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不自然公園

夜にもう一話UP

 東側の庭の造園も無事に終了して八月も中程に差掛かり、そろそろ残暑がちらほらと見え隠れする頃。

 何故かウェンツさんに呼び出されてエリスさんとのデートに付き合う羽目になっていた。


 え?北側は如何したかって?こんな糞暑い中やっていられるか、秋にやるよ!


「何で俺が一緒なんだよ、折角のデートだし二人で行けば良いじゃないか」

「そう言わないでくれよ、ギルバードさんの壁が高くて二人だけで誘うのは無理だったんだ」


 ウェンツが俺に頭を下げて謝った、もうコイツに「さん」付けは要らねえ。

 やはりギルバードさんは巨大な肉壁となって立ち塞がったか……今のウェンツじゃどう足掻いても勝てないだろう……


「まあいいよ、自然公園に入ったら俺は途中で抜けるから。後は二人で楽しめばいいさ」

「本当、悪い。このお礼は絶対返す」

「はぁ」


 待ち合わせ場所に行くと既にエリスさんが来ていて、こっちに向かって手を振っていた。


「ごめん、おまたせー」

「ううん、今来たところ」


 俺が謝ると、エリスさんがにっこりと笑った。

 彼女は今日のためにお洒落をしてきたらしい。

 白のワンピースの上に淡いピンク色をした夏用のカーデガンを着ていて、茶色の髪の毛は麦藁帽子を被って隠している。

 その麦藁帽子も向日葵の生花を挿したお洒落な帽子だった。


「ここ、服装を褒めるトコ!」


 エリスさんに見とれているウェンツのケツを撫でて正気に戻したあと、小声で囁く。


「だからケツを撫でるな!

 エ、エリス!何時も可愛いけど今日は特別に可愛いね」


 バカタレ、ただ褒めるんじゃなくて、比喩を使って褒めろ!他の人より綺麗だよとか、可愛いよとか言えば相手は特別だと思い込むんだ。

 俺は前世の時、それで嫁を落としたんだから間違いない!……結婚後少し後悔したけどな……


「え?ありがとう……」


 俺の突っ込みを他所に、ウェンツに褒められたエリスさんが顔を赤らめて下を向いた。これは脈ありか?モゲロ。


 三人揃って自然公園に向かう、何故か真ん中に俺が居た、何故に?

 そして、二人が話す話題は何故か俺の事ばかりだった、俺はネタ扱いか?


「それでアルが勝手に槍を持ち出して地面に穴を空けるのを見てね、ビルさんが物凄い勢いで飛び出して行ったんだ」

「ええっ!それでどうなったの?」


 俺がエアレーションをしていた時の事を話してるけど、人の失敗談をネタにするのは本人の前では止めろ。


「普段怒らないビルさんがアルに一発拳骨を落として怒ったよ。その時のアルの顔を見たら泣きそうで面白かったな」


 いつの間にか俺を呼び捨てにしているし、最初あった頃の初心なウェンツは何処に行った。


「あっははははっ。ところでアル君は何で芝生に穴なんて空けてたの?」

「エアレーションだよ」

「エアレーション?」

「穴を空けて芝生の根っこに空気をいっぱい吸わせることで成長促進するんだ」

「……初めて知ったわ」


 中学校の理科の問題レベルだけど、よくよく考えたらこの世界に学校なんて無いから、知らないのも当然か……


 その後、何故か俺とエリスさんで芝生の育て方の話が盛り上がって、話題についていけないウェンツがションボリしていた、どうしてこうなった?




 糞高い入場料を払って自然公園を目にした第一印象は、自然がねえ。その自然という名前は詐欺か?


 確かに緑はある、石畳の通路の両脇は雑草だらけの芝生、その奥にはイチョウや杉らしき高木も植えてある。

 だけどそれ以上に目に付くのは噴水。ひたすら噴水、ここは噴水ショーの会場か?


