序章
主要登場人物(カッコ内の数字は2059年7月1日現在の年齢)
劇団まほろば一座
山田桂介(28)……劇団主宰(座長)。Salty DOGメンバー達と同じ高校出身。
川田智之(28)……副座長。桂介とは高校時代からの付き合い。
遠藤香織(22)……まほろば一座の美人看板女優。周りからはヒメ(姫)と呼ばれている。
インディーズバンド Salty DOG
東条英秋(29)……ボーカル、ギターを担当。作詞作曲を手がける。
坂井 誠(28)……ギター、ラップ担当。
河西一郎(28)……ベース担当。
東 茂(28)……ドラム担当。
「誰?」
私は私へ問いかけた。
「誰なの?」
可愛い可愛いと持て囃されていた私の少女時代。やがて少女から女へと身体が変化した頃には綺麗だと形容されるようになっていた。
「誰?」
私は香織。そう名付けられた。幸か不幸か何処へ行っても織姫などとあだ名されてきた私。
「だから誰?」
この目の前に映る私のようで私でない私が私は嫌いだった。
「消えろ」
私は私を消した――
『自我同一性』
Song by The Hackers Strike
歪んでさざめく臨界の間際
ヤバいくらい転げる欲求
おもむろに自分が駆け回る
紛い物に満たされた生活
かきむしるだけの衝動
真っ赤な蝋燭とろけ落ちて
見初められた本能 這い上がっていく
だんだん霞む あたしのそのもの
だんだん無くなる あなた自身
息果てる瞬間にしか見えないもの
果てなく映る迷い子の残像
鏡よ鏡 教えてくれる? あたしの在処 教えて欲しいの
鏡よ鏡 誰も知らない あたし自身 本当の私 本当の私
*
私の父は裁判官をやっている。だから我が家は定期的に日本各地を転々としていた。
私の本籍地は山口県萩市。でも出生地は愛知県名古屋市となっている。幼い私が母の手にあった私のID記録を目にした時に知った。
「なごやってどこ?」
「ここよ」
幼い私の質問に母がタブレットPCに地図を表示させ教えてくれた。
「そこにはもう行かないの?」
「そうね多分。私達では決められないから」
「そうなの?」
「そうよ。お父さんのお仕事の都合だから」
「じゃあしかたないね」
「行ってみたい? 香織?」
「う~ん…… 行ってみたい!」
「そうよね、生まれた所だものね」
私の幼いころの小さな望みは父の仕事都合で叶った。