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庭園と噴水の相互関係について

 翌日、日の出と共に目が覚める。

 今日から庭師見習いとして仕事を始めるから両頬をパシンと張って気合を入れた。

 庭に出て仕事初めに芝の水撒きをしようとした段階で、ある事に気が付いて体が硬直する。


 …………ゴムホース……何処?


 重要だからもう一度言うね。ゴムホース何処にあるの?


 ……ああ、分かってるよ、水道も蛇口の無いのにゴムホースなんて有るわけ無い、それに生まれてからゴムすら見たこと無い。


 自分でゴムの木でも探して作る?


 作れるか!!


 前世で庭園にゴムの木が欲しいなんて客、日本中探したって何処にも居ねえからゴムの木がどんな木なのか知らねえよ!


 それにゴムの作り方だって知らねえし、何処かの転生者にでも作ってもらえ!きっとその兄貴がコンドームまで作ってくれるぞ。


 ということは、水撒きは井戸の水を毎回汲んで水を撒くの?

 あ、そうだ!確か南側に噴水があったからそこで水を汲めば大丈夫か。


 確か前世でもゴムホースや水道が完備されてない時代のヨーロッパでは、庭の水撒きに噴水の水を使っていたと聞いたことがある。

 だから庭に噴水があるのが当たり前で、金持ちしか庭を持つことが出来ず、美しい庭園を造ることは貴族としての身分の高さを表していると言われていた。

 ちなみにこれは前世の職業から得た知識じゃなくて、中学校の英語の教科書に載っていた。


 ジョウロを持って噴水に向かう、そして噴水の水を汲もうとしたら涸れているのを見てガクッと頭を垂らした。


 おい、噴水!お前の身分の高さは見掛け倒しか?


 「駄目じゃん、水撒き出来ないじゃん。どうすんのさ、毎回井戸水汲んで水を撒けってか?それだけで一日終るよ!」


 ジョウロを投げ捨てて頭を抱えウガーと吠えていたら、俺に気が付いたビルさんがやってきた。


「アル君、どうしたのかな。誰も来てないとはいえ、庭先で叫ぶのは行儀が悪いですよ」

「ほへ?あ、ビルさん!調度良かった、噴水に水が無くて芝生に水が撒けましぇん!」


 俺が涙目で訴えると、ビルさんが「ああ」と呟いて噴水を見た。


「この噴水ね、10日前から壊れていてね、4日後に修理に来るからそれまでは水は出ないですよ」

「ほへ?だったら芝生の水撒きはどうしてたんですか?」

「……してなかったんじゃないかな?それと、ほへ?は止めなさい」

「…………」


 俺はその時、芝生から声が聞こえた。そう、悲痛な叫びで、「……み……水」と、

 雨は?ここ暫く降ったという記憶は無い。多分だが後4日は持たないと思う、噴水が直ったときには全ての芝生は枯れているだろう。

 そうしたら芝生が枯れた責任は誰が取る?……今居る庭師は俺しか居ないから当然俺だ。

 着て早々責任とって首は流石に嫌だ!


 ビルさんに礼を言った後、急いで井戸から水を汲み、ジョウロに入れて全ての芝生に水を撒き始めた。


 結局この日は水を撒いただけで仕事が終った。




 翌日も朝早く目が覚める。

 今日から本気を出して仕事をしようと、両頬をパシンと張って気合を入れた。

 窓の外を見れば大地に降り注ぐ激しい雨……


「チクショウ!!」

「「「うるせえ!!」」」


 同部屋で寝ている人達に怒られた。


 雨なら庭師にとって本来ならば休みだが、芝生の状態を考えると休んでいる暇は無かった。

 雨の中、雨合羽を羽織って庭の調査をする。


 その結果、全体の1/5は害虫か病気の被害があって手の施しようが無かった。

 雨の中、黄色に変色している芝、害虫が居る芝を見つけてはスコップで芝を切って表面を剥がす。

 半日かかって南側の芝の駆除作業を終えた。そして何故か昼前に執務室に呼ばれてビルさんと対面している。


「一体何を考えているのです、いくら来年交換するといっても芝は大事に扱いなさい」


 何故?何故、俺は怒られている、病気の芝を駆除しただけなのに、解せぬ。


「えっと説明しても良いですか?」

「ん?聞きましょう」

「僕が取り外した芝は病気になって回復が不能な芝です」


 因みに僕っ子になったのは初日に俺と言って怒られたから。


「病気?芝が人間と同じように病気になると言うのですか?」


 え?そこから?