「ほへー、噴水が多いいね」

「町の郊外は水が多いのよ、だから夏になるとね、この公園に涼みに来る市民が多いから噴水が多いの」

「なるほどー」


 流石に入園料が高いから金持ちしか来ないと思う。

 俺が住んでいた頃はこことはまるっきり無縁、だって父ちゃん稼ぎ少なかったし。ちなみに下町の夏は糞の香りが充満していた。


「だけどここの公園ってさ、国が管理してるんだよね」

「そうだよ」

「それにしては自然じゃなくね?ただの公園だし、

 百歩譲ったとしてもここの芝生に雑草が多いよね、ちゃんと雑草取りとかして管理しているのかな?」

「うふふ、疑問に思うのも無理ないわ。アル君の作った芝生のほうが異常なのよ」

「ほへ?何で?」

「だって色々な緑の草が生えてるのが普通の芝生よ、アル君が作った一種類の草しか生えてない芝生なんて見たことないわ」


 …………何となく、いや、薄々気が付いていたけど、どうやらこの世界、芝生の定義が前世と違っていたみたいだ。


 前世で芝生といえば、基本1種類、多くても2,3種類、それも混ぜたりはしない。

 だけどこの世界の芝は雑草も含めた草の地面を芝というらしい、俺から言わせりゃ刈り込んだだけの野原だ。


 つまり、俺はこの世界の標準を超えた品質の高い芝を作り上げたということだけど、今から品質を落とすのは今までの努力が水に消えるから、やっぱり今まで通りに芝は育成しようと思う。

 芝のお陰で給料上がったし、うん、これ重要だよね。


「お、あそこが小モンスター展示博覧会だ」


 公園の中を少し歩くとウェンツが俺達が歩く前方を指差した。その先には何か看板が掲げられ、子供連れの家族がワイワイと騒いでいる。

 因みに看板に何が書いてあるかは知らない、だって文字知らねえし。


 さてそろそろ作戦を実行するか……


「エリスさん」


 エリスさんの服を軽く引っ張る。


「ん?アル君どうしたの?」

「ふえぇ、もんしゅたーこわいの、ここでおるしゅばんしてるのー」

「え?」


 俺のセリフにエリスさんが驚き、ウェンツが呆れて小声で「無いわ、これは無いわ」とか小声で呟いているけど、こっちだって中身60過ぎのおっさんが幼児プレイで恥ずかしいんだ、少しは感謝しろ。


「わー、こわいよー」

「ちょっ!アル君!」


 止めるエリスさんを振り切って、両手を上げながら二人から逃げだした。


 ……ふむ、我ながら名演技だ。後は若い二人だけにして、体は子供、心が還暦の俺はのんびりと公園を散歩することにした。




 日差しが強くて木陰に入りたくても通路脇に木が無いから休めない。水を飲まないと熱中症になりそう、日陰プリーズ。


 確かに町に比べれば緑が多いし、噴水から水しぶきが偶に当たるから涼しいかもしれない。だけど木陰を作って休憩する場所ぐらい作れば良いと思う。

 日本と比べて湿気が低い分日差しはダイレクトで来るけど、日陰を作ればそんなには暑くない。

 こっちも金を払ってるんだから、もうちょっとさ、利用客のことを考えて設計して欲しいものだ。


 あまりにも暑いから噴水の跳ね返る水を浴びて涼を取りながら、噴水で濡れた地面を指で絵を書き、自分なりに公園の設計を考える事にした。


 まず木陰をいっぱい作ってその下にベンチを置こう、それだけでも全然違う。

 次に前世だと水撒きもスプリンクラーで楽だけど、この世界じゃ水撒きだけで人件費がぶっ飛ぶから、芝生よりも木を植えたほうが良いかもしれない。


「……じゃ」


 ああそうだ、人口小川を作るのもありだな、森があるから川が出来るのが本来の姿だけど、だったら逆に川から森へと水を与えることは出来ないか?


「お主……じゃ?」


 もし出来るとしたら水圧を利用したスプリンクラー方式かなぁ、配管を土の下に巡らせて一定時間になったら水圧で水を噴射させるとか……うーんそれだと予算がきついかもしれない。


「親……迷子……?」


 ああ、小川は森の中に作りたいな、天然のエアコンにもなるし、あ、天然のエアコンと言ったらやっぱり滝だよね、マイナスイオンが出るらしいからね。でもマイナスイオンって何?


