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たまたまスキル「剣聖」が取れたからそれだけ持って異世界転生した件ですが何か?

作者: 超電児巻島

もしもあまりに剣聖っぽくないじゃん!とか思った人は感想欄の方で苦情等を受け付けていますw。

特にそうは思わなくてもお気軽に感想くださいw。






「二人とも、俺の後ろでじっとしてろ!」



 そう言ってユージは自らのハーレム要員二名を背に庇って剣を構えた。


「なんだコイツ…、むちゃくちゃ強ェーぞ!?」

「女は無視しろ、先ずは野郎を全力で叩く、いいな?!」

「つーかアイツ魔法が効かないんだけどあたしはどうしたらいいのよッ?!」

破魔ブレイクマジックの剣を使ってやがるんだ。お前はみんなのサポートに回れ、行くぞッ!」



「「「応ッ!!!」」」



 敵の前衛戦士3名がユージを囲むように飛び出した、素早い動きだ。それでいて同時攻撃を念頭に入れ、バッチリ歩調を合わせてもいる。


 しかしそれに対応してユージも動いた。

 背後の二人に後ろに付けと言っておきながら、それを置き去りにして敵へと突っ込む。


「ちょっ…、ユージくん?!」


 まあ相手が「ユージ以外は後回し」と言ってるんだから多分大丈夫と見たのだろう。敵を騙すならまず味方から、とりあえずは味方の意表を突く事には成功したと言える?。


 ちなみにこの時のユージの動きは無意識だった。

 いや、正確にはスキル『剣聖』の直感がそうさせたのだろう。ユージは一番左端の戦士目掛けて走った。


 ユージ自らが左端の戦士に向かって移動する事で当然その距離は縮まる。そして相対的に他の戦士との距離にばらつきが生まれる。これで敵の同時攻撃のタイミングにズレが生まれる。

 もちろんはたから見たらそんなのはほんの一瞬のタイムラグでしかないが、剣聖ユージにとっては紛れもないスキ。

 これは相手がスピード重視で一気に攻めた事が裏目に出た。時間を掛けてじっくり間合いを詰めてユージを取り囲めばこうはならなかっただろう。


 ユージが向かった左端の若い軽戦士との接触、それは一撃であった。


 その軽戦士が、慌てて身体強化を掛けてユージを攻撃する。

 一方ユージには『剣聖』以外の強化スキルは無い。

 だがすれ違い様、互いに交わされた剣撃は一方的に軽戦士だけが血を撒き散らす結果となった。


「グッ…!?」


 高速ですれ違いざまに斬り合った一撃。しかしユージは相手の神速の一刀を、初動から読んでいた。

 身体強化で加速した攻撃は単調で直線的にならざるを得ない(※と言っても圧倒的なスピードを理屈通りにねじ伏せるのはただ事ではないが)。

 ユージはその一刀を倒れる様に身を投げ出して紙一重で躱すと、左手で地を付き、伸ばした右手で剣を閃かせた。


 ユージの剣が蛇の如くうねり、軽戦士の薄いグローブごと親指を斬り飛ばす。


 軽戦士が剣を落とし、血の滴る右手を抑えた。


 相手の指を狙って斬り落とすなんてかなり精度の高い技術が必要だ。でも敵の体を斬るより伸ばした手の方が距離的に近い。しかもこれでまともに剣は握れない、無力化するだけならこれで十分だ。


「なッッ…!?」


 残りの戦士2人が声を上げて殺到する。しかしユージはそのまま走り抜けて後衛の魔法使いへと突き進んだ。


「させるかっ!」


 一方、ユージに標的とされた魔法使いは狼狽えた。まさかこんなにあっさり前衛が突破されるとは思ってもみなかったのだ。

 こんな近距離で速効性の魔法が唱えられるなら、魔法使いにパーティーなど要らない。

 ただ味方がいち早く駆け付けてくれるのを願いつつ、魔法使いは呆然と立ち竦んだ。


 しかし魔法使いの混乱を確認したユージは、突然その身を翻した。

 急に方向を変え反転すると、背後に迫る剣士を迎え撃った。ユージはまるで背中に目があるかの様に躊躇なく剣を振るった。


 なにっ!?。


 不意の反転攻撃に、ユージの背後にいた剣士は驚いた。まさかここで振り返るとは思わなかったのだ。もはや完全に先手を取られ、いい様に振り回されていると言って良いだろう。

 しかし後手に回った愚痴を溢してるヒマは無い。剣士は迷わずスキルを使った。


 スキル『転進』。


 その物理法則を無視したステップでユージの撹乱を狙う。


 悔しい事に、今のところ男たちはユージに好き勝手されていた。

 一見するとユージは少年にも見える若造だが、見た目に反しユージはかなり戦い慣れしている様だ。(確かに若くても時々こう言う奴はいる!)


