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20/21

王都の都に咲かせてみせよう、大和の桜

「なに?」


 今日はビルさんに庭に出るなと言われて、ベッドで寝ていたらウェンツに起こされた。


「早く起きろ!御館様とエルフがお前を呼んでいるんだよ!」

「……嫌な予感がするから逃げても良い?」

「駄目に決まっているだろ、ああ、服もそんな皺くちゃにして、着替え無いのか?」

「服は二枚しか無くて、一つは洗って干してるし、これしか無いよ」

「があああ、だったらもうそのままでいいよ、早く来い!」


 服が無いと言ったら、ウェンツが頭をかきむしるように呻いた後、俺を引っ張って部屋から飛び出した。


「いいか、御館様とエルフだけじゃなくて、この国の偉い人も居るんだから絶対に粗相をするんじゃないぞ!」


 もうそれ聞いただけで逃げたいんだけど……


「それにエルフも御館様が子供の頃からの付き合いらしいから、エルフにも気を使えよ!」


 くっ!会った事は無いけど、御館様も既にテロリストに屈していたのか!


「じゃあ気をつけろよ」


 そういい残してエルフが居る部屋の扉の前でウェンツが俺を置いて去って行った。

 くそ、周りは全員敵か!こうなったら殺ってやる、エルフの(たま)取ったるで!


 コンコン!


「入れ」


 ドアをノックすると渋めの声が応じたから、ゆっくりと扉を開けて中に入った。




 中に入ると中央に一人の若い女性が居て、その横に更年期で白髪の生えた老人にしてはガタイの良い貴族様、ビルさんが後ろに控えているから多分御館様だと思う。

 そしてその周りに何人か値段の高そうな服を着た貴族様と耳の長いイケメンと美女がずらりと並んでいた。


 改めて正面の女性を見ると……驚くほど美人だった。

 東欧のスラブ系に似た顔をしていて物凄く美しく耳が長い。年齢は20代前半といった感じか?

 シルバーに近いブロンドの髪を腰まで伸ばしこちらを優しげな目で見ていた。


 ハニートラップか!


 予想外の攻撃に躊躇する。

 あれだけの美人だ、御館様も魅了されたのも納得できる。だけど、だけど俺は別に耳フェチじゃない!屈してなるものか!

 覚悟を決めて静々と前に進み、適当な場所で土下座する。


「え?いや、そんな畏まらなくていいのよ、もっと楽にして」


 俺の行動に慌てる正面のエルフ、作戦は成功と思いきや……


「失礼します」


 ズリュ!


「ガッ…ハッ!」


 御館様の後ろに控えて居たはずのビルさんが何故か俺の背後に居て、土下座して弱点をさらしている俺のケツに今までで一番の破壊力を帯びたビルさんのライダーキックが炸裂した。


 ヤベエ、コイツ、マジ、ダ……


「失礼しました」


 ビルさんがこの場に居る全員に頭を下げた後、俺を立たせる。


  待って、今は駄目、出ちゃう、出ちゃうの!


 訴えようとビルさんの顔を見たとき、前にも一度見たことがある、殺気の篭った目で俺を凝視していた。

 その目が俺に語りかける。


 いい加減にしろ!


 と、これで俺の攻撃は完全に封じられて、後は命令に従うしかなかった。


「あ、え、えっと、貴方がこの家の庭師なのですか?」

「はい、イワンの息子アルフォードと言います」


 そう言うと周りがざわめいた、耳を澄ますと、「こんな若いのが」とか「信じられん」とか言われているけど、俺、精神年齢子供だけど、実際は還暦超えてるんだぜ、若造共が黙ってろ。


「随分お若いのですね」

「お褒め頂き、有難う御座います」

「いえ、如何いたしまして。私の名前はスターライト・ナイル・ミスト・コーニアス・シェリルです。シェリルと呼んで下さい。

 それで小さな庭師さん聞きたいのですが宜しいかしら?」


 糞長い名前だな、キラキラネームも大概にしろ。お前の親はDQN(ドキュン)(ヤンキー)か?


