さわがしい家電たち(ショートショート41)
最近の家電はよくしゃべる。
これはコンピューターが内臓されているからだ。
さて、とあるマンション。
このマンションの一室に向かって、住人の手の中のスマホから電波が飛んだ。
今の世の中、なんとも便利になったものだ。こうして会社帰りの電車にいながら、簡単に家電をコントロールできるのだから……。
まず、玄関の電灯がついた。つづいて居間のエアコンがうなり出す。
ポットと炊飯器にスイッチが入り、レンジに乗ったナベの味噌汁が温まる。その湯気を感知し、レンジフードも作動する。
さらには、お湯がバスタブに注がれ始めた。
こうして――。
住人が我が家に着いたころには、たいがいのことが快適な環境になっていることだろう。
家電たちのおしゃべりが始まった。
「もうすぐ、ご主人様のお帰りだ。早いとこ、二十八度にしなくちゃあ」
エアコンがブンブンと暖かい風を吹き出す。
「ほら、もう沸いちゃった」
こちらはポット。
「わたしはあと二十分かかるわ」
炊飯器がうらやましそうな声をあげる。
「ワシは替えの紙パンツを二枚持っておる」
レンジフードが自慢した。
「オレは転がるクツをはいてるんだ」
冷蔵庫も負けじと言う。
「ご主人様ー、いつでも入れますよー」
この叫び声は浴室からである。
「ねえ、ねえ、聞いてよ。あたしの美しい歌声を」
炊飯器が、炊飯完了の合図――夕焼け小焼けを歌い始めた。
家電たち、それぞれが勝手にしゃべる。
テレビ、ビデオ、電子レンジ、洗濯機、はたまたトイレの便座までもが……。
みながいっせいにしゃべる。
なにを話しているのかまったくわからない。
ガヤガヤと、さわがしくなる一方だった。
――あー、うるさくてかなわん。
キッチンの片隅にいたヒューズボックスは、このときすでにガマンの限界にあった。
そして。
ついにぶち切れた。
いっしゅんにして、家電たちのおしゃべりは終わったのだった。