 だから剣士はスキルを惜しみ無く先出しした。


 手練れ相手に受けに回ると、簡単にこちらの長所を封じられて追い詰められてしまう。後手に回るのはマズい、そう直感した剣士は、出来る限り先手先手で動く事にしたのであった。

 そしてスキル使用で少なからず体力の消費を感じながらも、剣士はさらに続けてスキルを使用した。


 スキルの連続使用!。


 たった一回の目眩ましくらいでは奪われた主導権は取り返せない。

 正直焦りはあるが、出し惜しみして勝てる相手では無い、そう判断したのだ。


 剣士は無理な体勢からあり得ない方向転換でユージの前から消えた。

 剣士が完全にユージの側面に回り込む。

 そして剣士は『転進』した勢いを上乗せして剣をユージに叩き付けた。


 瞬間移動にも似たトリックプレイからの一撃だ。


 しかしそれを視界の片隅に捉えたユージは、片手で剣を閃かせ簡単に受け止めた。

 吸い込まれる様に両者の剣身が交錯し、ユージの剣が力負けする。が、すかさず左手を片刃の背に添えて衝撃を受け止めると、身を捻って一撃を受け流した。


 ユージがふわりと後方へと逃れる。


 嘘だろ…?!。


 それを見た剣士の精神的ダメージは大きかった。


 俺の全力の奇襲攻撃で体勢を崩すどころか、剣舞みたいに受け流すとかあり得ないだろ?!。せめて傷一つくらい作れよな!。


 そんな剣士の突っ込みも空しく、ユージが間を置かず距離を詰めて来た。

 ユージの後ろには前衛最後の3人目、重戦士が迫っていたのだ、そんなの知ったこっちゃない。


 とは言え、状況は男たちにとって挟み撃ちが可能な絶好のチャンスでもあった。

 だが自信を持って繰り出した攻撃をあっさり躱されては、個人主義の強い剣士の士気は戻らなかった。


 つーかコイツを斬れる気がしねえんだけど…?。


 剣士はもはや原始的な生存本能でのみユージの攻撃に抵抗した。

 だが純粋な剣技勝負となると圧倒的に分が悪い。剣士はたった数撃で追い詰められると、なす術なく首筋を斬られて沈んだ。


 あ、俺死んだわ…。(剣士)


 一方ユージは「ようやくこれで二人撃破だぜ」と一息入れた。そして思惑通り一番足の遅い重戦士を迎え撃とうとしたその時…。


「テメエらッ、動くんじゃねえッ!」


 ユージたちの後方で男の大声が轟いた。


 ユージがチラ見すると、なんと仲間の女の子一人が捕まって短剣を突きつけられていた。


(あるんだ…、こんなマンガみたいな展開w)


 相手はユージに指を斬り落とされた男だ。

 メインの剣は持てないが短剣くらいなら逆の手で扱えるのだろう。どうやらプライドもかなぐり捨てて、ゲスさ丸出しのテンプレ小細工を選択したようだ。

 一応人質を免れたもう一人の女の子が、彼女を取り戻そうと身構えている。(うん、ニナちゃんガンバれ!)


 ちなみにユージがその脅しに反応する素振りは一切無かった。


 つーか今時そんなアホらしい脅しが通用するとでも思っているのだろうか?。ユージはとりあえず聞こえなかった事にして、目の前の敵に専念した。

 正直ユージとしてはそんなこけ威しより目の前の相手、重戦士の方が厄介だった。


 と言うのもこの重戦士の防御力(鎧)がむちゃくちゃ硬かったのだ。


 体の前面を隠す大盾と、要所をきっちり覆った鎧。

 しかも重戦士は味方二人が早々に負けた事で完全に警戒してしまっていた。それ故に、さらに防御主体の戦いをするのだから超やりにくい。せめてもう少し積極的に攻撃してくれればユージもスキを突けるのだが…。


