結婚の条件
大イチョウの木が森に根付いてから一週間ほど経ち、残暑が少しずつ消え始め、風が涼しくなってきた頃、一日だけピエールに仕事を押し付けて、一度実家に帰ることにした。
因みにその大イチョウだけど実が生る様子が全く無いことから雄木な気がする、100%とは言えないけれど、銀杏は無理っぽい。ショック!
「ただいまー」
「あら?お帰りー」
「ダー」
クリス大きくなったな。だけど、お前は何時になったら言葉を喋るんだ?
半年ぶりの実家は相変わらず貧乏だった、父ちゃん頑張れ。
とりあえず、今までの給金の2/3を渡す、その額を見て母ちゃんが驚いていた。逆に帰ってきた父ちゃんは落ち込んでいた。
父ちゃんが俺も庭師になりたいとかほざいていたけど、母ちゃんから今の仕事を辞めたら離婚と言われて泣いて謝っていた、母強し!
その後、家の手伝いを強制的に手伝わされて飯食って寝る。眠りに落ちるとき、俺が出て行った後も何も変わらない実家に何となく安堵した。
翌日、帰ろうとする俺を見てクリスがギャン泣きしているのを振り切って家を出た。
帰る途中、ギルバードさんにイチョウの進捗を教えてあげようとエリスさんの店に行ったら、店の前に大勢の人たちが囲んで中からギルバードさんの怒鳴り声が聞こえる。
なにやら面白そうなイベントが発生しているらしい、人込みの中をすいすいと抜けて店の前を見ると、ギルバードさんが仁王立ちして、その前には倒されたウェンツとそれを介抱するエリスさんが居た。
修羅場発生!シュラ☆バンバ!!
何、俺の居ないところで面白いイベントしてるの、参加させてよ。
急いでギルバードさんとウェンツの間に急いで飛び出す。
「二人共!」
「アル君、来ちゃ駄目!」
「アル来るな!」、「アル、お前には関係ない、帰れ!」
三人共、俺に向かって叫ぶけど、それを無視してギルバードさんとウェンツさんの両方を指差した後、手を交差する。
「ファイト!」
『……は?』
その場に居る全員が俺のセリフの理解が出来なかったのか、唖然としているけど、
「ファイト!」
戦え!理由なんて如何でも良い、戦うんだ。こっちはこの世界に着てから娯楽に飢えている、戦って俺を楽しませろ。
「ファイト!どうした?戦わないのか?」
「「「…………」」」
あれ?何で全員俺を見て動きを止めてるの?
「止めないの?」
そろりとエリスさんが俺に聞いてきたけど、何で止める必要があるの?
「え?どうせウェンツとエリスさんがイチャイチャしていた所に、帰ってきたギルバードさんがそれを見つけてぶん殴っただけでしょ?」
「……まあな」
ウェンツが小さい声で呟く。
「だったら何時もの事じゃん。別に驚かないし、暇つぶしに見学させてもらうよ」
「見世物じゃねぇよ!」
「だったら人に見せんじゃねぇよ!」
ギルバードさんが怒鳴ったけど、怒鳴り返したら「うっ」と呻いた。
「大体、三人とも何時まで同じことを繰り返してんだ?ガキじゃねぇんだからそろそろ決着付けろや!」
ガキの俺が言うセリフじゃ無いと思うけどね。だけど周りの野次馬も俺に同意なのか「うんうん」と頷いている。
「ガキに何が分かる!」
一応、前世じゃ孫まで居たぞ!
「はっ!どうせエリスの幸せよりも可愛い娘が居なくなって寂しくなるから拒否してるだけじゃねぇか!」
「なっ!」
「このままエリスを嫁に行かせないつもりか?婚期を逃して一生エリスが結婚出来なくても良いのか?