「はい何でしょう」

「何故あの森を作ったのかしら?」


 あれ?何で森なんて作ったんだっけ?確か……


「おい小僧、隠す必要は無い、全部言ってしまえ」


 エルフの横に居る御館様も言ってることだし包み隠さず話す事にした。


「えっと確か、南玄関の芝生が足りなかったからです」

『へ?』


 その場に居る全員が俺の答えの意味が分からずに変な声をだした。


「ですから、南玄関側の病気の芝生とか雑草とかを抜いたら芝生が剥げちゃったから東から芝生を持ってきて代わりに植えたんです。

 そうすると東の芝生の大部分が無くなっちゃって代わりに枯山水を作ったんです」

「カレサンスイとは何ですか?」


 シェリルと名乗ったエルフが興味深そうに質問する。


「えっと枯山水というのはですね、水の代わりに砂や石を敷き詰めて水と見立てて自然を描写するという技法です」

「それは……大変興味が惹かれますね。だけどあの森には水がありましたがそれは何故ですか?」

「水ですか?えっと、夏の暑い日にですね、何故か姫様、いや、ビクトリア姫が森に遊びに来ることになりまして、気温が高かったから、枯山水の砂に水を入れたところビクトリア様が物凄く気に入っちゃって、何故か森に水の魔石を置いて水を流すようにしちゃったんで……す」


 最後、言葉が詰まったのはビルさんが俺のケツをつねったから、恐らく警告だと思う。


「それでは、北側の庭ですが、あそこは紅葉が見事でした。何故紅葉が綺麗な木ばかりを植えたのですか?」

「えっと、御館様とエルフ様が来るのが秋と聞いていたから紅葉でも見せようと思ったから……かな?」


 エルフ共を倒すためとは流石に言えねえ。


「そうですか……最後に、アルフォード君にとって自然とは何ですか」

「自然ですか?…………そうですね…………」


 そんな事言われてもなぁ、深く考えた事なんて無いし、前世で聞いた俺の好きな言葉を言うか……


「森羅万象だと思います」


 その言葉を聞いた途端、シェリルと周りに居たエルフが驚いて立ち上がった。




 あれ?俺、もしかしてやらかした?粗相?粗相?覚悟を決めてケツに力を入れたけど、あれ?ケリが来ない?

 なんだろう、少し残念な気がする俺だったけど、もしかしてこの歳でマゾに目覚めたのか?それは流石にやばいぞ。


「アルフォード君……シンラバンショウ……その意味を……教えてください」

「えっと……天と地、この世に存在しているあらゆる全てと、その中で変化し続けている全ての出来事を表す言葉です」


 シェリルが俺に質問してきたから、言葉の意味を思い出して教えた。


「……つまり貴方は……現実世界の全てをたった一言で表したの……ですね」

「そうなりますね」


 何でこの姉ちゃん震えてるの?意味が分からないんだけど?


「エルフは長寿の種族な為、お金や宝石などの品へ対する興味が薄れる代わりに、哲学思想など形の無い真理を追究する種族です。

 日々、この世の理は何かを考えている私やエルフにとって、貴方の今の言葉はどんな宝にも勝る素晴らしい言葉でした」


 そう言ってからシェリルと周りのエルフ達が一斉に俺に向かって頭を下げた。


 随分安上がりな種族だな。


「アルフォード様、ありがとう御座いました。今の言葉を聞けただけで私達エルフは満足です」


 何で様呼ばわりされてるの?俺何時の間にテロリストの仲間入り?

 そして御館様を含めて人間側の貴族様達がこの様子を見て驚いていた。後で聞いたらエルフって奴は人間に頭を下げる事はめったに無いらしい。


「ジーク、今度エルフと人間の一部の国境を開放したいと思います」

「シェリル様それは!」、「長老の許可なしにそれは拙いです」


 シェリルの発言に、周りのエルフが慌てて止めようとするが、それを阻止して彼女が話を続ける。


「お黙りなさい、今のこの少年の言葉を聞いても分からないのですか?

 彼は今、私達エルフに真理を語ったのですよ、それがどんな価値なのか同じエルフなら分かる筈です」


 そうなの?それなら四文字熟語幾つか教えようか?まあ俺もあまり知らないけどね。

 シェリルの言葉に周りのエルフが落ち着いたのを見て、再びシェリルが俺に顔を向ける。


「最後にアルフォード様、今回の会談とは別に私達をもてなした貴方に私個人から何かお礼の品を送りたいと思います。何かご希望の品は御座いませんか?」


 そう言われてもまた俺の代わりにビルさんが拒否するんでしょ?