 そしてその重戦士はユージを剣技で圧倒する事をすでに諦めていた。

 つまり無闇に手は出さず、体格差を活かして間合いを詰めて押し潰す。そんな「勝てば良い」と言う泥臭い力勝負に持ち込もうとしていたのだ。


 まあ何しろ二人の体格差は大きい。

 ユージは平均的な日本人体型だが、重戦士はかなりの巨漢だった。確かに掴み合いになれば剣技なんか全くの無意味、力が物を言う事になるだろう。

 とは言え、現実的に軽装のユージが重戦士にスピードで劣る要素は皆無だ。ユージがそう望まない限りそんな泥臭い展開にはならない。

 じゃあ何故そんな半端な戦術を重戦士が選択するのか?、それは重戦士の背後で敵の魔法使いが何らかの呪文を詠唱していたからだ。

 一体何の魔法だかは知らないが、その魔法が完成すれば一気に形勢逆転となる可能性は低くない。


「オイお前!、コイツが殺されてもいいのかッ?、剣を捨てろォォ!」


 背後から男の遠吠えが届くが、ユージと重戦士は気にも掛けずに駆け引きを続けた。

 ちなみにこの重戦士は、人質を盾にどうこうするつもりはあまり無さそうだった。もしもそれでユージから動揺を引き出せたらラッキー、それくらいの感じだ。


「オイゴラァ、聞いてんのかテメエェッ、この女殺すぞマジでぇぇ!」


 とは言え、ユージも彼女らの事を心配してない訳ではない。しかし元はと言えばこの男たちも、ちょっとかわいい女の子を連れた下位パーティーに少しちょっかいを掛けてみる、くらいのノリだったのだ。そんな奴が目当ての女の子を真っ先に殺す筈がない。もし殺すつもりならもうとっくにやってる筈だ、その時間はいくらでもあった。


 ところでこの時すでにユージは重戦士を倒す事を一旦諦めていた。標的を背後の魔法使いに切り替えていたのだ。

 なのだが、重戦士は上手く立ち回ってユージの行く手を阻んだ。


 こうなるとユージにはちょっと手が出ない。


 スキル『剣聖』しか持ってないユージは、力も体力も凡庸で魔法も使えない。故にこれだけ硬い防御だと、無理やり突破する手段を持ち合わせていないのだw。


「聞けよ人の話をよぉぉぉ。

 って、ぐわっ、テメッこのアマッ…!」


 と、その時ユージの後方で動きがあった。


 犯人と人質との間で何らかの進展があった様だw。

 ユージがそちらに目を向ける事はなかったが、かなりドタバタとレベルの低そうな気配だけが伝わって来る。

「みんな何とか上手くやってくれ!」とりあえずそうユージは心の中で祈ったと言うw。


 そんな感じでドタバタ劇が終演を迎えつつある一方、ユージたちにもクライマックスに近い動きがあった。



 よし行け【蜘蛛糸】!。



 魔法使いの詠唱が終了し、魔法が発動された。


 魔法の禍々しい発動光が飛び散ると、呪文の効果が波及した。

 魔法使いの足下、その痩せた地面をひび割る様な網の目が広がる。

 それは静かに大地を侵略し、重戦士そしてユージの足下を埋め尽くした。


 いや、ユージはその効果範囲から逃れるべく速やかに後退した。


 お〜っと!。


 放射状に広がる【蜘蛛糸】の効果。それを後方に飛んで回避しようとしたユージ。だがそれに待ったを掛けた奴がいた。


『来い!!!』


 重戦士が野太い声でユージを招き寄せた。スキル『挑発』だ。


「え………?」


 まさかの『挑発』されたユージは、意に反して前方に飛び込んでしまう。

 まさに注文通り重戦士の目の前だ。

 当然の事ながら【蜘蛛糸】が敷き詰められた地面の上に、両足がべったり張り付く…。


 ガーーーン…。

 モロ相手の戦略に引っ掛かっちまった…。

 つーかなんだこの魔法は?、微妙に嫌な魔法だな!。地味だし…。


 orz的にヘコむユージに対し、重戦士がベリベリと音を立てて一歩踏み出す。

 もちろん重戦士も蜘蛛糸の粘着力の支配下にはある。だがあらかじめ対策があるのか、単なる馬鹿力なのか?あまり蜘蛛糸の妨害を苦にした様子は無い。


 それにしても…。


 ユージはいかにも「してやったり」な表情で剣を振り上げた重戦士を見て思った。


 もしかしてこれが全力なのか?。

 敵はこれで全てのカードを切り終えたのだろうか?。


 見れば敵の魔法使いはもうすでにお疲れのご様子。

 杖にすがる様にプルプル立つ姿は、もはや全力出し切った感ハンパない。(ま、序盤で結構無駄に魔法乱発してたからなコイツ…)