このままだとエリスは行かず後家の糞ババアだぞ!」
「……アル君それ言い過ぎ」
サーセン
「ウェンツもウェンツだ!手前、仕事サボりすぎじゃボケ!ビルさんだっていい加減に気が付いてるし、このままだと副執事からまたフットマンに戻されるぞ!」
「うっ!」
「手前、恋愛にうつつを抜かして自分の事すらまともに出来てない癖に、エリスと結婚したいとかギルバードさんが許しても、この俺がゆるさねえ!!」
「「…………」」
二人が黙るのとは逆に野次馬から歓声が湧き上がる。両手を挙げて歓声に応えてから、再び三人に視線を戻した。
ガキの俺に思いっきり反論されて二人が黙っているから妥協案を出してやることにした。
「ギルバードさん提案がある」
「……何だ?」
「今のウェンツにエリスをやる事は、正直賛成出来ないし、ギルバードさんが怒るのも当然だ」
「…………」
俺のセリフにウェンツが悔しそうに顔を顰めた。
「ただし、二人が相思相愛なら出来れば幸せになってもらいたいという気持ちも俺はある」
「…………」
今度はギルバードさんが深く考えている様子だった。
「そこで条件を出してみたらどうだろう」
「「条件?」」
条件と聞いて二人が同時に俺を見た。
「そうだ、ウェンツが二年以内に副執事から執事に昇格したら結婚を許可するんだ」
「二年!そんなの無理だ!!」
二年と聞いてウェンツが声を荒らげた。
「俺は9歳で庭師になったぞ!努力もしないで最初から無理ならエリスを諦めろ!」
「うっ!」
「ギルバードさんもそれでどうだ?
後二年ならエリスも適齢期だし、ウェンツも執事として安定した収入もあるからエリスさんが不幸になる事も無いぞ」
「…………そうだな。おい、ウェンツ」
ギルバードさんが俺の案を気に入ったらしい、俺からウェンツに睨むように視線を移した。
「後二年だ。二年以内にアルが言った通り執事になってみろ。その根性を見せたらエリスをくれてやる」
「……分かりました!必ずなってみせます」
お?ウェンツも開き直った。違う、覚悟を決めたらしい。
「エリス、待っててくれ。必ず執事になってエリスを迎えに来るから、それまでの辛抱だ」
お前の性欲がな。
「分かったわ、待ってるから必ず執事になって迎えに来てね」
ウェンツとエリスが起き上がってお互いの手を握り、誓い合ったけど、それを親の前でやるか?そんな事したら………
「手前等、俺の前でいちゃつくんじゃねぇ!!」
ギルバードさんがぶち切れて綺麗なストレートをウェンツに見舞った。
秋になって暑い日々は過ごしやすい日々へと変化する。
館の森の草木は常緑植物を植えているから緑のままだが、王都の町並みの草木は黄色へと移り変ろうとしていた。
芝の水撒きも毎日行うことも無くなり、手入れ作業も楽になった。
俺は減った仕事の代わりに、ピエールに庭師としての仕事を少しずつ指導していた。
「……て、事があったんだよね」
「なるほど、それでウェンツさんが前に比べて真面目に働くようになったんですね」
指導中、この間の出来事を話すとピエールが納得したように頷いた。
あの騒動の後、ウェンツは真っ先にビルさんの元へ向かい謝罪した。
俺は適当に言っただけだったけど、ビルさんは本当にウェンツを降格するつもりだったらしい。
だけどウェンツから謝罪された事で今回はギリギリ許された。
「まあ、今まで惚気て仕事をサボっていたんだから、これで少しは真面目になるんじゃないかな?」
「そうですね。でも羨ましいな、僕もあんな美人の彼女とか欲しいな……」
ピエールが寂しそうに遠くを見て呟く。
「ピエールもそろそろ彼女の一人でも作れば良いじゃん」
「僕?無理ですよ。家も貧乏だし、まだ奉公中ですし、まず庭師になる夢を叶えてからです」
ピエールの方がウェンツよりもエリスに相応しいと思ったのは俺だけか?
確かにウェンツの方が顔も良いし、身長も高い、それに執事になったら給料も良いけど、性格はピエールの方が真面目で好感もあるんだけどな。
今からあの二人にピエールをぶつけるか?まさに三角関係のド修羅場、やべー凄く楽しそうじゃないか!
「……師匠、師匠?」
ハッ!
妄想に耽っていたら動きが止まっていた。
「それで師匠、北の剪定は何時やるんですか?」
「ああ、葉っぱも色が変わり始めたからそろそろかな」
「やった。師匠の本気の剪定が間近で見れるんですね」
ピエールが嬉しそうに喜んでるけど見ていてそんなに面白い物か?
