異世界納涼床
翌日、芝と枯山水に水を撒いた後、館に戻ると何故か皆が慌しかった。不思議に思いつつも食堂に向かう途中、物凄い形相をしたビルさんに拉致されて執務室に連れて行かれた。
この時点で身の危険を感じた俺はエスパーかもしれん。
「説明してもらいましょう」
いきなり説明しろと言われても、何も聞いていない俺は訳が分からない。
「何のですか?」
俺が尋ねるとビルさんが今まで見たことがない丁寧な封筒に入った手紙を机の上に置いた。机の上の手紙を手に持って内容を見る。
「……ビルさん大変です」
「何ですか?」
「文字が読めません」
ガタン!
珍しくビルさんがその場でズッコケる。だけど、教わってないものは仕方が無い、あきらメロン。ああ久々にメロンが食べたい。
「……すっかり忘れていました。アル君ももう直ぐ10歳になるし今度勉強しましょう。
それでこの手紙の内容ですが、明日、この国の第二王女ビクトリア様がこの館に来られるそうです」
「ほへ?…………御館様が居ないのに?何しに?」
「……庭を見てお茶を御所望です」
「…………」
もしかしてビクトリアなんて偉そうな名前の王女の正体は、昨日のあの小娘か?……俺を殺す口実を作るつもりだな!
「無言ということは何かを知っていますね。全て聞かせてください」
「…………怒らない?」
ピクッ
あ、既に怒ってる。
「いいから今すぐ話なさい!」
「ひゃい!」
こうして昨日のゴスロリ少女との話をビルさんに語った。
最初、怒っていたビルさんが段々青ざめていく様子は何気に面白かったけど、考えたら全て俺に跳ね返るんだよね、もう許して。
「……大変な事をしでかしましたね」
「やっぱり首?」
そっとビルさんを伺うように覗くと、俺をジト目で見ながら溜息を吐いた。
「……個人的には感情に任せて首にしたいところですが、それは下策でしょう。
幸い王女様もご機嫌を損ねている訳ではなさそうですし。
但し、明日は呼ばれない限り庭には出ないように、君が何かをするとトラブルが降りかかりそうで油断出来ません」
「りょ……了解であります」
俺の運命も明日決まるのか、第二の人生は儚い人生だったな、思い出すのは…やっぱり糞と芝しか思い浮かばねえ。
罪を軽くする為に今日の内に出来る事は無いか?昨日の会話を思い出してみる……あのおっさん、あの日差しで金属鎧は無いわ、いや、違う、そんなことは如何でも良いネタだ。
ん?待て、木陰!そう、木陰で涼をとるもてなしをすればいいんだ!
東の作った森の中にテーブルと椅子を配置すればあのゴスロリ少女も少しはご機嫌が良くなるだろう……タブン。
それにギルバードの肉が言ってた通り、この世界は人口的な森が無いからきっと驚くはずだ!
だけどこの作戦は一人じゃ無理だからビルさんに話をして協力を願おう。
駄目なら、駄目で諦めれば良いし。
「アル君!」
ビルさんに呼ばれて現実に戻る。夢見たいな現実世界だけどな。
「ビルさん面白い案があります」
ピクッ
うひゃぁ、おっかねえ。
「……一応聞きましょう」
こうして俺の案を話したところ、ビルさんも途中から真剣に聞き、良い案だと採用される事になった。
これでチャラな。
「で、問題は平地が無いって事なんだよね」
「如何するんだよ」
俺とウェンツが森の前で頭を抱えた。
何故隣にウェンツが居るかというと、ビルさんに俺の手伝いをしろと命令されたから、そしてウェンツが指名された理由は右目の上に青痣があって人前に出せないから。
青痣の理由は教えてくれなかったけど、如何考えても昨日あの後、エリスさんとのデートがばれてギルバードさんに殴られた以外思いつかない。
ベタでネタ的な展開だけど、どの世界でも娘を守る父親というのは居るらしい、ざまぁ。
まあそんな事は如何でも良くて、俺の作った枯山水は森をイメージしているから、平地なんて作っていない、実際、自然の森に平地なんて無いし。
つまり今から平地を作らないと駄目なんだけど、折角作った苔の大地をぶっ潰すのは、景観が損ねるし、俺のセンスが許さねえ、怒られたら許すけど!
「砂利の上に置こう」
「チョット待て、さっき聞いたけど当日砂利の場所は水を入れるんだろ。そんな所にテーブルを置いたらお姫様が濡れるんじゃないか?」
俺の提案に慌ててウェンツが止めるけど、俺には考えがある。
そう俺が作ろうとしているのは納涼床、京都や大阪にある、川の上に座敷を作って涼を取る方法だ。
理由は前世で糞暑い中ガ○ガ○君ミートソース味を食べながら、納涼床の写真を見て涼しそうと思ったから。
因みに、ミートソースはあたたかい方がいいと思う。
納涼床は確か規制で作るのにかなり面倒くさい審査が必要になってたけど、ここは異世界だからそんなのは関係ない。
ウェンツに俺の考えを説明すると、面白いアイデアだけど作るの俺?俺なのか?と凄く嫌そうな顔をした。
「それで床は如何するんだよ、今から道具屋に行っても館に届くのは明日だぞ」
「倉庫をぶっ壊そう」
倉庫は木造だから調度良いベニヤ板も手に入る。
「はぁ?」
「どうせ明日一日持てば良いんだから、ぶっ壊れなきゃ何でもいいよ」
「だったら、もう使われてない廃馬車が倉庫に眠ってたからそれを使うか?