 チラリとビルさんを見ると、


 「好きなものを言いなさい」


 と笑っていた。


 【臨時ニュース】

  明日のお天気はアルフォードを中心に槍が稲妻の様に降り落ちる天気になるでしょう


「何でもと言うなら……」


 俺は欲しい物をシェリルに告げた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 季節は過ぎて、王都も春を迎えていた。

 春の太陽はぽかぽかとした日差しで俺の体も心も陽気にさせている、ランランルー。


「それじゃあ全員準備は出来たか?」

『はい!』


 御館様が大声でこの場に居る全員に声を掛けると、周りの皆も元気に応えた。

 今この場に居るのは、ビルさんやウェンツを含めた使用人一同の他にギルバードさん親子、姫様と後ろの糞二人、そして何故か、俺の家族まで呼ばれてここに居た。

 これから、館の南の芝生の上で今まで庭に関わった全員集まって花見をする予定だ。


 そう、俺がシェリルから褒美としてお願いしたのは、一本の大きい桜だった。


 王都周辺では存在していなかったけど、エルフの所だったらあるかと思って聞いてみたら似ているのが山の方に咲いていると聞いてお願いした。


 シェリルはそんな物で良いのかと逆に驚かれたが、やっぱり元日本人としては毎年桜を見ないと魂に力が入らない。


 冬の間に届いた桜は染井吉野ではなかったけど、大山桜っぽいから少し赤いピンクの花が春に咲く。

 そもそも染井吉野は品種配合で生まれた桜だし、ガーデニングが原始レベルのこの世界では存在すらしていないだろう。


 届いた桜の木を御館様は南玄関の芝生の上に植えた。

 そして、ついこの間、花が咲き始めたら、御館様が綺麗な花を見て、その下で宴会をしようと決めた。


 どの世界でも桜が咲いたらおやじが花見をしたがるのは定番らしい。


 ついでにこの冬に起こった出来事も語ると、

 ピエールは無事に俺のど、いや、弟子になった。ピエールの元の親方は最初渋っていたけど、御館様が睨みを利かせた途端、素直に奴隷を差し出した。ビバ権力!


 ウェンツはあの事件以来、真面目に働いている。だけどエリスさんとは週1でデートに行っているらしい、爆ぜろ。

 ギルバードさんが文句を言っていたけど、その顔は半分諦めている様子だった。気持ちは分かる。

 多分、二年後に執事に昇格しなくてもエリスさんとは結婚出来ると思うけど、それは彼の為にならないから俺は何も言わないつもりだ。


 御館様とはあの後、俺の今後について話をした。何でもエルフとの会談で俺はいつの間にか物凄い功績を上げたらしい、知らんがな。

 御館様は俺を自分の領地に連れて行き、そこで庭師筆頭にしようとしたが、ビルさんと姫様が止めた。


 まずビルさんだが、俺が居なくなるとピエール一人だけになる。それだとこの館の手入れが出来なくなるのが困るらしい。そして姫様の対応が出来る人間が自分一人になった場合、彼の胃壁は崩壊して倒れるのは間違いないと思う。

 それにピエールには冬の間に剪定についてはかなり教えたけど、独り立ちにはまだまだ未熟だ。

 姫様が止めた理由は、単純に遊び相手が居なくなるのが嫌なだけ。


 その姫様だが、冬の間は城に引っ込んでいたのに春になったらまた館に遊びに来るようになった。

 姫様は相変わらず無駄に元気だったけど、驚きだったのは何時も居る金魚の糞の二人がこの冬に結婚した。


 何時の間に出来ていたのかと不思議に思っていたけど、どうやらこの森で逢引していたらしい……それを聞いたときマジで殺そうかと思った。

 さらに、プロポーズをしたのも大イチョウの下だったとか、お前ら一体何処のメモリアルだ?