「そりゃ、芝も花も木だって病気になります。

 水をあげなきゃ枯れるし、与えすぎても腐る。害虫が付けば食べられるし、病気になればそこから全て枯れ始めます。

 まあ、それ以外にも色々ありますが、日々の手入れをしなければ人も草も死んでしまいます」


 俺も過労で死んでしまいそうです。


「ふむ、それで外した芝の後はどうするつもりだい?そのままむき出しにするつもりですか?」

「東側から芝を移植する予定です。

 そして東側は芝以外の方法で自然景観を表現しようと思います」

「自然景観?良く分からないですね。

 まあ、来年芝を交換するからそれまでなら君の好きにすれば良いでしょう。だけど芝生交換でお金を使うから予算は無いですよ」

「はい、それで十分です。それに来年は芝の交換は無いですから」

「ほう、面白い。アル君がどうするのか期待して待ちましょう」

「それでは、失礼します」


 予算ゼロですかそうですか、芝生を補充しようと思っていたけど駄目ですか。だったらあるものを使ってやってやろうじゃないか。


 だけどその前にお腹がすいたからご飯食べよう。


 午後からは東側の駆除作業を行った。ざくざくと除去したけどやっぱりこの日は死んだ芝生の除去だけで作業が終った。

 俺も疲労で死ぬようにベッドで眠った。




 芝生の手入れ作業から三日目、やっぱり日の出と共に起きる。

 早起き?違う!不安で眠れないんだよ!


 今日も相変わらず芝、芝、芝、芝、そろそろ精神的にきつくなってきたけど、下町に居たときにやった糞の清掃作業に比べればどんな仕事もマシだと思ったら気持ちが楽になった。


 昨日の作業の確認をする為、庭を調べると予想よりも多くの芝生が病気になっていたらしい。昨日は除去する芝生は全体の1/5ぐらいと予想していたが実際は1/4ぐらい剥がしていた。


 え?夢中になってて気が付かなかったけど雨の中、一日でこれやったの?俺バカじゃね?


 まあ、いいや……これは東から芝生を移植するだけじゃ間に合わないな、だったら周りから少しずつ集めるしかないけど、それは雑草の無い芝が理想だし……


 移植はとりあえず放置、水撒きは昨日の雨で今日は大丈夫だろう。

 ということで雑草取りをすることにした。


 雑草の繁殖状況を詳しく調べるとオヒシバ、メヒシバ、スズメノカタビラと繁殖力の高いイネ科の雑草が殆どの箇所で生えていた。

 オヒシバは根が太くほっとくと手じゃとれなくなるし、メヒシバ種が出る前に取らないと繁殖力が半端ねえ、スズメノカタビラも同様で一度繁殖したら手の施しようが無い。


 つまり、全部ぶっこ抜け!


 前世だったら芝でも使える除草剤があるけれど、この世界にそんなものはありゃしない。

だから雑草を見つけては根元からブチ!見つけてはブチ!ここにもブチ!あそこにもブチ!ブチ!ブチ!ブチ!ブチ!ブチ!ブチ!ブチ!ブチ!