 ユージは、目の前で大剣を振り下ろす重戦士を冷静に眺めた。

 その重戦士の動きはこれまでとは違い、完全に攻撃重視に切り替わっていた。大盾もむしろ振りかぶる際のバランサーとして目一杯振り回してさえいる。


 じゃあこれがホントにホントの全力なんだ?。


 ユージは地面に突き刺した破魔の剣「葱丸ねぎまる」を引っこ抜いた。(ネギ収穫とか言うな…)

 なんだかんだ言って速攻で地面に突き刺し、これでいち早く魔法の中和を計っていたのだ。


 しかし、正直もうちょっとヤバい奥の手あるかも?とか警戒したが、意外と無かったか?。でもまあ現実ってそんなもんだよな…。


 一方重戦士は、ユージが破魔の剣で自分の足元を中和していた事は看破していた。

 とは言えユージが確保する足場などほんの僅か50センチ四方くらい、他に逃げ場はない。

 それを見透かした重戦士がユージの体のど真ん中、腰目掛けて強烈に斬り付けた。


 この一撃を受け止めるのはユージの体格ではほぼ不可能。しかしかと言って避けようとすれば安全地帯から出るしかない。どちらを選択したとしても確保した足場からの退去は不可避だ。


「オラァァァッ!!!」


 だが剣聖ユージを戦術的な二択で追い込む事は不可能だった。


 ユージの肩口から斬り下ろされた一撃。それをユージは手を伸ばして剣の根本で受けた。とは言えそれは当然受け止められる物ではない。なので無理に逆らわず、ほんの少しだけ剣撃の軌道を逸らすに留める。そうしながらその迫る剣圧を足掛かりにして、来たる剣撃の軌道から体を引き抜いた。


 宙に浮くユージの体。


 その下を、重戦士の一撃がユージの体ギリギリを掠めて通り過ぎた。

 標的を失った剣が地面を激しく叩く。

 ユージが攻撃を受けると見た重戦士は、予想外の手応えに体勢を崩した。


 気が付けば、重戦士の剣の上にユージが立っていた。


 振り切られた剣の上に立つユージの姿、それはほんの一瞬であった。


「……ッ!?」


 重戦士は慌てて剣を引き抜きつつ大盾で殴り付けた。

 が、その前にユージは愛剣「葱丸」を一閃させ、重戦士の兜の隙間に突きを入れる。そして迫る大盾を足裏で蹴り、それを踏み台にさらに重戦士の頭上へと飛んだ。


 片目を突かれた重戦士は、その衝撃でユージを見失う。

 振り回した大盾も受け流され、バランスを崩して体を泳がせた。


 と、その重戦士の背中に衝撃が落ちる。


 重戦士の頭上から、ユージが剣の切っ先を真下に向けて降下したのだ。

 前面に比べて明らかに隙間の多い鎧の後背部へ、破魔の剣が深々と突き刺さった。


 よし、決まった!。


 手応えを感じたユージ。だが、重戦士が即座に反応したのには驚いた。


「グッ…ゥウオオオオオッ!」


 剣を捨て、大盾を振り回してユージを捕らえようとする重戦士。だがその動きは明らかに盲滅法なランダム攻撃だった。

 流石にそんな苦し紛れが通用する訳もなく、難なく退避するユージだが、まだ動けるのか?!。


 と思ったら、すぐに倒れた…。


 重戦士は、急に糸が切れたかの様に崩れ落ちた。

 ピクリとも動かない。

 もしこれが演技だとしたら下手クソと言われかねないくらいに不自然な倒れ方だ。

 とは言え致命傷は間違いないので放置でいいだろう。無理に止めを刺しに近付く必要もない。どうせすぐに死ぬ筈だ。


 ここでようやくユージは周囲を見回した。


 例の魔法使いは呆然とその場に座り込んでいた。

 つーか逃げないんだ?。

 そして人質騒ぎを起こした手負いの軽戦士だが…、ボコスカにタコ殴りにされて転がっていた。

 時折ピクピク痙攣してる所を見るとまだ死んではいなさそう?。


 見た目はか弱そうな女の子二人だが、彼女らもこれで冒険者の端くれ。ハードな未開領域探索にちゃんと付いて来れるだけの体力は持ってる。二人掛かりなら手負いの男一匹くらい何とか出来てしまったようだ。