 しかも、それが噂になって、この森を見たいという貴族の手紙が御館様にバンバン届いたらしく、これでまたビルさんが死にそうだった。


 最後に、実家だが、まずクリスが言葉を喋った。


 「ダー」から「アー」に


 多分アルと言っていると思うけど、何となく尻が痛くなるから止めて欲しい。

 父ちゃんは少し昇格した。だけど給料はあまり上がらなくて、やっぱり母ちゃんに頭が上がらない。

 母ちゃんは相変わらずおっかない。

 何時もと変らない家族だったけど全員が元気だからそれが一番だと思う。




「それじゃあ、この桜に乾杯じゃ!」

『乾杯!!』


 物思いに耽っていたら何時の間にか乾杯していた。俺も慌てて手に持ったグラスを持ち上げて「乾杯」と叫ぶ。ちなみに中身は未成年だからただの水、早く酒が飲みたいです。


「アル!」

「姫様どうしました?」

「桜というものを初めて見たが綺麗なものじゃのう」

「ですね、毎年この桜を見ながら皆が集まって騒げると良いですね」

「うむ、来年は妾の家族も連れてこようぞ」


 いや、ちょっと、待って、お前の両親、この国の国王だから、マジ止めて。

 粗相をしたらケリだけじゃ済まないから。


「がははは、ビクトリア様、是非連れてきてくれ。あの男も城に居るだけじゃ辛かろう。偶には息抜きもさせんとな!」


 御館様が姫様の話を聞いてがははと笑う。大らかなのも良いけど、それが過ぎるのも問題だと思う。

 ただの貴族が王様に向かってあの男呼ばわりしても良いの?俺の主は俺が思っていたよりも重鎮だったらしい。

 だけど、心配なのは国王じゃなくて俺のケツだ。


「それでアル、あの話はどうなったのじゃ?」


 姫様が尋ねたのは、俺がエルフの里に行くことだった。

 シェリルがエルフの領地へと帰る日、館の玄関で最後の別れの挨拶をしていると、


「アルフォード様、是非一度エルフの里に来てください。

 アルフォード様もきっと気に入る草木を見ることが出来ます」


 と俺をテロリストのアジトへと勧誘してきた。

 その時は俺が口を開くより先にその場に居た貴族達全員が断ったけど、俺は少し惹かれていた。




 この世界の植物を色々調べて一冊の本にしたい……文字知らないけど




 そう、この世界に造園技術を広めて、世界の植物についての理解と素晴らしさをこの世界の人たちにも知って欲しかった。

 その為にはこの王都を出て、世界の全てを見るために冒険をするのもありだろう。


 だけど、今の俺は文字すら知らないアホの子。


「大丈夫、まだ何処にも行かないよ」


 俺の返答を聞いて姫様が安堵する。


「まだこの王都でやる事がいっぱいあるからね」


 そう、俺はまだこの王都で色々と学んで冒険に行くための準備が必要だ。庭の引継ぎもあるし……


 ピエールのシゴキ方法を考えていたら、俺と姫様の前にひらひらと桜の花びらが舞い降りて、俺が持っていたコップに浮かんだ。

 俺と姫様が一緒に顔を上げて桃色に染まる桜を見る。




 その桜は春の日差しを浴びて、ピンクの花を綺麗に咲かせていた。




 終


アル「随分さくっと終ったね」


作者「元々執筆開始から一週間で書き上げた小説だからね、単行本1冊分ぐらいの文字数だから、丁度良いと思うよ」


アル「続きは書かないの?」


作者「一応幾つかのシナリオは頭にあるんだけど、舞台が変わって伯爵の領地になるんだよね。

 書こうと思えば書けるけど、文字数がこの倍近くなるし、この小説って庭を作ってドヤッの一本しかない構成だからマンネリ化すると思うんだ。

 それと、シナリオは浮かぶけど、ベストなエンディングがここしか浮かばなかったから、ズバッと終らせることにしたよ。

 だけど次回、季節の関係上投稿出来なかった短編を投稿する予定」


アル「ふーん」


作者「それと後書きにアルが登場するのは今回が最後だから、一応挨拶だけしとけ」


アル「あ、そうなの?

 んじゃ、皆さんここまで読んでくれてありがとう。

 最終話直前でブックマークも一万を超えました……明日終わったら切ると思うけど……それでも嬉しいです。


 皆さんもこの小説を読んでガーデニングに興味が沸いたら、ぜひ小さなサボテンでも育ててみてください」


作者「何でサボテンなの?」


アル「え?だって楽そうじゃん」


作者「まあ、いいか。

 次回の後書きは次回作の予告です、お楽しみ下さい」

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