確か車輪の一部が壊れたついでに新しいのと交換しただけだから他の場所は使えたはず」
にゃるほど、倉庫を壊したらまた後でビルさんに怒られる気がしたから、ウェンツの案に賛成する。
「いいね、ウェンツさんにしては気が利くじゃん、これをエリスさん相手に出来ればなぁ」
「無理!あの人の前に立つと緊張して何も考えられない」
惚気てんじゃねえよ、ギルバードさんに殺されろ。
ウェンツがビルさんに了解を得て馬車を解体して、納涼床を作ることにした。
まず馬車の壊れていない軸を砂利に打ち付け下地を作る。
次に馬車の下の部分が丈夫だったから根太に使えると判断。下地の上に置いて釘を打ち付けた。
この時点でウェンツが根を上げたけど、そんな体力じゃギルバードさんもエリスさんとの付き合いを許すわけが無いな。
「もう無理」
「ほへ?ウェンツさんって手紙書かないの?」
「何だよ、突然」
「いや、さっき本人の前で緊張するとか言ってたから、エリスさんにラブレターの一つでも書いたら如何かなって思ってさ、あと少し頑張れば俺が渡すよ。
俺だったらギルバードさんも油断するしさ」
「それだ!!アル、教えてくれてありがとう!さあ、さっさと終らせよう」
恋に盲目なアホは使いやすい。
根太が安定し、水平なのを何度も確認してから、次に馬車の板張り部分をフローリング床として根太と垂直に重なるように重ねて釘を打つ、その際、フローリング床は少し隙間を開けた。
これで水から出る冷えた空気がフローリングの隙間を通って上に流れ上に居る人たちが涼を取れる寸法だ。
これで完成したと思ったら、最後にウェンツが布で床を擦り始めた。
「ほへ?それ何?」
「ああ、モンスターの皮だよ、皮が荒いからこれで擦ると綺麗になるんだ」
おそらくヤスリの代わりなのだろう。
ふと、下町時代に作った滑り台もこれで擦れば、滑る子供のズボンも擦り切れる事無くケツをむき出しになる事が無かったんじゃないかなと思ったけど、今更である。
話は少し戻って、納涼床をウェンツに任せている間、俺は何をやっていたかというと、芝生を剥がしていた。
俺の様子を覗きに来たビルさんの額には青筋、あの人いつか脳の血管ブチ切れて倒れるんじゃないかな?
芝生を剥がしているのは、砂利道を作る予定だから。
砂利道を作る理由は、枯山水……まあ明日は水を入れるから違うけど、その納涼床までの道を作るつもりだった。
今の庭だと、館から出て芝生があり、庭の奥に枯山水の森がある。
そして納涼床を森の中に作るのだからそこまでの通路を作りたかった。
まあ、別に芝生の上を歩いても問題ないけど、それだと芝生が踏まれて傷つくし、通路を作ることで客人に見せたい場所へと誘導させてベストポイントの景色を見せる事が出来るから地味に通路というのは便利で重要。
作業は簡単、芝生をくねるように剥がしてから、5cmほど掘って砂利を敷き詰めるだけ。
道をくねらせたのは、そっちの方が雅に感じるから。それと草原の中を歩くイメージを持たせたかった。
道が出来たら砂利に土手を作る。土手はドーナツ状の砂利の出入り口に作った。
これで明日、水を注ぐ量が減ると信じたい。
「これで完成だ!」
夕日が照らし、夜になる頃、ようやく納涼床が完成してテーブルと椅子をセットし、ウェンツが嬉しそうに声を上げた。
確かに納涼床の殆どをウェンツがやって俺は監修だけだったから喜んで良いと思う。
「これでお姫様も喜んでくれれば良いんだけどね」
「そうだね」
ぜひ喜んでもらいたい、なにせ俺の命が掛ってるからな。
翌日、館の使用人全員でバケツリレーをして噴水から水を汲み、枯山水に流し込む。
王族が来ると聞いて全員必死の形相でバケツを運んだ結果、何とか元枯山水に水が溜まった。
何となく全員から睨まれている気がしたけど気にしないことにする。
あーあ、折角作った枯山水があのゴスロリ少女で台無しだ……
最後に俺が最終チェックで枝をパチパチ切って準備が整う。
これで後は納涼床の上で、水の流れを見ながら涼しむ……あれ?水の流れ?
「あああああっ!!」
突然俺が大声を上げたことで、近くに居た他の使用人達が驚いているけど、今はそれどころじゃない!
何で、何で、ただの水たまりに納涼床なんて作ってんだ、俺!
納涼床って水が冷たいから涼しいのに、木陰だからといってもこんな夏の暑い日だったら直ぐに温くなるに決まってるじゃん!
うがー!前世で池の作成を全て外部発注にしていたのが仇になったー!!
と、思いっきり焦っている中、ゴスロリ少女が到着したのか使用人達が慌しくなる。
そんな中、魂が抜けで動けない俺をウェンツさんが引っ張って館へと戻された。
作者「なあ、アル、多分突っ込みが入ると思うから最初の名誉は俺が貰うよ。
お前バカ?本当に前世で庭関係の仕事してたの?」
アル「うわあああああ!」
作者「水が流れてないところに納涼床を作るとか聞いて呆れるね」
アル「だって、だって公園の水が冷たかったんだもん!作ってる最中は砂利道を作るのに集中してすっかり忘れてたし」
作者「まあこれで死亡確定だね。無計画なガーデニングは身を滅ぼすか……」
アル「うううっ助けて、作者助けて!」
作者「無理、メタ行動になるから無理。
だけどほら、俺が寝ている間に日刊一位を取ったらしいし…目が覚めたら二位だったけど……
良い所でズバッと終らせるのが名作って奴じゃね?」
アル「嫌ぁぁぁぁぁ!!」
作者「次回、とうとうあのメロディーが読者の脳内に流れる!」