―ふう、ようやくこれで一段落したな?。



 だが疲れた体に鞭打ち、ユージは【蜘蛛糸】の中をゆっくり歩いた。

 完全に心折れてガタガタ震えてる女魔法使いだが放置する訳にはいかない。


 ユージが速やかに女魔法使いを拘束すると、背後から足音が聞こえた。

 その気配は約二名、もちろん言わずとも知れたユージのパーティーメンバーだ。


「ヒドいよユージくんっ、私たちを見捨てるなんて!」


 メンバーの一人、まだ見習い剣士のニナリーサが凄い剣幕でユージに詰め寄った。


「ごっ、ごめん。でも見捨てる気なんか無かったよ?、ただそっちまで手が足りなかったんだよ、ホントだよ?!」


「ウソっ!。完全に私たちの事無視してたじゃん。チヨコが殺されたらどうするつもりだったの?!」


 ニナリーサが人質に取られたもう一人のメンバー、チヨコの袖を引き寄せた。

 そのチヨコが瞳をウルウルさせてユージを見つめる。


「ああっもうチヨコちゃん無事で良かったよ〜!」


 そう言うとユージはチヨコを抱きしめた。


 ま、実際のところチヨコは普通にケガしたので、治癒魔法で治療済みだったりする。ただチヨコの治癒魔法はかなり優秀なので大抵の傷は跡形もなく治ってしまう(自前で治した)。

 そして、こうして本気で心配されて抱きしめられると、やっぱり当人としてはジ〜ンと来てしまう。


「あっん、やだ…」


 多少の気恥ずかしさもありながら、ユージの愛情表現を嬉しく思うチヨコ。


「ごめんねチヨコちゃん…。

 ただあそこは人質を取られても相手にしちゃダメな所なんだ。

 目的は人質をどうこうする事じゃなく俺の武装解除、武力低下が狙いなんだから。そしてそれを許したら結局何の苦労もなく俺たちを好きにしてしまえる。だからああするしか無かったんだ…」


「ううん、わかってる。ユージくんは間違ってないよ、わたし信じてたもん!」


 二人は抱き合いながら、唇が触れるほどの近さで見つめ合った。


 そう、それはまさに愛し合う恋人同士の図。


 だがそれを横っちょから眺めるニナリーサはショックだった。

 だってチヨコを直接助けたのは主にニナだよ?、ユージじゃない。なのに何でお姫様の危機を救った王子様みたいな展開で二人見つめ合ってるんですかぁ?。


 ズルいよっ、私もしたい!。(←お前もかよ?)


 なので、下手したらこの場で乳繰り合い兼ねない二人の間を、ニナは冷静に引き裂く事にした。


「ハイハイ、二人ともそれくらいにしとこ?。いくら低レベル領域とは言ってもここは安全地帯じゃないのよ?、そう言う事は帰ってからにしましょうねえ?」


 ニナはなるべく内心の葛藤を表に出さないようクールに言い放った。

 するとその状況に気付いたチヨコが恥ずかしそうに、そして遠慮がちにユージから距離を取る。


 あっ、チヨコちゃん?。


 だが、すでに脳内をピンク一色にしていたユージは、チヨコのやわらかい体との別れを嘆いた。(※特に大きめの胸を)


 フフン、これでよしっとw。(←ニナ)


