表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

空き地で遊んでいたら公園が出来ました

 表彰の話から少し戻って、一人で掃除をする必要が無くなった俺は別のことをやることにした。

 俺の住む地区には雑草が多く茂った空き地があった。前はどこかの商家が資材置き場として使っていたらしいが、その商家が潰れると誰も管理せずに荒れ放題で放置されていた。


 近所の子供達はその空き地で遊んでいたから、俺もその空き地を使って前世の職を生かして遊ぶことにする。


 まず多い茂った雑草や石を引っこ抜く、引っこ抜いた雑草は奥の壁に囲まれた一角に集めて捨てる。

 ある程度集めたら少しだけ土を被せて、踏み固めてから再び雑草を積み重ねる。

 近所の子供は俺の行動を見て再び変人扱いをして避けるようになった。


 一ヶ月もすると、高さ三メートル近い小山が出来た。

 さらに小山の一角を削って急斜面を作り、反対側は階段のためのギザギザな面を作る。


 次に墓石や建築用の石材を削ったときに出来る砂を集めた。この砂の成分は主に石灰岩で出来ていて実は前から目を付けていた。

 石屋の店主に砂が欲しいと言ったら、「勝手に持っていけ」と言われたから勝手に持って行った。

 後で掃除をする必要がなくなったから実は助かったと聞かされたときは手間賃を貰っておけばよかったと後悔した。


 貰った石灰岩の砂に、空き地から出た粘土と砂、雑草を引っこ抜いたときについでに集めた砂利、本当は鉄分も欲しかったけどそれは諦めて、水を入れて捏ね繰り回すと辛うじてセメントが出来た。

 それを急斜面の部分と階段部分に塗り固めてコテで押しつつ乾燥させる。

 近所の子供が不思議そうに近寄るのを少し待てと宥めて三日目、何とか滑り台が完成した。


 この滑り台は近所の子供に順番待ちするぐらい人気が出た。

 何となく滑る子供達のズボンが磨り減ってケツが見えているけど、俺シラネ。


 次に滑り台と反対側に大きめの石を適当に置いて、それをコーディングするようにセメントを塗り椅子を作る。椅子の近くには花壇を作って、雑草を抜くときに名前も知らない綺麗な花を捨てずに植えて育てた。


 この場所は主婦が子供を放置するぐらい人気が出た。

 一度ほったらかしにした子供が消えて街の住人全員で探す羽目になったけど、やっぱり俺シラネ。


 最後に広場を雑草が生えないように砂を掛けて固めてグランドを作る。

 全てを完成するまでに半年掛ったが何とか公園が出来上がった。


 最後にもう一度言うけど、これは遊びで仕事じゃない。




 公園が出来て満足した後は管理なんて無視して足を運ばなくなった。

 実際に公園が完成する少し前から母ちゃんのお腹もかなり膨らんで、重労働が辛そうだから炊事洗濯を代わりにしていたという理由もある。


 前世では七歳で家事手伝いなんて当然したことがないし、遊び道具を散らかして母親から片付けしなさいと怒られていた記憶しかなかったが、この世界は学校なんて存在せず、十五歳で成人扱いなので物心付いた頃から家の手伝いをするのは普通だった、というか家の手伝いをしないと飯抜きだった。

 だけど飯の量が少ないから腹は常に減っていた、クソ親父もっと稼げ。


 朝は日の出と共に井戸から水を汲み家の瓶に水を入れる。薪で火をおこし、井戸水を沸騰させて飲料水を作る。これをしないとまた赤痢になってうんこブシャーだから真剣だ。

 食事は母ちゃんが作って、それを食べた後は家の掃除をした。

 掃除の時、俺が縄で作ったブラシが役に立った。実際に近所でも俺のブラシを見て自分で作成して使用していると聞かされたが、特許など無いこの世界では特許料など当然ながら入らなかった。