「暑さ……頭……じゃ?」


 そうだ、和庭にするなら噴水よりも池の方がいいな、ボート遊びとかも出来るし。


 …………色々と考えていると先ほどからジャージャージャージャー雑音が聞こえて煩い。


「ジャジャジャジャーン」

「うわっ!なんじゃ!」

「それはこっちのセリフじゃ!人が折角考えているのに集中を…………ってあれ?」


 追い払おうと声のする方に向けて両手を上げて大声で叫ぶと、日傘をさした金持ちそうな10歳ぐらいの女の子が俺の大声で尻餅を付いて倒れていた。

 さらに少女の後ろに従者らしき男女二人の大人が居て俺の突然の行動に驚くと同時に反応する。


「無礼者!!」

「ふぎゃー!」


 バシャーン!


 いきなり少女の後ろに控えて居た女性に突き飛ばされてそのまま噴水に落ちる。

 あ、地下水汲み上げだから凄く冷たい、だけどこのまま死んじゃうのかな。


 もうガーデニングなんて止めようぜ、プール、そうだプール作ろう。

 「異世界転生プールでハーレム」ほら語呂も良いじゃん?水着の姉ちゃんもいるしさ、もうそれにしようぜ。

 ああ、アホな事を考えてたら糞と芝が浮かんで……ウエッ!?


 ザボン!


 走馬灯のように糞と芝が脳裏に浮かび始めたら、ズボンを掴まれて水の中から引っ張り出された。どうやら俺の人生、糞と芝しか無かったらしい。


 状況を確認すると、少女の従者らしき金属の鎧を着た大男に持ち上げられて、プランプランと宙吊りにされている。

 とりあえず一番気になっていることを確認しよう。


「なあ、おっさん」

「おっさん!?」

「金属の鎧なんて着てるけどさ、こんな糞暑い日にそんなの着て辛くねえのか?」

「最初に言うのがそれか!?」


 大男が俺の言った事に驚きつつ、呆れていた。


「あっははははっ。面白い奴よのう、妾も何度も言うておるのじゃがこの男、頑固で脱ごうとせぬのじゃ」


 先ほどからジャージャー言ってたのはこの小娘か。

 何か一目見ただけで高そうな服を着ているけど、貴族の子か?

 まあそれも濡れた地面に尻餅ついたから汚れてるけどね、あれ?俺、不敬罪で死刑?

 どうせ死ぬなら開き直りじゃ!


「そりゃ言い方が駄目なんじゃね?上司から脱げって言われたって、遠慮して脱がないよ」

「それじゃあ何と言えばいいのじゃ?」


 大男の方をチラッと見て指を指し。


「汗臭いから脱げ!」

「「なっ!!」」


 俺のセリフに従者の二人が吃驚する。


「あはははははっ。成る程、確かに良いぞ、それなら効果覿面じゃ」


 俺のセリフに受けたのか、少女が腹を抱えて笑っていた。


「あははっ、ヨハンセンもう下ろしてやれ」

「はっ!」

「ふぎゃ!」


 ヨハンセンと呼ばれた大男が俺を空中で手放した結果、猫が踏まれたような悲鳴を上げて地面に落ちた。


 べちゃ!


 濡れた土の場所にうつ伏せで落とされ、俺の服も泥まみれになる。

 あーあ、これエリスさんとウェンツになんて言い訳しようかな?それに帰ったらビルさんも怒ると思うし、困った。


「それでお主は地面に色々書いて何をしておったのじゃ?それに親はどうしたのじゃ?」

「ちょっと待ってて」


 色々質問してくる少女を止めて、背を向け歩き出す。


「何処に行くのじ……」


 呼び止める少女を無視して、今度は自ら噴水の中に入って服をごしごしと洗って汚れを落とした。

 そして水が気持ちいいからそのまま噴水に肩まで浸かる。


「はー気持ちいい。お待たせ、それで何?」

「「「…………」」」


 俺の様子に三人が唖然として見つめていた。


アル「今回さ、国立の全然自然と関係ない自然公園に来たけどさ、日本の自然公園はこれとは全く違うよね」


作者「法律で決められてるから大丈夫。

 日本の自然公園は国立公園、国定公園と都道府県立自然公園の三つの事で、厳しい審査の元、大臣認定や都道府県の認定があって初めて自然公園って名乗れるんだ。

 もちろん天然の自然であることは当然ながら、認定されてからの管理も厳しく安心して自然を楽しむ事が出来るよ」


アル「良く知ってるね」


作者「今ググッた」


アル「尊敬して損した」

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