 偶に片手でも抜けない雑草もあるからそれは両手でぶっこ抜く。

 南側1/3ほど雑草抜きをしていたら腰に来た。やばい、年齢二桁にもなってないのに既に腰がやばい。


 その後もペースを落としつつ雑草取りの作業を進める。既に雑草に支配されている場所は芝ごと取り除いたりしてひたすら雑草を取って、取って、取りまくった。

 雑草を取り始めて三日目、芝生のスペースは全体の半分まで減っていた。


 そして再び執務室に呼ばれてビルさんに怒られている俺が居る。


「アル君!君は芝生を禿山にするつもりなのですか!?」


 首をプルプル横に振って否定する。


「じゃあこの三日間、君は何をしていたのです!ひたすら芝生を抜き取っていたじゃないですか!」

「違います、僕が取っていたのは雑草です?」

「何が違うのです」

「逆に何で分からないんですか?」

「同じ草でしょう」

「違います、雑草をそのままにすると芝の生育を妨げます。栄養を奪われ、日陰を作り、害虫の原因にもなるし、雑草の生えた芝は見た目も汚いです」

「今だって土がむき出しの場所と芝生の場所が斑になって見た目が悪すぎるじゃないですか、それはどうするつもりなのです?」

「それは今だけです、土がむき出しの場所は周りの芝を寄せて移植する予定です。これから夏になるにつれて芝生が育ちますから夏には確実に緑の芝生が蘇ります」


 俺が説明しても結局理解されず、ビルさんは溜息を吐いた後、手を払って俺を執務室から追い出した。

 実績経験の無い庭師なんてこんなもんだろうな、これでますます今年中に結果を出さないとマジで首だな。

 トボトボと執務室を後に仕事に戻ることにした。




 半分禿かかった芝生を見て溜息を吐く。確かに見た目は酷い……

 本当はこの後、芝刈り、サッチングをしてから移植しようとしたけど、ビルさんの様子だと先に移植の方が先だろう……


 ということで移植をすることにした。

 まず土がむき出しになった回りの芝をスコップでブロックに切り分けて表面を綺麗に剥がして土をむき出しにする。

 土を調べてみるとやはり芝生用に床土が出来てなかったから、芝生が元気になるように改良することにした。

 まず土を軽く耕す、次に倉庫に在った砂をぱっぱと掛けてから再び土を被せて水を撒いた後、足で土を踏み固めた。


 これで床土が出来たから、次にブロックに切り分けた芝を目地張りで張っていく。芝が足りない時は東側から拝借した。

 因みに、目地張りとはマット状の芝生の間隔を3〜4cmあけて敷いていく貼り方。敷いた直後は隙間から土が見えるから中途半端な見た目になるけど、芝生が育つと隙間はすぐに無くなるから気にならない。

 隙間の無いべた張りにくらべると使用する芝生が3分の2程度だからコストもいいし結構お勧めの張り方だったりする。


 通常は3〜4cmのスペースをあけるけど今回は5~6cmぐらい大きくあける。

 だって芝が無いんだもん。本当は市松張りというコスト半分の方法も考えたけど、そっちは芝が完全に埋まるまで一年以上かかるから今回は無理と諦めた。


 芝生を張り終わった後は目土作業。

 芝生と芝生の間のつなぎ目が隠れるぐらいしっかりと土を被せる。

 ボコボコにならないように均等に土をかけたら板を上に置いてから足で踏んで芝が床土に定着するようにする。


 最後にジョウロの水を移植が終った箇所にタップリとかけた。

 因みに噴水は一昨日工事をして水が出るようになった。

 修理業者の人達を案内したのは俺だが、変てこな敬語をして笑われ後からビルさんに説教を受けた。


 だけどこれで芝が根付くまで約二週間、その間は毎日水撒きをしないとすぐ乾燥して枯れるから噴水の水が出るようになって本当に助かった、出なかったらマジで死んでたわ。


 こうして南と東の芝の移植作業が終る頃、梅雨の季節がやってきた。


アル「目地張りだとどの位で土が隠れるの?」


作者「季節によるかな。

 誰でも解る例えだと中央競馬って夏は中央を休んで地方競馬で新馬を走らせるでしょ」


アル「そうだね」


作者「あれは春のシーズンを戦った馬を休ませる目的の他に、芝生が一番育ちやすい時期に馬を走らせずに馬場を回復させる目的もあるんだよ」


アル「なるほどね。

 ところでこの小説って夏に投稿してるけど、作者は新馬になるのかな?」


作者「……未勝利」

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