「あ、でもニナも良くやったね?、結構使えるようになったじゃん!(剣が)」


 と、ここで不意にユージが後ろからニナに抱き付いた。

 人肌恋しくなったユージが、今度はニナ成分を補充しようとしたのだ。


「ちょっ、いきなり…、もうっ!。

 だいたいユージくん私が頑張った所なんて見てないでしょっ?!」


 口ではそう言いつつも、表情は嬉しそうなニナリーサw。


「いや、実際に見てなくても斬り口見れば分かるよ。かなり深く斬れてるから結構人を斬るのに慣れてきたんじゃない?」


「え、ホント?。

 …うん、そうだね、確かに人斬るのは抵抗無くなったかも?」


 異世界ならではの物騒な話でイチャラブするユージとニナ。

 一方、弾かれてポツ〜ンとするチヨコの気持ちが徐々に冷めて常温を下回る。


 ううん、別に嫉妬なんてしてないよ?、こんなのただのスキンシップだし。

 剣の師匠であるユージくんが、見習い剣士のニナちゃんに教えるのは特におかしな事じゃない。


「ところでさ…!」


 ただ、いくら低レベル領域とは言ってもやっぱりここは安全地帯じゃないんだから、イチャつくのは帰ってからにしないとね!。


「そんな事よりこの魔法使いさんどうするの?」


 チヨコは拘束されてムグムグ言ってる女魔法使いを見下ろして言った。


 その女魔法使いは口に猿轡を噛まされ、両手両足をガッチリ完全に縛られている。

 ぶっちゃけなんか凌辱エロ的な雰囲気しかしないのだが…、どうすんのコレ?。


 確かに…。

 言われてみればニナリーサもその違和感にうすうす気づいてはいた。なのでいち早く恋愛モードから復旧したニナがユージを振り向く。


「なんで殺さなかったの?」


 その一言に地面に転がる女魔法使いがピクリと震えた。


「い、いやぁ、契約魔法で隷属化しようかなーと思ってさ」


 またもや女魔法使いがビクッと震える。


「え…、もしかして、せ、性奴隷に?」


(女魔法使いビクッ!)


「ちっ、違うよっ!、コイツ結構魔法使えるからパーティー強化にどうかな?って…」


 チヨコとニナがジト〜っとした疑惑の目でユージを眺める。


(ユージ「ギク………」)


 と言うのもこの女魔法使い、良く見たら結構美人だったのだ。なーんかスケベな思惑がありそうな、そんな女の勘が囁くのであった。

 何しろただでさえ既に一夫二妻な状況だ。当然彼女らもこれ以上ハーレムメンバーが増える事を危惧していた。



((……………))←ジト目



「いっいやいやいや!。だってさあ、ウチはどうしても女の子がいるから変な男をパーティーに加えるのは怖いじゃん?、たとえ奴隷でもさ?。

 だから新規加入が女性になるのはしょうがないっしょっ?。仕方なくなくない?!」


「んー、まあそうだけど、それは確かに仕方ないかも知れないね。でもそれならこの女に手を出す事は無いんだよね?」


「……ぇ?」


「ちょっと?、「ぇ?」って何よ!」

「ほらっ、絶対手ぇ出す気じゃない!」


「だっ、出さないよ?。そそんな訳ないし、考え過ぎだし!。俺はただこのパーティーの事を考えてですね…」(←何故か大汗)


「んーどう思う、チヨコちゃん?」

「なーんか信用ならないなぁ……(大汗かいてるし)」

「だよねぇ…」


「そ、それはヒデェよ!。そんな想像でモノ言ったらダメでしょっ?。そこは信じよっ?、勝手に想像してないで信じようよこの俺を!」


「うん…、そだね。私の親友のランちゃんに手を出してごめんね?」

「あ〜、この前の宿屋のお姉さんと深夜に逢い引きしてごめん?」


「ぅっ…ぅぅおおおおおっ、すんません!。ランちゃんの事はそろそろ許して貰えませんか?!。それから宿屋のお姉さんとの事はバレてたんですね?、ホントーに申し訳ございませんっ!。

 確かにわたくしをお疑いになる気持ちは良ぉく分かります。ただ、お二人を愛する気持ちに嘘偽りはございません。どうか寛大なお心で何卒お許しくださりますようお願い申し上げる所存でございますっっ!!!」


 ユージに対し静かなる怒気を孕ませながら、互いに視線を交わすチヨコとニナリーサ。


 こうしていつモンスターが襲って来てもおかしくない未開領域で、ちょっとハーレムなカップルの公開浮気討論会が始まるのであった。

 だがそんな犬も食わない痴話喧嘩に、限りある貴重な字数を浪費する訳にはいきません。ここからは非公開部分とさせて頂きますw。



 え?、ちょっ、ちょっと待って?。

 くっ、苦しい、苦しいよ!。

 どーでもいいから、早くこの紐を解いてよ!。もう色々とヤバいんですけどぉぉ〜?!。


 男女三人の不毛な議論の傍らで、震えて転がる女魔法使いが一人。(※なんか漏れそうらしい)


 彼女だけがこのグダグダな愛と憎しみの行く末を知っている、のかも知れない…w。





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