 因みにこのブラシはうんこ用ブラシじゃなく別に作った代物だ。


 掃除が終わると共用洗濯場に行って洗濯をする。

 最初、石鹸も洗濯板も無くただ布同士を擦るだけだった。不便と思って適当な板にギザギザを入れて洗濯板を作った。

 それを見て近所のおばさん達から欲しいと強請られたから作ってあげたら結構良い小遣いになった。因みに手に入れた小遣いは母ちゃんに全て没収された。

 石鹸も欲しかったけど、作り方なんて知らないからそっちは諦めた。


 洗濯が終わると夕飯の買い物に出かける。両親は文字を知らないし紙も高級品だから、言われたことを暗記してから出かけた。

 冷蔵庫なんて当然無いから食べ物も日持ちせず、雨の日も風の日も毎日商店街に行って買い物をするのは割と重労働だった。

 ちなみにお駄賃は一度も貰ったことはない。


 俺が家事手伝いをしている間、母ちゃんはチクチクと裁縫をして、生まれてくる子供のための生活費を内職で稼いでいた。

 今考えると七歳の仕事としてはかなりの重労働だったけど完璧にこなした自分を褒めたいと思う。




 話は戻って公園が完成してから半月が経ち、すっかり忘れた頃に会長さんが興奮しながら家に来た。


「アル!あの荒れ地を公園に変えたのはお前か?」

「ほへ?あ、うん」


 ちなみにほへ?は俺の口癖らしい。


 興奮した会長に尋ねられたから思わず頷いたけど、他人の土地に勝手に公園を作ったのは流石に拙かったと気が付いて怒られるのを覚悟したら頭をぐりぐりと撫でられる。

 口をポカンと開けて会長を見ると物凄い笑顔で母ちゃんに向かって俺を褒めていた。


 褒められた理由を聞くと、

 昨日、会長は市長や他の地区の会長、それに城の貴族役人を連れてモデル地区となったこの街を案内した。

 その道中、偶然俺が作った公園の横を通って全員が驚く。


 何でもこの世界には俺が作った子供向けの公園はこの世に存在して居らず、公園は在るけどそれは美しい風景を楽しむ自然公園しか存在していなかった。

 俺の作った公園は市長からは子供向けという発想が素晴らしいと褒められ、貴族役人からは見たことが無いセメント技術に興味を惹かれた。


 だけど一番驚いたのは会長だったらしい。

 なにせ荒れ地だと思っていた場所がいつの間にか公園に変貌していて、さらに公園で遊ぶ子供に誰が造ったのかを尋ねたら、まだ七歳の子供と聞けば神様だろうが誰でも驚くと思う。


「それでじゃが、とある偉い方がお前を召抱えたいと言っておるが行かぬか?」

「赤ちゃんが生まれるまで無理じゃね?」


 ちらりと母ちゃんを見ると、俺の言った事に当然と頷いている、本音は楽したいだと思う。


「別に今すぐという訳じゃないぞ」

「うーん、俺まだ七歳だし。あ、来週で八歳だっけ?それでも奉公には早いと思うけど?」


 この王都に住む大抵の子供達は成人の十五歳になる前、十三歳から十四歳で奉公に行く。

 殆どの子供は跡取り修行で親と同じ職業の奉公先を選択するが、偶に自分のなりたい仕事の奉公先を選択する子供も居る。

 だけど大半は親の紹介なしの奉公を希望しても信用も保証も無いがために門前払いが関の山と親から聞かされて、俺も十三歳になったら父ちゃんと同じ守衛見習いになると既に決まっていた。

 そう、俺の未来は貧乏生活、楽な人生は生まれた時点で無理だった。


「確かに早いが、アルお前の精神年齢はとてもじゃないが七歳には思えぬ」


 そりゃそうだろう、前世の分も合わせて計算すれば既に還暦は越えている。


「因みに奉公といっても一体なんの仕事なのさ、まずそれを教えてよ」

「ぬ?言ってなかったか?庭師だ」


 なんと、前世の職業と同じか!


