異邦の少年と珍種少女
「何をしておるのじゃ?」
噴水に浸かる俺を見て少女が首を傾げる。
「泥で服が汚れたから水で落としてた。
今日は暑いから水風呂が気持ちいいよ、一緒に入る?」
「止めとくのじゃ」
遠慮する少女を改めて見ると、背中の中程まで伸ばした銀色の髪、目は大きく、瞳はルビーのように紅い。
一瞬アルビノ種かとも思ったけど、アルビノ種ならこんな日差しの中を歩いたら皮膚が火傷するから、恐らく血統だけど珍種か?
服はゴスロリって奴を着ていた。前世で一時期、娘が嵌っていた気味の悪い間接球体人形ってやつが着ていた服に似ている、あの時は娘をカウンセリングに連れて行くか悩んだから良く覚えている。
だけど、少女独特の可愛い幼い顔にその服装は似合って、さらにこの少女は儚いけど不思議な存在感を出していた。
おまけに控えている二人の従者を見ると、女性の従者はスッキリとした顔をした美人で髪はブロンズヘアー、服の代わりに暑い中、鎧を着込んで、いかにも女騎士という格好をしていた。
男性の方はおっさん、髪は黒、以上。
「それで何の質問だっけ?」
「おうそうじゃ、そうじゃ、お主そこで何をしておったのじゃ?それに親はどうしたのじゃ?」
「俺はエンジェル、人は俺を恋のキューピットと言う。今二人の恋愛を生暖かく見守っている最中だ。
因みに親は安月給で王城の守衛として働いている」
ウェンツ上手くやってるかな?如何でもいいけど。
「全く意味が分からないのじゃ。そ、それに親のことはすまんのじゃ」
なんで少女が謝るんだ?俺の父ちゃんが貧乏なのは守衛でも弱いからだぜ。
「おい、少年、そろそろふざけるのを止めないか、この方は……」
「待て、面白いからこのままでよいのじゃ!」
背後に居た女騎士が何かを言おうとしたが、ゴスロリ少女が言葉を遮り、先を言うのを止めた。
「それでお主は地面に何を書いていたのじゃ?」
そう言って既に泥で消えかけている俺が考えた公園のイメージ図を指差した。
「ここの公園って暑いじゃん」
「お前、言葉使いは何とかならんのか?」
俺の言い様におっさんがあきれ返る。
「よいよい、このままの方が堅苦しくのうて妾は好きじゃ」
「ははー……ブクブクブクブク」
畏まって頭を下げたら水の中に頭を突っ込んだ。
ザブン!
「それで先ほどの答えだけど、この公園を涼しくする方法を考えていた」
「……涼しくとな?」
「この公園は、遊歩道の近くに芝生、遠くに木を植える配置をしているけど、それだと遊歩道が暑くて仕方が無いと思う」
「その為に噴水があると思うのじゃが」
「確かに噴水は涼しいかもしれないけど、逆に冬になれば水しぶきが当たり、今度は寒くなる」
「……確かにそれは一理あるのじゃ」
「だとしたらどうすれば快適な公園が出来るか!」
ゴスロリ少女に向けてビシッ!と指を指す。
「ど、どうするのじゃ?」
「まず噴水の代わりに大きな池を作る。そして池の周りに遊歩道を作り、遊歩道の近くには街路樹を配置する。
そうすれば池の水で冷たくなった風、木陰の日光遮断が合わさって体感的に涼しくなること間違い無し!
そして、遊歩道の近くには一定間隔で池に向けてベンチを配置する、そうすれば歩きつかれた人も休むことが出来る。
あと冬に関してだけど、噴水の水飛沫が無いから今よりは間違いなく寒くなる事が無い。
それに池に流す水だが、直接池に流すのではなく、小川を作……」
「ちょっ、ちょっと待つのじゃ」
俺が時を忘れて熱く語っていたらゴスロリ少女が止めに入った。
男女の従者も炎天下立たされてへばっている感じがする、何となく勝った気がした。
「これからが面白いのに」
「いや、待て、お主の熱い思いは伝わったのじゃ」
「ほへ?熱いのはこれからだよ、それに面白いのもこれからだ、話を続けるよ」
「待つのじゃ!」
「はぁ」
仕方が無いから再び噴水に頭を入れて熱中して熱くなった頭を冷やした、ブクブクブク。
「お主、若いのに何でそんなに詳しいのじゃ?」
「そりゃ庭師だからね、あ、違う恋のキューピットだった、いや、その設定面倒くさいからもうイイや、私、とある館の庭師でございます」
「む?その若さでもう見習い奉公に出ているのか?」
「ノン!ノン!ノン!既に見習いは卒業したでござる」
ドヤ!
「本当か?お主、歳は幾つじゃ」
「9歳でちゅ」
「妾と同い年ではないか」
「ふっ天才は辛い」
冗談だけど、
「行動はアホなのにのう……」
「理解されないというのも悲しい」
前世の娘も同じ事を言ってたな、思い出したら涙が出ちゃう。
「それで何処に仕えているのじゃ?」
「えっと確かアットランド伯爵の邸宅だよ」
そう言うと、驚いた後でふんふんと頷いた。
「分かったのじゃ、今度その天才が作った庭というのを見に行くのじゃ。楽しみにしておるぞ」
「何時でもおいで、待ってるよ~」
「はははははっ、今日は面白かった。また会おうぞ」
そういい残してゴスロリ少女が従者二人を連れて去って行った。
「変な小娘……あり?」
…………御館様の家に来る?…………拙くね?
どう考えてもさっきのゴスロリ少女は身分が高かったと思う。
というか、気軽に御館様の家に行くとか言っちゃっているし、もしかして御館様よりも身分が高いんじゃね。
ぬおー!ばれたら絶対にビルさんに怒られる、確実に怒られる、いや、殺される。
軽くて首、重ければ不敬罪で死刑!!如何しよう、如何しよう、如何しよう……もう如何にでもなーれ。
そうだ、忘れよう!今日有った事は皆忘れることにしよう。3,2,1、忘れた。
…………無理だー
その後、頭を抱えてギャーギャー叫んでいたら、公園の管理の人に噴水から追い出された。
「おかえりー」
小モンスター博覧会から出てきたウェンツ達を出口で出迎える。何?ウェンツの浮かれ顔、顔面目掛けてぶん殴りてぇ。
「ア、アル如何したんだ?びしょ濡れじゃないか!」
「風邪引くわ、これで体を拭いて」
エリスさんがハンカチを出したけど首を横に振って断った。
「今日は暑いからこのぐらい濡れてた方が丁度いいよ。それよりモンスターは如何だった?可愛かった?」
「「…………微妙だった」」
俺の質問に二人共、苦虫を噛み潰した顔で唸っていた。
「やっぱりゴブリンをお洒落にしても、可愛くは無いわよね」
「そうだな……ピンクのスライムも微妙だったし、ボーンラビットも見た目は可愛いけど、近寄ると金網に何度も体当たりして襲って来たし」
「あれは怖かったわね」
どうやら「小」という言葉に騙されたらしい、展示会から出てきた回り人達もやっぱり微妙な顔をしていた。
その後、博覧会の内容を聞きながら公園を出る。今度、俺も一人でモンスターという名のお化け屋敷に行こうと思う。
ウェンツとエリスさんから食事に誘われたけど、それは断ってあの小娘が来たら如何しようという不安を抱えながら、一人、館へと帰った。
アル「今回ガーデニングのネタが無いね」
作者「そうだね、だったらプール行くか?プール」
アル「……実は泳げないんだ」
作者「ださ!」
アル「ブクブクブクブク」