学校側は騒ぎを大きくしたくないようで、今のところ警察が出てきていないが、それも時間の問題と言えた。だから、それを待ってもよかったのだが―――清月が、やめさせられてからじゃ遅いのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