「うむ、アルが作った公園の技術に感心して、さらにこの街の美化に関わった立役者と聞き、勤勉な行動にも感心されてのう、是非にとお願いされたのじゃ」

「庭師の職業には惹かれるけどね、やっぱり母ちゃんの子供が生まれてからじゃないと無理だと思うから、断っといて」

「分かった仕方が無い、断ることにしよう」


 溜息を吐いて会長が席を立った。帰り際、会長が母親に向かって小声で、


「この子は立派な少年じゃ。イワンもお主も幸せ者じゃ」


 と言い残してドアを閉めた。この日の夕食は少し豪華だった。

 俺の手柄を奪った会長をちょっとだけ許した。




 この話から三ヵ月後、母ちゃんは無事に弟を生んだ。弟の名前はクリスと名づけられる。

 クリスを抱くと、前世で孫を抱いた時を思い出して何となく微妙な気分になった。


 弟が生まれてから家の家事は母ちゃんと半分ずつになった。

 母ちゃんが家事をしている時は俺がクリスの面倒を見て、俺が掃除や水汲みをしている時は逆に母ちゃんが弟の面倒を見ていた。

 外に出る仕事の大半は全部母ちゃんだったけど、井戸端会議は母親にとっては娯楽を兼ねたストレス解消なのだと思う。


 九歳の誕生日を迎えた翌日、会長が久しぶりに家に来て奉公の話をした。

 この話は当の昔に終ったと思っていた俺と両親が驚いていると、どうやら生まれてくる子供のために話を断った事が、逆に親孝行で素晴らしい子供だと美談に変ったらしい。


 騙されてやがる。


 その日は返答を翌日にすると言って帰ってもらった。その晩、当然ながら緊急家族会議が開始される。


「アルお前はどうしたい?」

「ダー」


 俺が悩んでいるとクリスが代わりに答えたけど、お前は早く寝ろ。


「うーん、父ちゃんの後を継ぐのが普通なんだろうけど父ちゃん収入少ないからなぁ」

「くっ!」

「そうねえ、もうちょっと収入が増えれば家族も楽になるんだけどねぇ」

「お前まで言うか……」

「ダー」


 俺と母ちゃんが溜息を吐き、クリスが吠える。そして俺達が見ている前で父ちゃんが悔しそうに酒を飲んだ。


「だけど庭師だって収入は低いと思うぞ」


 実際にこの世界の庭師がどんな地位なのか知らないが、前世ではガーデンプランナー、ランドスケーププランナー、空間デザイナー、環境プランナー。色々な造園士が居たが有名になるとかなりの収入はあった。

 実際に俺も日本庭園の造園にかけてはそれなりに有名で全国のお得意様の庭を手入れするだけで一般家庭の年収は得ていた。


「んー、就こうと思ってもつける職業じゃないからね。多分、父ちゃんの年収よりは良いと思うな」

「アル、比較の対象が悪いわよ」

「ダー」

「ごめんなさい、がんばるから許してください」


 何故か父ちゃんが母ちゃんに頭を下げていた。結局、収入の金額だけで判断して奉公に行くことが決まった。


 世の中、金である。


 翌日、会長が再び我が家に来たから「よろしくお願いします」と頭を下げた。

 答えを聞いた会長が大喜びをしたのを見て、何となくこの人何かを貰っているなと思ったけど口には出さないでいた。




 会長に返答して一週間後、俺の家の前に迎えの馬車が止まった。

 もって行くものは俺の衣服だけだったから風呂敷代わりの布で包んで肩に背負う。


「それじゃ言ってくるね」

「おう、お前なら大丈夫だと思うが、奉公先で迷惑を掛けるなよ」

「たまには帰って来るんだよ」

「ダー」


 昨晩のうちに涙のお別れは済ませていたから、家族とはお互い笑顔で別れを告げる。

 だけど俺を変人扱いしていた近所の人たちが集まって全員が俺に別れを告げたのは予想外だった。

 清掃活動、公園の作成、それ以外にも洗濯板やブラシの作成など生活に役立つ物の発明。今までは言えなかったけど、最後でもう会えなくなると思ったら御礼を言いたくなって全員が集まったらしい。

 御者が苛立つまで皆と別れを惜しんだ後、馬車に乗り見送る皆が見えなくなるまで手を振った。


 俺は馬車に揺られ流れる町並みを見て、これから向かう奉公先がどんな場所なのかと楽しみにしていた。


アル「セメントってそんなに滑るっけ?」


作者「一応セメントの滑り台はあるけど、やっぱりズボンは磨り減るらしいよ」


アル「それに作中みたいに簡単にセメントなんて作れないよな」


作者「ホームセンターで簡単に作れるセメントはあるけど、実際にセメントを作るのは難しいね、だけどそこは主人公の技術力でカバーと言うことで」


アル「ご都合主義だなオイ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