「姫様が、師匠の剪定が凄いって。それを聞いて是非一度見てみたいって思っていたんです」
「ほへー、じゃあ今からやるか」
「やったー」
剪定をする前に、ピエールに剪定について説明をする。9歳だけど気分は教師、文字読めないけど。
「さて、剪定は基本的に形を整えたり、風通しを良くして見た目を美しくしますが、成長促進や害虫の繁殖を予防するという目的も実はあります」
「はい」
「そして、間違った時期に枝を切ったり、伸び始めた枝を切ったりすると逆に枯れてしまいます」
「でも師匠は季節関係無く切ってますよね?」
「それは私の技術があるからです。良く見てみると、若い枝や、蕾がある枝は極力避けて切っているのです」
「……なるほど」
「だから素人が切ってしまうと逆に木を駄目にしてしまうのです」
「だったら何時頃が良いのですか?」
「…………大体、枝を切るのは活動時期が低下する冬が一番良いのですが、今回は冬が来る前にエルフ野郎が来るので、剪定することにします。
そしてツツジも本来ならば5月か6月が良いのですが、こちらもエルフの糞が来る関係上、今から軽くやることにします」
「エルフを糞野郎呼ばわりする師匠マジカッケー」
ふふふっ、私は他の皆と違ってテロリストには屈しない。
「切る枝は基本的に忌み枝と呼ばれる枝を切ります。
忌み枝とは基本的に枯れ枝と徒長枝、平行枝、下垂枝と呼ばれる見た目も成長にも悪い枝。それに競合枝、交差枝というお互いが邪魔している枝、そして病気の枝を切ります」
「はい」
「そして、切戻し、切返し、枝抜き、間引きなどのやり方がありますが、それは実践で学んで行きましょう」
「分かりました」
そして北側の庭の剪定を行う。
剪定は館の窓から見える景観を考えて前面のカエデは太陽の光が地上に当るぐらいすいて剪定を行う。逆に奥のツツジは軽く枝を切って終らせた。
そして出来上がった結果、
「うわー、全然違う。何これ、何これ?
さっきまでごちゃごちゃしていたのが凄いスッキリしている」
俺の仕事を見てピエールが驚きと興奮で鼻息を荒くしていた。
「実際に館の窓から見た様子を確認しよう」
俺とピエールの二人で壁の窓の下へ移動して、剪定した庭を確認する。
「……凄い、手前が明るくなったから、逆に奥が暗くなっている。
それに……そうか苔か、苔があるから庭じゃなく森の深い所を見ている感じが沸くのですね」
「その通り、風情のある庭というのはただ明るいだけじゃなく、闇があるから生まれるのです」
「なるほど……」
「それでは今度はピエールがやってみよう」
「は、はい!!」
こうして北側の庭の剪定も終わり、季節は流れ、風は冷たさを感じて紅葉が本格的になる頃、御館様がエルフを連れて王都へ来た。
アル「なあ、さくっとスルーしたけどさ、前回の話かなり酷くないか?」
作者「何が?」
アル「全編に渡ってご都合主義じゃね?
大イチョウの移動とかどうやって運んだんだよ」
作者「……魔法で」
アル「門はどうやって潜ったんだよ」
作者「…………魔法で」
アル「意味分からないから、それ。
それに最後の厨二病丸出しの自己解釈なんだよあれ、後から継ぎ足しただろ」
作者「ドキ!」
アル「最初さ、この国の名前スウェンランドってスウェーデンを弄っただけだろ」
作者「あ、うん」
アル「首都の名前オスガだけど、これもオスロを弄っただけだろ。
だけどな、スウェーデンの首都はストックホルムだからな、オスロはノルウェーだ」
作者「え?嘘?」
アル「嘘じゃねえよ、春樹に謝っとけ。
それで設定上は寒い地方と考えて、芝も西洋芝の寒地型にして枯山水も似たようなの選んだくせに、
糞暑い中で執筆している間に段々涼しいネタ作りたいとか思って納涼床ネタ作ったら世界設定の気温が当初の設定より上がっただろ、でその結果なんだ?
寒地型の芝と枯山水の木この世界の環境じゃ普通に育たないからな!」
作者「だからね、自然は強いって……ごめんなさい」
アル「読者に間違った知識植えつけんじゃねぇよ」
作者「……はい」